「まだ安心するなよ!」
「はい!」
建物付近で守備をおこなっている冒険者たちの隙を抜けて、侵入してきた者たちを打ち取ったレオとファウスト。
しかし、安心するのはまだ早い。
外ではまだ冒険者たちが敵と戦っている。
他にも建物に入ってくる者もいるかもしれない。
そのため、ファウストはレオに警戒心を緩めないように忠告する。
レオもそのことを理解し、一旦人形たちを消した。
「ファウストさん!! 敵の制圧終了しました!」
「おぉ! そうか……」
外から聞こえてくる戦いの音に耳を傾けつつ、レオとファウストが警戒を続けていると、しばらくしてその音が止んでいった。
完全に音が止んですぐ、冒険者の1人がファウストたちの所へ朗報を知らせに来てくれた。
結局、最初に抜けてきた人間たちだけしか建物内に入ることができなかったようだ。
その報告を受けたファウストは、ようやく肩の力を抜いたのだった。
「建物を破壊しなくて済みましたね?」
「あぁ!」
ギルド内に護衛のための冒険者たちを入れなかった理由は、レオの言った言葉に関係する。
敵が多く侵入し、レオ1人に狙いを付けてきた時、一番安全なのは逃げてしまうことだ。
しかし、敵は追いかけてくるかもしれない。
そのため、敵ごと職員寮を潰してしまおうという話になったのだ。
いくつかの柱には爆破装置が仕掛けてあり、もしもの時はファウストの判断で爆破することになっていた。
職員寮が潰れてもギルドの建物自体は崩れることはないため、後日の営業に問題は起こらない。
とは言っても、とんでもない作戦のため、レオとしてはこの最終手段が実行されなくて安堵した。
「しかし、斬られたと思ったのに、どうして起き上がれたのでしょう?」
「あぁ、恐らく仕掛けがしてあったんだろう……」
「仕掛けですか?」
侵入者の撃退も済み、レオはふと気になった。
ここまで侵入してきた3人組の1人が、ファウストに腹を斬り裂かれたはずなのに起き上がり、レオへ襲い掛かれた原因が分からなかった。
大量に出血していたし、回復に薬や魔法を使った素振りは見えなかった。
その疑問にレオが首を傾げていると、ファウストがなんとなく心当たりがあるような口ぶりでレオの魔法で動かなくなった侵入者の遺体に近付いて行った。
「やっぱりな。俺も焼きが回ったぜ。まさかこんな手に引っ掛かるとは……」
「……肉ですか?」
遺体の腹部分の服をめくり、ファウストは納得したように呟いた。
めくった服の下には、肉と血液らしき物が袋に包まれて腹に巻かれていた。
ファウストが斬り裂いたのは、この肉の部分だったらしい。
「細い……」
「腹を斬らせたと思わせ、実はたいしたことないっていう死んだふりだ。脂肪を削って、分かりづらくしてやがったんだ」
腹に巻かれた肉の部分をと取り出すと、その下にはこの遺体の本来の肉体が顔を覗かせた。
その体を見て、レオは思わず感想が口から洩れ出た。
その説明をファウストがしてくれた。
体を支障なく動ける範囲で体をギリギリまで絞り、そこに肉を巻くことで外から見たら普通の肉体に見えるように誤魔化していたらしい。
「……でも、ワザとにしても一か八かって感じですよね」
「確かにな。しかし、そういった訓練もしてんだろ……」
ワザと斬られるにしても、敵に意識をさせないように斬られないとだますことなんてできない。
今回はある意味成功したが、浅かったと思われて止めでも刺されようものなら無駄死にだ。
ただ、今回のように成功すれば一気に標的へ迫れる機会を得られる。
時間もないことから、敵はハイリスクハイリターンの策を選択したようだ。
「こいつのことより、俺はお前の人形と魔法が恐ろしいよ。ジーノのじいさんに指導受けるとこうなんのか?」
「ジーノさんの指導が、単純に僕には合ってたというか……」
死んだふりに引っかかり、レオへ接近することを許してしまったファウストは、自分のミスだから自分の身を犠牲にしても止めようかと思ったが、レオ自身で対応したことに感心していた。
人形使いというのは知っていたが、いつものロイたちは今回は連れて来ていなかった。
そのため、身を守るのは従魔のクオーレとエトーレしかいない。
闇猫のクオーレはたしかに強いが、姿が見えていれば訓練を積んだ者ならそこまで苦にならない相手だ。
蜘蛛のエトーレは、糸に捕まりさえしなければ対応できる魔物。
このコンビは夜強いといっても、侵入者の強さからいって警戒すれば対応可能だったはず。
しかし、ファウスト同様レオの秘策は知る由もなく、敵はスキルと魔法で仕留められた。
突如出現した人形は、建物の影の部分から出現したことを考えると、クオーレの魔法で隠ぺいしていたのだろう。
その後は魔法の指輪から出現させた人形たちの魔法攻撃でダメージを与え、レオの魔法で仕留めたといった手順だ。
魔法の指輪から出た瞬間に魔法を放った事も驚きだが、一番驚いたのはレオの魔法の威力だ。
戦場では、魔法で相手に怪我を負わせることはできても、死に至らしめるような威力を出せる人間は限られて来る。
だが、レオは壁に打ち付けたとは言っても一発で仕留めた。
ジーノの指導でこうなったのかと、ファウストは興味が湧いた。
レオ以外の島の人間に指導しているようだが、ジーノの指導で魔法の威力が高まった人間は少ない。
漢字を理解するのがいまいちできないでいるかもしれない。
それに引きかえ、レオは最初から漢字を知っていたので、素直に威力が上昇させることができたと言って良い。
「あっ! リヴィオさん!」
「おぉ! 無事だったか?」
「あぁ! お前もな!」
戦いも終わり、護衛の冒険者たちがギルド内に入って来ていた。
そのため、地下のリヴィオにも終了の報告が行ったようだ。
レオたちの安否を確認に来たらしく、リヴィオは2人を見て笑みを浮かべた。
服に返り血を浴びている所を見ると、やはり牢の方に2人行ったようだ。
「もしもの時は捕虜を取り戻されるのも仕方ないと思っていたが、そうならなくて良かったぜ!」
「そうだな!」
侵入者した5人が、全員で捕虜を解放に来るという低い可能性があった。
その場合はリヴィオが1人で対応することになるのだが、人数次第ではリヴィオも危険なため、地下牢からの脱出路を使って逃げるという予定だった。
こっちの捕虜を取られたからと言っても、もう1人治安施設に収容されている者もいるので、そこまで重要という訳ではなかったが、リヴィオの方に向かったのは2人も仕留めたので、そうならずに済んで喜んでいた。
「これでカロージェロは終わりだな?」
「あぁ! ざまあみろだ!」
指示を受けた者たちは、ギルド内に攻め込んだのだ。
王の葬儀が行われているにもかかわらず、それを血で穢すようなことをしていたということが報告されることになる。
それを王家が黙っているはずがない。
しかも、王位を継ぐクラウディオは、性格的にそういったことを嫌う風潮にあるというのは有名な話だ。
ディステ領の状況を加味すれば、カロージェロの爵位剥奪、領地没収は確実と言って良いだろう。
大嫌いなカロージェロの失墜が今から楽しみなファウストは、思わず満面の笑みを浮かべていた。
「…………」
「……っと、すまんな。お前の親父でもあったんだっけ。やっぱり悲しいか?」
笑顔でいた自分の横で、ファウストはレオが無言でいることに気付いた。
ファウストからすると大嫌いな人間の失敗は楽しいことだが、レオにとってカロージェロは血のつながった父親だ。
命を狙われても父のことが気になっているのかと思い、ファウストは笑みを消した。
「いいえ。むしろ何も感じない自分が不思議に思えてました」
側でカロージェロの失墜していくと聞いたが、実の父だというのにレオとしては何も感じなかった。
父とは言っても、ほとんど関わり合いがなかったからだろうか。
薄情かと思いつつも、それがレオの偽らざる思いだった。
「その後の領地がどうなるか分からないですが、領民を大切にしてくれる人だと期待します」
レオの場合、カロージェロのことよりもディステ領の民のことが気になっていた。
カロージェロから取り上げた後に、誰かしらの爵位持ちに渡されることになることだろう。
その代わりの領主が、カロージェロのような人間でないことを祈るばかりだ。
「そう思うのも、お前が立派な領主になったからかもな?」
「立派は言い過ぎですよ」
父のことより領民のことを気にする。
レオのそんな態度と言葉に、ファウストは心身共に領主になっているのだと感じた。
褒められたことは嬉しいが、まだまだ少数の住人しかいない島の領主の自分が立派だというのはおこがましいと、レオは照れながら否定したのだった。
「はい!」
建物付近で守備をおこなっている冒険者たちの隙を抜けて、侵入してきた者たちを打ち取ったレオとファウスト。
しかし、安心するのはまだ早い。
外ではまだ冒険者たちが敵と戦っている。
他にも建物に入ってくる者もいるかもしれない。
そのため、ファウストはレオに警戒心を緩めないように忠告する。
レオもそのことを理解し、一旦人形たちを消した。
「ファウストさん!! 敵の制圧終了しました!」
「おぉ! そうか……」
外から聞こえてくる戦いの音に耳を傾けつつ、レオとファウストが警戒を続けていると、しばらくしてその音が止んでいった。
完全に音が止んですぐ、冒険者の1人がファウストたちの所へ朗報を知らせに来てくれた。
結局、最初に抜けてきた人間たちだけしか建物内に入ることができなかったようだ。
その報告を受けたファウストは、ようやく肩の力を抜いたのだった。
「建物を破壊しなくて済みましたね?」
「あぁ!」
ギルド内に護衛のための冒険者たちを入れなかった理由は、レオの言った言葉に関係する。
敵が多く侵入し、レオ1人に狙いを付けてきた時、一番安全なのは逃げてしまうことだ。
しかし、敵は追いかけてくるかもしれない。
そのため、敵ごと職員寮を潰してしまおうという話になったのだ。
いくつかの柱には爆破装置が仕掛けてあり、もしもの時はファウストの判断で爆破することになっていた。
職員寮が潰れてもギルドの建物自体は崩れることはないため、後日の営業に問題は起こらない。
とは言っても、とんでもない作戦のため、レオとしてはこの最終手段が実行されなくて安堵した。
「しかし、斬られたと思ったのに、どうして起き上がれたのでしょう?」
「あぁ、恐らく仕掛けがしてあったんだろう……」
「仕掛けですか?」
侵入者の撃退も済み、レオはふと気になった。
ここまで侵入してきた3人組の1人が、ファウストに腹を斬り裂かれたはずなのに起き上がり、レオへ襲い掛かれた原因が分からなかった。
大量に出血していたし、回復に薬や魔法を使った素振りは見えなかった。
その疑問にレオが首を傾げていると、ファウストがなんとなく心当たりがあるような口ぶりでレオの魔法で動かなくなった侵入者の遺体に近付いて行った。
「やっぱりな。俺も焼きが回ったぜ。まさかこんな手に引っ掛かるとは……」
「……肉ですか?」
遺体の腹部分の服をめくり、ファウストは納得したように呟いた。
めくった服の下には、肉と血液らしき物が袋に包まれて腹に巻かれていた。
ファウストが斬り裂いたのは、この肉の部分だったらしい。
「細い……」
「腹を斬らせたと思わせ、実はたいしたことないっていう死んだふりだ。脂肪を削って、分かりづらくしてやがったんだ」
腹に巻かれた肉の部分をと取り出すと、その下にはこの遺体の本来の肉体が顔を覗かせた。
その体を見て、レオは思わず感想が口から洩れ出た。
その説明をファウストがしてくれた。
体を支障なく動ける範囲で体をギリギリまで絞り、そこに肉を巻くことで外から見たら普通の肉体に見えるように誤魔化していたらしい。
「……でも、ワザとにしても一か八かって感じですよね」
「確かにな。しかし、そういった訓練もしてんだろ……」
ワザと斬られるにしても、敵に意識をさせないように斬られないとだますことなんてできない。
今回はある意味成功したが、浅かったと思われて止めでも刺されようものなら無駄死にだ。
ただ、今回のように成功すれば一気に標的へ迫れる機会を得られる。
時間もないことから、敵はハイリスクハイリターンの策を選択したようだ。
「こいつのことより、俺はお前の人形と魔法が恐ろしいよ。ジーノのじいさんに指導受けるとこうなんのか?」
「ジーノさんの指導が、単純に僕には合ってたというか……」
死んだふりに引っかかり、レオへ接近することを許してしまったファウストは、自分のミスだから自分の身を犠牲にしても止めようかと思ったが、レオ自身で対応したことに感心していた。
人形使いというのは知っていたが、いつものロイたちは今回は連れて来ていなかった。
そのため、身を守るのは従魔のクオーレとエトーレしかいない。
闇猫のクオーレはたしかに強いが、姿が見えていれば訓練を積んだ者ならそこまで苦にならない相手だ。
蜘蛛のエトーレは、糸に捕まりさえしなければ対応できる魔物。
このコンビは夜強いといっても、侵入者の強さからいって警戒すれば対応可能だったはず。
しかし、ファウスト同様レオの秘策は知る由もなく、敵はスキルと魔法で仕留められた。
突如出現した人形は、建物の影の部分から出現したことを考えると、クオーレの魔法で隠ぺいしていたのだろう。
その後は魔法の指輪から出現させた人形たちの魔法攻撃でダメージを与え、レオの魔法で仕留めたといった手順だ。
魔法の指輪から出た瞬間に魔法を放った事も驚きだが、一番驚いたのはレオの魔法の威力だ。
戦場では、魔法で相手に怪我を負わせることはできても、死に至らしめるような威力を出せる人間は限られて来る。
だが、レオは壁に打ち付けたとは言っても一発で仕留めた。
ジーノの指導でこうなったのかと、ファウストは興味が湧いた。
レオ以外の島の人間に指導しているようだが、ジーノの指導で魔法の威力が高まった人間は少ない。
漢字を理解するのがいまいちできないでいるかもしれない。
それに引きかえ、レオは最初から漢字を知っていたので、素直に威力が上昇させることができたと言って良い。
「あっ! リヴィオさん!」
「おぉ! 無事だったか?」
「あぁ! お前もな!」
戦いも終わり、護衛の冒険者たちがギルド内に入って来ていた。
そのため、地下のリヴィオにも終了の報告が行ったようだ。
レオたちの安否を確認に来たらしく、リヴィオは2人を見て笑みを浮かべた。
服に返り血を浴びている所を見ると、やはり牢の方に2人行ったようだ。
「もしもの時は捕虜を取り戻されるのも仕方ないと思っていたが、そうならなくて良かったぜ!」
「そうだな!」
侵入者した5人が、全員で捕虜を解放に来るという低い可能性があった。
その場合はリヴィオが1人で対応することになるのだが、人数次第ではリヴィオも危険なため、地下牢からの脱出路を使って逃げるという予定だった。
こっちの捕虜を取られたからと言っても、もう1人治安施設に収容されている者もいるので、そこまで重要という訳ではなかったが、リヴィオの方に向かったのは2人も仕留めたので、そうならずに済んで喜んでいた。
「これでカロージェロは終わりだな?」
「あぁ! ざまあみろだ!」
指示を受けた者たちは、ギルド内に攻め込んだのだ。
王の葬儀が行われているにもかかわらず、それを血で穢すようなことをしていたということが報告されることになる。
それを王家が黙っているはずがない。
しかも、王位を継ぐクラウディオは、性格的にそういったことを嫌う風潮にあるというのは有名な話だ。
ディステ領の状況を加味すれば、カロージェロの爵位剥奪、領地没収は確実と言って良いだろう。
大嫌いなカロージェロの失墜が今から楽しみなファウストは、思わず満面の笑みを浮かべていた。
「…………」
「……っと、すまんな。お前の親父でもあったんだっけ。やっぱり悲しいか?」
笑顔でいた自分の横で、ファウストはレオが無言でいることに気付いた。
ファウストからすると大嫌いな人間の失敗は楽しいことだが、レオにとってカロージェロは血のつながった父親だ。
命を狙われても父のことが気になっているのかと思い、ファウストは笑みを消した。
「いいえ。むしろ何も感じない自分が不思議に思えてました」
側でカロージェロの失墜していくと聞いたが、実の父だというのにレオとしては何も感じなかった。
父とは言っても、ほとんど関わり合いがなかったからだろうか。
薄情かと思いつつも、それがレオの偽らざる思いだった。
「その後の領地がどうなるか分からないですが、領民を大切にしてくれる人だと期待します」
レオの場合、カロージェロのことよりもディステ領の民のことが気になっていた。
カロージェロから取り上げた後に、誰かしらの爵位持ちに渡されることになることだろう。
その代わりの領主が、カロージェロのような人間でないことを祈るばかりだ。
「そう思うのも、お前が立派な領主になったからかもな?」
「立派は言い過ぎですよ」
父のことより領民のことを気にする。
レオのそんな態度と言葉に、ファウストは心身共に領主になっているのだと感じた。
褒められたことは嬉しいが、まだまだ少数の住人しかいない島の領主の自分が立派だというのはおこがましいと、レオは照れながら否定したのだった。