「そろそろか……」
「えぇ……」
敵が攻めて来ると、レオが想定していた日の夜になった。
そのことは、リヴィオとファウストによって冒険者たちの耳にも入れているので、彼らも準備万端で気合いが入っている。
もうすぐ日にちが変わるというような時刻に差し掛かり、ファウストも体をほぐしていた。
ギルドの建物周辺は冒険者たちによって守られ、レオの側で守るのがファウストの仕事だ。
牢に閉じ込めている侵入者の方は、リヴィオが守ることになっている。
「敵襲!!」
「来たか……」
静かに敵が来るのを待ち受けていると、外から冒険者たちの声が聞こえて来た。
予想通り、敵が攻め込んできたようだ。
その声により、レオとファウストも一気に警戒心を高めた。
「レオ! あいつらが優秀でも、抜けられることもあるから注意しろよ!」
「はい!」
敵もかなりの数をぶつけてくると考えられる。
そうなると、優秀な冒険者たちでも防ぎきれるとは限らない。
場合によっては建物内に侵入される可能性もある。
そうなった時のためにファウストが控えているのだが、それも人数次第ではレオへ危険が及ぶかもしれない。
クオーレとエトーレのコンビも控えているといっても、それで防げるとは言い切れない。
そのため、ファウストはレオへと注意を促した。
「5人が抜けたぞ!」
優秀な冒険者たちが揃っているのにもかかわらず5人も抜けるなんて、相当な数を用意したのか、もしくは相当な侵入技術のある者たちなのか、どちらにしても危険なことに変わりはない。
「チッ! 5人も抜けてきたか……」
予想していたことだが、思っていたよりも多い人数にファウストは眉をひそめる。
全員がこちらに来たとしたら、ファウスト1人で止められるか分からない。
「5人とも来たらレオは逃げろ!!」
「……はい」
抜けた敵全員が来た場合守り切れる保証ができない。
元々この可能性も考えられたことだ。
レオもその理由を聞いているので、ためらいつつもファウストの指示に従うことにした。
「予想以上に対応が速い! 奴ら今日を読んでいたようだ!」
他の人間を囮にし、組織の中でも能力の高い人間のみを建物内へと侵入させた。
隊長の男の言葉を隊員たちは黙って聞いている。
外の厳重な警備に反し、建物内の警備は完全にスカスカで誰も配置していないようだ。
罠も感じられないため、彼らはすぐに行動に移ることにした。
「……罠か? しかし、やるべきことに変わりはない!」
捕縛のための罠はない。
しかし、人員を配備していない所を見ると、逆に招かれているかのように思えてくる。
このようなことになっているとは思わなかったが、予定通り動くしかない。
「予定通り俺たちは標的を狙う!」
「了解!!」
彼らの狙いは、レオの暗殺と仲間の救出。
仲間の囮も、長い時間かけていては危険なことになる。
警戒し過ぎて時間を使う訳にはいかないため、当初の予定通り分散してことにあたる。
隊長の男を中心とした3人はレオの暗殺へ、残りは仲間の救出へ向かうことにした。
「3人か……」
「ファウスト!?」
「っ!? そうか、カロージェロの手の者だから俺のことを知っているか……」
職員寮へと通じる通路に顔を出した集団。
その1人がファウストを見た瞬間に声をあげる。
自分のことを知っているかのような口ぶりに、ファウストも一瞬訝し気な表情へと変わる。
しかし、すぐにその理由に気が付いた。
この敵を依頼したのはカロージェロ。
元はディステ領のギルドマスターをしていたファウストのことを知っていても不思議はない。
「まあいい、かかってこいや!!」
「標的はあそこだ。殺るぞ!!」
「「はい!!」」
標的のレオを殺すのが敵の狙い。
そのためには、邪魔するものは抹殺する。
長剣を構えたファウストに敵たちは襲い掛かった。
「っ!? 速度で撹乱か?」
短剣を手にした敵たちは、3人がバラバラに行動を開始した。
それぞれが移動速度を利用して、ファウストの目線を散らすように動き回る。
その狙いを感じとったファウストは、誰に集中するともなく迫り来る敵を注視する。
「「「っ!!」」」
「これでも冒険者の時は速度自慢で通ってたんでな」
最初に迫った男がファウストに斬りかかると、ファウストは冷静に対応する。
長剣で短剣を弾いて敵を一旦下げさせると、今度はファウストが敵と同等の速さで斬りかかった。
自分たちと同等の速さで動いたファウストに、敵の男たちは目を見開く。
感情がバレては布で顔を隠している意味がないが、所詮殺してしまえばいいと思っているのだろう。
すぐに冷静さを取り戻し、3人でファウストへと襲い掛かっていった。
「っ!!」
「まず1人だ!!」
3人同時に攻めて来るが、ファウストは全てを剣で弾いて行く。
防戦一方という訳でもなく、時折敵に攻撃を放ち3人の連携を崩そうとする。
そうしているうちに、敵の1人がバランスを崩した。
そこを見逃さず、ファウストは胴を深く斬り仕留めた。
「くっ!!」「おのれっ!!」
1人減っても、敵はファウストへと攻撃をし続ける。
しかし、3人で同等だったのが、1人減ったことでジワジワと後退することを余儀なくされていった。
「諦めておとなしく捕まりやがれ!!」
「フッ!」
「何がおか……」
このまま時間をかけても、敵がファウストに勝つことは難しいということは、離れた所で見ているレオにも分かる。
押されているのにもかかわらず、敵はファウストの言葉に対して微かに笑うような反応をした。
その反応を意外に思ったファウストが、その笑いの理由を問いかけようとした途中で違和感に気付いた。
「チッ!! レオ逃げろ!!」
「っ!?」
敵の策にまんまとハマってしまったことに気が付いたファウストは、気付くのに遅れた自分に怒りが湧く。
冒険者業から離れてだいぶ経ち勘が鈍ったせいか、こんな策に引っかかるとは思いもよらなかった。
説明する時間もないことから、ファウストはレオに逃げるように叫んだ。
しかし、レオの方はその指示の理由が分からず、少し戸惑う反応をしてしまう。
「っ!!」
レオが戸惑った瞬間に、ファウストに斬られて死んだと思った敵が立ち上がり、レオへと一気に接近した。
レオを救いに行きたくても、今相手にしている2人に背を向ける訳にはいかない。
まさかの死んだふりにより、敵の1人がファウストを出し抜くことができた。
「操り軍隊!!」
「なっ!!」
レオも鍛えているとは言っても敵の速さに比べたら勝負にならない。
逃げ切る前に捕まるのが目に見えている。
自分に迫り来る敵に対し、レオは逃げるよりも迎撃を選択した。
武器も持たないレオに対し、敵も僅かに油断がなかったとは言わない。
しかし、レオの呟きと共に異変が起きたことに驚愕した。
前後左右どこからともなく槍を持った人形たちが現れ、自分へと攻撃をしてきたからだ。
それでも敵も然る者。
突如現れた人形たちの槍攻撃を、跳び上がることで躱した。
「っ!!」
“ドドドッ!!”
咄嗟の攻撃を躱したことは素晴らしいが、跳び上がったことは終わりを意味する。
上空で自由に動くことのできない敵は格好の的となり、何発もの火弾魔法が襲い掛かった。
またも突如レオの側に出現していた人形の攻撃によって、敵は火傷を負って落下する。
「ハッ!!」
「ぐふっ!」
落下する敵に対し、最後にレオの魔法が飛来する。
強力な水弾の直撃に、敵は吹き飛ばされて壁に衝突した。
魔法によるものか、壁に衝突したせいか、その敵の首がおかしな方向に曲がっている。
これなら明らかに死んだと判断できた。
「なっ……」「何が……」
「ハハ……やるじゃねえか!!」
レオが敵を仕留めた少し後、残っていた2人は、レオのおこなったことのほとんどに戸惑い、理解できないままファウストによって斬り伏せられた。
人形が突如現れたこと然り、その人形が攻撃してきたこと然り、更にはレオ自身の魔法の強力な威力に対してだ。
2人を仕留め終わったファウストは、人形操作と壁を大きくへこませるような魔法を放ったレオの強さに上機嫌に笑ったのだった。
「えぇ……」
敵が攻めて来ると、レオが想定していた日の夜になった。
そのことは、リヴィオとファウストによって冒険者たちの耳にも入れているので、彼らも準備万端で気合いが入っている。
もうすぐ日にちが変わるというような時刻に差し掛かり、ファウストも体をほぐしていた。
ギルドの建物周辺は冒険者たちによって守られ、レオの側で守るのがファウストの仕事だ。
牢に閉じ込めている侵入者の方は、リヴィオが守ることになっている。
「敵襲!!」
「来たか……」
静かに敵が来るのを待ち受けていると、外から冒険者たちの声が聞こえて来た。
予想通り、敵が攻め込んできたようだ。
その声により、レオとファウストも一気に警戒心を高めた。
「レオ! あいつらが優秀でも、抜けられることもあるから注意しろよ!」
「はい!」
敵もかなりの数をぶつけてくると考えられる。
そうなると、優秀な冒険者たちでも防ぎきれるとは限らない。
場合によっては建物内に侵入される可能性もある。
そうなった時のためにファウストが控えているのだが、それも人数次第ではレオへ危険が及ぶかもしれない。
クオーレとエトーレのコンビも控えているといっても、それで防げるとは言い切れない。
そのため、ファウストはレオへと注意を促した。
「5人が抜けたぞ!」
優秀な冒険者たちが揃っているのにもかかわらず5人も抜けるなんて、相当な数を用意したのか、もしくは相当な侵入技術のある者たちなのか、どちらにしても危険なことに変わりはない。
「チッ! 5人も抜けてきたか……」
予想していたことだが、思っていたよりも多い人数にファウストは眉をひそめる。
全員がこちらに来たとしたら、ファウスト1人で止められるか分からない。
「5人とも来たらレオは逃げろ!!」
「……はい」
抜けた敵全員が来た場合守り切れる保証ができない。
元々この可能性も考えられたことだ。
レオもその理由を聞いているので、ためらいつつもファウストの指示に従うことにした。
「予想以上に対応が速い! 奴ら今日を読んでいたようだ!」
他の人間を囮にし、組織の中でも能力の高い人間のみを建物内へと侵入させた。
隊長の男の言葉を隊員たちは黙って聞いている。
外の厳重な警備に反し、建物内の警備は完全にスカスカで誰も配置していないようだ。
罠も感じられないため、彼らはすぐに行動に移ることにした。
「……罠か? しかし、やるべきことに変わりはない!」
捕縛のための罠はない。
しかし、人員を配備していない所を見ると、逆に招かれているかのように思えてくる。
このようなことになっているとは思わなかったが、予定通り動くしかない。
「予定通り俺たちは標的を狙う!」
「了解!!」
彼らの狙いは、レオの暗殺と仲間の救出。
仲間の囮も、長い時間かけていては危険なことになる。
警戒し過ぎて時間を使う訳にはいかないため、当初の予定通り分散してことにあたる。
隊長の男を中心とした3人はレオの暗殺へ、残りは仲間の救出へ向かうことにした。
「3人か……」
「ファウスト!?」
「っ!? そうか、カロージェロの手の者だから俺のことを知っているか……」
職員寮へと通じる通路に顔を出した集団。
その1人がファウストを見た瞬間に声をあげる。
自分のことを知っているかのような口ぶりに、ファウストも一瞬訝し気な表情へと変わる。
しかし、すぐにその理由に気が付いた。
この敵を依頼したのはカロージェロ。
元はディステ領のギルドマスターをしていたファウストのことを知っていても不思議はない。
「まあいい、かかってこいや!!」
「標的はあそこだ。殺るぞ!!」
「「はい!!」」
標的のレオを殺すのが敵の狙い。
そのためには、邪魔するものは抹殺する。
長剣を構えたファウストに敵たちは襲い掛かった。
「っ!? 速度で撹乱か?」
短剣を手にした敵たちは、3人がバラバラに行動を開始した。
それぞれが移動速度を利用して、ファウストの目線を散らすように動き回る。
その狙いを感じとったファウストは、誰に集中するともなく迫り来る敵を注視する。
「「「っ!!」」」
「これでも冒険者の時は速度自慢で通ってたんでな」
最初に迫った男がファウストに斬りかかると、ファウストは冷静に対応する。
長剣で短剣を弾いて敵を一旦下げさせると、今度はファウストが敵と同等の速さで斬りかかった。
自分たちと同等の速さで動いたファウストに、敵の男たちは目を見開く。
感情がバレては布で顔を隠している意味がないが、所詮殺してしまえばいいと思っているのだろう。
すぐに冷静さを取り戻し、3人でファウストへと襲い掛かっていった。
「っ!!」
「まず1人だ!!」
3人同時に攻めて来るが、ファウストは全てを剣で弾いて行く。
防戦一方という訳でもなく、時折敵に攻撃を放ち3人の連携を崩そうとする。
そうしているうちに、敵の1人がバランスを崩した。
そこを見逃さず、ファウストは胴を深く斬り仕留めた。
「くっ!!」「おのれっ!!」
1人減っても、敵はファウストへと攻撃をし続ける。
しかし、3人で同等だったのが、1人減ったことでジワジワと後退することを余儀なくされていった。
「諦めておとなしく捕まりやがれ!!」
「フッ!」
「何がおか……」
このまま時間をかけても、敵がファウストに勝つことは難しいということは、離れた所で見ているレオにも分かる。
押されているのにもかかわらず、敵はファウストの言葉に対して微かに笑うような反応をした。
その反応を意外に思ったファウストが、その笑いの理由を問いかけようとした途中で違和感に気付いた。
「チッ!! レオ逃げろ!!」
「っ!?」
敵の策にまんまとハマってしまったことに気が付いたファウストは、気付くのに遅れた自分に怒りが湧く。
冒険者業から離れてだいぶ経ち勘が鈍ったせいか、こんな策に引っかかるとは思いもよらなかった。
説明する時間もないことから、ファウストはレオに逃げるように叫んだ。
しかし、レオの方はその指示の理由が分からず、少し戸惑う反応をしてしまう。
「っ!!」
レオが戸惑った瞬間に、ファウストに斬られて死んだと思った敵が立ち上がり、レオへと一気に接近した。
レオを救いに行きたくても、今相手にしている2人に背を向ける訳にはいかない。
まさかの死んだふりにより、敵の1人がファウストを出し抜くことができた。
「操り軍隊!!」
「なっ!!」
レオも鍛えているとは言っても敵の速さに比べたら勝負にならない。
逃げ切る前に捕まるのが目に見えている。
自分に迫り来る敵に対し、レオは逃げるよりも迎撃を選択した。
武器も持たないレオに対し、敵も僅かに油断がなかったとは言わない。
しかし、レオの呟きと共に異変が起きたことに驚愕した。
前後左右どこからともなく槍を持った人形たちが現れ、自分へと攻撃をしてきたからだ。
それでも敵も然る者。
突如現れた人形たちの槍攻撃を、跳び上がることで躱した。
「っ!!」
“ドドドッ!!”
咄嗟の攻撃を躱したことは素晴らしいが、跳び上がったことは終わりを意味する。
上空で自由に動くことのできない敵は格好の的となり、何発もの火弾魔法が襲い掛かった。
またも突如レオの側に出現していた人形の攻撃によって、敵は火傷を負って落下する。
「ハッ!!」
「ぐふっ!」
落下する敵に対し、最後にレオの魔法が飛来する。
強力な水弾の直撃に、敵は吹き飛ばされて壁に衝突した。
魔法によるものか、壁に衝突したせいか、その敵の首がおかしな方向に曲がっている。
これなら明らかに死んだと判断できた。
「なっ……」「何が……」
「ハハ……やるじゃねえか!!」
レオが敵を仕留めた少し後、残っていた2人は、レオのおこなったことのほとんどに戸惑い、理解できないままファウストによって斬り伏せられた。
人形が突如現れたこと然り、その人形が攻撃してきたこと然り、更にはレオ自身の魔法の強力な威力に対してだ。
2人を仕留め終わったファウストは、人形操作と壁を大きくへこませるような魔法を放ったレオの強さに上機嫌に笑ったのだった。