「あの馬鹿が!!」
レオたちが侵入者の捕獲に成功したのは、敵である闇の者たちも知ることになった。
その情報を得た隊長の男は、怒り心頭に発していた。
他の者が集まるまでの1日、2日の待機もできず、仲間に更なる負担をかけた男に殺意しか湧かない。
「攻め込む場所が増えてしまったではないか!!」
ただでさえ今回は失敗が続き、多くの仲間が命を落としているというのに、冒険者の集まるギルドや治安維持をおこなう兵の施設に乗り込まなければならなくなってしまった。
しかも、時間的猶予を考えると、どちらも早々に攻め込まなければならない状況だ。
そして、どちらも失敗は許されない。
「隊長! どうしましょう……?」
この状況に、隊員たちが決断を求めるような問いを口にする。
どうするとは、片方を先に攻め込むか、もしくは両方を同時に攻め込むかという判断だ。
どちらを選ぶかで状況が変わってくる。
まず、片方を攻め込むということを選んだとしても、更にギルドと治安施設のどちらを攻め込むかという話になって来る。
ギルドも治安施設も忍び込むにはかなりの難易度だし、見つかった場合かなりの人数の損失を覚悟しないといけない。
片方成功しても、人数の減った状態でもう片方へと侵入しないといけない。
しかも、片方がやられたことを知り、警戒を強めた状態の中を攻め込むという難易度の高さだ。
両方を攻め込むという選択をした場合、人数が分散するので難易度的に大差はない。
そのため、隊員たちはどういう選択をするかを隊長に委ねることにした。
「……ギルドだ!」
「……理由を窺ってもよろしいでしょうか?」
隊長の男が長考して出した答えは、レオを匿うギルドの方だった。
選択を委ねたのは自分たちのため文句を言うつもりはないが、その選択をした理由が気になった者が問いかける。
「依頼者の最初からの指示である標的の始末と共に、可能なら仲間を救出する!」
「始末、ではなく救出ですか?」
「あぁ!」
隊長の男の考えは、ギルドを攻めることで標的を潰し、仲間を救出するというものだ。
今回何度も失敗させられた憎しみも相まってか、標的であるレオを何としても始末したいという思いに駆られているようだ。
他の隊員もその気持ちは分からない訳でもない。
これだけ大きな失敗が続いては、依頼主からの心象は最悪。
他の組織へと鞍替えされても仕方がない状況だ。
標的の暗殺は理解できるが、捕まった仲間の始末でなく救出という方が気になる。
救出するよりも、始末する方が手っ取り早く済む。
そのため、隊員たちは仲間の救出をする理由が分からなかった。
「あくまでも、可能ならの話だ。我々が来たら命がないことは捕まった本人でも分かっているはずだ」
「では……」
「救出できたなら、その無くなったはずの命を治安施設の襲撃に利用させてもらう」
「なるほど……先陣となる自爆作戦ですね?」
「そうだ!」
ギルドを襲った後に治安施設に乗り込むとなると、更に警戒心の高まった状態の所へ攻め込むことになる。
そうなれば、気付かれずに施設内への侵入なんてできるとは思えないため、強硬手段を使って入り込むしかない。
そこで自爆作戦という力技をおこない、1人が囮となり集まった多くの兵と共に自爆した隙に侵入をするという考えだ。
常に死と隣合わせに生きている組織の者たちも、出来れば自分がその策をおこないたいとは思わない。
そのため、仲間の救出という隊長の考えに納得したのだった。
「明日には組織の者が全員揃う。ギルドと治安施設周辺の調査を開始しろ!」
「「「「ハッ!!」」」」
狙いはギルドに決定したが、念のため次に攻め込むための治安施設の情報も調べておく。
指示を受けた隊員たちは、散開して両方の施設の周辺の調査へ向かうため、この場から消えていった。
◆◆◆◆◆
「どっちを攻めるか、もしくは両方か……」
ギルドの職員寮の調理場には、できた料理をすぐに食べられるようにと、6人分のテーブルとイスが設置されているのだが、そこには現在ファウストとリヴィオが向かい合うようにして座っていた。
数日中に敵が攻め込んでくることが分かっているため、その対策を話し合うというのが目的だ。
「言っては何ですが、できれば治安施設を先に攻めてもらえるとありがたいですね」
「何でだ?」
リヴィオのさきほどの呟きに、調理場で料理をしていたレオが考えを述べる。
レオは、両方に攻め込むという選択をしないという考えのようだ。
しかも、ギルドを先に攻め込むこと可能性が高いような口ぶりだ。
敵に両方を狙うという選択肢を増やすために、昨日の捕縛作戦を提案した張本人の言葉が疑問に思え、ファウストはその考えの理由を問いかけた。
「そもそも、彼らの狙いは僕です。捕まった者たちは、自害する隙ができる可能性が僅かとはいってもあります。ならば標的を潰すことを優先するかと思います。治安施設を先に狙ってほしいというのは、そうなれば僕の領の問題だけではなくなりますので……」
「そうだな。治安施設の襲撃ともなれば、フェリーラ領への攻撃にもなるからな」
今の所、フェリーラ領は関係者とは言い難い。
ギルドの職員寮に忍び込んだ暴漢を捕まえているというだけに過ぎない。
ただの暴漢として、強制隷属をする権利を行使することもないと判断されるかもしれない。
しかし、暴漢の仲間が攻め込んだとなれば、完全なる反逆行為。
フェリーラ領の領主が、指示した者の調査に本腰を入れるのは必定だ。
「ファウストさんとリヴィオさんが用意した冒険者が高ランクの人ばかりですから、分散させては無理だと判断する可能性が高いのもあります」
元々はかなりのランクの冒険者だった、ファウストとリヴィオが集めた冒険者たちは高ランクの者たちばかりだった。
彼らの防衛をすり抜けるのは至難の業だ。
両方の施設の襲撃という期待はしない方が良いかもしれない。
「……もう少し弱い奴らの方が良かったか?」
「まさか! こんなに心強い人たちに守られているのに、そんなこと言う訳ないじゃないですか」
レオの言葉を聞いて、本気で強者を集めたことが良くなかったのではないかと冗談のように口にする。
ここまでの護衛を付けてもらっているのに、レオとしては感謝しても文句などある訳がない。
自分が料理をして落ち着けているのも、彼らが周辺に睨みを利かせているからだ。
「後は、いつ襲って来るかだな……」
「……明日か明後日辺りですかね?」
「……そう思う理由は?」
数日中とは言っても、いつ攻めて来るか分かれば守ることに集中しやすい。
そのため、呟いたファウストの言葉に、またもレオが答えを出した。
「敵はディステ領の者たちです。その周辺の領に送っている者も集めるとなると、遠くてもこの町に着くのは今日の夜か明日の朝といったところでしょう。フェリーラ領の領主様の帰りを考えると、時間的に余裕はないため、揃った時点で決行するしかないですから」
レオが断定した敵の襲撃日の理由を尋ねると、またも納得いくような答えが返ってきた。
たしかに遠くの領土は深くかかわることはないのだから、そちらの情報は手の者を送る必要はない。
むしろ周辺は付け入る隙があれば、自分の都合のいいように利用する事だろう。
ディステ領の周辺で、フェリーラ領から一番遠いといったら北のキサルト領だ。
そこからだと、どんなに急いでもレオの言うように後1、2日しないと着かないだろう。
レオの考えが正しいかもしれない。
「……言っては何だが、本当にあの男の息子なのか?」
「残念ながら……」
領民が逃げ続け、自分の子に刺客を送るような父親とは違い、レオは情報からみんなにとっての正解を出そうと考えている姿勢が態度で分かる。
あの馬鹿親父と本当に血がつながっているのか、ファウストは疑わしく思えてきた。
レオとしても、あんなのが自分の父だということに昔から嫌気がさしていた。
しかし、それでも血が繋がっているということに、困った表情をしつつ答えを返す。
「お前は父親より祖父のアルバーノ様に似ているかもな……」
「それは嬉しいですね。祖父は僕を可愛がってくれましたから」
髪や目の色は母に似ているため、ディステ領の前領主のアルバーノとレオが似ているという印象を持つ人間は少ないだろう。
その困った時の表情を見たファウストは、祖父でもあるアルバーノとレオがダブっているように思えた。
レオも祖父が好きだったため、似ているといわれて嬉しそうだ。
「話はひとまずこれくらいにして、どうぞ召し上がれ!」
「「うっしゃー!!」」
「ハハ……」
料理を出されたファウストとリヴィオは、すぐさま料理にがっつき始めた。
昨日レオが料理を出したことで、2人ともレオの料理にハマってしまったようだ。
その様子を見て、話し合いよりもこっちの方が狙いだったのではないかと、レオは乾いた笑いをするしかなかった。
レオたちが侵入者の捕獲に成功したのは、敵である闇の者たちも知ることになった。
その情報を得た隊長の男は、怒り心頭に発していた。
他の者が集まるまでの1日、2日の待機もできず、仲間に更なる負担をかけた男に殺意しか湧かない。
「攻め込む場所が増えてしまったではないか!!」
ただでさえ今回は失敗が続き、多くの仲間が命を落としているというのに、冒険者の集まるギルドや治安維持をおこなう兵の施設に乗り込まなければならなくなってしまった。
しかも、時間的猶予を考えると、どちらも早々に攻め込まなければならない状況だ。
そして、どちらも失敗は許されない。
「隊長! どうしましょう……?」
この状況に、隊員たちが決断を求めるような問いを口にする。
どうするとは、片方を先に攻め込むか、もしくは両方を同時に攻め込むかという判断だ。
どちらを選ぶかで状況が変わってくる。
まず、片方を攻め込むということを選んだとしても、更にギルドと治安施設のどちらを攻め込むかという話になって来る。
ギルドも治安施設も忍び込むにはかなりの難易度だし、見つかった場合かなりの人数の損失を覚悟しないといけない。
片方成功しても、人数の減った状態でもう片方へと侵入しないといけない。
しかも、片方がやられたことを知り、警戒を強めた状態の中を攻め込むという難易度の高さだ。
両方を攻め込むという選択をした場合、人数が分散するので難易度的に大差はない。
そのため、隊員たちはどういう選択をするかを隊長に委ねることにした。
「……ギルドだ!」
「……理由を窺ってもよろしいでしょうか?」
隊長の男が長考して出した答えは、レオを匿うギルドの方だった。
選択を委ねたのは自分たちのため文句を言うつもりはないが、その選択をした理由が気になった者が問いかける。
「依頼者の最初からの指示である標的の始末と共に、可能なら仲間を救出する!」
「始末、ではなく救出ですか?」
「あぁ!」
隊長の男の考えは、ギルドを攻めることで標的を潰し、仲間を救出するというものだ。
今回何度も失敗させられた憎しみも相まってか、標的であるレオを何としても始末したいという思いに駆られているようだ。
他の隊員もその気持ちは分からない訳でもない。
これだけ大きな失敗が続いては、依頼主からの心象は最悪。
他の組織へと鞍替えされても仕方がない状況だ。
標的の暗殺は理解できるが、捕まった仲間の始末でなく救出という方が気になる。
救出するよりも、始末する方が手っ取り早く済む。
そのため、隊員たちは仲間の救出をする理由が分からなかった。
「あくまでも、可能ならの話だ。我々が来たら命がないことは捕まった本人でも分かっているはずだ」
「では……」
「救出できたなら、その無くなったはずの命を治安施設の襲撃に利用させてもらう」
「なるほど……先陣となる自爆作戦ですね?」
「そうだ!」
ギルドを襲った後に治安施設に乗り込むとなると、更に警戒心の高まった状態の所へ攻め込むことになる。
そうなれば、気付かれずに施設内への侵入なんてできるとは思えないため、強硬手段を使って入り込むしかない。
そこで自爆作戦という力技をおこない、1人が囮となり集まった多くの兵と共に自爆した隙に侵入をするという考えだ。
常に死と隣合わせに生きている組織の者たちも、出来れば自分がその策をおこないたいとは思わない。
そのため、仲間の救出という隊長の考えに納得したのだった。
「明日には組織の者が全員揃う。ギルドと治安施設周辺の調査を開始しろ!」
「「「「ハッ!!」」」」
狙いはギルドに決定したが、念のため次に攻め込むための治安施設の情報も調べておく。
指示を受けた隊員たちは、散開して両方の施設の周辺の調査へ向かうため、この場から消えていった。
◆◆◆◆◆
「どっちを攻めるか、もしくは両方か……」
ギルドの職員寮の調理場には、できた料理をすぐに食べられるようにと、6人分のテーブルとイスが設置されているのだが、そこには現在ファウストとリヴィオが向かい合うようにして座っていた。
数日中に敵が攻め込んでくることが分かっているため、その対策を話し合うというのが目的だ。
「言っては何ですが、できれば治安施設を先に攻めてもらえるとありがたいですね」
「何でだ?」
リヴィオのさきほどの呟きに、調理場で料理をしていたレオが考えを述べる。
レオは、両方に攻め込むという選択をしないという考えのようだ。
しかも、ギルドを先に攻め込むこと可能性が高いような口ぶりだ。
敵に両方を狙うという選択肢を増やすために、昨日の捕縛作戦を提案した張本人の言葉が疑問に思え、ファウストはその考えの理由を問いかけた。
「そもそも、彼らの狙いは僕です。捕まった者たちは、自害する隙ができる可能性が僅かとはいってもあります。ならば標的を潰すことを優先するかと思います。治安施設を先に狙ってほしいというのは、そうなれば僕の領の問題だけではなくなりますので……」
「そうだな。治安施設の襲撃ともなれば、フェリーラ領への攻撃にもなるからな」
今の所、フェリーラ領は関係者とは言い難い。
ギルドの職員寮に忍び込んだ暴漢を捕まえているというだけに過ぎない。
ただの暴漢として、強制隷属をする権利を行使することもないと判断されるかもしれない。
しかし、暴漢の仲間が攻め込んだとなれば、完全なる反逆行為。
フェリーラ領の領主が、指示した者の調査に本腰を入れるのは必定だ。
「ファウストさんとリヴィオさんが用意した冒険者が高ランクの人ばかりですから、分散させては無理だと判断する可能性が高いのもあります」
元々はかなりのランクの冒険者だった、ファウストとリヴィオが集めた冒険者たちは高ランクの者たちばかりだった。
彼らの防衛をすり抜けるのは至難の業だ。
両方の施設の襲撃という期待はしない方が良いかもしれない。
「……もう少し弱い奴らの方が良かったか?」
「まさか! こんなに心強い人たちに守られているのに、そんなこと言う訳ないじゃないですか」
レオの言葉を聞いて、本気で強者を集めたことが良くなかったのではないかと冗談のように口にする。
ここまでの護衛を付けてもらっているのに、レオとしては感謝しても文句などある訳がない。
自分が料理をして落ち着けているのも、彼らが周辺に睨みを利かせているからだ。
「後は、いつ襲って来るかだな……」
「……明日か明後日辺りですかね?」
「……そう思う理由は?」
数日中とは言っても、いつ攻めて来るか分かれば守ることに集中しやすい。
そのため、呟いたファウストの言葉に、またもレオが答えを出した。
「敵はディステ領の者たちです。その周辺の領に送っている者も集めるとなると、遠くてもこの町に着くのは今日の夜か明日の朝といったところでしょう。フェリーラ領の領主様の帰りを考えると、時間的に余裕はないため、揃った時点で決行するしかないですから」
レオが断定した敵の襲撃日の理由を尋ねると、またも納得いくような答えが返ってきた。
たしかに遠くの領土は深くかかわることはないのだから、そちらの情報は手の者を送る必要はない。
むしろ周辺は付け入る隙があれば、自分の都合のいいように利用する事だろう。
ディステ領の周辺で、フェリーラ領から一番遠いといったら北のキサルト領だ。
そこからだと、どんなに急いでもレオの言うように後1、2日しないと着かないだろう。
レオの考えが正しいかもしれない。
「……言っては何だが、本当にあの男の息子なのか?」
「残念ながら……」
領民が逃げ続け、自分の子に刺客を送るような父親とは違い、レオは情報からみんなにとっての正解を出そうと考えている姿勢が態度で分かる。
あの馬鹿親父と本当に血がつながっているのか、ファウストは疑わしく思えてきた。
レオとしても、あんなのが自分の父だということに昔から嫌気がさしていた。
しかし、それでも血が繋がっているということに、困った表情をしつつ答えを返す。
「お前は父親より祖父のアルバーノ様に似ているかもな……」
「それは嬉しいですね。祖父は僕を可愛がってくれましたから」
髪や目の色は母に似ているため、ディステ領の前領主のアルバーノとレオが似ているという印象を持つ人間は少ないだろう。
その困った時の表情を見たファウストは、祖父でもあるアルバーノとレオがダブっているように思えた。
レオも祖父が好きだったため、似ているといわれて嬉しそうだ。
「話はひとまずこれくらいにして、どうぞ召し上がれ!」
「「うっしゃー!!」」
「ハハ……」
料理を出されたファウストとリヴィオは、すぐさま料理にがっつき始めた。
昨日レオが料理を出したことで、2人ともレオの料理にハマってしまったようだ。
その様子を見て、話し合いよりもこっちの方が狙いだったのではないかと、レオは乾いた笑いをするしかなかった。