『ガキ1人殺すのに人数増やすなんて、隊長は何考えてんだ……』
カロージェロの雇った闇の組織も、一枚岩ではないようだ。
組織の1人が、レオ暗殺に動いていた。
これまで送った連中は組織でも下っ端という意識が強くあったためか、成人したばかりの人間1人を殺すことなど自分だけで大丈夫だと考えたのだ。
『冒険者を配備しているようだが、やはり甘いな……』
標的はギルドに入ったまま出て来ていない。
そのことから考えるに、ギルドに併設されているという職員寮に寝泊まりしているはずだ。
ギルドが協力している理由はよく分からないが、所詮は冒険者という寄せ集め。
忍び込むための隙を防ぎきれていない。
『勝手に行動に移すなと言われているが、これなら俺1人で忍び込んでも……』
そもそも、各地に散っていた隊員が全員揃うまでギルドには近付くなと、隊長の男からの通達が届いていた。
この時点で通達を無視している状況なので今さらなのだが、組織全員で動くような問題ではないと思っているためか、彼は忍び込むためのタイミングを計る。
そうしてしまうのも、冒険者たちが隙だらけなのが悪いのだと、勝手に自分の中で思うようになっていた。
『今だ!!』
冒険者たちは、どこから来ても大丈夫だと思っていることだろう。
しかし、それは前後左右だけ。
上空からの侵入を想定していないような陣容だ。
侵入に自信がある自分だから見つけられたルートだ。
他の闇の者なら無理だろうが、自分なら上空から闇夜に紛れて侵入できる。
功績を求めるつもりはないが、この状況で侵入しないのはチャンスを棒に振ることでしかない。
そのため、男は単独でギルドの侵入を計ることにした。
「…………」
外の建物付近の防衛はしていたようだが、建物内はほとんど無防備と言ってよかった。
建物内を移動し、男は標的の眠っている部屋を突き止めた。
その部屋へ、音を立てることなく侵入し、男は仕込んでいたナイフを取り出してレオの寝ているベッドへと近付いていった。
「っ!?」
あと一歩という所で、男は目を見開くことになった。
突如体が動かせなくなったためだ。
「っ!?」
まずいと感じ、何とか動かせる顎を動かし自害しようとするが、それもどこからともなく巻き付いた糸により阻止されてしまった。
その糸によってグルグル巻きにされた男は、何もすることができないまま捕縛されることになった。
「この期に及んで単独で来るなんて舐めすぎですね。夜なら仕留められると思っているんですか?」
レオの言葉と共に部屋に灯りが点く。
そうして、男は姿を見られることになった。
「こっちには夜こそ本領発揮する子がいるんでね……」
「っ!!」
明かりがついた側にいるクオーレとエトーレを見て、男はまたも驚くことになった。
標的の側に、こんな魔物が仕えているとは気付かなかったからだ。
手のひら大の蜘蛛はともかく、大型犬並みの闇猫の大きさからして見逃すはずがない。
ギルド内へ入る姿を見た時は、確認できなかった。
この闇猫がどこから入ったのか分からなかったことが、自分が捕まった原因だと気付いた。
「お疲れさま! 二人とも」
「ニャッ!」“スッ!”
捕まった男がミノムシのようになっている所で、レオはまたも捕縛に成功した2匹の従魔を撫でて褒めてあげた。
2匹とも、嬉しそうにレオに撫でられていた。
「レオ! 大丈夫か?」
「えぇ、予定通りにいきました」
従魔たちを撫でている所で、隣の部屋にいたファウストがレオの部屋に入って来た。
それに対し、レオは笑みを浮かべて返事をした。
「ったく、心配でしょうがなかったぜ!」
レオの部屋に忍び込まれるまでファウストが動かなかったのは、男が侵入したことに気が付かなかったわけではない。
それがレオの言うように予定通りだったからだ。
「侵入者が1人ならそのまま流せなんて……」
「すいませんでした」
前回のこともあり、闇討ちに関してクオーレとエトーレのコンビはかなり強力だとレオは確信していた。
そのため、敵が1人で侵入してきたとしたらまた捕まえられるのではないかと思い、リヴィオとファウストに提案することにしたのだ。
2匹の攻撃が通用しなかった場合はファウストに動いてもらうつもりでいたので、そのようなことにならずに済んで良かった。
「1人よりも2人証人がいた方が確実でしょう? それに敵は数を分散させるかもしれませんし……」
「それはそうだが……」
提案を受けたリヴィオとファウストは渋い表情をしていた。
標的のレオを囮にするようなことをして、ミスでも起これば全て水の泡だ。
闇に潜む連中が、同じように闇に潜む者に待ち受けられているとなかなか思わないだろうから、成功する可能性は高いとは言っても、危険なことに変わりなくその策に乗るのは躊躇われた。
強制的に奴隷にし、指示を出した者を証言させれば確実ではあるが、レオの守りに成功しても人質に死なれるということになれば指示者をあぶりだすことはできなくなる。
ならばもう1人捕まえて別々の場所に監禁しておき、どちらか一方だけでも生き残ればいい。
敵も一ヵ所に集中攻撃をせず、分散させて事に当たるかもしれない。
その分冒険者の数を増やすことになるが、資金はレオが出すことになる。
その点はこれまでの島の収益でなんとかなるが、レオを危険に晒してまでする事ではないように感じる。
「ニャッ!」
「あっ! 来た?」
「……そういや、クオーレは一緒じゃなかったがどうしたんだ?」
ギルド職員の女性の案内によって、クオーレが姿を現した。
ファウストもいないことが気になっていたが、遅れて現れたことに疑問を思った。
「敵が僕の動向を観察している可能性があったので、ギルドに入る前に他の冒険者の従魔っぽく遅れてギルド内に入ってくるように指示しておいたんです」
「指示? もしかして誘い込むためにか?」
「はい!」
自分がヴェストコリナのギルドに向かっているということを噂として広めたとのことなので、もしかしたらもう観察されているかもしれない。
ならば、それを利用して、もう1人くらい捕まえてやろうという考えの元、レオはクオーレの存在を知られないように細工したのだ。
首輪もしているし、他の冒険者といれば退治されることもないだろう。
さっき案内してくれたギルドの女性だけに伝えておけば、広まることも無いと思っていた。
「そこまで考えていたんなら、その闇猫たちのコンビの技が通用しなかった時の事も考えているのか?」
「はい! 身を守る術は幾つか用意しています!」
「それじゃあ、やらせてみよう!」
これまでの関係から、レオは考え無しで行動するようなことはないとファウストは思っていた。
そのため、クオーレの存在の隠蔽もしていたということは、もしものことを考えていないとは思わなかった。
そう思って尋ねると、レオからは力強い答えが返ってきたため、ファウストは策を受け入れることにした。
「おい! ファウスト!」
「大丈夫だ! 俺も側にいるんだ。責任もってレオは守る!」
「……分かった。お前がそこまで言うなら信じるよ」
さっきまでと違い、渋い顔から一転納得したことに、リヴィオは抗議するような声をあげる。
その抗議はもっともだと思うが、自信満々のレオを見ていると試しても良いとファウストは思えてきた。
レオの身を守る術がどんな物かは分からないが、それで少しでも時間を稼げれば自分が動いて何とかできるはず。
そう思い、ファウストはリヴィオに真剣な目を向けて了承を得たのだった。
「これで次こそ総力戦で来るでしょうね?」
策が成功し、護衛に雇っている冒険者が捕まえた闇の者を連れて行った。
近くの治安兵の施設の牢屋に閉じ込めてもらうためだ。
リヴィオが治安兵に話を通してあるので、大丈夫なのだそうだ。
治安兵はフェリーラ領の領兵でもあるため、治安兵の施設に攻め込めば完全にテロ行為だ。
指示したものは確実に処刑されることだろう。
これで、レオを殺しただけでは意味がなくなった。
テロとなろうと、捕まった仲間の口封じをして自害してしまえばいい。
そう判断して数を分散してくれればいいし、全勢力が攻めてこようと返り討ちにしてしまえばいい。
「大丈夫だ。今回集めた冒険者たちの実力は、俺やリヴィオが保証する」
「じゃあ、安心ですね!」
今回冒険者たちが上空から侵入されたのは、侵入者が1人なら通して構わないとファストとリヴィオから受けていたからだ。
本来なら地下と共に上空も警戒していた。
侵入者を捕まえるために協力してもらったが、次はこんなことをせずとも警護してくれる者たちだ。
ファウストは自信を持ってレオに安全を保障した。
それを聞いたレオは、嬉しそうに返事をした。
『もしもの時は自分で身を守ろう』
ファウストのことは信用している。
しかし、冒険者たちの想定以上の実力者がいたら自分で自分の身を守るしかない。
そのことをレオは内心で思いつつ、今夜は眠りにつくことにした。
カロージェロの雇った闇の組織も、一枚岩ではないようだ。
組織の1人が、レオ暗殺に動いていた。
これまで送った連中は組織でも下っ端という意識が強くあったためか、成人したばかりの人間1人を殺すことなど自分だけで大丈夫だと考えたのだ。
『冒険者を配備しているようだが、やはり甘いな……』
標的はギルドに入ったまま出て来ていない。
そのことから考えるに、ギルドに併設されているという職員寮に寝泊まりしているはずだ。
ギルドが協力している理由はよく分からないが、所詮は冒険者という寄せ集め。
忍び込むための隙を防ぎきれていない。
『勝手に行動に移すなと言われているが、これなら俺1人で忍び込んでも……』
そもそも、各地に散っていた隊員が全員揃うまでギルドには近付くなと、隊長の男からの通達が届いていた。
この時点で通達を無視している状況なので今さらなのだが、組織全員で動くような問題ではないと思っているためか、彼は忍び込むためのタイミングを計る。
そうしてしまうのも、冒険者たちが隙だらけなのが悪いのだと、勝手に自分の中で思うようになっていた。
『今だ!!』
冒険者たちは、どこから来ても大丈夫だと思っていることだろう。
しかし、それは前後左右だけ。
上空からの侵入を想定していないような陣容だ。
侵入に自信がある自分だから見つけられたルートだ。
他の闇の者なら無理だろうが、自分なら上空から闇夜に紛れて侵入できる。
功績を求めるつもりはないが、この状況で侵入しないのはチャンスを棒に振ることでしかない。
そのため、男は単独でギルドの侵入を計ることにした。
「…………」
外の建物付近の防衛はしていたようだが、建物内はほとんど無防備と言ってよかった。
建物内を移動し、男は標的の眠っている部屋を突き止めた。
その部屋へ、音を立てることなく侵入し、男は仕込んでいたナイフを取り出してレオの寝ているベッドへと近付いていった。
「っ!?」
あと一歩という所で、男は目を見開くことになった。
突如体が動かせなくなったためだ。
「っ!?」
まずいと感じ、何とか動かせる顎を動かし自害しようとするが、それもどこからともなく巻き付いた糸により阻止されてしまった。
その糸によってグルグル巻きにされた男は、何もすることができないまま捕縛されることになった。
「この期に及んで単独で来るなんて舐めすぎですね。夜なら仕留められると思っているんですか?」
レオの言葉と共に部屋に灯りが点く。
そうして、男は姿を見られることになった。
「こっちには夜こそ本領発揮する子がいるんでね……」
「っ!!」
明かりがついた側にいるクオーレとエトーレを見て、男はまたも驚くことになった。
標的の側に、こんな魔物が仕えているとは気付かなかったからだ。
手のひら大の蜘蛛はともかく、大型犬並みの闇猫の大きさからして見逃すはずがない。
ギルド内へ入る姿を見た時は、確認できなかった。
この闇猫がどこから入ったのか分からなかったことが、自分が捕まった原因だと気付いた。
「お疲れさま! 二人とも」
「ニャッ!」“スッ!”
捕まった男がミノムシのようになっている所で、レオはまたも捕縛に成功した2匹の従魔を撫でて褒めてあげた。
2匹とも、嬉しそうにレオに撫でられていた。
「レオ! 大丈夫か?」
「えぇ、予定通りにいきました」
従魔たちを撫でている所で、隣の部屋にいたファウストがレオの部屋に入って来た。
それに対し、レオは笑みを浮かべて返事をした。
「ったく、心配でしょうがなかったぜ!」
レオの部屋に忍び込まれるまでファウストが動かなかったのは、男が侵入したことに気が付かなかったわけではない。
それがレオの言うように予定通りだったからだ。
「侵入者が1人ならそのまま流せなんて……」
「すいませんでした」
前回のこともあり、闇討ちに関してクオーレとエトーレのコンビはかなり強力だとレオは確信していた。
そのため、敵が1人で侵入してきたとしたらまた捕まえられるのではないかと思い、リヴィオとファウストに提案することにしたのだ。
2匹の攻撃が通用しなかった場合はファウストに動いてもらうつもりでいたので、そのようなことにならずに済んで良かった。
「1人よりも2人証人がいた方が確実でしょう? それに敵は数を分散させるかもしれませんし……」
「それはそうだが……」
提案を受けたリヴィオとファウストは渋い表情をしていた。
標的のレオを囮にするようなことをして、ミスでも起これば全て水の泡だ。
闇に潜む連中が、同じように闇に潜む者に待ち受けられているとなかなか思わないだろうから、成功する可能性は高いとは言っても、危険なことに変わりなくその策に乗るのは躊躇われた。
強制的に奴隷にし、指示を出した者を証言させれば確実ではあるが、レオの守りに成功しても人質に死なれるということになれば指示者をあぶりだすことはできなくなる。
ならばもう1人捕まえて別々の場所に監禁しておき、どちらか一方だけでも生き残ればいい。
敵も一ヵ所に集中攻撃をせず、分散させて事に当たるかもしれない。
その分冒険者の数を増やすことになるが、資金はレオが出すことになる。
その点はこれまでの島の収益でなんとかなるが、レオを危険に晒してまでする事ではないように感じる。
「ニャッ!」
「あっ! 来た?」
「……そういや、クオーレは一緒じゃなかったがどうしたんだ?」
ギルド職員の女性の案内によって、クオーレが姿を現した。
ファウストもいないことが気になっていたが、遅れて現れたことに疑問を思った。
「敵が僕の動向を観察している可能性があったので、ギルドに入る前に他の冒険者の従魔っぽく遅れてギルド内に入ってくるように指示しておいたんです」
「指示? もしかして誘い込むためにか?」
「はい!」
自分がヴェストコリナのギルドに向かっているということを噂として広めたとのことなので、もしかしたらもう観察されているかもしれない。
ならば、それを利用して、もう1人くらい捕まえてやろうという考えの元、レオはクオーレの存在を知られないように細工したのだ。
首輪もしているし、他の冒険者といれば退治されることもないだろう。
さっき案内してくれたギルドの女性だけに伝えておけば、広まることも無いと思っていた。
「そこまで考えていたんなら、その闇猫たちのコンビの技が通用しなかった時の事も考えているのか?」
「はい! 身を守る術は幾つか用意しています!」
「それじゃあ、やらせてみよう!」
これまでの関係から、レオは考え無しで行動するようなことはないとファウストは思っていた。
そのため、クオーレの存在の隠蔽もしていたということは、もしものことを考えていないとは思わなかった。
そう思って尋ねると、レオからは力強い答えが返ってきたため、ファウストは策を受け入れることにした。
「おい! ファウスト!」
「大丈夫だ! 俺も側にいるんだ。責任もってレオは守る!」
「……分かった。お前がそこまで言うなら信じるよ」
さっきまでと違い、渋い顔から一転納得したことに、リヴィオは抗議するような声をあげる。
その抗議はもっともだと思うが、自信満々のレオを見ていると試しても良いとファウストは思えてきた。
レオの身を守る術がどんな物かは分からないが、それで少しでも時間を稼げれば自分が動いて何とかできるはず。
そう思い、ファウストはリヴィオに真剣な目を向けて了承を得たのだった。
「これで次こそ総力戦で来るでしょうね?」
策が成功し、護衛に雇っている冒険者が捕まえた闇の者を連れて行った。
近くの治安兵の施設の牢屋に閉じ込めてもらうためだ。
リヴィオが治安兵に話を通してあるので、大丈夫なのだそうだ。
治安兵はフェリーラ領の領兵でもあるため、治安兵の施設に攻め込めば完全にテロ行為だ。
指示したものは確実に処刑されることだろう。
これで、レオを殺しただけでは意味がなくなった。
テロとなろうと、捕まった仲間の口封じをして自害してしまえばいい。
そう判断して数を分散してくれればいいし、全勢力が攻めてこようと返り討ちにしてしまえばいい。
「大丈夫だ。今回集めた冒険者たちの実力は、俺やリヴィオが保証する」
「じゃあ、安心ですね!」
今回冒険者たちが上空から侵入されたのは、侵入者が1人なら通して構わないとファストとリヴィオから受けていたからだ。
本来なら地下と共に上空も警戒していた。
侵入者を捕まえるために協力してもらったが、次はこんなことをせずとも警護してくれる者たちだ。
ファウストは自信を持ってレオに安全を保障した。
それを聞いたレオは、嬉しそうに返事をした。
『もしもの時は自分で身を守ろう』
ファウストのことは信用している。
しかし、冒険者たちの想定以上の実力者がいたら自分で自分の身を守るしかない。
そのことをレオは内心で思いつつ、今夜は眠りにつくことにした。