「えっ!? 陛下が崩御なさった?」

「あぁ! 冬に入る前に急に体調を崩していたんだが、昨日身罷(みまか)られたそうだ」

 侵入者をフェリーラ領に連れていくことにしていたレオたちだったが、逆にフェリーラ領からファウストが島へと訪れた。
 突然の訪問に何事かと思っていると、早々に驚きの情報を話してくれた。
 ヴァティーク王国の国王であるカルノ・ディ・ヴァティークが崩御したという情報だ。
 あまりにも突然のことで、レオのみならず、お茶を用意するベンヴェヌートも驚きで目を見開いた。

「何故急に!? まさか暗殺……」

「いや、それはない。冬に入ってすぐに病に倒れていた陛下が、そのままお亡くなりになられたという話だ」

「そうですか……」

 王のカルノが病に倒れたという話はファウストの報告で知ってはいたが、詳細な病状が分からないでいた。
 レオ自身は王のことはよく分からないので、もしかしたら暗殺でもされたのではないかと思ってしまったが、ファウストの否定に安堵した。

「元々、陛下は大食漢で不摂生な所があることで有名だったからな。冬になり収縮した脳の血管が詰まってしまったのではないかということだ」

「病では仕方ないですね……」

 王城には、王族にもしもの事があった時のために、回復魔法を得意とする魔法師たちも常時配備されている。
 そういった者たちの回復魔法は主に外傷専門、病を回復することは不可能。
 そうなると内科の医者に頼るしかないが、体内で何が起きているかなんて分かる訳もなく。
 症状に応じて、色々な治療薬を与えて状況を見ることしかできなかったのだろう。

「まぁ、元々クラウディオ王太子殿下が継ぐことになっていたのだから、跡継ぎ問題はないだろう」

「そうですね」

 カルノ王にはクラウディオ王子とレーナ王女という子供がいて、兄のクラウディオが継ぐ事は前から決まっていた。
 王が亡くなった場合、継承問題というのがどこの国でも起こるが、妹のレーナ王女との仲も良好だし、派閥に分かれての継承争いということが起こることはないだろう。
 王都から離れた島の領主とはいえ、国が乱れれば被害が及ぶかもしれない。
 そう言った心配がないことは望ましいことだ。

「フェリーラ領の領主であるメルクリオ様もその葬儀に参加することになり、王都へ向かうことになった。すまんが面会は一時中止だ」

「……そうですよね。そうなると捕まえた侵入者はどうしましょう?」

「そうだよな……、いつまでもここに置いておくと住民に危害が加えられるかもしれないからな」

 流石に王の葬儀に参加しない訳にはいかないため、ファウストを通してのフェリーラ領領主との面会も中止しなければならなくなってしまった。
 しかし、狙われている立場のレオとしては、次にいつ刺客を送ってくるか分からない状況。
 一刻も早く侵入者をフェリーラ領に送って、自白をさせてしまいたい。
 ファウストとしてもそれが分かっているので、どうしたものか悩むように呟いた。

「捕まえた侵入者をフェリーラ領に移しましょう。そうすれば仲間の救出、もしくは始末に動くはずです」

「囮にするってことか?」

「はい」

 捕まったら死を選ぶように教育されていても、死ねない状況に追い込まれてしまうこともある。
 その場合、その者から情報を引き出される前に救出か始末に動くのが最優先になるはずだ。
 そこを一網打尽にして、更なる証拠でも得られるようにするというのがレオの策だ。

「その場合、ファウストさんたちに助力を頼むしかないんですけど……」

「それは構わんが、低い可能性として、捕まった仲間の始末より先にお前を狙うかもしれないぞ?」

「そうですね……」

 フェリーラ領の領主は葬儀でしばらくは戻らない。
 ならば、低い可能性ながら、先にレオを始末してからでも遅くないと暗殺者側は考えるかもしれない。
 可能性がゼロじゃないとなると無視できない。

「それなら、僕も一緒にフェリーラ領に向かいましょう! そうなればわざわざ島へ攻め入るなんてことはしないでしょうから……」

「言うまでもなく、危険だぞ?」

「分かっています。しかし、折角発展してきたこの島に攻め込まれるよりも、人の多いフェリーラ領の方がなかなか攻めて来る機会は減らせるでしょう?」

「まぁ、確かに……」

 ファウストが人を集めれば、レオと捕まえた侵入者の身の回りを固めるのは不可能ではない。
 しかし、相手がどんな方法で攻めて来るか分からない。
 絶対に守り切るという保証はできない。
 そんな所に標的であるレオを連れていっていいものか、ファウストとしては悩まされる。

「ベンさん。領主代行をお願いできますか?」

「……畏まりました。全力を尽くします」

 島と住人のことを考えてのことだろうが、ベンヴェヌートからするとそんな危険なことはやめてほしいが、レオはこのまま島を襲われるくらいなら、自分一人が囮になってでも早々に解決をしたいと考えているのかもしれない。
 その覚悟は立派だが、大丈夫なのか不安になる。
 しかし、レオの自信のあるような目を見ていると、ベンヴェヌートは止めることができなかった。

「後は、ガイオさんに頼んで、ドナートさんとヴィートさんを連れて行きましょう」

「それだけで大丈夫か?」

「僕のいない所を狙って来るとは思えないので大丈夫だと思いますが、念のため戦力は残しておきたいので、2人で充分です」

 標的のいない所へ攻め込む意味はない。
 しかし、人質を取るという意味で数人侵入させてくる可能性もある。
 そんな時の事を考えてガイオたちは置いて行くつもりだ。
 それに、そもそもこの島には魔物が大勢いるため、危険なことは変わらないため、戦力を残しておきたいのだ。

「ロイたちはどうするんだ?」

「彼らは魔物退治の重要な戦力です。魔力を多めに与えて、しばらくは稼働していられる状況にしていくつもりです」

 ロイたちは、魔力を与えれば1週間ほど動いたり戦えたりしている。
 レオの魔力が原動力となっているので、稼働時間を増やすのなら与える魔力量を増やせばいいだけだ。
 魔物の危険性を考えると、置いて行くしかない。

「置いて行くのか? お前の身を守るためにも連れて行ったらどうだ?」

「大丈夫です。彼らには魔物を狩って、島の開拓資金を稼ぐ役割もあるので、全員連れて行くと経済的に問題が起きてくるので……」

 ロイたち木製人形は、レオにとっての攻めでもあり守りでもある。
 暗殺者の数も分からないし、ロイたちが側にいた方が、言っては何だが盾代わりにはなるかもしれない。
 そう考えると連れていった方がレオにとっては良いと思えて提案したのだが、レオはそれを否定した。
 島の収益は、はっきり言ってロイたちの魔物を狩ることによる素材や魔石に頼っている所が大きい。
 こんな時にそんなことと思うかもしれないが、今回の策が上手くいっても島に危機が訪れてしまっては元も子もない。
 そのため、レオはロイたちを置いて行くことに決めたのだ。

「僕にはクオーレとエトーレも付いているので……」

「ニャッ!」“スッ!”

 レオの言葉を近くで聞いていた闇猫のクオーレと、蜘蛛のエトーレは、胸を張るようにしてそれぞれ返事をした。
 そんな2匹のことを撫でながら、レオはファウストに目を向ける。

「他にも身を守る術は用意しているので、きっと大丈夫です」

「そうか……」

 自信ありげなレオの目に、ファウストは納得するしかなかった。
 どんな策かは気になるが、秘密にしておいた方が良いと判断し、ファウストは策の内容を聞かないことにした。
 こうして、島のことをみんなに任せて、レオはフェリーラ領へと久々に向かうことにした。