「おはよ……うっ!」

 目が覚めて家から出てみると、警護役の人形ロイが立っていた。
 そのロイに挨拶をしながら周辺を見てみると、レオはぎょっとした。
 家の周りに数体の魔物の死体が転がっていたからだ。

「……4体も来たのかい?」

“コクッ!”

 転がっているのはゴブリン1体と、コネチッラと呼ばれるテントウムシの魔物が2匹、セルペンテと呼ばれる2mほどの長さの蛇の魔物が1匹。
 どうやらロイが剣で斬り倒したらしく、それぞれ斬り裂かれた跡がある。
 人形だから元々目がなく、魔力を使った探知で魔力に反応することで戦えるため、夜の暗闇でも関係なく戦えるのはありがたい。

“スッ!”

「ん? あぁ、魔石? ありがとう!」

 魔物を倒したら魔石を取る。
 言わなくてもちゃんと取っていたらしく、ロイは4つの小さい魔石をレオに渡してきた。 
 昨日同様褒めて頭を撫でてあげると、ロイはされるがまま動かない。
 本当に感情でもあるかのような反応に思えてくる。

「ゴブリンとコネチッラは焼却。セルペンテは解体して食料にしよう」

“コクッ!”

 あまり食料を持っていないレオからすると、魔物とは言っても食料となるものが手に入り、レオは嬉しそうにロイに指示する。
 指示を受けたロイは、すぐに木の枝を集めて焼却作業を開始。
 その間に、レオは蛇の解体に入ることにした。

「1人で食べきれるかな?」

 解体し終わった蛇の肉の量を見て、レオは思わず呟いてしまう。
 見た目通り普通の蛇よりも肉厚で、取れた肉は1kgは軽くありそうだ。
 病弱は改善されつつあり、食欲も少しずつ増えてきているが、まだ小食と言って良いレベルだ。
 そのため、レオ1人ならこの量の肉で数日は持ちそうだ。

「それにしても、このスキルは助かるな……」

 気を付けないといけないが、だいぶ体も丈夫になったらしく、昨日の疲労も残っていない。
 体の調子が悪くなることがなくなってきた。
 それもこれもスキルを得たことによる恩恵だ。
 改めてレオはこのスキルに感謝したのだった。





◆◆◆◆◆

「そろそろ良いかな……」

 スキルを得た時の事。
 簡単な実験をしてスキルを把握したレオ。
 この日、最後の実験をおこなうために夜遅くまで起きていた。

「これが成功すれば……」

 次の誕生日で15歳と成り、成人したならきっとこの家から追い出されることになる。
 そう考えているレオは、その時のために何としてもしておかなければならないことがあった。
 それは自身の体のことだ。
 すぐに体調を崩して寝込んでは、冒険者になるしかない自分はとてもではないが生きていけない。
 ならば、体を鍛えればいいとなるが、体を動かしたことによる疲労も体調を崩すきっかけになることが分かっている。
 身体を動かせず、ベッドにいることの多かったレオは、本を読み漁ることで得たとある知識がある。
 それが魔物の討伐。
 昔から、魔物を倒すと僅かながらステータスを上昇させることができると言われている。
 しかし、それを検証した資料は存在していない。
 多くの魔物を倒しても、ステータスが上がったかどうか調べる手立てがないことが原因だろう。
 はっきりしない程度の上昇。
 レオは、それに望みを託すしかなかった。

「ロイ! 誰にも見つからないように町を出て、魔物を倒して来てくれるかい?」

“コクッ!”

 この実験をおこなうために、レオは準備を進めていた。
 それが、レオの代わりに魔物を倒すための人形を作ることだ。
 魔物を倒したことによるステータス上昇は、自身の力によって倒した時のみ得られると言われている。
 スキルも自身の力と捉えるならば、スキルによって動かした人形によって倒したとしてもいいはずだ。
 魔物と戦うとなるとある程度の大きさと強固さが必要。
 加工することを考えると、木製の人形が選択される。
 ベンヴェヌートに木材を求めた時にどう理由を付けるか迷ったが、大作の人形を作るためと素直に言ったら用意してくれた。
 ベンヴェヌートも、残り数か月で別れることになると分かっていたためか、レオの好きにさせようと訝しく思いながらも何も言わずに用意をしてくれた。
 そして完成させたのが、木製人形ロイだった。

「弱い魔物を狙うのと、無理はしないでね!」

 スキルの条件として、自作物でないといけないらしく、替えを作るにもまたベンヴェヌートに材料をそろえてもらう訳にはいかない。
 それに、ここまで作り上げたことで愛着も湧いている。
 そのため、壊れてしまったら正直悲しい。
 ロイには無事に戻ってくることも告げた。
 人形が動いているのを町の人に見られたら噂になりかねない。
 これでも、一応自分は伯爵家の人間。
 町の詳細な地図から抜け道は把握している。
 その抜け道を通って町の外に出るようにロイに指示しておく。

「いってらっしゃい!」

 魔物と戦うのに何もないのでは倒せないだろうと、ロイを作った時に使ったナイフを渡して窓の外へと出たロイへ魔力を補充する。
 レオの魔力が、ロイが動く燃料となっているらしい。
 戦うことにも使うだろうし、町から出て戻ってくるまでも距離がある。
 魔力を多く渡しておいて失敗に繋がるようなことは無いはずだ。
 体調に響かないギリギリまで魔力を渡し、レオは闇夜の中をいくロイを見送った。





◆◆◆◆◆

「結果は成功だったな……」

 半年近く前のことを思いだして、レオはしみじみと呟く。
 魔物を倒すことによるステータス上昇。
 実験がハッキリと成功したとは数値を示して証明することはできないが、あえて言うなら自分が証拠と言って良い。
 もしかしたら、そう思い込んでいるだけなのかもしれないが、そんなことはどうでも良い。
 ロイが夜な夜な近場の魔物を倒すようになったことで、レオの体調が改善されて行ったのは事実なのだから。

「どうせなら、あの時倒した魔物の魔石も持ってくるように言っておけばよかったかな?」

 魔物を倒すことによってステータス上昇。
 それによる体質改善を重視したために、魔石の採取や後始末のことは教えていなかった。
 知識をレオから得ていても、求められていないことをしないのはやはり人形だからだろうか。
 まさか領地を与えられると思ってもいなかったため、移動資金を稼ぐのに時間がかかってしまった。
 今考えると、魔石だけでも持ってくるように言っておけば、それを売った資金でもっと早くここに着けたかもしれない。
 そのため、少しもったいなかったように思えてきたのだ。

「まぁ、気にしても仕方ないか。無事着いたことだし……」

 何もできずにベッドで過ごした時間が長いせいか、レオは結果オーライと判断することが多くなった。
 この島で魔石なんて、今の所アルヴァロへの報酬分あれば十分だ。
 多くのことは望まず、楽しく今を生きることを考える方が建設的だ。

「でも、ロイだけでここを生きていけるかな……」

 ロイのお陰で良い拠点を手に入れ、魔物の対応を任せていられる。
 森から少し離れているせいか、まだ強力な魔物は出現していない。
 しかし、この島は手付かずで、魔物がどれだけ潜んでいるか分からない。
 自分を守ってくれたり、力仕事をしてくれる人形がもっといてくれた方が安心できるかもしれない。

「ロイ! 木を持ってきてくれるかい?」

“コクッ!”

 多くの魔物にここを襲われたらロイだけでは不安が残る。
 ならば、ロイの仲間を作ってしまえばいい。
 材料となるものは、昨日の家づくりで用意した木材が残っている。
 それを使って、レオは新しく人形を作ることにした。




「完成!」

 人形作りを始め、結局完成するまで3日かかった。
 ロイを作る時は1週間はかかったので、それを考えればかなり時間が短縮できた。
 1度目よりも2度目の方が、慣れによる所が大きいのだろう。

「スキル発動!」

 早速完成した人形を動かしてみようと、レオはスキルを発動する。
 魔力を与えられた人形は、カタカタと音を立てた後、ゆっくりと立ち上がった。

「君はロイの弟のオルだよ! よろしくね!」

“ペコッ!”

 立ち上がった人形に不具合がないか確認し、問題ないことを確信したレオは、作っている間に考えていた名前を新しい人形に告げた。
 木製人形2号ことオルは、レオに名前を告げられると恭しく頭を下げたのだった。