「今回も大量に魔物を倒したようですね……」

「ロイたちのお陰です」

 いつものようにギルドなどへ売る素材の受け取りに来たアルヴァロ。
 今回も追加の山羊を運んで来てくれた。
 受け取った時に虫の魔物の魔石の数を見て、相変わらずといった感じに感心していた。
 それに対し、レオは素直に思っていることを告げる。
 防壁の外の魔物を退治するためにバランスを考えて編成したロイたち人形の隊は、レオのスキルで動いているからなのか連携の面は問題なく、毎日多くの魔物を狩ってくれていた。
 それでも、領地を広げるためにもう1つ隊を作ろうと、レオは人形を製作している最中だ。

「家も結構出来ていやすね?」

「はい。みんなが協力してくれました」

 防壁も完成し、島に住人を連れて来てもらう受け入れ態勢を整えようと、一角に住宅を建設している。
 一人暮らし用や家庭用の家が幾つも完成しているのを見て、レオ一人しかいなかった時から関わっているアルヴァロは、島が少しずつ発展しているのを感じて感慨深い思いをしている。
 家の建設には、小さい人形たちが細工作業を頑張ってくれているが、組み上げるのは人の手でないと無理なので、結局は協力してくれる男性陣の手によって建てられていると言って良い。

「もう住人が増やせやすね……」

「はい」

 後はファウストが集めた人間を島に招き入れるだけの態勢になった。
 そのことを、アルヴァロからファウストに伝えてもらう予定だ。

「今回アルヴァロさんにお話しがあるのですが?」

「はい。何ですかい?」

 商品のやり取りを終えて、レオはアルヴァロに真剣な顔をして話しかける。
 レオの家の応接室で椅子に腰かけ、飲んでいたお茶のカップを置いたアルヴァロは、その態度に何かあるのかと少し不安になってきた。

「さっきも言ったように、建設もある程度進んだので、ファウストさんにここの住民になってくれる人間を連れて来てもらおうと思っているのですが……」

「えぇ……」

 家の建設もこのまま続けるつもりなので、住人を少しずつ増やして行こうと思っている。
 そうなると、まずはやらないといけない事がある。

「この島には船があるし、人を運ぶ船と、荷物を運ぶ船として動いてもらおうと思っています」

「……そうですかい」

 レオの言うように、この島にはエレナたちが乗って来たガイオの船と、逃れてきた元海賊の者たちの船と、大きめの船が停泊している。
 ルイゼン領の人間が見たら、もしかしたらエレナの生存や海賊を匿ったことが気付かれてしまう可能性があるので、ドックで見た目を作り変える作業をおこなっていた。
 それも終了した今、ただ海に浮かばせておくのはもったいないと思い、レオはフェリーラ領とのやり取りに使うことにした。
 それを聞いた時、アルヴァロは何が言いたいのかを理解した。
 これまでその役割を担ってきたのは自分だ。
 つまり、代わりに他の者にその役割をこなしてもらうということになる。
 言い方が良くないが、言わば用済みということをレオが言いたいのだとアルヴァロは思った。
 数人しか乗せられないような漁船しか持っていない自分が、これから発展してくこの島に必要なくなったのだから、レオを応援してきた身としては嬉しいことと言って良い。
 少し残念だが仕方がないと、アルヴァロはレオの話の続きを待った。

「フェリーラ領とのやり取りをするために、商会を立ち上げようと思っています」

「……そうですね」

 これまでアルヴァロが島に必要な物を集めたりしてきたが、人が増えたり店ができたりした場合、もっと細かく多くの物を手に入れてもらわなくてはならなくなる。
 そのために、人員を雇い、集めた物を保管する倉庫の管理などをするために、商会を立ち上げることにした。

「その商会の責任者に、アルヴァロさんになってもらいたいのですが……」

「……えっ?」

 用済みになり、少し気落ちしていた状態で聞いていたアルヴァロは、レオの意外な提案に少し反応が遅れた。

「ずっとこの島の取引をしていた方ですから、お任せしたいと思いまして……」

「……しかし、俺以外にもできる人間がいるんじゃ?」

 自分を買ってくれていたのだと、嬉しくありがたい話だが、アルヴァロには少し疑問に思う所がある。
 週に1回だけとはいえ毎回この島に来ているので、島の人間とは顔見知りだし、仲の良くなった人間も少しはいる。
 責任者になるなら人を従える能力も必要になるだろうし、そうなるとガイオなんて適任な気がする。

「ガイオさんには後々、領を守るために兵の指揮をしてもらおうと思っています」

 窓から見えたガイオを見てのアルヴァロの発言に、レオはすぐにその選択をしない理由を述べた。
 海賊狩りの船長をしていたこともあり、ガイオは腕っぷしではこの島でトップの人間だろう。
 エレナの執事のセバスティアーノもかなりの実力の持ち主のように思えるが、彼はエレナから離れるのを好まないようなので、頼むのは憚られる。
 今は脚が完治していないので治療に専念してもらうつもりだが、完治した暁にはガイオに頼もうとレオは思っている。

「ただ、1つ問題がありまして……」

「……何ですかい?」

 商会の責任者をアルヴァロに頼むにしても問題がある。
 その問題が何なのかは、アルヴァロは中で心当たりがある。
 言葉遣いがあまり良くないし、見た目もごついために、商人としては適していないのではないかということだろう。

「アルヴァロさんに漁師を続けてもらうことができなくなりそうなのです」

「……そんなことですかい? それなら気にしないで大丈夫でさ」

「いいんですか?」

 たしかに、元々漁師を専門にしていたし、週1で島に来る日以外は漁師をしていた。
 しかし、住人が増えてくるにつれて、レオの要望に応えるために手に入れなければならない物も増え、漁に出る日にちは半分になっていた。
 漁師をしているよりも島に協力する方が収入的には上がってきているため、このまま島の発展に協力をしていた方が、もっと得られるのではないだろうかと思うようになっていた。
 レオに言われるまでもなく、もしかしたらこのまま漁師を辞めていたかもしれないため、アルヴァロからするとたいした問題ではない。
 それよりも、見た目などの問題は気にしないことにツッコミたくなる。

「ここの発展に協力できるならかまいませんぜ!」

「本当ですか? 良かったです!」

 レオだけの時から島を見てきたこともあり、アルヴァロの中ではこのまま島がどこまで発展して行くのかが楽しみになっている。
 その一助になっているという思いで、ずっとレオの求める物を集めてきたつもりだ。
 漁師も、見た目や体格からおこなってきたことだし、そこまでこだわっている職業ではない。
 なので、今後もレオの役に立つのなら、漁師を廃業してしまっても構わない。
 アルヴァロがこれからも協力してくれることに、レオとしても嬉しかった。
 島の発展のために、アルヴァロを巻き込んでしまったのではないかという思いがあったが、かといってこのままアルヴァロとの関係を絶つのはレオとしては悲しい。
 それもあって商会を任せようと思ったのだが、了承が得られたことでこれまでの不安が解消された。

「今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ! よろしくお願いしやす」

 少し勘違いしていたことでお互い表情が暗かったが、それが解消された2人は笑顔に変わった。
 商会の人員などはファウストに頼めばいいので、これで発展へ向けて進んで行ける。
 2人は握手をして、これからも付き合いを続けることを笑顔で約束したのだった。