「徹夜でオルの修復作業をおこなっているみたいだな……」

「レオさん大丈夫でしょうか?」

 家に帰ってみんなに今回の調査の結果などを報告したあと、レオは家に入って出て来なくなった。
 みんなその理由は分かっている。
 仲間を庇ったことにより、壊れて動かなくなってしまった木製人形のオルの修復にすぐさま取り掛かったからだ。
 翌朝のガイオとの稽古は中止、畑仕事もベンヴェヌートに任せ、ずっと修理をおこなっているようだ。
 ガイオの言うように、夜中になっても家に灯りが付いたままだったので、恐らく徹夜をしているのだろう。
 ロイたちによる魔物退治で体調が改善されたとは言っても、元は病弱だったということからまた体を壊してしまうのではないかと、エレナはレオのことが心配になってくる。

「オル、動いてみて?」

 みんなに心配されている本人は、朝になっていることなんて気になっておらず、ようやくオルの修理が終わった所だ。
 壊れていた箇所を修理したり、違う部品に取り換えたりと、色々とやって何とか直せたと思う。
 これで特に問題なく直せたと思ったレオは、最終確認としてオルに魔力を流しスキルを発動した。

“スッ!!”

「よかった。直ったようだね……」

 レオの言葉を聞いたオルは、座っていた状態から立ち上がり、手足などを動かして見せた。
 その動き方を見て、レオはオルを直せたことに安心した。

「昨日は偉かったよ。オル」

 直ったことに安心したレオは、昨日のオルの取った行動を改めて褒めてあげ、頭を撫でてあげた。
 人形なのにもかかわらず、撫でられているオルもどことなく褒められて嬉しそうな気がする。

「……あっ! もう駄目だ……」

 少しの間オルを撫でていたレオだったが、直せたことに安心した途端、徹夜で作業をしていた疲労が襲ってきたらしく、そのまま横になって眠ってしまった。

「………………」

“スッ!”

 床に横になってしまったレオを、オルは抱き上げて寝室のベッドに寝かせた。
 そして、ぐっすり眠っている主人のレオに、直してもらった感謝を示すかのように、頭を下げて部屋から出て行った。

「おや? オル、直ったのですか?」

“ペコッ!”

 レオの代わりに行った野菜の採取の仕事を終えて、ベンヴェヌートが家に戻ってきた。
 そして、今日もいつものように魔物の退治に行っているロイたちとは違う人形が立っているのを見て、レオがオルを直し終えたのだということに気が付いた。
 話しかけてきたベンヴェヌートに対し、返事をするように軽く会釈すると、オルは寝室の方を指差した。

「あぁ……、レオ様は眠ってしまわれたか……」

 昔からそうだったように、ベンヴェヌートはレオの家の手伝いをしている。
 そのため、レオが徹夜でオルのことを直していたのも知っている。
 エレナと同じようにレオの体のことが心配だったが、ぐっすり寝ている姿を見る限り体調を崩している様には見えなくて安心した。

「おやっ? もう魔物退治に向かうのですか?」

“コクッ!”

 直ったばかりだというのにいつもの槍を持ったオルは、家から出て行こうとしていた。
 それを見て、もしかしたらと思ってベンヴェヌートが問いかけてみたら、オルは頷きで返答してきた。

「気を付けてくださいね。あなた方が壊されるとレオ様も悲しみます」

“コクッ!”

 昨日調査から帰ってから、表情になるべく出さないようにしていたが、レオは家に入るなり人形を作る部屋に閉じこもった。
 壊れても所詮は人形。
 壊れてしまったのなら直せばいい。
 しかし、長年の付き合いのベンヴェヌートからすると、レオはロイたちに対してただの人形ではないという感情を持っているように感じる。
 オルが壊されて必死になっていたことでもそれが分かる。
 そのため、レオの執事であるベンヴェヌートからすると、主を守る兵のように思うことにしている。
 兵が傷つけばレオが悲しむ。
 今回のようなことは仕方がなかったが、なるべくそうならないように忠告した。
 そのベンヴェヌートの忠告に頷き、オルは家から出て行った。





「みんな気を付けてね!」

“コクッ!”

 防壁内の魔物はもう存在しなくなったようなので、ロイたちには4体による隊を編成して防壁の外の魔物を退治してもらうことにした。
 盾役のグラド、剣のロイ、短剣の2刀流のラグ、弓使いのドナの組み合わせにした。
 もう一体の盾役のガンデと、直ったばかりの槍のオルは、防壁内に魔物が侵入してきた時のために備えてもらうことにしている。
 レオが心配そうにした注意勧告に、ロイたちは了解したように頭を下げ、その後防壁の外へと出て行った。

「エドモンドさん!」

「んっ? 何だ?」

「実はご相談がありまして……」

 ロイたちを見送ったレオは、エドモンドの所へと向かっていった。
 幾つもの樽に酒造りの仕込みをした今は手が空いたので、住民の家の建築を手伝ったりしている。
 物作りが得意なドワーフが建てる家は、同じ造りでも何故か丈夫というジンクスのようなものが多くの国に広がっていて、それにあやかるために手伝ってもらっているのだ。
 そんなエドモンドに、レオは相談に乗ってもらいたい事があって彼を尋ねた。

「人形の強化?」

「はい……」

 彼を尋ねたのはロイたちの強化について、相談しようと思ったからだ。
 物作りに定評のあるドワーフの彼なら、レオの人形たちを強化する策を提供してもらえるのではないかと期待している。

「強化か……、単純に金属で作るって言う方法はどうなんだ?」

「全身金属だと、重くなって魔力の燃費が悪くなるんです」

「なるほど……」

 レオが丈夫な鉄でなく、木で作っているのには色々と理由がある。
 全身を金属で作った人形を動かすことも出来るが、レオが言ったように重量が増えたことで動くだけで魔力を多く消費してしまうのだ。
 魔力を燃料にしている人形たちは、魔力が尽きれば動かなくなってしまう。
 全身鉄で作った人形だと、木製人形が1週間動く魔力量で1日しか動かなくなるかもしれない。
 1体だけならそれでもいいが、更なる開拓には多くの人形が必要になって来るため、そうなると使い勝手が悪すぎる。

「軽くて丈夫、魔力のことも考えるなら……ミスリルが適しているんじゃないか?」

「ミスリルって……結構高いんじゃ?」

「その通りだ」

 鍛冶師としての知識から、エドモンドはミスリルという金属を薦めてきた。
 レオもミスリルという金属のことは知っている。
 エドモンドの言ったように普通の鉄よりも軽くて丈夫、しかも魔力伝達率が高いという特徴も持っている。
 まさにロイたちの強化に適した金属と言って良いだろう。
 しかし、ミスリルには難点があり、なかなか大量に採取できる金属ではないため、金額がかなり高いのだ。
 アルヴァロに手に入れてもらおうにも、1体分だって払えるとは思えない。

「ミスリルを手に入れられるまでは、人間と同じように防具の装着などで防御力を高めるしかないんじゃないか?」

「そうですね……」

 重くなってはいけないので、ロイたちは防具を着けていない。
 しかし、昨日のようなときに防具を着けていれば、もしかしたら動かなくなるようなダメージを負わなかったかもしれない。
 防具を着けて魔力を消費しやすくなっても、全身鉄製にするよりはマシだろう。
 ならば、エドモンドの言うように防具による強化しかない。

「そういやオーガやゴブリンたちが棲みかにしていた洞窟があるっていってなかったか?」

「……はい」

 以前ドナートとヴィートと共に、レオはオーガの討伐を行った。
 その洞窟は放置の状態だったが、エドモンドがその洞窟のことを急に話してきたので、レオは不思議に思いつつ返事をする。

「そこを採掘して見たらどうだ? ミスリルはないかもしれないが、何かしらの金属が手に入るかもしれないぞ?」

「そうですね! 調べてみます!」

 もしかしたらこの島にもミスリルがあるかもしれないということを、レオは考えもしなかった。
 ミスリルは貴重なので取れると言い切ることはできないが、この島で使う金属が手に入るなら調べてみるのもいかもしれない。
 ロイたちの強化だけでなく、島のためにもなる答えをもらえ、レオはやはりエドモンドに相談して正解だったと思ったのだった。