「どういうことだ!?」
「どういうことと言われても……」
住民も増えてレオたちが少しずつ発展を目指して進み始めるなか、ルイゼン領のムツィオは怒りに打ち震えていた。
呼び出されたルイゼン領のギルドマスターのビアージョは、怒りを向けられていることに首を傾げる。
「相手がいないのでは、討伐などできませんので……」
依頼を受けて海賊を討伐するために、冒険者を乗せた船団を組織して無人島群へと向かったのだが、どの島にも人の住んでいる気配はなく完全なる空振りに終わった。
当然それを依頼主のムツィオに報告をしたのだが、何故自分に怒りを向けているのか分からない。
確信があるから依頼をしてきたはずなのに、その依頼に応えたら海賊がいなかったのだから、そもそも依頼を出す前の調査が不完全だったとしか言いようがない。
領主の依頼だから断る訳にもいかず、短い時間で討伐へ向かうメンバーをそろえたというのに、空振りになって腹を立てたいのはこっちの方だといいたいところだ。
「本当にあの島にいたのですか?」
性急に討伐に行かせるなんてことをしたのがそもそも間違いで、自分たちギルドの最終確認を待ってからムツィオは動くべきだった。
それを待たずに行くように指示しておいて、失敗をこっちのせいにされては困る。
そもそも、海賊の存在自体が怪しく感じてきた。
「私が嘘をついていると言うのか!?」
「……いえ、しかし……」
海賊の存在自体に疑いをかけられ、ムツィオはさらに激昂する。
王家に許可を得るということまでしておいて、それが嘘ではないかと思われれば確かに腹立たしいだろうが、いなかったのだからそう思われても仕方がない所だ。
この周辺の海域には昔から海賊が出現することがあったので、完全に嘘だとは思わないが、単発的な被害で冒険者を総動員させられるのはギルドとしては迷惑だ。
本来ならこっちが怒鳴りたいが、貴族相手のためビアージョは口ごもった。
「……ともかく、我々の失態ではないのであしからず……」
「クッ……!!」
これ以上ここにいると、貴族相手でも自分が我慢できなくなると感じ、ビアージョは立ち去ることにした。
謁見室から出て行くビアージョの背を、ムツィオは歯を食いしばって見送ることしかできなかった。
たしかにビアージョの言うように、今回空振りに終わったのはギルドのせいではない。
当然結果はギルド間で共有し合うため、ムツィオが王家に虚偽の報告をしても意味はない。
他の貴族にも知れ渡るだろうし、自分の評価が落ちることは間違いない。
「くそっ! どこかに逃げたに違いない!」
数回被害に遭ったこともあり、調査はちゃんとしていた。
確実に討伐するために、もう少し早くギルドへ依頼することも出来た。
その時に依頼していれば、ビアージョが言ったようにギルドの調査もおこなったうえで実行に移すことができただろう。
しかし、海賊たちの棲み処があの無人島群だと分かって欲が出てしまった。
海賊討伐を理由にし、王家の許可を得てそのまま自領の兵を島へ居座らせるということができるかもしれない。
そんな企みが浮かんでしまったのが失敗に繋がった。
逃げるにしても、他国は当然のこと、伯爵の自分に敵対するような火種を受け入れる者がいるはずがないという考えがあったために安心していたのだが、王家の許可を得るまでの期間に海賊がいなくなるなんて思ってもいなかった。
「匿っている場所を見つけ出して、必ず報いを受けさせてやる!!」
海賊が逃げたにしても、他国がこのヴァティーク王国と揉めるようなことはしない。
そうなると、海賊が逃げたのは国内の可能性が高い。
今回のことで国中に恥を晒したムツィオは、報復することを決意し、ギルドとは違う子飼いの闇組織を使い、海賊たちの行方を探させることにしたのだった。
◆◆◆◆◆
「ハハハ……!!」
「笑い過ぎですよ。殿下……」
ルイゼン領のムツィオの失態は王城へと報告された。
その報告を自室で受けた王太子のクラウディオは、思わず笑いが止まらなかった。
「これが笑わずにいられるか? サヴェリオ!」
笑いが止まらないクラウディオへ注意をした宰相のサヴェリオに対し、クラウディオは笑みを浮かべながら話す。
海賊を退治に行くので許可をくれと王家にいい、行ったら海賊がどこにもいませんでした。
こんなコントみたいな話が聞けるとは思ってもいなかったため、笑いが止められないのは仕方がない。
「父上が俺やお前に話す事もなくあの群島へ兵を送ることを許可したと聞いた時は、さすがに怒りで我を忘れそうになったが、こんな結果になるとはな……」
いくら無能の王とは言っても父は父。
そもそも、王太子として決定しているため待っていれば王になれるのだから、流石に殺害してまで王位に就きたい訳ではない。
だからと言って、国内を混乱にされた状態で引き継がれるのはごめん被る。
せめて、何もしないでいてくれないかと、クラウディオは思うようになってきた。
数か月前のディステ領のことが起きる前から、宰相のサヴェリオが細かくチェックを入れているというのに、それをすり抜けて王に届いてしまうことがあるため、クラウディオは頭が痛い思いをしていた。
案の定、遠く離れた王都に住む王家があの群島の管轄になっている理由を考えない父が、あっさりルイゼン領のムツィオに許可を出した時は、息子でありながら殺意が湧きそうになった。
内乱になるような火種に、自分から油を注いで何をしているのだと思ったが、どういう訳だか火種がなかったというのだから不思議な話だ。
「海賊が逃げたのだろうが、どこへ行ったかは分かるか?」
「いえ、消息は不明です」
王家は王家で情報収集のルートがある。
宰相のサヴェリオにその情報が集約されるようになっている。
サヴェリオも、王のカルノよりも皇太子のクラウディオに従っている意識が強い。
そのため、彼が望む情報を提供しようと色々人を動かしているのだが、今回の海賊がどこへ行ったのかは分かっていない。
「シェティウス男爵はどうなさいますか?」
「気にするな。彼の気持ちを考えれば当然の行いだ。それに彼と決まった訳ではない」
クラウディオたちも、情報の精査からシェティウス男爵が海賊とつながりがあるのではないかという思いに至っていた。
しかし、証拠は見つかっていない。
海賊を動かして問題を起こしたことは許しがたいが、もしもシェティウス男爵が犯人だとすれば気持ちはわかる。
ルイゼン領の前領主の死には解消しきれない疑惑が燻っているし、前領主の娘も行方不明になったという話だ。
海難事故で遺体が見つかっていないが、恐らく生きているとは考えづらい。
親友とその娘を亡き者にした可能性が極めて高いムツィオに、報復を考える気持ちも分からなくもない。
だが、罪は罪なので、もしも海賊が捕まってシェティウス男爵の名前が出ていたとしたらクラウディオは容赦なく断罪していたことだろう。
そんなことにならず、クラウディオとしても少し安堵した。
「ルイゼン領のムツィオも要注意だな……」
「はい!」
カルノなら深く考えないと思い、ふざけた考えで今回のことを起こしたムツィオのことを、クラウディオとサヴェリオは警戒するようになった。
もしかしたら、内乱に繋がっていたかもしれないようなことを企んでいたのだから、そう考えるのも当然だ。
「もしも海賊を受け入れた人間が分かったら教えてくれ。内乱阻止の礼として、俺の方でもその者への密かに助力をするつもりだ」
「かしこまりました」
今回のことでクラウディオにとって助けになったのは、その海賊を匿ってくれた人間だ。
勝手にとはいえ、カルノが許可した以上王家は手出しできなくなっていた。
最悪の状況への移行も考えられたが、それを阻止してくれたのだから感謝しかない。
サヴェリオとしても同じ思いをしていたので、すぐにその指示に了承したのだった。
「どういうことと言われても……」
住民も増えてレオたちが少しずつ発展を目指して進み始めるなか、ルイゼン領のムツィオは怒りに打ち震えていた。
呼び出されたルイゼン領のギルドマスターのビアージョは、怒りを向けられていることに首を傾げる。
「相手がいないのでは、討伐などできませんので……」
依頼を受けて海賊を討伐するために、冒険者を乗せた船団を組織して無人島群へと向かったのだが、どの島にも人の住んでいる気配はなく完全なる空振りに終わった。
当然それを依頼主のムツィオに報告をしたのだが、何故自分に怒りを向けているのか分からない。
確信があるから依頼をしてきたはずなのに、その依頼に応えたら海賊がいなかったのだから、そもそも依頼を出す前の調査が不完全だったとしか言いようがない。
領主の依頼だから断る訳にもいかず、短い時間で討伐へ向かうメンバーをそろえたというのに、空振りになって腹を立てたいのはこっちの方だといいたいところだ。
「本当にあの島にいたのですか?」
性急に討伐に行かせるなんてことをしたのがそもそも間違いで、自分たちギルドの最終確認を待ってからムツィオは動くべきだった。
それを待たずに行くように指示しておいて、失敗をこっちのせいにされては困る。
そもそも、海賊の存在自体が怪しく感じてきた。
「私が嘘をついていると言うのか!?」
「……いえ、しかし……」
海賊の存在自体に疑いをかけられ、ムツィオはさらに激昂する。
王家に許可を得るということまでしておいて、それが嘘ではないかと思われれば確かに腹立たしいだろうが、いなかったのだからそう思われても仕方がない所だ。
この周辺の海域には昔から海賊が出現することがあったので、完全に嘘だとは思わないが、単発的な被害で冒険者を総動員させられるのはギルドとしては迷惑だ。
本来ならこっちが怒鳴りたいが、貴族相手のためビアージョは口ごもった。
「……ともかく、我々の失態ではないのであしからず……」
「クッ……!!」
これ以上ここにいると、貴族相手でも自分が我慢できなくなると感じ、ビアージョは立ち去ることにした。
謁見室から出て行くビアージョの背を、ムツィオは歯を食いしばって見送ることしかできなかった。
たしかにビアージョの言うように、今回空振りに終わったのはギルドのせいではない。
当然結果はギルド間で共有し合うため、ムツィオが王家に虚偽の報告をしても意味はない。
他の貴族にも知れ渡るだろうし、自分の評価が落ちることは間違いない。
「くそっ! どこかに逃げたに違いない!」
数回被害に遭ったこともあり、調査はちゃんとしていた。
確実に討伐するために、もう少し早くギルドへ依頼することも出来た。
その時に依頼していれば、ビアージョが言ったようにギルドの調査もおこなったうえで実行に移すことができただろう。
しかし、海賊たちの棲み処があの無人島群だと分かって欲が出てしまった。
海賊討伐を理由にし、王家の許可を得てそのまま自領の兵を島へ居座らせるということができるかもしれない。
そんな企みが浮かんでしまったのが失敗に繋がった。
逃げるにしても、他国は当然のこと、伯爵の自分に敵対するような火種を受け入れる者がいるはずがないという考えがあったために安心していたのだが、王家の許可を得るまでの期間に海賊がいなくなるなんて思ってもいなかった。
「匿っている場所を見つけ出して、必ず報いを受けさせてやる!!」
海賊が逃げたにしても、他国がこのヴァティーク王国と揉めるようなことはしない。
そうなると、海賊が逃げたのは国内の可能性が高い。
今回のことで国中に恥を晒したムツィオは、報復することを決意し、ギルドとは違う子飼いの闇組織を使い、海賊たちの行方を探させることにしたのだった。
◆◆◆◆◆
「ハハハ……!!」
「笑い過ぎですよ。殿下……」
ルイゼン領のムツィオの失態は王城へと報告された。
その報告を自室で受けた王太子のクラウディオは、思わず笑いが止まらなかった。
「これが笑わずにいられるか? サヴェリオ!」
笑いが止まらないクラウディオへ注意をした宰相のサヴェリオに対し、クラウディオは笑みを浮かべながら話す。
海賊を退治に行くので許可をくれと王家にいい、行ったら海賊がどこにもいませんでした。
こんなコントみたいな話が聞けるとは思ってもいなかったため、笑いが止められないのは仕方がない。
「父上が俺やお前に話す事もなくあの群島へ兵を送ることを許可したと聞いた時は、さすがに怒りで我を忘れそうになったが、こんな結果になるとはな……」
いくら無能の王とは言っても父は父。
そもそも、王太子として決定しているため待っていれば王になれるのだから、流石に殺害してまで王位に就きたい訳ではない。
だからと言って、国内を混乱にされた状態で引き継がれるのはごめん被る。
せめて、何もしないでいてくれないかと、クラウディオは思うようになってきた。
数か月前のディステ領のことが起きる前から、宰相のサヴェリオが細かくチェックを入れているというのに、それをすり抜けて王に届いてしまうことがあるため、クラウディオは頭が痛い思いをしていた。
案の定、遠く離れた王都に住む王家があの群島の管轄になっている理由を考えない父が、あっさりルイゼン領のムツィオに許可を出した時は、息子でありながら殺意が湧きそうになった。
内乱になるような火種に、自分から油を注いで何をしているのだと思ったが、どういう訳だか火種がなかったというのだから不思議な話だ。
「海賊が逃げたのだろうが、どこへ行ったかは分かるか?」
「いえ、消息は不明です」
王家は王家で情報収集のルートがある。
宰相のサヴェリオにその情報が集約されるようになっている。
サヴェリオも、王のカルノよりも皇太子のクラウディオに従っている意識が強い。
そのため、彼が望む情報を提供しようと色々人を動かしているのだが、今回の海賊がどこへ行ったのかは分かっていない。
「シェティウス男爵はどうなさいますか?」
「気にするな。彼の気持ちを考えれば当然の行いだ。それに彼と決まった訳ではない」
クラウディオたちも、情報の精査からシェティウス男爵が海賊とつながりがあるのではないかという思いに至っていた。
しかし、証拠は見つかっていない。
海賊を動かして問題を起こしたことは許しがたいが、もしもシェティウス男爵が犯人だとすれば気持ちはわかる。
ルイゼン領の前領主の死には解消しきれない疑惑が燻っているし、前領主の娘も行方不明になったという話だ。
海難事故で遺体が見つかっていないが、恐らく生きているとは考えづらい。
親友とその娘を亡き者にした可能性が極めて高いムツィオに、報復を考える気持ちも分からなくもない。
だが、罪は罪なので、もしも海賊が捕まってシェティウス男爵の名前が出ていたとしたらクラウディオは容赦なく断罪していたことだろう。
そんなことにならず、クラウディオとしても少し安堵した。
「ルイゼン領のムツィオも要注意だな……」
「はい!」
カルノなら深く考えないと思い、ふざけた考えで今回のことを起こしたムツィオのことを、クラウディオとサヴェリオは警戒するようになった。
もしかしたら、内乱に繋がっていたかもしれないようなことを企んでいたのだから、そう考えるのも当然だ。
「もしも海賊を受け入れた人間が分かったら教えてくれ。内乱阻止の礼として、俺の方でもその者への密かに助力をするつもりだ」
「かしこまりました」
今回のことでクラウディオにとって助けになったのは、その海賊を匿ってくれた人間だ。
勝手にとはいえ、カルノが許可した以上王家は手出しできなくなっていた。
最悪の状況への移行も考えられたが、それを阻止してくれたのだから感謝しかない。
サヴェリオとしても同じ思いをしていたので、すぐにその指示に了承したのだった。