「最近ちょっと南で良くないことが起こっている」
「良くないこと……ですか?」
先週来た時には、勝手に島に渡っていたジーノと口喧嘩をずっとしていたファウストだが、今回は人ではなく情報を持って来てくれたらしい。
元ギルドマスターとして人脈が広いだけではないようだ。
「最近南のルイゼン領付近にまた海賊が出るようになった」
「……海賊ですか?」
ファウストやアルヴァロが生活しているフェリーラ領。
その南に位置するルイゼン領に、また海賊が出現するようになったらしい。
ルイゼン領の近くには島がいくつか存在していて、そこを拠点としているという話だ。
人もそうだが、他国から仕入れた物をヴァティーク王国の王都へと持って行こうとするには、ルイゼン領の港町から北東へ向かうのが距離的に近い。
そのため、多くの船がルイゼン領に向かうのだが、そこを狙って昔から海賊が出るようになっているのだ。
「でも、海賊はガイオさんたちが潰したんじゃ……」
「その通り」
ルイゼン領で海賊狩りを任されていたガイオたち。
彼らはルイゼン領の跡継ぎ問題によって命を狙われたエレナを救うため領から脱出し、この島へと流れ着いた。
彼らのお陰もあって、周辺海域の海賊は一掃されたと聞いている。
それは間違いでないとファウストも頷く。
「それが、前とは少し様子が違うようでな……」
「……違う?」
海賊のことはあまりよく分からないので、レオとしては何が違うかなんてよく分からない。
ファウストの言う違いが何なのか分からず、レオは首を傾げた。
「ガイオたちがいなくなったため、また出没しだしたのは間違いない」
ギルドの関係で情報を得ているので、ファウストは他領にいたガイオたちのことは理解している。
エレナの父で前領主であるグイドの指示の下、海賊の一斉掃討はされたが、それを実行した海賊狩りのガイオたちは今この島で暮らしている。
恐らくルイゼン領では台風による事故で死亡したと思われているはずだ。
その情報が流れ、海賊の残党がこれ幸いにと出没するようになったのだろうか。
「ただ、最近出ている海賊の狙いが少し前と違い、狙いはルイゼン領だけのようだ」
「ルイゼン領だけ?」
どういったことなのかと思い、レオは首を傾げる。
その意味はすぐにファウストから話された。
何でも、ガイオたちが捕まえたり潰したりしていた海賊は船を選ぶようなことはせず、ランダムに出現して港へ向かおうとする船を襲っていた。
しかし、今回出現している海賊は、完全に狙いがルイゼンに向かっているようだ。
どこの所有する船かを示すために、どの船にも国旗と共に領旗が掲げられている。
最近出没する海賊は、ルイゼン領の領旗を掲げている船しか狙っておらず、被害を受けているのがルイゼンだけという話だ。
「もしかしたらの話だが、ガイオと共にエレナ様の死亡が広まったのが最大のきっかけかもしれないな……」
「えっ?」
エレナの素性は、あくまでファウストとアルヴァロ、そしてフェリーラ領のギルマスくらいしか話していない。
レオが集めた魔物の肉や素材は、フェリーラ領のギルドとしてもかなり量・質共にいいので、このまま継続的に取引したい。
そんなお得意様との関係を脅かされるかもしれない情報を、同じギルドとは言っても他に流す意味がない。
他から情報が流れたら、エレナの命を狙って今のルイゼン領の領主が動くに違いない。
せめて、ヴェントレ島の開拓がもう少し進んで、エレナを狙ってきた者を追い返せる程度に力をつけない限りファウストたちは黙っているつもりだ。
その情報を知らないため、ルイゼン領ではエレナは死んだということになっているらしい。
ただ、海賊が出現するようになったのもその情報が広まってからだとすると、エレナのことが関係しているのではないかとファウストは考えるようになっていた。
「エレナ嬢は、前領主のグイド様唯一の御子様だ。そのエレナ様を追い出し、死亡させたのが現領主のムツィオと知って、グイド様を慕っていた者たちが黙っていられず、海賊を雇っているという噂も出ている」
「ルイゼン領の衰退を狙ってのことですか?」
「恐らく……」
エレナを死亡させたムツィオへの報復のために、海賊たちはルイゼン領へと運ばれて来る船を狙っているという話がギルド内でも有力になっているそうだ。
領主が変わって衰退したとなれば、国としても動くことになるだろう。
それを理由に、領主を変更させるということも考える可能性がある。
もしかしたら、エレナに変わって報復しようとしている者がいるという考えも間違いではないかもしれない。
「しかし、その海賊もすぐに掃討されることになるかもしれない」
「ムツィオが動き出したのですか?」
「あぁ、ギルドを使った上陸作戦てな……」
いくら何でも、問題が続けば自分の領へ届く船だけを狙っていることくらい分かる。
それに対処するのは当然のことだ。
レオの父と違い、ムツィオはギルドへ依頼するという当然の選択をしたようだ。
船と参加する冒険者が揃い次第、ギルドは海賊の討伐に向かうことになっているらしい。
「海賊のいる島々は、王族所有の島々ですよね? そこに攻め入るのですか?」
「ムツィオが了承を得ているところだ」
「王様が了承しますか?」
海賊が拠点としている細かい島々は、ヴァティーク王国の王族が支配する領地である。
とは行っても、王都からは離れている上に無人島となっているため、ほとんど放置されている状態だ。
問題が起きた時は、その周辺の領主たちが王家へ了承を得て解決に当たることが多いが、上陸までするようなことはガイオたちもしていない。
無人島となっているとは言っても、王族の領地へ軍を送るということになるからだ。
何とか拠点に帰れないようにして、海上で仕留めるのがこれまでガイオたちがおこなってきた方法だ。
しかし、ファウストの説明のなかで、上陸という言葉が出てきたことから、冒険者たちを島へと攻めさせるということだろう。
ギルドは民間の組織で、冒険者は実際に雇っている兵ではないとは言っても、王族の島へ兵を送るということになる。
理由を付けて兵を送り、そのまま自分たちの領地として利用するということも出来るかもしれない。
王家としても王都から離れているからと了承する可能性もあるが、そこまで考えているのだろうか。
「……ここだけの話だが、現在の王はこのことを深く考えていないかもしれないな」
「了承するということでしょうか? そうなったら、周辺の領主たちは腹を立てるのでは?」
どうしてその島々が王家の管轄になっているかというと、昔にその島々の所有権を主張して周辺の領主たちが揉めに揉めたからだ。
ムツィオに上陸を認めて、もしもレオが考えたように領地として主張しだしたら、周辺の領主たちともまた揉めることになるだろう。
王家への不信感につながるかもしれないのに、本当に了承するのだろうか。
簡単に了承しようものなら、口には出さないが王は完全にバカというしかない。
「たぶん了承するな。今の王なら……」
「そんな……」
レオは知らなかったが、どうやら今の王は愚王として知られている。
そのため、どうやら止めようがないようだ。
「そこで、俺が提案するのは、その海賊をここの領民にしちまわねえか?」
「えっ……?」
内乱になりかねないこの事案に、ファウストはレオに対してぶっ飛んだ提案をしてきた。
思いもしなかった提案に、レオはしばらく固まってしまった。
「良くないこと……ですか?」
先週来た時には、勝手に島に渡っていたジーノと口喧嘩をずっとしていたファウストだが、今回は人ではなく情報を持って来てくれたらしい。
元ギルドマスターとして人脈が広いだけではないようだ。
「最近南のルイゼン領付近にまた海賊が出るようになった」
「……海賊ですか?」
ファウストやアルヴァロが生活しているフェリーラ領。
その南に位置するルイゼン領に、また海賊が出現するようになったらしい。
ルイゼン領の近くには島がいくつか存在していて、そこを拠点としているという話だ。
人もそうだが、他国から仕入れた物をヴァティーク王国の王都へと持って行こうとするには、ルイゼン領の港町から北東へ向かうのが距離的に近い。
そのため、多くの船がルイゼン領に向かうのだが、そこを狙って昔から海賊が出るようになっているのだ。
「でも、海賊はガイオさんたちが潰したんじゃ……」
「その通り」
ルイゼン領で海賊狩りを任されていたガイオたち。
彼らはルイゼン領の跡継ぎ問題によって命を狙われたエレナを救うため領から脱出し、この島へと流れ着いた。
彼らのお陰もあって、周辺海域の海賊は一掃されたと聞いている。
それは間違いでないとファウストも頷く。
「それが、前とは少し様子が違うようでな……」
「……違う?」
海賊のことはあまりよく分からないので、レオとしては何が違うかなんてよく分からない。
ファウストの言う違いが何なのか分からず、レオは首を傾げた。
「ガイオたちがいなくなったため、また出没しだしたのは間違いない」
ギルドの関係で情報を得ているので、ファウストは他領にいたガイオたちのことは理解している。
エレナの父で前領主であるグイドの指示の下、海賊の一斉掃討はされたが、それを実行した海賊狩りのガイオたちは今この島で暮らしている。
恐らくルイゼン領では台風による事故で死亡したと思われているはずだ。
その情報が流れ、海賊の残党がこれ幸いにと出没するようになったのだろうか。
「ただ、最近出ている海賊の狙いが少し前と違い、狙いはルイゼン領だけのようだ」
「ルイゼン領だけ?」
どういったことなのかと思い、レオは首を傾げる。
その意味はすぐにファウストから話された。
何でも、ガイオたちが捕まえたり潰したりしていた海賊は船を選ぶようなことはせず、ランダムに出現して港へ向かおうとする船を襲っていた。
しかし、今回出現している海賊は、完全に狙いがルイゼンに向かっているようだ。
どこの所有する船かを示すために、どの船にも国旗と共に領旗が掲げられている。
最近出没する海賊は、ルイゼン領の領旗を掲げている船しか狙っておらず、被害を受けているのがルイゼンだけという話だ。
「もしかしたらの話だが、ガイオと共にエレナ様の死亡が広まったのが最大のきっかけかもしれないな……」
「えっ?」
エレナの素性は、あくまでファウストとアルヴァロ、そしてフェリーラ領のギルマスくらいしか話していない。
レオが集めた魔物の肉や素材は、フェリーラ領のギルドとしてもかなり量・質共にいいので、このまま継続的に取引したい。
そんなお得意様との関係を脅かされるかもしれない情報を、同じギルドとは言っても他に流す意味がない。
他から情報が流れたら、エレナの命を狙って今のルイゼン領の領主が動くに違いない。
せめて、ヴェントレ島の開拓がもう少し進んで、エレナを狙ってきた者を追い返せる程度に力をつけない限りファウストたちは黙っているつもりだ。
その情報を知らないため、ルイゼン領ではエレナは死んだということになっているらしい。
ただ、海賊が出現するようになったのもその情報が広まってからだとすると、エレナのことが関係しているのではないかとファウストは考えるようになっていた。
「エレナ嬢は、前領主のグイド様唯一の御子様だ。そのエレナ様を追い出し、死亡させたのが現領主のムツィオと知って、グイド様を慕っていた者たちが黙っていられず、海賊を雇っているという噂も出ている」
「ルイゼン領の衰退を狙ってのことですか?」
「恐らく……」
エレナを死亡させたムツィオへの報復のために、海賊たちはルイゼン領へと運ばれて来る船を狙っているという話がギルド内でも有力になっているそうだ。
領主が変わって衰退したとなれば、国としても動くことになるだろう。
それを理由に、領主を変更させるということも考える可能性がある。
もしかしたら、エレナに変わって報復しようとしている者がいるという考えも間違いではないかもしれない。
「しかし、その海賊もすぐに掃討されることになるかもしれない」
「ムツィオが動き出したのですか?」
「あぁ、ギルドを使った上陸作戦てな……」
いくら何でも、問題が続けば自分の領へ届く船だけを狙っていることくらい分かる。
それに対処するのは当然のことだ。
レオの父と違い、ムツィオはギルドへ依頼するという当然の選択をしたようだ。
船と参加する冒険者が揃い次第、ギルドは海賊の討伐に向かうことになっているらしい。
「海賊のいる島々は、王族所有の島々ですよね? そこに攻め入るのですか?」
「ムツィオが了承を得ているところだ」
「王様が了承しますか?」
海賊が拠点としている細かい島々は、ヴァティーク王国の王族が支配する領地である。
とは行っても、王都からは離れている上に無人島となっているため、ほとんど放置されている状態だ。
問題が起きた時は、その周辺の領主たちが王家へ了承を得て解決に当たることが多いが、上陸までするようなことはガイオたちもしていない。
無人島となっているとは言っても、王族の領地へ軍を送るということになるからだ。
何とか拠点に帰れないようにして、海上で仕留めるのがこれまでガイオたちがおこなってきた方法だ。
しかし、ファウストの説明のなかで、上陸という言葉が出てきたことから、冒険者たちを島へと攻めさせるということだろう。
ギルドは民間の組織で、冒険者は実際に雇っている兵ではないとは言っても、王族の島へ兵を送るということになる。
理由を付けて兵を送り、そのまま自分たちの領地として利用するということも出来るかもしれない。
王家としても王都から離れているからと了承する可能性もあるが、そこまで考えているのだろうか。
「……ここだけの話だが、現在の王はこのことを深く考えていないかもしれないな」
「了承するということでしょうか? そうなったら、周辺の領主たちは腹を立てるのでは?」
どうしてその島々が王家の管轄になっているかというと、昔にその島々の所有権を主張して周辺の領主たちが揉めに揉めたからだ。
ムツィオに上陸を認めて、もしもレオが考えたように領地として主張しだしたら、周辺の領主たちともまた揉めることになるだろう。
王家への不信感につながるかもしれないのに、本当に了承するのだろうか。
簡単に了承しようものなら、口には出さないが王は完全にバカというしかない。
「たぶん了承するな。今の王なら……」
「そんな……」
レオは知らなかったが、どうやら今の王は愚王として知られている。
そのため、どうやら止めようがないようだ。
「そこで、俺が提案するのは、その海賊をここの領民にしちまわねえか?」
「えっ……?」
内乱になりかねないこの事案に、ファウストはレオに対してぶっ飛んだ提案をしてきた。
思いもしなかった提案に、レオはしばらく固まってしまった。