「う~ん……」
「何しとるのじゃ?」
「あぁ、ジーノさん。木の根っこがなかなか取れなくて……」
土を掘り返し、唸っているレオへ、ジーノが話しかけてきた。
レオがしているのは、住人の家の建築などで切り倒した樹の根を掘り返していたところだ。
住宅地を広げるにしても、畑を広げるにしても、樹の根たちが邪魔で出来ないでいる。
腐るのを待ってからだと時間がかかるので、何とか掘り返せないかと試していたところだ。
しかし、思っていた通り、根がしっかりしていて周りの土を掘ってもびくともしない。
30分くらい粘っているが、1個抜くのにいつまでかかるか分からない状況だ。
「……魔法を使えば良いじゃろ?」
「……えっ?」
魔力を全身に纏うことによって身体強化をすることができるのだが、それをおこなっても掘り起こせないことに悩んでいるレオに、ジーノは何を言っているのかという表情で問いかける。
問いかけられたレオの方は、そこで何で魔法が出てくるのか分からず、首を傾げるしかなかった。
「魔法は戦うためだけに使うものではない。大和では生活を楽にするために使うものだという考えが広まっておったぞ」
「へぇ~……、素晴らしい考えですね」
魔法の得意な人間が多い大和皇国。
そこに行ったことがあるジーノは他にも色々学んできたらしく、魔法だけでなくレオに大和の国のことを教えてくれるようになっていた。
母の故郷というだけでなく、色々珍しい文化や考え方をしていることから、ジーノが話す大和皇国の話はどれも面白い。
魔法を生活のために使うのは、レオたちの住むヴァティーク王国でも同じだが、大体が竈や暖炉の薪に火を付けたり、少量の水を使いたいときに川や井戸へ行くのを面倒に思った時に使うなどのちょっとした事だけだ。
魔法を戦闘ではなく生活のために使う。
レオがジーノに魔法を教わっているのは、魔物と戦うためという考えが強いが、元々それも開拓をするためという思いが強い。
建築で役に立っている布人形たちのように生活に役立てるというのは、レオとしても賛成したい考えだ。
「【土】を教えたじゃろ?」
「はい」
「この文字は、魔法で土を操る時に使う文字じゃ」
魔法の指導の一環として、レオはジーノから大和皇国が使用する文字である漢字を、いくつか教わっている。
正確な書き順と字の形の美しさが、威力ある魔法を安定して使用できるという説明を受け、何回も地面に書いて練習している。
ジーノが言うように、その教わった文字の中に【土】という文字があったため、レオは頷きを返す。
この文字を使うことで、どうやらこの根っこを掘り起こす方法があるようだ。
「この根っこ周辺部分の土を隆起させるのじゃ。見とれ……」
魔法の使い方を簡単に説明すると、ジーノは切り株の側からレオを下がらせた。
全部説明するよりも、見た方が早いと判断したようだ。
「【土】!」
「おぉ! 抜けた!」
地面に付けた杖から魔力を流し、魔法を唱えると、切り株の部分の土がモコっと膨れ上がった。
現象だけ見るとなんとなく面白いが、それよりも切り株が簡単に引き抜けたのがレオとしては嬉しく、取れた切り株を抱き上げて少しはしゃいだ。
一生懸命掘ってもびくともしなかったのが、たった数秒で取れるようになるなんて考えもしなかったため、感動に近い感情が湧き上がっても不思議ではない。
「今のお主だと、1日でここを半分くらいじゃな……」
「時間と労力を考えたら、充分ですよ!」
住民の家を建てるために切り倒した部分は結構広いため、根っこもかなりの数ある。
自分とは違い、レオは魔法を使う時に無駄に魔力を消費してしまいがちなので、1日で全部の切り株をとることは難しいとジーノは判断した。
魔力の使い過ぎに注意するため、休憩を挟んでの魔法作業になるので時間はかかるが、それでも力作業で引っこ抜こうとするよりも楽だし速く済む。
同じ疲労を感じるにしても、それだけできれば十分だ。
「ジーノさんが持ってきてくれた植物は本当に砂糖になるのですか?」
「サトウキビというやつじゃ。大和でも育てられていたから間違いない」
ここは畑にすることになっているのだが、そう決めたのもジーノに相談したことからだ。
住民の女性陣のために甘味となるものが欲しいと相談したら、ジーノは自分の魔法の指輪から一つの植物を取り出した。
何でも砂糖の原料になるらしい。
砂糖はヴァティーク王国でも作られているが、まだ貴重な調味料だ。
甜菜という植物から作っているらしいが、この島ではその甜菜が手に入らない。
蜂を養蜂して蜂蜜を手に入れることも始めたが、まだまだ量が採れるわけではないため、どうしたものかと悩んでいたのだが、ジーノがあっさり解消してくれた。
まだできるか分からないのに、女性陣は砂糖の製造にかなり協力的だ。
エドモンドが来たことで男性陣が喜んでいたが、女性陣が期待していることを考えたら砂糖の製造はかなり重要だ。
「半分ならワシも手伝おう。魔法指導だけで食わせてもらうのは悪いからのう」
「ありがとうございます。助かります」
ジーノは住民に魔法を教えることで食事を得ている。
レオが魔物を倒すことで成長しているというのを、身近で観察するというのが現在の研究になっているようだ。
しかし、食事をもらうにしても、魔法指導だけでは心苦しい面もあるのか、畑仕事とかも手伝ったりしてくれている。
住民のみんなにも魔法指導をしているが、みんな基礎指導からのため、今魔法による切り株の引き抜きは自分とレオしかできない。
ならば、手伝って1日で終わせた方が島の役に立つし、サトウキビの栽培を言い出したのは自分であるため、ジーノはこの作業を手伝うことにした。
「他にこの魔法を生活で使うことはできますか?」
「この魔法は畑にも応用できるぞい」
魔法を使っては少し休みを繰り返し、切り株を抜く作業をしていたレオとジーノ。
その休憩をしている時に、レオはこの魔法が他のことに使えるか教わろうと思った。
色々なことに使えるのなら、みんなの生活や開拓作業に使いたいと思たからだ。
「ある程度柔らかい土なら畑一面はあっという間に耕せるだろうのう」
「おぉ! 農作業には便利な魔法なんですね!」
この島で住民のみんなに提供できるのは食事だ。
肉はロイたちが魔物を狩ってきてくれるので尽きることがないため、後は色々な野菜を育てて料理の幅を広げるしかない。
そうなると、畑が必要になるのだが、畑を広げるにも労力がかかる。
畑作業は腰を痛めやすいので、魔法であっという間に耕せるというのはとても助かる。
レオは【土】の魔法の有用性に感動した。
「雑草なんかは【風】の魔法で一気に切り飛ばすことに使えるぞい」
「なるほど!」
ジーノの説明だと、【風】の魔法を使うことで広範囲の雑草を切ってしまうことができるらしい。
雑草の除去作業も何気に苦労させられる。
広範囲となると人が必要になるが、それが解消されるのはありがたい。
「ワシが知っているのだけが全てではないぞ。頭を柔らかくして、魔法を戦闘以外にも利用できないかを考えることが重要じゃ」
「はい。分かりました」
やはり長いこと生きているエルフの知恵はかなりのものだ。
本がなかなか手に入れられなくなった現状で、新しい知識を与えてくれるジーノが来てくれたことはレオにとってはかなりありがたい。
レオだけでなく、ジーノは住民のみんなにとっても困った時の相談役という地位になりつつある。
ジワジワとではあるが、開拓作業も進みつつあるため、防壁が一通りできたらまた調査に出ようとレオは思った。
「何しとるのじゃ?」
「あぁ、ジーノさん。木の根っこがなかなか取れなくて……」
土を掘り返し、唸っているレオへ、ジーノが話しかけてきた。
レオがしているのは、住人の家の建築などで切り倒した樹の根を掘り返していたところだ。
住宅地を広げるにしても、畑を広げるにしても、樹の根たちが邪魔で出来ないでいる。
腐るのを待ってからだと時間がかかるので、何とか掘り返せないかと試していたところだ。
しかし、思っていた通り、根がしっかりしていて周りの土を掘ってもびくともしない。
30分くらい粘っているが、1個抜くのにいつまでかかるか分からない状況だ。
「……魔法を使えば良いじゃろ?」
「……えっ?」
魔力を全身に纏うことによって身体強化をすることができるのだが、それをおこなっても掘り起こせないことに悩んでいるレオに、ジーノは何を言っているのかという表情で問いかける。
問いかけられたレオの方は、そこで何で魔法が出てくるのか分からず、首を傾げるしかなかった。
「魔法は戦うためだけに使うものではない。大和では生活を楽にするために使うものだという考えが広まっておったぞ」
「へぇ~……、素晴らしい考えですね」
魔法の得意な人間が多い大和皇国。
そこに行ったことがあるジーノは他にも色々学んできたらしく、魔法だけでなくレオに大和の国のことを教えてくれるようになっていた。
母の故郷というだけでなく、色々珍しい文化や考え方をしていることから、ジーノが話す大和皇国の話はどれも面白い。
魔法を生活のために使うのは、レオたちの住むヴァティーク王国でも同じだが、大体が竈や暖炉の薪に火を付けたり、少量の水を使いたいときに川や井戸へ行くのを面倒に思った時に使うなどのちょっとした事だけだ。
魔法を戦闘ではなく生活のために使う。
レオがジーノに魔法を教わっているのは、魔物と戦うためという考えが強いが、元々それも開拓をするためという思いが強い。
建築で役に立っている布人形たちのように生活に役立てるというのは、レオとしても賛成したい考えだ。
「【土】を教えたじゃろ?」
「はい」
「この文字は、魔法で土を操る時に使う文字じゃ」
魔法の指導の一環として、レオはジーノから大和皇国が使用する文字である漢字を、いくつか教わっている。
正確な書き順と字の形の美しさが、威力ある魔法を安定して使用できるという説明を受け、何回も地面に書いて練習している。
ジーノが言うように、その教わった文字の中に【土】という文字があったため、レオは頷きを返す。
この文字を使うことで、どうやらこの根っこを掘り起こす方法があるようだ。
「この根っこ周辺部分の土を隆起させるのじゃ。見とれ……」
魔法の使い方を簡単に説明すると、ジーノは切り株の側からレオを下がらせた。
全部説明するよりも、見た方が早いと判断したようだ。
「【土】!」
「おぉ! 抜けた!」
地面に付けた杖から魔力を流し、魔法を唱えると、切り株の部分の土がモコっと膨れ上がった。
現象だけ見るとなんとなく面白いが、それよりも切り株が簡単に引き抜けたのがレオとしては嬉しく、取れた切り株を抱き上げて少しはしゃいだ。
一生懸命掘ってもびくともしなかったのが、たった数秒で取れるようになるなんて考えもしなかったため、感動に近い感情が湧き上がっても不思議ではない。
「今のお主だと、1日でここを半分くらいじゃな……」
「時間と労力を考えたら、充分ですよ!」
住民の家を建てるために切り倒した部分は結構広いため、根っこもかなりの数ある。
自分とは違い、レオは魔法を使う時に無駄に魔力を消費してしまいがちなので、1日で全部の切り株をとることは難しいとジーノは判断した。
魔力の使い過ぎに注意するため、休憩を挟んでの魔法作業になるので時間はかかるが、それでも力作業で引っこ抜こうとするよりも楽だし速く済む。
同じ疲労を感じるにしても、それだけできれば十分だ。
「ジーノさんが持ってきてくれた植物は本当に砂糖になるのですか?」
「サトウキビというやつじゃ。大和でも育てられていたから間違いない」
ここは畑にすることになっているのだが、そう決めたのもジーノに相談したことからだ。
住民の女性陣のために甘味となるものが欲しいと相談したら、ジーノは自分の魔法の指輪から一つの植物を取り出した。
何でも砂糖の原料になるらしい。
砂糖はヴァティーク王国でも作られているが、まだ貴重な調味料だ。
甜菜という植物から作っているらしいが、この島ではその甜菜が手に入らない。
蜂を養蜂して蜂蜜を手に入れることも始めたが、まだまだ量が採れるわけではないため、どうしたものかと悩んでいたのだが、ジーノがあっさり解消してくれた。
まだできるか分からないのに、女性陣は砂糖の製造にかなり協力的だ。
エドモンドが来たことで男性陣が喜んでいたが、女性陣が期待していることを考えたら砂糖の製造はかなり重要だ。
「半分ならワシも手伝おう。魔法指導だけで食わせてもらうのは悪いからのう」
「ありがとうございます。助かります」
ジーノは住民に魔法を教えることで食事を得ている。
レオが魔物を倒すことで成長しているというのを、身近で観察するというのが現在の研究になっているようだ。
しかし、食事をもらうにしても、魔法指導だけでは心苦しい面もあるのか、畑仕事とかも手伝ったりしてくれている。
住民のみんなにも魔法指導をしているが、みんな基礎指導からのため、今魔法による切り株の引き抜きは自分とレオしかできない。
ならば、手伝って1日で終わせた方が島の役に立つし、サトウキビの栽培を言い出したのは自分であるため、ジーノはこの作業を手伝うことにした。
「他にこの魔法を生活で使うことはできますか?」
「この魔法は畑にも応用できるぞい」
魔法を使っては少し休みを繰り返し、切り株を抜く作業をしていたレオとジーノ。
その休憩をしている時に、レオはこの魔法が他のことに使えるか教わろうと思った。
色々なことに使えるのなら、みんなの生活や開拓作業に使いたいと思たからだ。
「ある程度柔らかい土なら畑一面はあっという間に耕せるだろうのう」
「おぉ! 農作業には便利な魔法なんですね!」
この島で住民のみんなに提供できるのは食事だ。
肉はロイたちが魔物を狩ってきてくれるので尽きることがないため、後は色々な野菜を育てて料理の幅を広げるしかない。
そうなると、畑が必要になるのだが、畑を広げるにも労力がかかる。
畑作業は腰を痛めやすいので、魔法であっという間に耕せるというのはとても助かる。
レオは【土】の魔法の有用性に感動した。
「雑草なんかは【風】の魔法で一気に切り飛ばすことに使えるぞい」
「なるほど!」
ジーノの説明だと、【風】の魔法を使うことで広範囲の雑草を切ってしまうことができるらしい。
雑草の除去作業も何気に苦労させられる。
広範囲となると人が必要になるが、それが解消されるのはありがたい。
「ワシが知っているのだけが全てではないぞ。頭を柔らかくして、魔法を戦闘以外にも利用できないかを考えることが重要じゃ」
「はい。分かりました」
やはり長いこと生きているエルフの知恵はかなりのものだ。
本がなかなか手に入れられなくなった現状で、新しい知識を与えてくれるジーノが来てくれたことはレオにとってはかなりありがたい。
レオだけでなく、ジーノは住民のみんなにとっても困った時の相談役という地位になりつつある。
ジワジワとではあるが、開拓作業も進みつつあるため、防壁が一通りできたらまた調査に出ようとレオは思った。