「おぉ! たしかに面白い!」
エルフの老人ジーノが来た翌日、レオは自分のスキルのことを見せることにした。
レオのスキルが知りたいという思いでこの島に来たジーノは、ロイたちのことを紹介すると喜んでくれた。
ドワーフが人の2倍、エルフが3倍の寿命をしていると言われているが、エルフの老人である彼でも知らないスキルだったようだ。
「長生きしていても分からないこともあるもんじゃ……」
「喜んでもらえたようで、良かったです」
顎に蓄えた白い髭をさすりながら、ジーノはしみじみしたように声を漏らす。
言葉の通り、珍しいものが見られて楽しんでいるかのようだ。
もしも、お眼鏡に適わなかったらどうしようかと思っていたが、大丈夫だったようでレオは一安心した。
「まだ開拓を始めたばかりだと言うからそれほど期待しておらんかったのじゃが、料理もかなり美味かったし、来たのは正解だったようじゃの……」
本からの知識があるとは言っても、作物を育てることなんて初心者だったため、もしも上手くいかなかった時のために畑は大きめに作っていた。
住人も増えてさらに拡張したため、今では結構な野菜が採れている。
多くの野菜を使ったピエトロの料理を、ジーノは気に入ってくれたようだ。
「ジーノさんは本当に僕の能力を見るのが目的だったのですか?」
能力を見るだけなら、わざわざ島に住み着かなくてもいい気がする。
ファウストとエドモンドの知り合いなら変に警戒する必要もないため、見せるだけならかまわない。
もしかしたら、見られたらもうここに用がないと出て行ってしまうのではないかとレオは不安に思った。
しかし、そういったことを言う気配もないので、他に何か目的があって来たのではないかと考えるようになった。
「まぁ、それもあるが、お主のことが気になっておった」
「僕……ですか?」
思っていた通り、能力を見ることだけが目的だった訳ではなかったようだ。
しかし、自分が目的と言われるとは思っていなかったので、レオは理由が分からず首を傾げる。
「ファウストに聞いたのじゃが、病弱だったお主がこの島の領主になり、普通に暮らしていると聞いて理由が知りたくなったのじゃ……」
「そうですか……」
能力にも気になったが、それ以外でもレオに関心を持ったため、ジーノは島に来ることにしたらしい。
長い年月を生きてきたら、そうそう特殊なことなんて起こったりしない。
隣町に住むようになったというファウストから病弱だった貴族の少年が、家族に見捨てられて危険な島へ送られたという話を聞くことになった。
そこまでは特別珍しくもない。
どこの国、いつの時代も、貴族の中には頭のおかしい者がいる。
役に立たないと判断した自分の子供を殺したという話を、ジーノはこれまでも何度か聞いてきた。
貴族の力を使えば、人を一人消し去るくらいは難しいことではない。
大抵の場合、狙われた子供は思惑通りに命を落とすことが多いものだ。
ファウストからレオの話を聞いた時、最初ジーノはすぐに死んだのだろうと考えた。
病弱だった少年が、いきなり魔物が多くいる地で生きていける訳がないと思ったからだ。
「面白い能力をしているし、住人までいる。この島に住んでいるのにそこまで苦労している様子もなく、お主は興味の尽きない小僧じゃな……」
「……褒められているんですかね?」
ファウストから聞いていた通り、レオの能力は面白い。
ガイオやセバスティアーノが気付いたように、ジーノもレオの能力の有用性に気が付いた。
戦闘にも使えるし、他の作業にも利用できることから、開拓に適した能力と言ってもいい。
しかも、この能力を使えば、島へと送り込んだ家族へ復讐をすることも可能だ。
だが、レオはそんなことを考えている様子もなく、みんなと楽しく暮らしたいと考えているようにしか思えない。
復讐にとらわれて人生を狂わす者も多いなか、レオがそうなっていないのも興味をそそられる。
成人したてのなのに、ジーノの関心を引き付ける要素が多い。
レオとしては、ただ普通に暮らしているだけなのに関心を持たれて、どうしていいのか分からないといった思いが強い。
「特に魔物の退治で体の調子が良くなったというのは興味が湧くのう……」
長い年月の間に、ジーノは魔物の討伐による能力の上昇という説は何度か聞いたことがある。
その説が本当なら面白いと、自分でも冒険者として魔物の討伐を中心とした検証を行ったこともある。
多くの魔物を倒して、自分にどのような影響をもたらすのか調べてみたのだが、誰もが言うように能力が上昇しているかどうかの判断ができず、ただ魔物を倒して売った素材によって資金が得られただけだった。
「本当に病弱だったのかのう?」
「それは間違いございません。幼少期よりレオ様へ仕えていた私が保証いたします!」
病弱で有名だったとは言っても、領民は誰もレオの姿を見たことがなかった。
ファウストですら見たこともなかったのだから、もしかしたら病弱だったというのが嘘だった可能性もある。
貴族には隠し子がいたなんて話もよく聞く。
出自から病気がちだと偽って育てられた者もいなくはない。
健康そうな今の姿を見ると、レオもそういった類のものだったのではないかという疑いが湧いてくる。
そんなジーノの疑いに、レオの側にいたベンヴェヌートが待ったをかける。
幼少期から何度も体調を崩し、ベンヴェヌートが看病する機会が多かった。
そんなレオが成人してこの島の領主になると聞いた時、ベンヴェヌート自体レオが生きていけるとは思ってもいなかった。
久しぶりに会ったレオが健康になっていたのは、魔物を倒したことによるもの以外に思いつかない。
そのため、ジーノの言うことはもっともだとは思いつつも、ベンヴェヌートは自信を持ってその疑いを否定した。
「そうか、お主は昔から仕えていたのじゃったな……」
ベンヴェヌートの言葉で、ジーノもさっきの疑いを忘れることにした。
わざわざこんな島まで追いかけてきた使用人が、嘘を言う理由が分からないからだ。
「魔物の討伐による能力上昇という説は近くにいれば分かるじゃろ。能力も見せてもらったことじゃし、約束通り魔法を教えようかの……」
「お願いします!」
ジーノがこの島でしてくれるのは魔法の指導。
能力を見せた礼に、早速レオに教えてくれるらしい。
「まずはお主のレベルを見せてもらおうかの?」
「はい!」
周りに迷惑をかけないように、海岸で指導を受けることになった。
そして、ジーノに言われるまま、レオは海へ向けて魔法を放つことにした。
「ハッ!!」
“パンッ!!”
右手を海へ向けて手の平に魔力を集めて玉を作ると、その魔力を火へと変えて発射させた。
発射された火の球は、海へと向かって飛んで行くと、小さな音と共に弾けた。
「ジーノさんの魔法とは雲泥の差ですね……」
昨日ジーノが見せてくれた火の魔法と比べると、レオの魔法はおもちゃの花火としか言いようがなく、とても魔物に通用するとは思えない。
当然のこととは言っても、全力で放ってもこれだけの差があると恥ずかしくなってくる。
「一応基礎ができているようで安心したわい。最初から教えてどう成長するのかを見るのも面白いが、やはり基礎からだと時間がかかるからのう」
魔法の基礎は、体内の魔力を探知し、それを上手くコントロールするという訓練を行うということだ。
大抵は瞑想などをして訓練するのだが、魔法を使えるというレベルにまで指導するとなると時間がかかってしまう。
魔法が成長したと分かりやすく結果を出すためにも、レオが基礎だけでも出来ているのはジーノとしてもやり易い。
「恐らく、お主は火のイメージを頭に浮かべたのだろうが、ワシはそれに合わせてこの文字も頭に浮かべとるのじゃ……」
そういうと、ジーノは海岸の砂に1つの文字を書いてレオに見せた。
「……これって、大和皇国の文字じゃ……?」
その文字を見たレオは、見たことのある文字だったために息をのんだ。
母の故郷として、レオが深い興味を持っている国の文字だったからだ。
エルフの老人ジーノが来た翌日、レオは自分のスキルのことを見せることにした。
レオのスキルが知りたいという思いでこの島に来たジーノは、ロイたちのことを紹介すると喜んでくれた。
ドワーフが人の2倍、エルフが3倍の寿命をしていると言われているが、エルフの老人である彼でも知らないスキルだったようだ。
「長生きしていても分からないこともあるもんじゃ……」
「喜んでもらえたようで、良かったです」
顎に蓄えた白い髭をさすりながら、ジーノはしみじみしたように声を漏らす。
言葉の通り、珍しいものが見られて楽しんでいるかのようだ。
もしも、お眼鏡に適わなかったらどうしようかと思っていたが、大丈夫だったようでレオは一安心した。
「まだ開拓を始めたばかりだと言うからそれほど期待しておらんかったのじゃが、料理もかなり美味かったし、来たのは正解だったようじゃの……」
本からの知識があるとは言っても、作物を育てることなんて初心者だったため、もしも上手くいかなかった時のために畑は大きめに作っていた。
住人も増えてさらに拡張したため、今では結構な野菜が採れている。
多くの野菜を使ったピエトロの料理を、ジーノは気に入ってくれたようだ。
「ジーノさんは本当に僕の能力を見るのが目的だったのですか?」
能力を見るだけなら、わざわざ島に住み着かなくてもいい気がする。
ファウストとエドモンドの知り合いなら変に警戒する必要もないため、見せるだけならかまわない。
もしかしたら、見られたらもうここに用がないと出て行ってしまうのではないかとレオは不安に思った。
しかし、そういったことを言う気配もないので、他に何か目的があって来たのではないかと考えるようになった。
「まぁ、それもあるが、お主のことが気になっておった」
「僕……ですか?」
思っていた通り、能力を見ることだけが目的だった訳ではなかったようだ。
しかし、自分が目的と言われるとは思っていなかったので、レオは理由が分からず首を傾げる。
「ファウストに聞いたのじゃが、病弱だったお主がこの島の領主になり、普通に暮らしていると聞いて理由が知りたくなったのじゃ……」
「そうですか……」
能力にも気になったが、それ以外でもレオに関心を持ったため、ジーノは島に来ることにしたらしい。
長い年月を生きてきたら、そうそう特殊なことなんて起こったりしない。
隣町に住むようになったというファウストから病弱だった貴族の少年が、家族に見捨てられて危険な島へ送られたという話を聞くことになった。
そこまでは特別珍しくもない。
どこの国、いつの時代も、貴族の中には頭のおかしい者がいる。
役に立たないと判断した自分の子供を殺したという話を、ジーノはこれまでも何度か聞いてきた。
貴族の力を使えば、人を一人消し去るくらいは難しいことではない。
大抵の場合、狙われた子供は思惑通りに命を落とすことが多いものだ。
ファウストからレオの話を聞いた時、最初ジーノはすぐに死んだのだろうと考えた。
病弱だった少年が、いきなり魔物が多くいる地で生きていける訳がないと思ったからだ。
「面白い能力をしているし、住人までいる。この島に住んでいるのにそこまで苦労している様子もなく、お主は興味の尽きない小僧じゃな……」
「……褒められているんですかね?」
ファウストから聞いていた通り、レオの能力は面白い。
ガイオやセバスティアーノが気付いたように、ジーノもレオの能力の有用性に気が付いた。
戦闘にも使えるし、他の作業にも利用できることから、開拓に適した能力と言ってもいい。
しかも、この能力を使えば、島へと送り込んだ家族へ復讐をすることも可能だ。
だが、レオはそんなことを考えている様子もなく、みんなと楽しく暮らしたいと考えているようにしか思えない。
復讐にとらわれて人生を狂わす者も多いなか、レオがそうなっていないのも興味をそそられる。
成人したてのなのに、ジーノの関心を引き付ける要素が多い。
レオとしては、ただ普通に暮らしているだけなのに関心を持たれて、どうしていいのか分からないといった思いが強い。
「特に魔物の退治で体の調子が良くなったというのは興味が湧くのう……」
長い年月の間に、ジーノは魔物の討伐による能力の上昇という説は何度か聞いたことがある。
その説が本当なら面白いと、自分でも冒険者として魔物の討伐を中心とした検証を行ったこともある。
多くの魔物を倒して、自分にどのような影響をもたらすのか調べてみたのだが、誰もが言うように能力が上昇しているかどうかの判断ができず、ただ魔物を倒して売った素材によって資金が得られただけだった。
「本当に病弱だったのかのう?」
「それは間違いございません。幼少期よりレオ様へ仕えていた私が保証いたします!」
病弱で有名だったとは言っても、領民は誰もレオの姿を見たことがなかった。
ファウストですら見たこともなかったのだから、もしかしたら病弱だったというのが嘘だった可能性もある。
貴族には隠し子がいたなんて話もよく聞く。
出自から病気がちだと偽って育てられた者もいなくはない。
健康そうな今の姿を見ると、レオもそういった類のものだったのではないかという疑いが湧いてくる。
そんなジーノの疑いに、レオの側にいたベンヴェヌートが待ったをかける。
幼少期から何度も体調を崩し、ベンヴェヌートが看病する機会が多かった。
そんなレオが成人してこの島の領主になると聞いた時、ベンヴェヌート自体レオが生きていけるとは思ってもいなかった。
久しぶりに会ったレオが健康になっていたのは、魔物を倒したことによるもの以外に思いつかない。
そのため、ジーノの言うことはもっともだとは思いつつも、ベンヴェヌートは自信を持ってその疑いを否定した。
「そうか、お主は昔から仕えていたのじゃったな……」
ベンヴェヌートの言葉で、ジーノもさっきの疑いを忘れることにした。
わざわざこんな島まで追いかけてきた使用人が、嘘を言う理由が分からないからだ。
「魔物の討伐による能力上昇という説は近くにいれば分かるじゃろ。能力も見せてもらったことじゃし、約束通り魔法を教えようかの……」
「お願いします!」
ジーノがこの島でしてくれるのは魔法の指導。
能力を見せた礼に、早速レオに教えてくれるらしい。
「まずはお主のレベルを見せてもらおうかの?」
「はい!」
周りに迷惑をかけないように、海岸で指導を受けることになった。
そして、ジーノに言われるまま、レオは海へ向けて魔法を放つことにした。
「ハッ!!」
“パンッ!!”
右手を海へ向けて手の平に魔力を集めて玉を作ると、その魔力を火へと変えて発射させた。
発射された火の球は、海へと向かって飛んで行くと、小さな音と共に弾けた。
「ジーノさんの魔法とは雲泥の差ですね……」
昨日ジーノが見せてくれた火の魔法と比べると、レオの魔法はおもちゃの花火としか言いようがなく、とても魔物に通用するとは思えない。
当然のこととは言っても、全力で放ってもこれだけの差があると恥ずかしくなってくる。
「一応基礎ができているようで安心したわい。最初から教えてどう成長するのかを見るのも面白いが、やはり基礎からだと時間がかかるからのう」
魔法の基礎は、体内の魔力を探知し、それを上手くコントロールするという訓練を行うということだ。
大抵は瞑想などをして訓練するのだが、魔法を使えるというレベルにまで指導するとなると時間がかかってしまう。
魔法が成長したと分かりやすく結果を出すためにも、レオが基礎だけでも出来ているのはジーノとしてもやり易い。
「恐らく、お主は火のイメージを頭に浮かべたのだろうが、ワシはそれに合わせてこの文字も頭に浮かべとるのじゃ……」
そういうと、ジーノは海岸の砂に1つの文字を書いてレオに見せた。
「……これって、大和皇国の文字じゃ……?」
その文字を見たレオは、見たことのある文字だったために息をのんだ。
母の故郷として、レオが深い興味を持っている国の文字だったからだ。