「レオ! 防壁の進展具合を見に行くんだろ?」

「はい!」

「じゃあ、俺たちも付いて行く」

「ありがとうございます」

 魔物が多いと言われているこの島で、安全地帯を作るためにレオは防壁の作成を始めた。
 とは言っても、作っているのはレオのスキルによって動く人形たちに任せているので、レオが直接作っているとは言いにくい。
 レオ本人はいつものように普通の生活をのんびり送っているだけだからだ。
 その防壁がどれほど進展しているかを確認するため、レオは作業をしている人形たちの所へ向かうことにした。
 ロイたちが護衛代わりに付いてくれるのだが、念のためとドナートとヴィートが付いてきてくれることになった。
 槍術が得意な2人が付いてきてくれるならレオとしてもありがたいため、お願いすることにした。

「オーガを倒したからか、ゴブリンは出なくなったみたいだな……」

「そうみたいですね」

 防壁を造り、ロイたちが内部の魔物を狩っているので、レオたちの前に現れる魔物の数は以前と比べると激減した。
 ドナートが言うように、特にゴブリンは全く出なくなったことを考えると、やっぱりこの3人で巣を駆除したのが良かったのかもしれない。
 たまに見かけるのも弱小の魔物ばかりで、すぐにロイが始末しているので足止めされるようなこともない。
 警戒はしつつも、3人はたいして時間もかからず防壁を造っている場所へと辿り着いた。

「ご苦労様! グラド、ガンデ」

“ペコッ!”

 2mくらいの身長で、両腕が極端に太くて長い人形が、レオの声に反応して頭を下げる。
 防壁を造るためにレオが作り、グラドとガンデと名付けた人形たちだ。
 石を盛り、土を集めて固め、更に魔法で強固にした分厚い壁がかなりの距離出来ている。
 オーガでもそう簡単に壊すことはできないだろう。

「もうすぐできそうだな……」

「ロイたちも協力してくれているので速いですね!」

 思っていた以上に強固な防壁に、ドナートたちは内心驚いている。
 魔物を狩る人形のロイたちも石や土を集めるのに協力したのもあって、思っていたよりも進展が速い。
 このままだと、あと10日もしないうちにできるのではないだろうか。 

「引き続きよろしくね!」

“コクッ!”

 満足いく防壁が造られていっていることに満足したレオは、グラドとガンデにこのまま続けてもらうことを頼み、住居の方へ戻っていった。
 ドナートとヴィートは魔物が出ないので暇そうにしていたが、それだけ防壁内は安全だということになる。
 まだ少し開拓しただけだが、このまま少しずつ領地を広げていければいいなと思うレオだった。





「このお茶美味しいです」

 住宅地へ戻ったレオは、現在エレナと共にお茶を飲んでいた。
 エレナが飲んでいるのは、レオがある植物から作ったお手製のお茶だ。
 あまり飲んだことのないお茶に、エレナは楽しんでいるようだ。
 レオたちが住んでいるヴァティーク王国では紅茶を飲むことが多く、緑色したお茶は珍しい。
 ハーブティーも似た色をしているが、それとは違う香りと味に新鮮な驚きを感じている。

「遠く離れた西の方の国のもので、竹の葉から作ったお茶だよ」

「へぇ~……」

 本から色々な知識を得ていたレオは、竹林があったので葉っぱからお茶を作ることにした。
 ヴァティーク王国のある大陸から、海を西へかなりの距離進んだところにある島国で飲まれているお茶の一種だということだ。

「竹は色々なことに使えるからありがたいよね!」

「えぇ!」

 島の女性は、エレナについてきた使用人たちの家族だ。
 魔物の毛から織物をしたりしているのだが、竹林を見つけてからは竹細工もするようになっている。
 住民の家の一部にも使われていたりと、何かと利用価値の高い竹が生えていたのはとてもありがたい。

「竹林があるからいくらでも作れるよ」

「今度は私も作ってみます」

 住民の女性たちに混じって、エレナも竹細工の作業を手伝ったりしているのだが、休憩時間に何かリラックスできるものがないかと考えていた。
 そのため、竹の葉特有の香りがするこのお茶はかなり気に入った。
 そんなに遠くないので、エレナ1人でも竹林で葉を集めるくらい平気だろう。
 セバスティアーノからエレナが紅茶好きだと聞いていたので、代わりになるものをと思って作ることにしたのだが、どうやら成功したようだ。

「レオさんはその国がお好きなようですね?」

「うん! 大和皇国って言う名前の面白い国だよ。母さんの故郷なんだ!」

「……そうなんですか」

 レオがその国のことを知るようになった理由は、単純に母の故郷がどんな国なのか知りたいと思ったからだ。
 遠く離れた国のためあまり多くの本はないはずだが、ベンヴェヌートが頑張って探してくれたらしく、何度も読み返したレオはその国のことをかなり詳しくなっている。
 レオの母は幼少期に亡くしていると聞いていたので、エレナは少し複雑な思いになった。
 しかし、レオはそのことは気にしていないかのように話すため、エレナもあまり気にしないことにした。

「今作っているショーユというのもその国のものでしたよね?」

「そう! 色々な料理に使える調味料だって話だよ」

 料理をするようになったことから、レオは調味料も何か作れないかと考えた。
 その時、思いついたのが大和皇国の調味料だ。
 その中にショーユという調味料が万能だという話なので、アルヴァロに頼んで材料を集め、実験的にそのショーユを作ってみることにした。
 成功したら、この島で材料となる大豆や小麦を作る量を増やすつもりだ。

「ショーユで思い出したけど、大和皇国では海の魚を生で食べるらしいよ」

「えっ! 生でですか!?」

「うん!」

 ヴァティーク王国では基本的に、魚は熱を加えてから食べる物だとされている。
 そのため、エレナも驚いたように生で食べるということが信じられない。
 そんなことをして、お腹を壊したりしないのか疑問に思える。

「生魚を食べる時、ショーユをちょっとつけると美味しいらしいよ! ショーユが上手くできたら試してみよう!」

「はい! 楽しみです!」

 レオの話す大和皇国のことが面白く、エレナも試してみたくなった。
 そのため、レオの誘いにすぐに返事をした。
 ショーユができるまでまだ先なのに、2人は完成するのを心待ちにするようになっていた。

「ニャ!!」

「うん! クオーレにも食べさせてあげるからね!」

 2人がショーユの話をしていると、側にいた闇猫のクオーレが自分も混ぜてと言うかのように鳴き声を上げた。
 エレナだけでなく、レオは美味しいものをみんなに味わってもらいたい。
 もちろんクオーレにも食べてもらいたため、食べさせることを約束した。

「でも、クオーレはショーユとか関係なくお魚が食べたいだけかな?」

「ニャ!!」

「フフフ……」

 レオとエレナはショーユが楽しみなのだが、魚好きのクオーレは生魚という言葉に反応したのではないかと思った。
 そのことをレオが尋ねると、クオーレは「お魚!」と言うかのように声をあげた。
 レオが思った通り、クオーレはショーユよりも魚が食べたいだけのようだ。
 食いしん坊なクオーレにおかしくなってしまい、エレナは思わず笑ってしまった。

「しょうがないな……。明日釣りに行くから今日は我慢してね」

「ニャ!!」

 海が近いので、多くの住民が暇つぶしがてら釣りを良くする。
 そのため、魚料理はちょくちょく出ているのだが、クオーレは毎日でも食べたいのだろう。
 そんなクオーレのために、レオは明日釣りに行くことを約束して今日の所は我慢してもらうことにした。