「本当に人が住んでいるみたいだな……」
売却用の魔物の素材を渡したり、色々情報をやり取りをするために、いつものようにアルヴァロを自分の家へと招いた。
その後ろから付いてくる人物は、数軒の家が建設されているのを見て、何やら小さく呟いている。
「また誰か来たみたい……」
「そのようですね……」
今週もアルヴァロの船には人が乗っている。
レオの側に付き添うベンヴェヌートに引き続き、誰かここに住んでくれる人でも連れて来てくれたのだろうか。
もしくは、頼んでいた酒造りの専門家だろうか。
近付いてくる船を見ながら、レオは少しワクワクしながら船が到着するのを待った。
「すいません。また勝手に連れて来てしまって……」
「いえ……、こちらの方は……?」
船が到着してすぐに、アルヴァロはレオに謝ってきた。
レオは首を振ってそれを許す。
アルヴァロのことは信用しているので、きっとこの島にとって有益な人物なのだと思うからだ。
「初めましてレオポルド様。私はファウストと申します」
「どうも、初めまして……」
がっしりした体型や雰囲気から考えると、ガイオのように戦闘が得意そうに思える。
ちょっと粗野にも感じた最初の印象とは違い、丁寧な挨拶をされたレオは内心少し戸惑いつつも挨拶を返す。
自分の名前を知っているということは、アルヴァロから説明を受けているのかもしれない。
「お久しぶりです。ファウスト殿」
「どうも、ベンヴェヌートさん」
「えっ? ベンさんの知り合いなの?」
「はい」
どんな人なのか気になっていたレオだが、側にいるベンヴェヌートと交わした挨拶から、知り合いなのだと分かった。
実家の邸で執事をしていたベンヴェヌートと知り合いとなると、どういった関係なのか不思議に思える。
もしかしたら、邸を出てから知り合った人間なのだろうか。
「ベンヴェヌートさんもあの領主を見限って来たのですか?」
「その通りです」
「……?」
交わす会話の内容を聞くと、レオはまた首を傾げたくなる。
ベンヴェヌートが見限った領主と聞くと、恐らく父のことを言っているように聞こえる。
そうなると、このファウストもディステ領にいた人間だということになる。
余計に2人の関係がよく分からない。
「レオ様。こちらのファウスト殿はディステ領の元ギルドマスターです」
「なるほど!」
レオが不思議そうな表情をしていることに気付いたのか、ベンヴェヌートはファウストのことを説明してくれた。
父の代になってからは来ることはなくなっていたが、祖父の代の時は時折ギルドと連携をとっていたということを聞いたことがある。
ギルマスなら、祖父の代から領主邸で働いていたベンヴェヌートと顔を合わせていても不思議ではない。
「たしか、ディステ領からは撤退したと聞きましたが……、どうしてこちらへ?」
父のカロージェロとの関係悪化から、数か月前に領内から全ギルドが撤退したという話を聞いていた。
それによってディステ領は問題が増えているということだが、それはどうでも良いとして、領都のギルマスになった程の人なら他の領地でそれなりのポジションに就いているのではないだろうか。
そんな人間がここに来る理由が思いつかない。
「他のギルドマスターたちに働けって言われまして……」
「……?」
ディステ領から撤退したのは完全にファウストの独断的行動だったらしく、他のディステ領内の支店の人たちと違い、ギルドの上の立場の人たちから色々とお叱りを受けたらしい。
ギルドとしてもその勝手で収入が減ったため、そうなるのも仕方がないことだろう。
ディステ領から出て、昔のように冒険者として色々と他の領を回ったファウストは、フェリーラ領に流れ着いた。
そこのギルマスに会って、この島とレオのことを聞いたらしい。
そして、フラフラしているならギルドの職員として、ギルマスの自分に協力するように言われたそうだ。
「ここに住人がいるなんて話信じられませんでしたが、本当みたいですね……」
この島に人が住んでいることを知っている人間はそれ程いない。
ファウストはフェリーラ領のギルマスにここのことを聞いた時、何の冗談かと最初は信じられないでいたそうだ。
それが、アルヴァロを紹介され、付いてきたことで冒頭に呟いたように本当だと理解したようだ。
「アルヴァロから聞いたのですが、何でも人材を探しているとか?」
「えぇ、まぁ……」
島のみんな(特に船員)には、お酒が欲しいという話を受けていた。
たしかに何か島の特産などを作らないと、開拓しても人が住んでくれるとは思えない。
病弱な時に読んだ本からの知識としてお酒の造り方は幾つか覚えているが、どうせなら素人が造る物ではなく専門家によって商品にできるような美味しいものを造ってもらいたい。
そのため、アルヴァロに酒造業の経験者の勧誘を頼んでいるのだが、ここに来てくれるような人間はなかなか見つからないだろうと考えている。
それだけでなく、ここの領民になってくれるような人間がいるなら、連れて来てほしいとも思っている。
それもやはり同じ理由で難しいだろう。
「人材探しなら私に任せてください。これでも元ギルマスですから……」
「本当ですか? お願いします!」
ファウストは少し自虐的に言うが、レオとしてはありがたい提案だ。
アルヴァロに頼んではいるが、人材探しなんてかなり広い人脈がないと難しい。
漁師から兼業でこの島専属の商人のような仕事をしているアルヴァロでは、人材探しはかなり時間がかかるとアルヴァロ自身が言っていた。
その点、ファウストはギルマスの経験者。
冒険者や依頼人などから色々な人脈を持っていても不思議ではない。
そんな彼が協力してくれるとなると、レオもそうだし、アルヴァロとしても助かる。
そのため、レオはファウストの提案にすぐさま乗っかるように返事をした。
「優先的に酒造技術のある人材、次に住人の確保ということでよろしいですか?」
「はい!」
住民を増やすにも開拓はのんびりとしか進んでいない。
そのため、住民を増やすよりも、今住んでいるみんなにここでの暮らしを楽しんでもらいたい。
彼らの希望で多いのが嗜好品となるお酒の製造だ。
酒造専門家に来てもらえれば、きっとみんな喜んでくれるはずだ。
ファウストの確認に、レオは大きく頷いた。
「アルヴァロと共に毎週報告に来るつもりなので、その時に状況報告をさせてもらいたいと思います」
「分かりました!」
人材を探すにしても、この島にいる訳にもいかない。
そのため、ファウストはフェリーラ領で動いてくれるらしい。
一応ギルドへの依頼という形になるため依頼料を取られるようだが、魔法の指輪の料金の返済同様、この島で得た魔物の素材の売却額から引かれることになった。
この島では資金を得ても使うこともないので、特に問題ではない。
「そのうち、ここにギルドが置けたらいいですね!」
ギルドがあるのは、都市としては1つのステータスだ。
ギルドとしても利益があると見込めるからギルド施設を置くので、冒険者や商人たちも利益を見越して集まってくるようになる。
多くの人が集まることで、更なる発展が見込めるようになるため、ギルドのない地の領主になった者としては、当然の目標になっている。
レオもいつかはという思いをしていても不思議ではない。
「その時は俺をギルマスに置いてもらえますか?」
「ハハ……いいですよ!」
ギルドの支店が置けるにしても、相当先の話だとここにいる人間は誰もが思っている。
そのため、ファウストは冗談を言うかのように言ってきた。
父の領地からギルドを撤退させた人間が、見捨てられた息子の領地のギルマスになるなんて、完全に当てつけだと言って良い。
世間の誰もがそう見ることだろう。
そうなったらレオとしても面白いと思え、あっさりとファウストの冗談に返事をしたのだった。
売却用の魔物の素材を渡したり、色々情報をやり取りをするために、いつものようにアルヴァロを自分の家へと招いた。
その後ろから付いてくる人物は、数軒の家が建設されているのを見て、何やら小さく呟いている。
「また誰か来たみたい……」
「そのようですね……」
今週もアルヴァロの船には人が乗っている。
レオの側に付き添うベンヴェヌートに引き続き、誰かここに住んでくれる人でも連れて来てくれたのだろうか。
もしくは、頼んでいた酒造りの専門家だろうか。
近付いてくる船を見ながら、レオは少しワクワクしながら船が到着するのを待った。
「すいません。また勝手に連れて来てしまって……」
「いえ……、こちらの方は……?」
船が到着してすぐに、アルヴァロはレオに謝ってきた。
レオは首を振ってそれを許す。
アルヴァロのことは信用しているので、きっとこの島にとって有益な人物なのだと思うからだ。
「初めましてレオポルド様。私はファウストと申します」
「どうも、初めまして……」
がっしりした体型や雰囲気から考えると、ガイオのように戦闘が得意そうに思える。
ちょっと粗野にも感じた最初の印象とは違い、丁寧な挨拶をされたレオは内心少し戸惑いつつも挨拶を返す。
自分の名前を知っているということは、アルヴァロから説明を受けているのかもしれない。
「お久しぶりです。ファウスト殿」
「どうも、ベンヴェヌートさん」
「えっ? ベンさんの知り合いなの?」
「はい」
どんな人なのか気になっていたレオだが、側にいるベンヴェヌートと交わした挨拶から、知り合いなのだと分かった。
実家の邸で執事をしていたベンヴェヌートと知り合いとなると、どういった関係なのか不思議に思える。
もしかしたら、邸を出てから知り合った人間なのだろうか。
「ベンヴェヌートさんもあの領主を見限って来たのですか?」
「その通りです」
「……?」
交わす会話の内容を聞くと、レオはまた首を傾げたくなる。
ベンヴェヌートが見限った領主と聞くと、恐らく父のことを言っているように聞こえる。
そうなると、このファウストもディステ領にいた人間だということになる。
余計に2人の関係がよく分からない。
「レオ様。こちらのファウスト殿はディステ領の元ギルドマスターです」
「なるほど!」
レオが不思議そうな表情をしていることに気付いたのか、ベンヴェヌートはファウストのことを説明してくれた。
父の代になってからは来ることはなくなっていたが、祖父の代の時は時折ギルドと連携をとっていたということを聞いたことがある。
ギルマスなら、祖父の代から領主邸で働いていたベンヴェヌートと顔を合わせていても不思議ではない。
「たしか、ディステ領からは撤退したと聞きましたが……、どうしてこちらへ?」
父のカロージェロとの関係悪化から、数か月前に領内から全ギルドが撤退したという話を聞いていた。
それによってディステ領は問題が増えているということだが、それはどうでも良いとして、領都のギルマスになった程の人なら他の領地でそれなりのポジションに就いているのではないだろうか。
そんな人間がここに来る理由が思いつかない。
「他のギルドマスターたちに働けって言われまして……」
「……?」
ディステ領から撤退したのは完全にファウストの独断的行動だったらしく、他のディステ領内の支店の人たちと違い、ギルドの上の立場の人たちから色々とお叱りを受けたらしい。
ギルドとしてもその勝手で収入が減ったため、そうなるのも仕方がないことだろう。
ディステ領から出て、昔のように冒険者として色々と他の領を回ったファウストは、フェリーラ領に流れ着いた。
そこのギルマスに会って、この島とレオのことを聞いたらしい。
そして、フラフラしているならギルドの職員として、ギルマスの自分に協力するように言われたそうだ。
「ここに住人がいるなんて話信じられませんでしたが、本当みたいですね……」
この島に人が住んでいることを知っている人間はそれ程いない。
ファウストはフェリーラ領のギルマスにここのことを聞いた時、何の冗談かと最初は信じられないでいたそうだ。
それが、アルヴァロを紹介され、付いてきたことで冒頭に呟いたように本当だと理解したようだ。
「アルヴァロから聞いたのですが、何でも人材を探しているとか?」
「えぇ、まぁ……」
島のみんな(特に船員)には、お酒が欲しいという話を受けていた。
たしかに何か島の特産などを作らないと、開拓しても人が住んでくれるとは思えない。
病弱な時に読んだ本からの知識としてお酒の造り方は幾つか覚えているが、どうせなら素人が造る物ではなく専門家によって商品にできるような美味しいものを造ってもらいたい。
そのため、アルヴァロに酒造業の経験者の勧誘を頼んでいるのだが、ここに来てくれるような人間はなかなか見つからないだろうと考えている。
それだけでなく、ここの領民になってくれるような人間がいるなら、連れて来てほしいとも思っている。
それもやはり同じ理由で難しいだろう。
「人材探しなら私に任せてください。これでも元ギルマスですから……」
「本当ですか? お願いします!」
ファウストは少し自虐的に言うが、レオとしてはありがたい提案だ。
アルヴァロに頼んではいるが、人材探しなんてかなり広い人脈がないと難しい。
漁師から兼業でこの島専属の商人のような仕事をしているアルヴァロでは、人材探しはかなり時間がかかるとアルヴァロ自身が言っていた。
その点、ファウストはギルマスの経験者。
冒険者や依頼人などから色々な人脈を持っていても不思議ではない。
そんな彼が協力してくれるとなると、レオもそうだし、アルヴァロとしても助かる。
そのため、レオはファウストの提案にすぐさま乗っかるように返事をした。
「優先的に酒造技術のある人材、次に住人の確保ということでよろしいですか?」
「はい!」
住民を増やすにも開拓はのんびりとしか進んでいない。
そのため、住民を増やすよりも、今住んでいるみんなにここでの暮らしを楽しんでもらいたい。
彼らの希望で多いのが嗜好品となるお酒の製造だ。
酒造専門家に来てもらえれば、きっとみんな喜んでくれるはずだ。
ファウストの確認に、レオは大きく頷いた。
「アルヴァロと共に毎週報告に来るつもりなので、その時に状況報告をさせてもらいたいと思います」
「分かりました!」
人材を探すにしても、この島にいる訳にもいかない。
そのため、ファウストはフェリーラ領で動いてくれるらしい。
一応ギルドへの依頼という形になるため依頼料を取られるようだが、魔法の指輪の料金の返済同様、この島で得た魔物の素材の売却額から引かれることになった。
この島では資金を得ても使うこともないので、特に問題ではない。
「そのうち、ここにギルドが置けたらいいですね!」
ギルドがあるのは、都市としては1つのステータスだ。
ギルドとしても利益があると見込めるからギルド施設を置くので、冒険者や商人たちも利益を見越して集まってくるようになる。
多くの人が集まることで、更なる発展が見込めるようになるため、ギルドのない地の領主になった者としては、当然の目標になっている。
レオもいつかはという思いをしていても不思議ではない。
「その時は俺をギルマスに置いてもらえますか?」
「ハハ……いいですよ!」
ギルドの支店が置けるにしても、相当先の話だとここにいる人間は誰もが思っている。
そのため、ファウストは冗談を言うかのように言ってきた。
父の領地からギルドを撤退させた人間が、見捨てられた息子の領地のギルマスになるなんて、完全に当てつけだと言って良い。
世間の誰もがそう見ることだろう。
そうなったらレオとしても面白いと思え、あっさりとファウストの冗談に返事をしたのだった。