「あれっ?」
遠くに小さく船が見え、レオはいつも通りに海岸でアルヴァロが来るのを待っていた。
しかし、いつものように向かって来る船に、アルヴァロ以外の人間が乗っていることに気付く。
この島に来たがるような人間がいるとは思えないので、レオとしては首を傾げるしかない。
「えっ!? ベンさん!?」
近付いてくると、そこに乗っている人間の顔に見覚えがあった。
実家で自分に付いてくれていた執事のベンヴェヌートだ。
どうして彼がここに向かっているのだろう。
「ベンさん! どうしたんですか?」
「ディステ家の方にはお暇をさせていただき、やって参りました」
「何で……?」
ここはディステ家の元領地ではあったが、王命によって今は何のかかわりもないことになっているはず。
追い出して押し付けた側の父が、人を送ってくるとも思えない。
そう思ってレオが問いかけると、仕事を辞めてきたと言うから驚いた。
ベンヴェヌートは昔からディステ家に仕えていたこともあり、仕事の面で特に問題があるとは思えない。
そのため、どうして辞めてしまったのか、理由が思いつかない。
「失礼ながら、旦那様の考えにはとても付いていけないと判断した次第でして……」
「そうですか……」
レオが実家を出てから、ディステ領は問題が立て続き起こった。
アルヴァロから話を聞いていたので、レオも大体のことは知っている。
その問題自体も、父であるカロージェロが適切に対応していれば問題となることは無かったはずだ。
その後も何か上手いこといっていないような話を聞いているが、所詮自分は追い出された身。
あまり関心が無いというのがレオの本音だ。
ベンヴェヌートからしたら、問題が続いたことが見切りをつける判断となったらしく、領民の流出に合わせて仕事を辞めて来たということだ。
ベンヴェヌートは結婚をしていないため、家族も他にいないことからできたことだろう。
「私もここへおいて頂けないでしょうか?」
「もちろんいいですよ!」
「ありがとうございます」
領主の立場からすれば、1人でも領民が増えるのは望ましいこと。
それが小さい時から知っているベンヴェヌートなら、レオとしては断る理由が見当たらない。
ここに住みたいというベンヴェヌートの申し出に、レオはあっさりと了承した。
「でも、いいのですか? ここはまだ安全とは言い切れませんよ? それにお給料だって出せないし……」
「構いません。給料もお気になさらず。レオポルド様のお側においてください」
ベンヴェヌートが一緒にいてくれるのはレオとしても嬉しいしありがたいが、ここは噂通りに魔物が多く存在している。
安全性を考えると、レオとしては説明しておかないといけないことだ。
オーガとゴブリンの集団を退治して比較的安全な範囲を広げたとは言っても、まだまだ島の極一部でしかない。
防壁作りを人形たちにさせているが、ロイたちはこれまで通り多くの魔物をレオの下へ届けている。
それを考えると、防壁が完成するまでは軽々にまた開拓作業に移る訳にもいかない。
それに、フェリーラ領のギルマスに提供された魔法の指輪の代金の返済という借金のようなものが存在しているため、給料を支払うこともなかなかできない。
住民のみんな同様に、食事を提供する以外仕事に対する見返りができない状況だ。
そのことを話しても、ベンヴェヌートは表情を変えることはなく、レオに付くことを求めてきた。
「様はいらないよ。もう貴族じゃないんだし、レオで良いよ!」
「いいえ、そうはいきません。むしろ、私の方こそ呼び捨てで構いません!」
「でも……」
給料も支払わないのに様付けされるのは、レオとするとスッキリしない。
そのため、実家の時にもよく交わしていたように、敬称を付ける、付けないで言い合うことになった。
「……でしたら、レオ様でいかがでしょう?」
「……ベンさんはちょっと頑固だよね」
「レオ様も……と思いますが?」
「ハハ……」「フフ……」
少しのやり取りの後、ようやくベンヴェヌートが少し譲歩し、言い合いは治まった。
しかし、昔からこのやり取りを続けていて思っていたが、ベンヴェヌートは全然変わっていない。
そういった面で頑固という感想を持ったのだが、ベンヴェヌートからしてもレオに対して同じ印象を持っていたようだ。
昔と変わらないということが何だか嬉しくもあり、お互い思わず笑ってしまった。
「アルヴァロさんありがとうございました」
「いやいや、ギルドから坊ちゃんの知り合いだって話だから連れて来ただけで、勝手に連れて来て逆に申し訳ない」
「いえ、嬉しい驚きでありがたかったです」
ベンヴェヌートを連れて来てくれたアルヴァロに、レオは感謝の言葉をかける。
着いてすぐにも言われたので、連れてきただけの自分にあまり感謝されても恥ずかしくなってくる。
アルヴァロがベンヴェヌートに出会えたのは、ただいつものようにギルドへ行った結果であり、感謝されるほどのことではない。
それもギルド側から紹介されてのことだし、むしろ勝手に連れて来て迷惑にならないか不安な思いをしていた。
だが、それもレオの笑顔を見ればあっさりと解消された。
「そう言ってもらえると、連れてきた甲斐がありやした。では、来週また来やす!」
「ありがとうございました!」
「アルヴァロ殿、ありがとうございました!」
ベンヴェヌートとの出会いを説明した後、いつものように売却する魔物の素材を受け取り、必要となる物がないかのやり取りをおこなったため、またフェリーラ領へ戻っていくだけだ。
少しずつ離れて行くアルヴァロに、レオとベンヴェヌートは感謝の言葉と共に見送ったのだった。
「じゃっ! みんなを紹介しないとね?」
「アルヴァロ殿より聞いております。少数ながら移民がいるとのこと……」
「うん! みんな良い人たちだよ!」
これからここに住むのだから、まずはみんなを紹介しないといけない。
アルヴァロにはここに住むみんなのことを教えていたが、その辺の細かいことはベンヴェヌートへ話さないでいてくれたようで、移民がいるということしか知らされていないようだ。
島のみんなにベンヴェヌートのことを紹介して回ると、みんな快く迎え入れてくれた。
もしかしたら、ディステ領から送られて来たスパイではないかということを考えた人もいるかもしれないが、アルヴァロからちゃんとギルドが保証してくれている伝えると、安堵してくれたようだ。
カロージェロとの関係上、ギルドもレオの足跡をたどって来ていたベンヴェヌートのことは気付いていたらしい。
そしてベンヴェヌートと接触し、もうディステ領とは関係ないという判断をしたため、アルヴァロを紹介するということに至ったという話だ。
「セバスティアーノ殿……」
「ベンヴェヌート殿……」
最初にエレナと執事のセバスティアーノのことを紹介したのだが、レオも少し予想していたことだったが、やはり面識があったようだ。
同じ執事という職業だからと言うだけでなく、レオの祖父とエレナの祖父が親しかったという情報から予想していたことだった。
ベンヴェヌートもレオの祖父の代から仕えている身。
当然と言えば当然かもしれない。
エレナがいたルイゼン領とも、お互い領主が変わることによって行き来することもなくなっていたため、
2人からしても、まさかこんな場所でまた顔を合わせることになるとは思ってもいなかっただろう。
2人とも知らない間柄でもないため、すぐに打ち解けたようでレオとしては安心した。
遠くに小さく船が見え、レオはいつも通りに海岸でアルヴァロが来るのを待っていた。
しかし、いつものように向かって来る船に、アルヴァロ以外の人間が乗っていることに気付く。
この島に来たがるような人間がいるとは思えないので、レオとしては首を傾げるしかない。
「えっ!? ベンさん!?」
近付いてくると、そこに乗っている人間の顔に見覚えがあった。
実家で自分に付いてくれていた執事のベンヴェヌートだ。
どうして彼がここに向かっているのだろう。
「ベンさん! どうしたんですか?」
「ディステ家の方にはお暇をさせていただき、やって参りました」
「何で……?」
ここはディステ家の元領地ではあったが、王命によって今は何のかかわりもないことになっているはず。
追い出して押し付けた側の父が、人を送ってくるとも思えない。
そう思ってレオが問いかけると、仕事を辞めてきたと言うから驚いた。
ベンヴェヌートは昔からディステ家に仕えていたこともあり、仕事の面で特に問題があるとは思えない。
そのため、どうして辞めてしまったのか、理由が思いつかない。
「失礼ながら、旦那様の考えにはとても付いていけないと判断した次第でして……」
「そうですか……」
レオが実家を出てから、ディステ領は問題が立て続き起こった。
アルヴァロから話を聞いていたので、レオも大体のことは知っている。
その問題自体も、父であるカロージェロが適切に対応していれば問題となることは無かったはずだ。
その後も何か上手いこといっていないような話を聞いているが、所詮自分は追い出された身。
あまり関心が無いというのがレオの本音だ。
ベンヴェヌートからしたら、問題が続いたことが見切りをつける判断となったらしく、領民の流出に合わせて仕事を辞めて来たということだ。
ベンヴェヌートは結婚をしていないため、家族も他にいないことからできたことだろう。
「私もここへおいて頂けないでしょうか?」
「もちろんいいですよ!」
「ありがとうございます」
領主の立場からすれば、1人でも領民が増えるのは望ましいこと。
それが小さい時から知っているベンヴェヌートなら、レオとしては断る理由が見当たらない。
ここに住みたいというベンヴェヌートの申し出に、レオはあっさりと了承した。
「でも、いいのですか? ここはまだ安全とは言い切れませんよ? それにお給料だって出せないし……」
「構いません。給料もお気になさらず。レオポルド様のお側においてください」
ベンヴェヌートが一緒にいてくれるのはレオとしても嬉しいしありがたいが、ここは噂通りに魔物が多く存在している。
安全性を考えると、レオとしては説明しておかないといけないことだ。
オーガとゴブリンの集団を退治して比較的安全な範囲を広げたとは言っても、まだまだ島の極一部でしかない。
防壁作りを人形たちにさせているが、ロイたちはこれまで通り多くの魔物をレオの下へ届けている。
それを考えると、防壁が完成するまでは軽々にまた開拓作業に移る訳にもいかない。
それに、フェリーラ領のギルマスに提供された魔法の指輪の代金の返済という借金のようなものが存在しているため、給料を支払うこともなかなかできない。
住民のみんな同様に、食事を提供する以外仕事に対する見返りができない状況だ。
そのことを話しても、ベンヴェヌートは表情を変えることはなく、レオに付くことを求めてきた。
「様はいらないよ。もう貴族じゃないんだし、レオで良いよ!」
「いいえ、そうはいきません。むしろ、私の方こそ呼び捨てで構いません!」
「でも……」
給料も支払わないのに様付けされるのは、レオとするとスッキリしない。
そのため、実家の時にもよく交わしていたように、敬称を付ける、付けないで言い合うことになった。
「……でしたら、レオ様でいかがでしょう?」
「……ベンさんはちょっと頑固だよね」
「レオ様も……と思いますが?」
「ハハ……」「フフ……」
少しのやり取りの後、ようやくベンヴェヌートが少し譲歩し、言い合いは治まった。
しかし、昔からこのやり取りを続けていて思っていたが、ベンヴェヌートは全然変わっていない。
そういった面で頑固という感想を持ったのだが、ベンヴェヌートからしてもレオに対して同じ印象を持っていたようだ。
昔と変わらないということが何だか嬉しくもあり、お互い思わず笑ってしまった。
「アルヴァロさんありがとうございました」
「いやいや、ギルドから坊ちゃんの知り合いだって話だから連れて来ただけで、勝手に連れて来て逆に申し訳ない」
「いえ、嬉しい驚きでありがたかったです」
ベンヴェヌートを連れて来てくれたアルヴァロに、レオは感謝の言葉をかける。
着いてすぐにも言われたので、連れてきただけの自分にあまり感謝されても恥ずかしくなってくる。
アルヴァロがベンヴェヌートに出会えたのは、ただいつものようにギルドへ行った結果であり、感謝されるほどのことではない。
それもギルド側から紹介されてのことだし、むしろ勝手に連れて来て迷惑にならないか不安な思いをしていた。
だが、それもレオの笑顔を見ればあっさりと解消された。
「そう言ってもらえると、連れてきた甲斐がありやした。では、来週また来やす!」
「ありがとうございました!」
「アルヴァロ殿、ありがとうございました!」
ベンヴェヌートとの出会いを説明した後、いつものように売却する魔物の素材を受け取り、必要となる物がないかのやり取りをおこなったため、またフェリーラ領へ戻っていくだけだ。
少しずつ離れて行くアルヴァロに、レオとベンヴェヌートは感謝の言葉と共に見送ったのだった。
「じゃっ! みんなを紹介しないとね?」
「アルヴァロ殿より聞いております。少数ながら移民がいるとのこと……」
「うん! みんな良い人たちだよ!」
これからここに住むのだから、まずはみんなを紹介しないといけない。
アルヴァロにはここに住むみんなのことを教えていたが、その辺の細かいことはベンヴェヌートへ話さないでいてくれたようで、移民がいるということしか知らされていないようだ。
島のみんなにベンヴェヌートのことを紹介して回ると、みんな快く迎え入れてくれた。
もしかしたら、ディステ領から送られて来たスパイではないかということを考えた人もいるかもしれないが、アルヴァロからちゃんとギルドが保証してくれている伝えると、安堵してくれたようだ。
カロージェロとの関係上、ギルドもレオの足跡をたどって来ていたベンヴェヌートのことは気付いていたらしい。
そしてベンヴェヌートと接触し、もうディステ領とは関係ないという判断をしたため、アルヴァロを紹介するということに至ったという話だ。
「セバスティアーノ殿……」
「ベンヴェヌート殿……」
最初にエレナと執事のセバスティアーノのことを紹介したのだが、レオも少し予想していたことだったが、やはり面識があったようだ。
同じ執事という職業だからと言うだけでなく、レオの祖父とエレナの祖父が親しかったという情報から予想していたことだった。
ベンヴェヌートもレオの祖父の代から仕えている身。
当然と言えば当然かもしれない。
エレナがいたルイゼン領とも、お互い領主が変わることによって行き来することもなくなっていたため、
2人からしても、まさかこんな場所でまた顔を合わせることになるとは思ってもいなかっただろう。
2人とも知らない間柄でもないため、すぐに打ち解けたようでレオとしては安心した。