捨てられ貴族の無人島のびのび開拓記〜ようやく自由を手に入れたので、もふもふたちと気まぐれスローライフを満喫します~

「まさかオーガなんて大物が出るなんて……」

「あぁ……」

 オーガの死体を魔法の指輪に収納し、ようやく一息ついたレオは、安心したように呟いた。
 それに対し、ヴィートも同意し頷く。
 ロイたちには洞窟内のゴブリンの死体の処理をお願いした。
 ゴブリンから手に入る素材は小さい魔石くらいしかないが、それでも島の収入源になる。
 折角倒したのだから、手に入れておかないともったいない。
 それに、レオのスキルによって、待っているだけで手間な作業は人形たちがやってくれる。
 戦いによる緊張感が少し解け、3人は持って来た軽食をつまんで休憩を取ることにした。

「ビックリして一瞬腰が退けましたよ」

 この島に来て、体を鍛え始めていたレオだったが、こんなに多くの魔物に近付くようなことはなかった。
 オーガという強力な魔物の出現を目の当たりにし、言葉の通り腰が引け、頭が真っ白になりかけた。
 自分一人だったら、戦うなんて考えずに逃げていたかもしれない所だった。

「俺たちだって焦ってたぜ? なあ?」

「あぁ!」

「2人はすぐに反応していたじゃないですか」

 レオとしては、ドナートたちがいてくれたことに感謝している。
 海賊狩りというと対人戦闘が強いという印象が強かったが、魔物相手でもかなり活躍していた。
 本人たちも魔物よりも対人戦闘の方が慣れていると言っていたのに、オーガが出て来てからの状況判断の良さは尊敬してしまう。

「ゴブリンもオーガも鬼系統だから人間に近いからな」

「対人戦闘に近い感覚で戦えたって感じかな……」

「なるほど」

 ゴブリンやオーガは鬼系統の魔物のため、2足歩行することから動きが人間に近い。
 オーガはたしかに驚いたが、煙を吸い込んで弱っていたし、でかい人間だと思えば変わりはない。
 そのため、ドナートたちからすると他の魔物のような脅威は感じなかったようだ。

「ゴブリンが増えたのはオーガの所為だったのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

 これだけゴブリンの数が増えていたのを考えると、ガイオたちみんなが来る少し前からオーガがあの洞窟に住み込んでいたのではないかと思える。
 オーガはゴブリンをパシリに使って食料を得て、ゴブリンはオーガの守護の下で数を増やすことができていたのだとレオは考えていた。
 いわゆる共生という状況が、ここで出来ていたということだろう。

「嫌な共生だな……」

「全くだ」

 レオの説明を受け、ドナートとヴィートは納得すると共に顔をしかめた。
 ここを放置してゴブリンの数が増えていたとしたら、それほど時間もかからずにレオたちのいる場所を見つけられていた可能性がある。
 今日とは反対のことが身に降りかかっていたかもしれないと考えると、身震いをする思いだ。

「運が良かったですね?」

「だな……」

 先にこちらから動けたのは、レオが言うように運が良かったと言って良いかもしれない。
 それと同時に、ここの島の開拓の難しさも感じていた。
 まだ島の1割にも満たない範囲なのにもかかわらず、オーガなんて危険生物が存在しているとなると、森の奥へと進んだらどんな魔物が潜んでいるか分かったものではない。
 
「とりあえず、ここまでは広げても大丈夫そうですし、ゆっくり広げていくしかないですね」

 たいした範囲内を調査したわけではないが、ここまでの範囲内の魔物はなんとかなりそうだ。
 もちろんオーガなんて魔物がまた出ないとも限らないが、開拓を進める範囲としてこの洞窟を目安にして良いかもしれない。

「帰っておやっさんに報告しようぜ」

「ハイ!」

 開拓をするにしてもみんなの協力が無いと、レオのスキルだけでは難しい。
 それに、戻ってみんなに無事討伐が終了したことを伝えて安心させたい。
 ロイたちによって集められたゴブリンの死体の焼却も済み、レオたちは拠点に戻ることにした。





◆◆◆◆◆

「だから魔石が大量にあるんですね?」

「そうなんです」

 ゴブリン討伐を成功し、無事に帰ったことでレオたちはみんなに喜ばれた。
 まさかのオーガの出現にみんなも驚いていたが、弱っていたので倒せたということを言うと、みんな安堵していた。
 オーガもゴブリン同様たいして素材として採取できる部分はないが、魔石が結構大きく、値段も高値で売れる。
 角も結構素材と使えるらしいので採取しておいた。
 魔物の討伐をすることになった経緯と、結果がどうなったかを説明し、アルヴァロは魔石の山を見て納得した。
 討伐から2日後、いつものようアルヴァロが島へ来てくれた。
 前回はガイオたちが住むことになって驚いていたが、今回はオーガを倒したということに驚いていた。

「坊ちゃんには毎回驚かされますね……」

 どんな魔物の魔石でも需要はあるので大量に手に入るのはありがたいが、オーガを相手にするなんて無謀も良いところだ。
 島には海賊狩りをしていた戦闘自慢もいるという話を聞いていたが、そんなことになるならレオには参加しないで欲しかった。

「開拓を前進させるために防壁の製作を始めました」

「そうですか!」

 ロイたち木製人形を増やして防御機能を強化するという手もあるが、それでも守り切れない場所が出て来るかもしれない。
 ドナートたちもいることだし何とかなるとは思うが、危険なことには変わりはない。
 そのため、防壁を造って簡単に魔物が侵入してこないようにすれば、異変が起きてもロイたちが対応できると思い、防壁の製作を始めることにした。
 少しでも開拓が進めば人を増やしても大丈夫になり、人が増えれば開拓の速度も上げられる。
 この島の開拓が進み、国にそれが認められれば、レオが貴族に戻ることができるようになるかもしれない。
 ディステ家の仕打ちをレオから聞いて知っているアルヴァロからすると、ざまあと言いたくなる。
 それもまだ先の事になるだろうが、レオに期待しているアルヴァロからすると開拓が進むのは嬉しいことだ。

「そう言えば、ディステ領のことですが……」

「何かありましたか?」

 レオが順調に進めていることに安心したアルヴァロは、話していた時に浮かんだディステ家のことを思い出した。
 父であるカロージェロの領主としての能力は、はっきり言ってレオには分からない。
 領主邸から外に出たこともないので、領内の経営状況とかは全く分からない。
 しかし、ギルドに見放されたなんていわれると、何をしているんだという気持ちになる。
 ガイオたちからギルドに見放されたとか言う話を聞いていたが、それ以外にまた何かあったということだろか。

「領内から全ギルドが撤退して、魔物の討伐を専門にする傭兵を雇うようになったって聞きましたが?」

「えぇ」

 父は領内で大量発生した魔物の討伐の関係でそこを統括しているギルマスと揉め、領内からギルドが撤退するということになったらしい。
 冒険者たちを統括し、魔物を狩ってくれるギルドは、領を経営するのにかなり役に立つと思える。
 こっちは何もしないでも魔物を調整してくれるのだから、平民からしてみれば暮らしを安心させてくれる存在ともいえる。
 危険な魔物などが出現した時は領主側が資金を出さなくてはならないだろうが、そんな非常時に対応するために常時傭兵を雇っているのは経済的には非効率だ。
 ギルドがなければ冒険者もいなくなってしまうだろうし、それで領内の安全を維持できるのだろうか。

「それによって冒険者もいなくなって、更には住民も減っていっているようですよ」

「……そうですか」

 アルヴァロの言葉に、自分の故郷のことを知ったレオは複雑な思いをしていた。
 案の定、ギルドが無くなったことによる問題が増えているようだ。

「また町中で揉めごとを起こしただと!?」

「はい……」

 執務室で書類に目を通していたディステ領の領主であるカロージェロは、報告に来た執事に対し怒りを露わにする。
 最近はほぼ毎日のように上がってくる報告で、いい加減我慢しきれなくなったのだ。

「いつものように傭兵と領兵がケンカを始めてしまいまして……」

「くそっ!! どいつもこいつも……」

 ギルドが急にいなくなってしまった代わりに最近雇うようになった傭兵と、有事の際にカロージェロの命によって動く軍の領兵が、些細なことで揉めてケンカに発展することが最近頻発している。
 それが何度も起きているせいで、カロージェロは無駄な書類仕事が増えて時間を割かなくてはならなくなっている。
 腹を立てるのも尤もと言いたいところだが、ギルドが出て行く原因はカロージェロにある。
 カロージェロが怒りで顔を真っ赤にしているが、こんなことになるならばギルドを残すように動けばよかったのではないかと、執事の男は思わずにはいられない。

「……っで? 揉め事起こした奴らはどうしている?」

「いつも通り頭を冷やすまで別々の牢に入れております」

「全く、治安を守る者がそれを乱しおって……」

 どちらの兵も、この領内を守るために雇われている存在だ。
 領兵は有事の際に出動するために訓練を重ねると共に、治安維持のために町中のパトロールをおこない、警察の仕事と兼任している。
 最近雇うようになった傭兵は、町に魔物が侵入して来ないように周辺の魔物を駆除するのが仕事になっている。
 同じ兵でも仕事としては分かれており、揉めるようなことは無いと思っていたのだが、最初は何もなかったのに次第に揉めるようになってきた。

「領兵の奴らは安全な所でヌクヌクしていて楽な仕事だな!?」

「アンデッドの魔物に苦戦したって話だし、訓練が足んねえんじゃねえか!?」

 酔った傭兵たちが吐き捨てたこの会話が伝え広がり、それを聞いた領兵の者たちは頭に来た。
 以前起きたアンデッドの討伐で苦戦したのは事実だが、それは数が多かったからだ。
 事情も知らずに好き勝手言われると腹が立つのも仕方がない。
 だが、それでケンカを仕掛けるほど領兵たちは短気ではなかったが、一部の新人はそうではなかった。
 この言葉による怒りがずっと胸の中で燻っていた新人が、休日たまたま傭兵たちと酒場で出くわしてしまい、その新人領兵がいると知らなかった傭兵たちがまた愚痴るように先程の言葉を話していたのがきっかけになってしまった。

「お前ら! 調子に乗るなよ!」

「何だ!? 青臭えガキが何舐めた口きいてんだ!?」

 燻っていた怒りが再燃し、新人の領兵は忠告の意味で傭兵たちへ文句を言っただけだった。
 しかし、我慢をする気のない傭兵たちはすぐさま怒りで立ち上がり、その新人を店の裏へ連れていき、袋叩きにしたのだった。
 傭兵の彼らとしても愚痴っていたのには理由がある。
 魔物を狩る仕事をしている彼らは、毎日危険が付きまとっている。
 ただ、魔物を狩るだけでなく、魔石などの素材を手に入れ、それを御用達の商店へ納品する。
 それが町に広がっていくため、自分たちが町を救っていると実感している。
 しかし、魔物の素材を売っても、冒険者のようにその代金が懐に入る訳ではない。
 傭兵が持ち込んだ素材の売れた代金は、領の資金として使われることになるため、傭兵たちは何の資金にもならないことになっている。
 毎日危険と隣り合わせの思いをして町に貢献しているのに、領兵よりも給金が低く、魔物の販売資金も手に入らない。
 それなのに、領兵は外よりも安全な町中で治安維持しかしていないという境遇に、納得できない思いが募っていったため、愚痴が出てしまったのだ。
 仲間をやられれば我慢をしているつもりもなく、領兵たちも傭兵たちに睨みを利かすようになり、傭兵の者が町中で少しでも市民に迷惑をかけようものなら、すぐさま捕まえて罰金刑にするようになった。
 そうなれば当然傭兵は腹を立てる。
 休みの日の領兵を見つけてはちょっかいをかけ、集団で暴行するという報復に出ることをするようになった。 
 やられたらどちらもやり返すが続いているため、カロージェロを悩ませていた。

「くそっ!! 領民の流出も続いているし、何でこうも問題ごとが続くんだ!!」

 カロージェロの悩みの種はもう一つある。
 ギルドがなくなってから領民が少しずつ他領へと流出しているのだ。
 そして、兵同士の揉めごとが起きてから、更にその勢いが増しているため、このままでは税収も減っていく一方だ。
 傭兵を雇うのにも資金を使っているというのに、税収が減っては傭兵の維持ができなくなる。
 まるで負の連鎖が続くかのようだ。

「ギルドがなくなったことにより、冒険者関連の市民が付いて行っているようです」

「またもギルドのせいか!?」

 ギルドがなくなり、冒険者たちも他へと移っていった。
 その冒険者たちを相手に商売していた者やその家族が、冒険者を追って他領へと移るという選択をしたのだ。
 それもそのうち治まるものだと思っていたが、兵同士のいざこざでいまだに市民の流出が続いている。
 市民からしたら、ギルドがなくなって不安に思っていた部分が強い。
 冒険者を追っていった者たちの知り合いは、自分たちもこのままでいるべきなのか考えた。
 領主が冒険者の代わりに傭兵を雇うようになったが、その傭兵が領兵と揉め始めたため、ここから出て行くということを決めたのだ。
 ギルドがなくなったことによる影響だと分かり、カロージェロとしては不愉快なこと極まりない。
 しかし、どうすることも出来ないので、机をたたいて気を紛らわせるしかできなかった。

「ええい! 他領へと続く道に関所を作れ! 他領へ移り住もうとする者は引っ捕えろ!!」

「しかし、そんなことをしたら……」

 他領へ移り住む者が多いのであるならば、力尽くで止めてしまえばいい。
 そう思っての考えなのだろうが、執事の男からするとそんなことをしたら余計に市民に不評を買うのが目に見えている。
 そうなれば、市民の流出が止められなくなってしまうかもしれない。
 それよりも、問題の始めとなったギルドを再開してもらうように動いた方が、元の安定した領地に戻せる気がしている。
 しかし、カロージェロの性格上そんなことは絶対にしたくないだろう。
 改善策がない状況に、執事の男も頭を抱えたくなる思いだ。

「邸の使用人も数人いなくなっているのだぞ! 管理を怠ったくせに意見する気か!?」

「……いいえ、そのように手配いたします」

 カロージェロの言うように、市民流出問題はこの邸にも起きていた。
 数人の使用人がいつの間にか姿を消したのだ。
 捜索を指示した結果、他領へ向かうのを目撃したという報告が入った。
 彼らはいち早くこの家に見切りをつけたということだろう。
 いなくなってしまったのは、別に執事の男のせいではないと思うが、カロージェロとしては彼のせいにすることでしか怒りが抑えきれなかった。
 腹を立てている時のカロージェロには、何を言っても無駄だというのは分かっている。
 それに、これ以上何か言って不敬罪にでもされたら面倒だ。
 そのため、執事の男はカロージェロの言葉に頷くことしかできなかった。

「失礼します!」

 指示を受けたのなら実行に移すために動かなければならないため、執事の男は頭を下げて部屋から退室していった。





「この領は大丈夫だろうか……」

 カロージェロから指示を受けて部屋を出た執事の男は、どう考えても上手くいかなくなる未来しか見えないため、廊下を歩きながら思わず愚痴が出てしまう。
 ギルドがなくなったことのツケがこんなことになるとは、彼自身も思ってもいなかった。

「ベンの奴は上手くやったな……」

 邸からいなくなった使用人たちの中には、レオの世話をしていた者たちもいる。
 特に彼からすると、同じ執事としてこの家に仕えていたベンヴェヌートがいなくなったことが意外だった。
 早々にこの家から出て行ったベンヴェヌートに、彼としては恨みよりも羨ましさが出てくる。
 彼自身も出て行きたいと思い始めているからかもしれない。

「もう少し様子を見るか……」

 出て行くにしても、一応は恩ある身。
 ベンヴェヌートのように出て行きたい気持ちもあるが、彼はもう少し様子を見ることにしたのだった。

「トマトがいっぱい取れたね」

「ニャ~!」

 いつものように畑仕事に精を出すレオ。
 近くには闇猫のクオーレが付いてきている。
 少しの範囲であるが、人の暮らす範囲を広げるように防壁を造ることを開始した。
 とは言っても、それはレオが新たに作った人形たちが担当しているので、レオとしてはこれまでとは特に生活は変わっていない。
 住民のための家の建設も他のみんなで協力しているし、布人形たちが分散して細工することで速いペースで進んでいっている。
 人形ばかり動かしてレオは何もしていないという訳ではなく、畑を広げることを担当している。
 住民も増えたし、アルヴァロに頼んで種を手に入れ、野菜の種類を増やしている。
 新たに広げた畑にはまだ芽が出たばかりだが、元々一人にしては大きめに作ってしまった畑には、トマトの実が沢山なっていた。
 レオが好きな野菜だからといっても、植えすぎたために余ってしまいそうになるほどだ。
 トマトが大量に採れたことを喜ぶレオに、クオーレも楽しそうだ。

「お昼はトマトを使ったスパゲッティにしよう!」

「フフ、レオさんは料理が好きですね?」

 トマトを見て何の料理を作ろうかと考えて入ると、一緒に野菜の採取をしていたエレナは、そんなレオをおかしそうに笑みを浮かべながら問いかけてきた。
 貴族でお嬢様育ちのエレナには、何か仕事を頼むのは気が引けていたのだが、畑仕事をずっとやってみたかったと言われて、手伝ってもらうようになっていた。
 虫に怯えるところはあるが、本人も楽しそうだし、レオとしてはかなり助かっている。

「料理も楽しいよ」

「そうですか? 今度教えてもらおうかしら……」

「いいよ」

 料理の楽しさは家を出てから知ったため、レオの調理の腕はそこまで上手いわけではない。
だが、色々な調理法を知っているおかげでバリエーションは豊富だ。
 エレナについてきた料理担当の使用人もいることからたまにしか料理をしなくなったが、やっぱり料理をするのは楽しい。
 レオの気持ちが伝わったのか、エレナも料理をやってみたくなってきたようだ。
 趣味仲間を増やすことができそうな雰囲気に、レオも嬉しそうに調理指導を了承した。

「レオ殿、収穫終わりました!」

「……速いですね。セバスさん」

「恐縮です!」

 レオとエレナが楽しそうに話しながら収穫をしていると、セバスティアーノが籠一杯に収穫した野菜を持って現れた。
 収穫する範囲がかなりあったのにもかかわらず、あまりの手際の良さにレオは驚いた。
 レオの能力や人となりを知って、エレナと少し仲良くなったからか、セバスティアーノからセバスと呼ぶように言われた。
 有能な人のようなのはなんとなく分かっていたのだが、色々有能すぎる気がする。





「はい! 魔物のお肉にトマトを使ったミートソーススパゲッティだよ!」

 トマトの料理と言ってレオが最初に思いついたのが、シンプルだがとても美味しいミートソーススパゲッティだ。
 好きなので、レオは結構頻繁に作るため、一番自信がある料理かもしれない。
 魔物の肉はロイたちが狩ってくれるので売るほど余っている。
そのため、結構多めに入れている。

「エレナにも手伝ってもらったサラダとトマトスープも作ってみた」

 エレナにも協力してもらって盛りつけたサラダと、搾ったトマトの汁で数種類の野菜を煮込んだトマトスープも出す。

「手伝ったと言っても、ちぎって盛りつけただけですが……」

 早速料理を手伝ってもらうことにしたレオは、エレナにサラダを作ることを頼んだ。
 野菜をざっと切るだけなので、最初の料理にするには安全だと思ったためだ。
 自分が作ったとちょっと言いにくいせいか、エレナは少し照れ臭そうだ。

「おぉ! なかなか美味いな……」

「美味え! けど肉がもっと欲しい!」

「肉が食いたいだけだろ?」

 レオとエレナの料理にみんな好評なようだ。
 ガイオの船に乗って来たのは海賊狩りの船員と家族、それとエレナについてきた使用人とその家族だ。
 いつまでもみんな一緒の場所で暮らすのも気が休まらないかもしれないので、それぞれの家庭用に家を建てている。
 それまでの間にと建てた大きな建物は、食堂の代わりとして使用中だ。
 みんなで食べるのが楽しいということもあって、自然とこのような感じになっている。 

「美味しいです!」 

「それは良かった」

 エレナにも喜んでもらえ、レオとしても作った甲斐がある。
 みんなでの食事は、レオにはまだ新鮮に思える。
 そのせいか、自分で作った料理が前よりも美味しく感じる。

「美味しいものが食べられるってことは大事なことだよ。僕は昔病弱だったからね」

「そうなのですか?」

 レオがどういう経緯でこの島で領主をしているのかは、住民のみんなには話していない。
 別に隠しているつもりはないので、レオは昔のことを少し話すことにした。

「そのせいで家から追い出されたんだけど……」

「そうですか……」

 病弱で役に立たないと判断され、父や兄に邪魔者扱いされるようにこの島へ来たことを伝えると、聞いていたみんなは少し表情を暗くした。
 こんな危険な地へ送られれば、もしもレオにスキルがなかったら初日の内に死んでいたことだろう。
 つまりはそうなってもいいという思惑からここへ送ったことになるため、みんなはディステ家への不信感が強くなった。

「でも、今は健康そうですけど?」

「うん。スキルを手にいれてからちょっとずつ良くなったんだ」

 暗くなりかけた空気を戻そうと、エレナは話を少し変えることにした。
 レオとしても、その方が良いと思いその疑問に乗ることにした。

「魔物を倒すと能力が上がるって説があるでしょ?」

「えぇ、証明されていませんが……」

 どうやらエレナも同じ説のことを知っていたらしく、レオの言葉に首を傾げる。
 やはりこの説は立証されていないため、デマ扱いされているようだ。

「僕が証明になると思うよ。密かにロイに魔物の退治をさせていたら体調が改善されたから」

「へぇ~……、面白いなそれ!」

 病弱だったのに、魔物を倒しただけでどうして健康になれたのかは分からないが、それ以外にレオが健康になった理由は思いつかない。
 スキルを手に入れたからという考えもできるが、ロイに密かに魔物退治に行かせてから良くなったという自覚があるため、レオとしてはこの説をデマだとは思っていない。
 そのことを話すと、エレナでなくガイオの方が強く反応した。
 ここの開拓を進めるには脅威となる、未知の魔物がまだ潜んでいるかもしれない。
 その時のために、ガイオは足が治ったら訓練代わりにロイたちと共に周辺の魔物退治に向かうことを予定している。
 レオが言うように魔物を倒していれば強くなれるなら、一石二鳥だと思ったのだろう。

「ニャ~!」

「ん? お代わりかい?」

 闇猫のクオーレは魚の料理が1番好きなようだが、レオが作った料理はどれもちゃんと食べる。
 猫と言っても魔物なので、与えてはいけない食材を気にしなくていいのはありがたい。
 成猫になったので少し多めに盛りつけたのだが、それでも足りなかったようだ。

「今度は魚料理にしようかな?」

「ニャッ!!」

「……今日じゃないよ」

 お代わりを出してクオーレが食べるのを見ていると、ふと次の料理を何にするか考えてしまう。
 クオーレを見ていたら、なんとなく魚料理が浮かんできた。
 思わずそれを言うと、魚料理をおなか一杯食べたいと思ったのか、クオーレは急に食べるのをやめてしまった。
 その思いを察したレオは、ツッコミを入れるように注意した。

「フンッ! フンッ!」

 いつもの早朝、レオは剣を振って汗を流していた。
 昔のように寝込むことがなくなってからは、健康のためにも体を鍛えようと思い、この島に来てから始めた習慣だ。

「精が出るな……」

「あっ! すいませんガイオさん。うるさかったですか?」

 素振りをしていたら、レオの下へガイオが杖を突きつつやってきた。
 怪我をしているので、もしも困った事があった時のためにレオの家で一緒に暮らしているのだが、もしかしたら素振りをしている音が気になったのかと思い、レオは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや、気にしなくていい。寝てばかりでは暇で仕方がないからな」

 左脚の脛骨(すねの内側の骨)を骨折してしまい、骨が付くまで大人していなくてはならないため、ずっと座りっぱなしの日々にガイオもいい加減飽きてきていた。
 そのため、少し早く起きてしまったら丁度レオが素振りをしている音に気が付いたのだ。

「剣の練習をしていたのか?」

「はい! そうだ! ガイオさんは剣が得意だって聞いたのですが?」

「ドナートたちから聞いたのか?」

「はい!」

 ガイオの問いかけに対し、レオはあることを思い出した。
 ドナートたちから、ガイオは剣が得意だという話を聞いていたのだ。
 誰に聞いたのかをすぐに察したガイオが問いかけると、予想通りの答えが返ってきた。

「よかったら、指導してもらえませんか?」

「別にいいが、教えるなんてしたことないな。型を見るくらいでいいか?」

「はい!」

 エレナの祖父のフラヴィオに拾われ、セバスティアーノと共に武術の訓練を施されたこともあり、剣術の型は一通り学んでいるが、そこからはガイオが独学に近い形で鍛えてきたため、人に教えるというのはしたことがない。
 出来ることと言ったら、基本の型を見てやることぐらいのものだ。
 ガイオから了承を得たレオは、木剣を構えて素振りを見てもらうことにした。

「フンッ! フンッ!」

「………………」

 剣を振って、レオはガイオへ色々な型を見せる。
 その様子を、ガイオは黙って見ているだけだった。

「……自分一人で練習していたのか?」

「えぇ」

 一通り型を見せて軽く息を切らしているレオへ、黙っていたガイオが問いかける。
 その問いには、若干不思議そうなニュアンスを含んでいるように思える。

「う~ん」

「あの……、どこか悪いでしょうか?」

 レオの答えに対し、ガイオは顎に手を当てて考え込むような声を漏らした。
 その反応を見て、自分の剣の腕が良くないのかと判断したレオは、不安そうに問いかける。

「いや、悪くない。一人で基本の型がまあまあできているのが不思議なだけだ」

 レオに勘違いさせてしまったようなので、ガイオはすぐにそれを否定する。
 ガイオが悩むような声を出したのは、完全独学と言っている割には、自分勝手に振り回すようなわけでもなく、レオの剣にはちゃんと型ができているような気がしたからだ。
 少しでも誰かに指導を受けていないと、このように振れるようになるとは思わないため、レオが嘘を言っているのではないかと思えてくる。

「何か色々混じっているようでもあるが……」

「僕は昔病弱だったので、本はたくさん読みました。そのなかにはこの国や他国の剣術の本もあったので、それが混じっているということだと思います」

「それを覚えていたとしても、そう簡単にできると思えないんだが……」

 レオはこの国の剣術を元にして、他国の剣術も取り入れた型を練習している。
 それがガイオの言う、混じっているという感想なのだろう。
 たしかにそう言われれば、見たことある他国の剣術が混じっていたように思える。
 しかし、本で色々と学んだからと言って、それができるようになるかと言ったらそうではない。
 他流の剣術を取り入れるというのは、ある程度自分の剣が確立した者がやるようなことだ。
 それを、本を見ただけでおこない、ちゃんと型になっているというのがガイオとしてはなんとなく納得できない。

「教えることはないかもな……」

「えぇ?」

「ちゃんと型になっているからそのままでいいということだ」

「な、なんだ……」

 折角人に教えてもらえるようになったというのにもう匙を投げられたと、レオはショックを受けたように驚いた。
 素人考えで他の剣術を混ぜたのは間違いだったと後悔し始めるレオに、ガイオはすぐ訂正を入れる。
 まだたいした期間訓練したわけではないが、一生懸命にやって来た事が無駄にならなくて安心したレオは、一気に肩の力が抜けた。

「後は実践だな……、よしっ、かかってこい!」

「えっ!?」

 近くに落ちていた手ごろな棒を拾い、杖を突いてレオの前に立ったガイオは、まさかの発言をしてきた。
 強いのはなんとなく分かるが、稽古を付けてもらうにしてもガイオは骨折している身。
 まだちゃんと骨も付いていないのに、打ち込むにはレオとしては気が引ける。

「大丈夫だ。俺はここから動かない」

「……わ、わかりました!」

 動かないと言われても、踏ん張りがきかないのではないかと思える。
 そんな状態の人間相手に打ち込めるほど、レオはまだ強い心を持っていない。
 しかし、自信ありげなガイオに、そこまで実力差があるのかという思いから試してみることにした。

“バッ!!”

「おっ! 思ったよりも速いな」

「っ!!」

 木剣を構えて一気に接近し、レオはガイオへ木剣を上段から振り下ろす。
 全力とまではいかないまでも結構な力を込めた一撃だが、片手に棒を持つガイオにアッサリと防がれる。
 背も高く、比較的ガッシリした体格のガイオから受ける印象としては、力強い豪剣という思いがしていたのだが、止められた時の感触は柔らかいものを叩いたような感触と言った感じだ。
 上手いこと力を分散された防御に、レオは驚きながら一歩下がる。

「ハッ!!」

「っと!」

 初撃を防がれたレオは、今度は胴へ目掛けて剣を横薙ぎに振る。
 しかし、その剣はガイオが腰を引いただけで空振りに終わる。

「ハッ!」「タアッ!」

 その後もレオは上下に向けて攻撃を仕掛けるが、ガイオは棒を使ったり、躱したりすることで防ぎきってしまう。

「フンッ!!」

「あぁっ……!!」

 レオが攻撃を続けているうちに息が切れてきたのを待っていたかのように、ガイオはレオの木剣を弾き、そのまま振り下ろした棒を当たる前で止める。
 最後の一撃だけ印象通りの豪剣に、レオは手玉に取られた思いがした。 

「ハァ、ハァ……、ほんとに一歩も動かせなかった」

 最初の宣言通り、ガイオは結局動くことはなかった。
 そのことに、レオは息を切らしつつ悔しがるが、その表情は楽しそうだ。

「レオ、いくらなんでもそりゃ無茶だ! 俺たちが二人がかりでも勝てねえんだから」

「あっ! ドナートさん。ヴィートさん。そうなんですか?」

 懸命にガイオへ攻撃していたために気付かなかったが、いつの間にかドナートたちがレオの側に立っていた。
 どうやらさっきの訓練を見ていたようだ。
 レオが悔しそうにしていることに、2人はそれを当然と言うように笑顔で話しかけてきた。
 2人とも弱っていたオーガが相手だったとは言っても、あっという間に倒してしまったことから考えるとかなりの実力者のように思える。
 そんな2人が揃って勝てないなんて、レオには信じられないような情報に驚く。

「鈍っている今なら1対1で勝てるんじゃねえか? 何なら今やるか?」

「「……いや、いいっす!」」

 確かに片足骨折している今のガイオなら何とかなるかもしれないが、2人はこれまでの経験からガイオとの稽古にはトラウマを感じている。
 たとえ勝てたとしても、怪我が治った後が怖いので、2人とも声を揃えてガイオの誘いを辞退したのだった。

「今日も暑いですね……」

「そうだね。クオーレも日陰から出たがらないね」

 ガイオとの稽古を終了したレオは、エレナと共に畑に水やりを始める。
島の気温はかなり上昇しており、住民のみんなも暑さをしのぐために近くに流れる川や海岸へ行って、涼をとるようにしている。
 闇猫のクオーレは、いつもレオの側に居たがるのだが、熱さが嫌なのか家の日陰で横になっている。 

「人形さんたちは偉いですね……」

「本当に助かるよ」

 みんなは休憩をいれてそれぞれ仕事に動いているが、レオのスキルによる人形たちはこれまでと変わらずに動いている。
 ロイたち戦闘用の人形は周辺にいる魔物の退治へ向かい、小さい布人形たちは民家建設用の柱への細工をせっせとおこなっている。
 その様子を見ていると、自分の能力で動いているとは分かっていても、エレナの言う通り不思議と偉いと思えてくる。

「暑いから速く水をあげて、僕たちも休もうか?」

「そうですね」

 人形たちと違い、人間は熱い日差しに晒されていると熱中症になってしまう。
 特にお嬢様育ちのエレナのことを考えると、麦わら帽子を被っていると言ってもあまり長い間外に出ているのは良くないだろうと思い、レオは水やりを少し速めることを提案する。
 エレナはそんなこととは知らず、ただレオの提案に賛成し、水やりの速度を上げたのだった。

「……フッ!」

「ずいぶん機嫌がいいですね?」

「うるせぇ……」

 稽古をつけた後、脚が治るまで安静にしているしかないガイオは、クオーレの側で座ってレオとエレナのやり取りを見ていた。
 無邪気な二人を見ていたガイオが思わず笑みを浮かべていると、いつの間にか側にセバスティアーノが立っていた。
 眉にシワが寄っていることが多かったガイオが、楽しそうにしているのをセバスティアーノが長年の付き合いから察する。
 しかし、その言葉に照れたのか、ガイオはすぐにいつもの表情へと戻ったのだった。

「今朝、お前も見ていただろ?」

「えぇ……」

 見ていたというのがガイオと稽古をしていたレオのことだ。
 2人はエレナのためにこの地に住むことに決めたが、領主であるレオのことが気になっていた。
 特殊なスキルを持っているのは分かったが、使いこなすレオ自身の能力がどんなものかということだ。
 元々は病気がちだったという話で、あまり期待をしていなかったのだが、訓練を始めて数か月という段階でなかなかの実力をしているのが感じ取れた。
 元々才能があったのか分からないが、その成長はかなりのものがあるように思える。

「魔物を倒せば強くなる。レオを見ていると本当かもしれないな……」

 その成長の一端は、もしかしたらレオの言っていたことが事実なのではないかと考えるようになってきていた。
 誰が広めた説なのかは分からないが、本当ならこの先が楽しみに思えてくる。

「……しかし、魔物なら俺も結構倒しているんだが……」

 レオを見ていると説が本当だったのではないかと確かに思えてくるのだが、そうなると自分はどうなるのだろうか。
 それに、冒険者にも多くの魔物を倒している人間はゴロゴロいる。
 その中には一流とは言い難い者も含まれている。
 説が正しいのであれば、誰もが一流の能力を持った人間になれるのではないかと思える。

「恐らく、彼のスキルが原因かも……」

「……どういうことだ?」

 セバスティアーノもガイオと共に多くの魔物を倒した経験がある。
 今の2人はかなりの実力者だが、それは魔物を倒したことによることと言うより、厳しい戦いを潜り抜けて来たからだと考えている。
 しかし、レオを見ていて説が真実と仮定するならば、思いつく考えがセバスティアーノにはあった。
 自分の疑問の答えを知っているかのようなセバスティアーノの呟きに、ガイオは答えを求めるように問いかけた。

「人間が1人で戦える数は限られていますが、彼の場合は違う……」

「なるほど、スキルで動かしている人形たちが倒した魔物もレオの力になるとすると、人の何倍も速く力の上昇が得られるってことか?」

「えぇ……」

 魔物を沢山倒すにしても、人間1人が一度に戦える数には限界がある。
 それに引きかえ、レオの場合は人形を増やせば増やした分だけ戦える数は増えていく。
 説通りに微弱な上昇だとしても、レオなら何倍もの速度で上昇することが考えられる。

「それに、冒険者の場合などは数人で戦うため、能力アップがあるとしても分散される可能性が考えられますが、彼の場合は1人で総取りです」

 ある程度対応可能な魔物であっても、安全性を確保するために数人で戦うのが基本になっている。
 能力アップを単純に人数で割ったとすると、更に分からないほど微弱な上昇しかもたらされないことになる。
 レオの場合は人形自体が個人の能力になるので、人形たちが倒せば全てがレオに集約されることになる。
 
「しかも、人形を動かすのは魔力のみ、魔物を倒せばその魔力も上がり更に動かす人形を増やすことが可能になる」

「更に加速的に能力が上昇していく……?」

「仮定の話ですが……その通りかと」

「…………」「…………」

 全体の能力が上昇すれば魔力も上昇し、その魔力を使って人形を増やせばレオはその分更に上昇する。
 仮定とは言っても、人の何倍もの速度で強くなっていく可能性が考えられた2人は少しの間無言になってしまった。

「……人形のことばかり考えていましたが、彼自身が強力な強さを持つようになるかもしれませんね」

「……何だか寒気がしてきたな」

「私もです」

 スキルで動く人形にばかり目が向いていたが、人形よりもレオ自身の方がとんでもない大物になるかもしれない。
 仮定が正しかった場合のことを考えると、2人は表情が強張った。
 そして、この気温の暑さにもかかわらず、何故だか身震いがして鳥肌が立ってきた。

「いや~、暑いですね……」

「あぁ、そうだな……」

 2人が話していたところに、当の本人であるレオが水やりを終えてエレナと共に戻ってきた。
 さっき話していた内容から考えると、とても大物になるような雰囲気を感じない。
 そのギャップに、ガイオは何とも複雑な思いに気が抜けてしまいそうだ。

「今日のお昼は何か冷たい料理がいいかな……」

「そうですね」

「ピエトロさんにお願いしてこようかな……」

 エレナと共にこの地へ逃れてきた料理担当をしているピエトロという男性が、島のみんなの分の食事を用意している。
 彼を休ませるためにレオがたまに調理をしているのだが、今日はいつも通りピエトロが昼食を用意する予定だ。
 こうも気温が高いと、熱い料理は避けたくなる。
 ピエトロがどんな料理を用意するのか分からないが、出来れば冷たい料理をお願いしたいところだ。

「では、私がピエトロに頼んできましょう」 

「そう? じゃあ、お願いするわ」

 エレナも望んでいることなので、セバスティアーノは2人の言うように冷たい料理ができないかピエトロに頼みに行くことを申し出た。
 これまでそれが当たり前だからか、エレナも普通にそれを受け入れる。

「あっ! 僕も一緒に行きますよ。もしも氷が必要になったら人形の力が必要ですから」

「そうですか? ではお願いします」

 冷たい料理となると氷が必要になるはず。
 魔法で氷を作ることは可能だが、島の住人全員に冷たい料理となると氷を作る人間が必要になる。
 しかし、みんなそれぞれ仕事をしているので、それほど人数を確保できない。
 だが、レオが人形に頼めばそれも問題ない。
 レオが1人で人数分の氷を作るより人形たちに作らせる方が、同じ量魔力を消費しても氷を作る速度は断然速い。
 そのため、レオもピエトロの手伝いに行くことにした。

「あの料理好きが大物になる…………のか?」

「ニャ~?」

 畑作業や料理をすることがとても楽しそうにしている少年にしか見えないが、それがさっき言ったようなことになるのだろうか。
 段々信じられなくなってきたガイオは、なんとなく側で寝転ぶクオーレに問いかける。
 それに対しクオーレは、「何のこと?」と言わんばかりに鳴き声を返したのだった。

「あれっ?」

 遠くに小さく船が見え、レオはいつも通りに海岸でアルヴァロが来るのを待っていた。
 しかし、いつものように向かって来る船に、アルヴァロ以外の人間が乗っていることに気付く。
 この島に来たがるような人間がいるとは思えないので、レオとしては首を傾げるしかない。

「えっ!? ベンさん!?」

 近付いてくると、そこに乗っている人間の顔に見覚えがあった。
 実家で自分に付いてくれていた執事のベンヴェヌートだ。
 どうして彼がここに向かっているのだろう。

「ベンさん! どうしたんですか?」

「ディステ家の方にはお暇をさせていただき、やって参りました」

「何で……?」

 ここはディステ家の元領地ではあったが、王命によって今は何のかかわりもないことになっているはず。
 追い出して押し付けた側の父が、人を送ってくるとも思えない。
 そう思ってレオが問いかけると、仕事を辞めてきたと言うから驚いた。
 ベンヴェヌートは昔からディステ家に仕えていたこともあり、仕事の面で特に問題があるとは思えない。
 そのため、どうして辞めてしまったのか、理由が思いつかない。

「失礼ながら、旦那様の考えにはとても付いていけないと判断した次第でして……」

「そうですか……」

 レオが実家を出てから、ディステ領は問題が立て続き起こった。
 アルヴァロから話を聞いていたので、レオも大体のことは知っている。
 その問題自体も、父であるカロージェロが適切に対応していれば問題となることは無かったはずだ。
 その後も何か上手いこといっていないような話を聞いているが、所詮自分は追い出された身。
 あまり関心が無いというのがレオの本音だ。
 ベンヴェヌートからしたら、問題が続いたことが見切りをつける判断となったらしく、領民の流出に合わせて仕事を辞めて来たということだ。
 ベンヴェヌートは結婚をしていないため、家族も他にいないことからできたことだろう。

「私もここへおいて頂けないでしょうか?」

「もちろんいいですよ!」

「ありがとうございます」

 領主の立場からすれば、1人でも領民が増えるのは望ましいこと。
 それが小さい時から知っているベンヴェヌートなら、レオとしては断る理由が見当たらない。
 ここに住みたいというベンヴェヌートの申し出に、レオはあっさりと了承した。

「でも、いいのですか? ここはまだ安全とは言い切れませんよ? それにお給料だって出せないし……」

「構いません。給料もお気になさらず。レオポルド様のお側においてください」

 ベンヴェヌートが一緒にいてくれるのはレオとしても嬉しいしありがたいが、ここは噂通りに魔物が多く存在している。
 安全性を考えると、レオとしては説明しておかないといけないことだ。
 オーガとゴブリンの集団を退治して比較的安全な範囲を広げたとは言っても、まだまだ島の極一部でしかない。
 防壁作りを人形たちにさせているが、ロイたちはこれまで通り多くの魔物をレオの下へ届けている。
 それを考えると、防壁が完成するまでは軽々にまた開拓作業に移る訳にもいかない。
 それに、フェリーラ領のギルマスに提供された魔法の指輪の代金の返済という借金のようなものが存在しているため、給料を支払うこともなかなかできない。
 住民のみんな同様に、食事を提供する以外仕事に対する見返りができない状況だ。
 そのことを話しても、ベンヴェヌートは表情を変えることはなく、レオに付くことを求めてきた。

「様はいらないよ。もう貴族じゃないんだし、レオで良いよ!」

「いいえ、そうはいきません。むしろ、私の方こそ呼び捨てで構いません!」

「でも……」

 給料も支払わないのに様付けされるのは、レオとするとスッキリしない。
 そのため、実家の時にもよく交わしていたように、敬称を付ける、付けないで言い合うことになった。

「……でしたら、レオ様でいかがでしょう?」

「……ベンさんはちょっと頑固だよね」

「レオ様も……と思いますが?」

「ハハ……」「フフ……」

 少しのやり取りの後、ようやくベンヴェヌートが少し譲歩し、言い合いは治まった。
 しかし、昔からこのやり取りを続けていて思っていたが、ベンヴェヌートは全然変わっていない。
 そういった面で頑固という感想を持ったのだが、ベンヴェヌートからしてもレオに対して同じ印象を持っていたようだ。
 昔と変わらないということが何だか嬉しくもあり、お互い思わず笑ってしまった。





「アルヴァロさんありがとうございました」

「いやいや、ギルドから坊ちゃんの知り合いだって話だから連れて来ただけで、勝手に連れて来て逆に申し訳ない」

「いえ、嬉しい驚きでありがたかったです」

 ベンヴェヌートを連れて来てくれたアルヴァロに、レオは感謝の言葉をかける。
 着いてすぐにも言われたので、連れてきただけの自分にあまり感謝されても恥ずかしくなってくる。
 アルヴァロがベンヴェヌートに出会えたのは、ただいつものようにギルドへ行った結果であり、感謝されるほどのことではない。
 それもギルド側から紹介されてのことだし、むしろ勝手に連れて来て迷惑にならないか不安な思いをしていた。
だが、それもレオの笑顔を見ればあっさりと解消された。

「そう言ってもらえると、連れてきた甲斐がありやした。では、来週また来やす!」

「ありがとうございました!」

「アルヴァロ殿、ありがとうございました!」

 ベンヴェヌートとの出会いを説明した後、いつものように売却する魔物の素材を受け取り、必要となる物がないかのやり取りをおこなったため、またフェリーラ領へ戻っていくだけだ。
 少しずつ離れて行くアルヴァロに、レオとベンヴェヌートは感謝の言葉と共に見送ったのだった。

「じゃっ! みんなを紹介しないとね?」

「アルヴァロ殿より聞いております。少数ながら移民がいるとのこと……」

「うん! みんな良い人たちだよ!」

 これからここに住むのだから、まずはみんなを紹介しないといけない。
 アルヴァロにはここに住むみんなのことを教えていたが、その辺の細かいことはベンヴェヌートへ話さないでいてくれたようで、移民がいるということしか知らされていないようだ。
 島のみんなにベンヴェヌートのことを紹介して回ると、みんな快く迎え入れてくれた。
 もしかしたら、ディステ領から送られて来たスパイではないかということを考えた人もいるかもしれないが、アルヴァロからちゃんとギルドが保証してくれている伝えると、安堵してくれたようだ。
 カロージェロとの関係上、ギルドもレオの足跡をたどって来ていたベンヴェヌートのことは気付いていたらしい。
 そしてベンヴェヌートと接触し、もうディステ領とは関係ないという判断をしたため、アルヴァロを紹介するということに至ったという話だ。

「セバスティアーノ殿……」

「ベンヴェヌート殿……」

 最初にエレナと執事のセバスティアーノのことを紹介したのだが、レオも少し予想していたことだったが、やはり面識があったようだ。
 同じ執事という職業だからと言うだけでなく、レオの祖父とエレナの祖父が親しかったという情報から予想していたことだった。
 ベンヴェヌートもレオの祖父の代から仕えている身。
 当然と言えば当然かもしれない。
 エレナがいたルイゼン領とも、お互い領主が変わることによって行き来することもなくなっていたため、
2人からしても、まさかこんな場所でまた顔を合わせることになるとは思ってもいなかっただろう。
 2人とも知らない間柄でもないため、すぐに打ち解けたようでレオとしては安心した。

「……ていうのが僕の能力だよ」

「……素晴らしい!」

 ずっと実家で仕えていたベンヴェヌートがこの島に住むことになったので、レオは自分のスキルのことを説明することにした。
 動く人形たちを見て、やはり彼も驚いていたのが面白かった。
 その後にレオが続ける説明を黙って聞いていたベンヴェヌートは、最後まで聞き終わると珍しく大きな声を出して喜んだ。

「この能力は様々に応用できるんだ」

 レオの祖父である先代のディステ領主から仕えて来ていたこともあり、レオが出て行くときに付いて行くという決断ができなかったことをずっと悔やんでいた。
 成人まで残り1年となり、次第にベッドに横になっている時間は減っていったが、元々の色白さゆえに健康に近付いているという印象は受けなかった。
 健康状態から考えて、レオが島で生きていけるかどうかはかなり難しいと分かっていた。
 それどころか、島にたどり着くかも怪しく思っていた。
 それが分かっていても付いて行かなかったということは、自分も心のどこかでレオのことを諦めていた部分があったのかもしれない。
 そのことに気付くと更なる後悔に苛まれた。
 カロージェロの領内での失策は、そんなベンヴェヌートに見切りを付けさせることになった。
 レオの死という情報は入ってこなかったこともあり、ディステ領から出たベンヴェヌートは足跡を追うことにした。
 フェリーラ領に着いてギルドと接触した時、レオの生存を知って歓喜したものだ。

「この能力なら納得できますね……」

 レオの能力の説明に、ベンヴェヌートは独り言のように呟いた。
 生き残っていてくれたことは嬉しかったが、長い間近くにいてレオを見てきたベンヴェヌートにとっては理由が思いつかなかった。
 兄たちのように戦闘訓練を積んで来た訳でもないので、魔物と戦えるとは思っていなかったからだ。
 しかし、レオのスキルなら、人形たちが魔物から守ってくれる。
 それがなかったら、本当に死んでいてもおかしくなかっただろう。

「それにしても、魔物による能力アップですか……」

 もう1つ気になったのが、レオの健康状態だ。
 小さい頃からよく風邪をひいたりしていたため、レオの体調面ではベンヴェヌートもかなり気を使ってきた。
 久しぶりに会ったレオは、色白とは言っても顔色もよく、とても元気そうだ。
 それが多くの魔物を倒したことにより改善されたということを聞いた時、ベンヴェヌートはいまいち信じられなかった。
 ベンヴェヌートもその説は聞いていたが、眉唾物だという思いをしていた。
 レオの思い込みによるものという印象を抱かずにはいられないが、言われてみるとそれ以外に改善された理由は思いつかない。

「成人する1年前くらいに発現したんだ!」

「なるほど……」

 そう言われて思い返せば、成人する少し前は寝込む日が無くなっていたような気がする。
 それを考えると、レオの言っていることを完全に否定することはできない。
 結局のところ、レオが健康になったのならどんな理由であろうと気にすることではない。
 完全には納得できないが、それならそれでいいといったところだ。

『……おや? もしかして……』

 そのレオの言葉で、ベンヴェヌートはあることを思いだした。
 成人する1年ほど前から魔物を倒すようになったということは、その倒した魔物はどうしたのだろうか。
 本人が認識できない程度の微弱な能力上昇となると、結構な数を倒さないとレオの場合は体が良くなるとは思えない。
 もしも、ただ倒してそのまま放置していたとしたら、ディステ領付近の森でアンデッドが出たのはもしかしたらレオの人形が倒した魔物なのではないだろうか。
 そう考えるとアンデッドが増えた理由が解明できる。

『……まぁ、レオ様が気にする事ではないでしょう……』

 アンデッドが増えたのはもしかしたらレオによるものかもしれないが、市民に被害が出たのはカロージェロのミスでしかない。
 なので、わざわざいうことでもないと判断したベンヴェヌートは、アンデッドの大量出現の原因をレオには黙っておくことにした。

「畑仕事も良くしているんだよ!」

「本当にお元気になられて良かったです……」

 そう言って、レオはベンヴェヌートに案内するように畑へと向かって行った。
 何がどうなって今のレオがあるかなんてベンヴェヌートにはもうどうでも良い。
 目の前で元気に色々と話してくれるレオに、ベンヴェヌートは込み上げてくるものを必死に我慢した。




◆◆◆◆◆

「夏野菜が沢山とれましたね?」

「だね」

 ベンヴェヌートが来てから数日経ったが、特に変わったことなどはない。
 これまで通りの生活が続いている。
 今朝もガイオに稽古を付けてもらい、畑で野菜の手入れをしている所だ。
 カゴにたくさん入った夏野菜を見て、レオとエレナは嬉しそうに微笑む。

「トマトは色々な料理に使えるし、ナスはカポナータなんていいかもね」

「いいですね!」

 カポナータとは、素揚げしたナスや他の野菜を、甘めの酢で味付けしたトマトピューレで煮込んだ料理のことを言う。
 ナスがメインの料理というと、レオが最初に思いつく料理だ。

「男性からすると、お肉を入れてもいいかもしれないね」

「私はパスタのソースにするのが好きですね」

「美味しいよね」

 野菜をメインとしている料理なため、男性からすると物足りないと思える部分があるかもしれない。
 そのため、肉を入れてボリュームアップをするのも良いし、エレナの言うようにパスタのソースとしても使える使い勝手がいい。

「オクラやキュウリはシンプルにサラダにすると美味しいだろうね」

「サラダだけは得意です!」

 成長が速いので、オクラが結構採れた。
 やはり、オクラというとサラダにするのが思いつく。
 ネバネバが体に良いということは有名なので、最近食卓にオクラが出る頻度が増えている。
 サラダと聞き、レオの手伝いでよく作っているエレナは、ジョークを含んだように胸を張る。

「トウモロコシは茹でただけでも美味しいよね」

「そうですね」

 トウモロコシは嫌いな人間もなかなかいないだろうと、結構多めに作っている。
 あまり手を加えないで美味しいのはありがたいものだ。
 島には幾つかの果物の樹が自生していたため、住居近くにも植えて育て始めているが、採れる果実は甘さがなく物足りないものばかりだ。
 甘味好きな女性たちには申し訳ないが、トウモロコシの甘みで我慢してもらっている。
 その内大量に果物を採ってきて、ジャムでも作ろうかと考えている。

「枝豆はみんな好きなようだけど、お酒がないから船員の人たちは愚痴っていましたね」

「うん。お酒造りも考えた方がいいね……」

 レオは成人したばかりでお酒の良さが分からないため、酒づくりなんて考えもしなかったが、船員たちに検討するように頼まれていた。
 特に枝豆の塩ゆでを出した時、強く求められたのを2人は思い出した。
 アルヴァロに職人を探してもらっているが、出来るのはしばらく先の事だろう。

「ゴーヤは好き嫌いがあるから料理には気を使わないと……」

「苦いですもんね……」

 体が弱かった時、レオは食べたくても食べられないということが多かった。
 今はそんなこともなくなり、何でも好き嫌いなく食べるようにしている。
 なので、ゴーヤも作っては見たのだが、ガイオの船員たちは嫌いな人が割りと多かった。
 エレナは大丈夫だが、たまにでいいというのが本音だ。

「クオーレも嫌いみたいなんだよ」

「そうなの?」

「ニャ~……」

 ゴーヤが採れるようになった時、試しにゴーヤ料理をクオーレへ出してみたのだが、いつもレオの料理を残さず食べるクオーレも、ゴーヤの苦さは我慢できなかったらしく弾いていた。
 それ以降、ゴーヤは苦手になったらしく、なるべく出さないようにしている。
 エレナもクオーレに好き嫌いがあるとは思っていなかったらしく、意外そうにゴーヤを見せて問いかけると、クオーレは見るのも嫌だと言うかのようにそっぽを向いたのだった。

「本当に人が住んでいるみたいだな……」

 売却用の魔物の素材を渡したり、色々情報をやり取りをするために、いつものようにアルヴァロを自分の家へと招いた。
 その後ろから付いてくる人物は、数軒の家が建設されているのを見て、何やら小さく呟いている。





「また誰か来たみたい……」

「そのようですね……」

 今週もアルヴァロの船には人が乗っている。
 レオの側に付き添うベンヴェヌートに引き続き、誰かここに住んでくれる人でも連れて来てくれたのだろうか。
 もしくは、頼んでいた酒造りの専門家だろうか。
 近付いてくる船を見ながら、レオは少しワクワクしながら船が到着するのを待った。

「すいません。また勝手に連れて来てしまって……」

「いえ……、こちらの方は……?」

 船が到着してすぐに、アルヴァロはレオに謝ってきた。
 レオは首を振ってそれを許す。
 アルヴァロのことは信用しているので、きっとこの島にとって有益な人物なのだと思うからだ。

「初めましてレオポルド様。私はファウストと申します」

「どうも、初めまして……」

 がっしりした体型や雰囲気から考えると、ガイオのように戦闘が得意そうに思える。
 ちょっと粗野にも感じた最初の印象とは違い、丁寧な挨拶をされたレオは内心少し戸惑いつつも挨拶を返す。
 自分の名前を知っているということは、アルヴァロから説明を受けているのかもしれない。

「お久しぶりです。ファウスト殿」

「どうも、ベンヴェヌートさん」

「えっ? ベンさんの知り合いなの?」

「はい」

 どんな人なのか気になっていたレオだが、側にいるベンヴェヌートと交わした挨拶から、知り合いなのだと分かった。
 実家の邸で執事をしていたベンヴェヌートと知り合いとなると、どういった関係なのか不思議に思える。
 もしかしたら、邸を出てから知り合った人間なのだろうか。

「ベンヴェヌートさんもあの領主(・・・・)を見限って来たのですか?」

「その通りです」

「……?」

 交わす会話の内容を聞くと、レオはまた首を傾げたくなる。
 ベンヴェヌートが見限った領主と聞くと、恐らく父のことを言っているように聞こえる。
 そうなると、このファウストもディステ領にいた人間だということになる。
 余計に2人の関係がよく分からない。

「レオ様。こちらのファウスト殿はディステ領の()ギルドマスターです」

「なるほど!」

 レオが不思議そうな表情をしていることに気付いたのか、ベンヴェヌートはファウストのことを説明してくれた。
 父の代になってからは来ることはなくなっていたが、祖父の代の時は時折ギルドと連携をとっていたということを聞いたことがある。
 ギルマスなら、祖父の代から領主邸で働いていたベンヴェヌートと顔を合わせていても不思議ではない。

「たしか、ディステ領からは撤退したと聞きましたが……、どうしてこちらへ?」

 父のカロージェロとの関係悪化から、数か月前に領内から全ギルドが撤退したという話を聞いていた。
 それによってディステ領は問題が増えているということだが、それはどうでも良いとして、領都のギルマスになった程の人なら他の領地でそれなりのポジションに就いているのではないだろうか。
 そんな人間がここに来る理由が思いつかない。

「他のギルドマスターたちに働けって言われまして……」

「……?」

 ディステ領から撤退したのは完全にファウストの独断的行動だったらしく、他のディステ領内の支店の人たちと違い、ギルドの上の立場の人たちから色々とお叱りを受けたらしい。
 ギルドとしてもその勝手で収入が減ったため、そうなるのも仕方がないことだろう。
 ディステ領から出て、昔のように冒険者として色々と他の領を回ったファウストは、フェリーラ領に流れ着いた。
 そこのギルマスに会って、この島とレオのことを聞いたらしい。
 そして、フラフラしているならギルドの職員として、ギルマスの自分に協力するように言われたそうだ。

「ここに住人がいるなんて話信じられませんでしたが、本当みたいですね……」

 この島に人が住んでいることを知っている人間はそれ程いない。
 ファウストはフェリーラ領のギルマスにここのことを聞いた時、何の冗談かと最初は信じられないでいたそうだ。
 それが、アルヴァロを紹介され、付いてきたことで冒頭に呟いたように本当だと理解したようだ。
 
「アルヴァロから聞いたのですが、何でも人材を探しているとか?」

「えぇ、まぁ……」

 島のみんな(特に船員)には、お酒が欲しいという話を受けていた。
 たしかに何か島の特産などを作らないと、開拓しても人が住んでくれるとは思えない。
 病弱な時に読んだ本からの知識としてお酒の造り方は幾つか覚えているが、どうせなら素人が造る物ではなく専門家によって商品にできるような美味しいものを造ってもらいたい。
 そのため、アルヴァロに酒造業の経験者の勧誘を頼んでいるのだが、ここに来てくれるような人間はなかなか見つからないだろうと考えている。
 それだけでなく、ここの領民になってくれるような人間がいるなら、連れて来てほしいとも思っている。 
 それもやはり同じ理由で難しいだろう。

「人材探しなら私に任せてください。これでも元ギルマスですから……」

「本当ですか? お願いします!」

 ファウストは少し自虐的に言うが、レオとしてはありがたい提案だ。
 アルヴァロに頼んではいるが、人材探しなんてかなり広い人脈がないと難しい。
 漁師から兼業でこの島専属の商人のような仕事をしているアルヴァロでは、人材探しはかなり時間がかかるとアルヴァロ自身が言っていた。
 その点、ファウストはギルマスの経験者。
 冒険者や依頼人などから色々な人脈を持っていても不思議ではない。
 そんな彼が協力してくれるとなると、レオもそうだし、アルヴァロとしても助かる。
 そのため、レオはファウストの提案にすぐさま乗っかるように返事をした。

「優先的に酒造技術のある人材、次に住人の確保ということでよろしいですか?」

「はい!」

 住民を増やすにも開拓はのんびりとしか進んでいない。
 そのため、住民を増やすよりも、今住んでいるみんなにここでの暮らしを楽しんでもらいたい。
 彼らの希望で多いのが嗜好品となるお酒の製造だ。
 酒造専門家に来てもらえれば、きっとみんな喜んでくれるはずだ。
 ファウストの確認に、レオは大きく頷いた。

「アルヴァロと共に毎週報告に来るつもりなので、その時に状況報告をさせてもらいたいと思います」

「分かりました!」

 人材を探すにしても、この島にいる訳にもいかない。
 そのため、ファウストはフェリーラ領で動いてくれるらしい。
 一応ギルドへの依頼という形になるため依頼料を取られるようだが、魔法の指輪の料金の返済同様、この島で得た魔物の素材の売却額から引かれることになった。
 この島では資金を得ても使うこともないので、特に問題ではない。

「そのうち、ここにギルドが置けたらいいですね!」

 ギルドがあるのは、都市としては1つのステータスだ。
 ギルドとしても利益があると見込めるからギルド施設を置くので、冒険者や商人たちも利益を見越して集まってくるようになる。
 多くの人が集まることで、更なる発展が見込めるようになるため、ギルドのない地の領主になった者としては、当然の目標になっている。
 レオもいつかはという思いをしていても不思議ではない。

「その時は俺をギルマスに置いてもらえますか?」

「ハハ……いいですよ!」

 ギルドの支店が置けるにしても、相当先の話だとここにいる人間は誰もが思っている。
 そのため、ファウストは冗談を言うかのように言ってきた。
 父の領地からギルドを撤退させた人間が、見捨てられた息子の領地のギルマスになるなんて、完全に当てつけだと言って良い。
 世間の誰もがそう見ることだろう。
 そうなったらレオとしても面白いと思え、あっさりとファウストの冗談に返事をしたのだった。

「レオ! 防壁の進展具合を見に行くんだろ?」

「はい!」

「じゃあ、俺たちも付いて行く」

「ありがとうございます」

 魔物が多いと言われているこの島で、安全地帯を作るためにレオは防壁の作成を始めた。
 とは言っても、作っているのはレオのスキルによって動く人形たちに任せているので、レオが直接作っているとは言いにくい。
 レオ本人はいつものように普通の生活をのんびり送っているだけだからだ。
 その防壁がどれほど進展しているかを確認するため、レオは作業をしている人形たちの所へ向かうことにした。
 ロイたちが護衛代わりに付いてくれるのだが、念のためとドナートとヴィートが付いてきてくれることになった。
 槍術が得意な2人が付いてきてくれるならレオとしてもありがたいため、お願いすることにした。

「オーガを倒したからか、ゴブリンは出なくなったみたいだな……」

「そうみたいですね」

 防壁を造り、ロイたちが内部の魔物を狩っているので、レオたちの前に現れる魔物の数は以前と比べると激減した。
 ドナートが言うように、特にゴブリンは全く出なくなったことを考えると、やっぱりこの3人で巣を駆除したのが良かったのかもしれない。
 たまに見かけるのも弱小の魔物ばかりで、すぐにロイが始末しているので足止めされるようなこともない。
 警戒はしつつも、3人はたいして時間もかからず防壁を造っている場所へと辿り着いた。

「ご苦労様! グラド、ガンデ」

“ペコッ!”

 2mくらいの身長で、両腕が極端に太くて長い人形が、レオの声に反応して頭を下げる。
 防壁を造るためにレオが作り、グラドとガンデと名付けた人形たちだ。
 石を盛り、土を集めて固め、更に魔法で強固にした分厚い壁がかなりの距離出来ている。
 オーガでもそう簡単に壊すことはできないだろう。

「もうすぐできそうだな……」

「ロイたちも協力してくれているので速いですね!」

 思っていた以上に強固な防壁に、ドナートたちは内心驚いている。
 魔物を狩る人形のロイたちも石や土を集めるのに協力したのもあって、思っていたよりも進展が速い。
 このままだと、あと10日もしないうちにできるのではないだろうか。 

「引き続きよろしくね!」

“コクッ!”

 満足いく防壁が造られていっていることに満足したレオは、グラドとガンデにこのまま続けてもらうことを頼み、住居の方へ戻っていった。
 ドナートとヴィートは魔物が出ないので暇そうにしていたが、それだけ防壁内は安全だということになる。
 まだ少し開拓しただけだが、このまま少しずつ領地を広げていければいいなと思うレオだった。





「このお茶美味しいです」

 住宅地へ戻ったレオは、現在エレナと共にお茶を飲んでいた。
 エレナが飲んでいるのは、レオがある植物から作ったお手製のお茶だ。
 あまり飲んだことのないお茶に、エレナは楽しんでいるようだ。
 レオたちが住んでいるヴァティーク王国では紅茶を飲むことが多く、緑色したお茶は珍しい。
 ハーブティーも似た色をしているが、それとは違う香りと味に新鮮な驚きを感じている。

「遠く離れた西の方の国のもので、竹の葉から作ったお茶だよ」

「へぇ~……」

 本から色々な知識を得ていたレオは、竹林があったので葉っぱからお茶を作ることにした。
 ヴァティーク王国のある大陸から、海を西へかなりの距離進んだところにある島国で飲まれているお茶の一種だということだ。

「竹は色々なことに使えるからありがたいよね!」

「えぇ!」

 島の女性は、エレナについてきた使用人たちの家族だ。
 魔物の毛から織物をしたりしているのだが、竹林を見つけてからは竹細工もするようになっている。
 住民の家の一部にも使われていたりと、何かと利用価値の高い竹が生えていたのはとてもありがたい。

「竹林があるからいくらでも作れるよ」

「今度は私も作ってみます」

 住民の女性たちに混じって、エレナも竹細工の作業を手伝ったりしているのだが、休憩時間に何かリラックスできるものがないかと考えていた。
 そのため、竹の葉特有の香りがするこのお茶はかなり気に入った。
 そんなに遠くないので、エレナ1人でも竹林で葉を集めるくらい平気だろう。
 セバスティアーノからエレナが紅茶好きだと聞いていたので、代わりになるものをと思って作ることにしたのだが、どうやら成功したようだ。

「レオさんはその国がお好きなようですね?」

「うん! 大和皇国って言う名前の面白い国だよ。母さんの故郷なんだ!」

「……そうなんですか」

 レオがその国のことを知るようになった理由は、単純に母の故郷がどんな国なのか知りたいと思ったからだ。
 遠く離れた国のためあまり多くの本はないはずだが、ベンヴェヌートが頑張って探してくれたらしく、何度も読み返したレオはその国のことをかなり詳しくなっている。
 レオの母は幼少期に亡くしていると聞いていたので、エレナは少し複雑な思いになった。
 しかし、レオはそのことは気にしていないかのように話すため、エレナもあまり気にしないことにした。

「今作っているショーユというのもその国のものでしたよね?」

「そう! 色々な料理に使える調味料だって話だよ」

 料理をするようになったことから、レオは調味料も何か作れないかと考えた。
 その時、思いついたのが大和皇国の調味料だ。
 その中にショーユという調味料が万能だという話なので、アルヴァロに頼んで材料を集め、実験的にそのショーユを作ってみることにした。
 成功したら、この島で材料となる大豆や小麦を作る量を増やすつもりだ。

「ショーユで思い出したけど、大和皇国では海の魚を生で食べるらしいよ」

「えっ! 生でですか!?」

「うん!」

 ヴァティーク王国では基本的に、魚は熱を加えてから食べる物だとされている。
 そのため、エレナも驚いたように生で食べるということが信じられない。
 そんなことをして、お腹を壊したりしないのか疑問に思える。

「生魚を食べる時、ショーユをちょっとつけると美味しいらしいよ! ショーユが上手くできたら試してみよう!」

「はい! 楽しみです!」

 レオの話す大和皇国のことが面白く、エレナも試してみたくなった。
 そのため、レオの誘いにすぐに返事をした。
 ショーユができるまでまだ先なのに、2人は完成するのを心待ちにするようになっていた。

「ニャ!!」

「うん! クオーレにも食べさせてあげるからね!」

 2人がショーユの話をしていると、側にいた闇猫のクオーレが自分も混ぜてと言うかのように鳴き声を上げた。
 エレナだけでなく、レオは美味しいものをみんなに味わってもらいたい。
 もちろんクオーレにも食べてもらいたため、食べさせることを約束した。

「でも、クオーレはショーユとか関係なくお魚が食べたいだけかな?」

「ニャ!!」

「フフフ……」

 レオとエレナはショーユが楽しみなのだが、魚好きのクオーレは生魚という言葉に反応したのではないかと思った。
 そのことをレオが尋ねると、クオーレは「お魚!」と言うかのように声をあげた。
 レオが思った通り、クオーレはショーユよりも魚が食べたいだけのようだ。
 食いしん坊なクオーレにおかしくなってしまい、エレナは思わず笑ってしまった。

「しょうがないな……。明日釣りに行くから今日は我慢してね」

「ニャ!!」

 海が近いので、多くの住民が暇つぶしがてら釣りを良くする。
 そのため、魚料理はちょくちょく出ているのだが、クオーレは毎日でも食べたいのだろう。
 そんなクオーレのために、レオは明日釣りに行くことを約束して今日の所は我慢してもらうことにした。