捨てられ貴族の無人島のびのび開拓記〜ようやく自由を手に入れたので、もふもふたちと気まぐれスローライフを満喫します~

「置くというのは、ここに住むということでしょうか?」

「えぇ……」

 ガイオとセバスティアーノによるいきなりの提案に、レオは固まってしまう。
 彼らが何かを隠しているということは、やり取りを見ていてなんとなくだが察している。
 しかし、レオとしてはそれを追求するつもりはなかった。
 どこかへ向かう予定のようだし、ガイオが大丈夫そうなら1、2日程度したら見送るつもりでいた。

「ダメだろうか?」

「どこか向かう予定だったのでは?」

 そのうち領民を迎えるつもりでいたが、家の周辺以外の開拓には全くと言っていいほど着手していない。
 弱いと言っても、ここですら多くの魔物が寄って来るというのに、まだ誰かを住まわせるというのは不安が残る。
 それに、彼らはどこかへ向かう予定で台風に巻き込まれたと言っていた。
 それがどこかは分からないが、ここではないことは確実だ。

「我々はディステ領へ向かう予定でした」

「ディステ領……」

 彼らがどこかへ向かうにしてもまさかの行き先に、レオは僅かに眉を動かして反応してしまう。
 はっきり言って、レオからするとあまり聞きたくない領地名だ。
 父はこの島を与えることで自分との繋がりを切ったつもりなのだろうが、レオからするととてもありがたいことだった。
 父は自分を部屋に閉じ込め、兄たちは顔を合わせれば罵詈雑言を浴びせてきた。
 レオの中でも成人すれば関係を断ち切れると思っていたところで、島へ行くように命じられた。
 危険な島だという話だが、ここでの暮らしは思ったよりも快適だ。
 すぐに死ぬと思って送ったのなら、ざまあみろと言いたいところだ。

「……それは何故?」

 彼らがディステ領へ行くとなると、何かしら関わりがあるのかもしれない。
 元(・)ディステ家の人間としては、行く理由が気になる

「エレナ……お嬢様をお救いするためです」

「お嬢様……」

 周りの反応を見ていて、レオはエレナが普通の女の子だとは思っていなかった。
 バレないようにみんな呼び捨てにしていたが、お嬢様という言葉が出て案の定という思いがある。
 しかし、エレナを救うためというのは穏やかではない。
 どうやら思っていた以上に重い理由がありそうだ。

「エレナお嬢様はルイゼン伯爵家の前御当主の御子様です」

「南端の……?」

「左様です」

 ルイゼン領は、ヴァティーク王国の南端に位置する領地でフェリーラ領の南にある。
 北以外は周囲を海に囲まれており、水産物で生計を立てている領地だ。
 それ以外は特に変な噂は無く、領主の娘が逃げなきゃならないようなことはないはずだ。

「んっ? 前(・)?」

「はい。前領主である御父君が急死なさり、エレナ様が成人するまで叔父君が後見人をおこなうということになりました。しかし、御父君の死には些か疑問が残っておりまして……」

「もしかして……」

「えぇ、その叔父のムツィオが疑わしいのです」

 エレナと話した時、もうすぐ成人すると言っていた。
 レオが実家を出るまでルイゼン家の領主が亡くなったという話は聞いていないので、亡くなったのはごく最近ということになる。
 成人までの後見人を置くにしても、たった数ヶ月の誤差ならエレナに任せてしまっても構わないのではないだろうか。
 話の流れを聞いていると、なんとなく容疑者が予想できてきた。
 レオが考えた予想通り、セバスティアーノは答えを教えてくれた。

「後見人になってすぐ、ムツィオは領地の税を上げ、エレナ様がなるはずのルイゼン家次期当主を息子にすると言い出しました」

「最初からそれが狙いですかね?」

「恐らく……」

 エレナの父が亡くなったのがきっかけになったのかは分からないが、あまりにもあからさま過ぎるおこないだ。
 後見人になったのはそのためだったというのが、誰の目にも明らかだ。
 そうなると、エレナの父の死も疑わしく思えるのも納得だ。

「死の真相はもはや分からず、このままではお嬢様に危険が及ぶと判断して海へ逃れました」

 亡くなってしばらくしてから疑い出しても、証拠も処理されてしまったのだろう。
 結局死の真相も掴めなかったようだ。
 疑惑が本当だとすると、エレナのことが気にかかる。
 ムツィオからするとエレナは邪魔な存在だ。
 どこかへ嫁に出すということも考えられるが、最悪の場合始末されるという可能性があるため、逃げるのは正しい選択かもしれない。

「何度か暗殺者を送って来たことからも、ムツィオの犯行は確実だとは思いますが、その暗殺者も何も言わずに自決してしまい証拠にはなり得ず、仲の良いガイオに助けを求めて北へと向かうことにしました」

 ルイゼン領からだと、国内どこへ逃げるにしても北へ向かうしかない。
 しかし、陸路の場合、領境を待ち伏せすれば容易に捕縛が可能になる。
 そのため、ガイオの協力を得て海路で北へ向かうことにしたそうだ。
 そこへ行くまでも暗殺されかけたがセバスティアーノが返り討ちにし、何とか海へ出たらしい。
 礼儀正しい中年の男性という印象で、とても戦闘が得意には見えないが、セバスティアーノはかなりの実力者のようだ。

「海へ逃れても追っ手が来ていたので、台風にわざと突っ込むようにして何とか撒くことができました」

「なるほど……」

 普通に逃げたのではいつまでも追って来る。
 ならば、自然に巻き込まれたと思わせて逃げるとは考えたものだが、台風に巻き込まれるなんて随分と思い切ったことをしたものだ。

「俺が無様に海へ落っこちちまったがな……」

「それは、エレナ様を助けたことだ。恥でもなんでもない」

 再会した時にレオがいない所でも話したが、この2人のやり取りはレオにとっては初めて聞いたこと。
 台風に突っ込めるのだから、操舵技術が下手なわけがない。
 しかし、落ちたとなると何かしらのトラブルに遇ったのだと思ったが、ガイオの落ちた理由がなんとなく分かった気がする。

「行き先としていたディステも、もしかしたら気付かれているかもしれません。エレナ様には申し訳ありませんが、このまま死んだと思わせておく方が良いかもしれません」

「確かにここにいるなんて分からないかもしれないですね……」

 生きていると知られると、追っ手を向けられる。
 ならば、死んだと思わせて、反撃の機会を窺うという考えがガイオやセバスティアーノにはあるのかもしれない。
 ここに人が住んでいるなんて知っている人間もいないため、好都合なのかもしれない。

「元々はディステ家の前当主とエレナ様の御爺様の仲が良かったので救いを求めるつもりでしたが、ディステ家も最近良い噂を聞かないですし……」

「ギルドに見捨てられた領地らしいからな……」

「へぇ~……、そうなんですか……」

 実家のことはもうどうでも良いし、そもそもここにいたら情報が入って来ない。
 そのため知らなかったが、どうやらディステ領も何か問題が起きているようだ。
 内心『ざまあ』という思いもしないでもない。 

「いかがでしょう? 置いて頂けないでしょうか?」

「いいですよ。縁もあるようですし……」

「縁?」

 元々領地を開拓したら人を集めるつもりではいたが、その内という考えでしかなかった。
 この島のことを知っている人間なら、お金を出しても来てくれないだろう。
 それがあっさり解決できるのだから断る理由がない。
 話し的に縁もあるし、レオはその頼みを受け入れることにした。
 レオのことは良く知らない2人は、縁と言われて首を傾げる。
 
「僕の名前は元(・)レオポルド・ディ・ディステ」

「ディステ家の三男だった(・・・)者です」

 縁の意味を話すために、レオは改めて自己紹介した。
 ワザと過去のことだということを強調して。

「レオポルド様! これからよろしくお願いします!」

「敬語はいらないし、爵位もないから、レオでいいですよ」

 この島に住まわせてほしいとガイオとセバスティアーノから頼まれ、レオは受け入れることを決定した。
 翌日、エレナが代表として頭を下げてきた。
 一応領主と言ってもレオには爵位がないため、あまり畏まられても困ってしまう。
 そのため、レオはもっとフランクに接してくれるように頼んだ。

「でしたら、私もエレナでお願いします」

「分かったよ。エレナ」

 エレナも叔父のムツィオから追っ手を送られるようなことになりたくはないので、世間的には死んだように見せたい。
 そうなると、爵位がないも同然のため、レオと同じく特別扱いはしてほしくない。
 その思いを受け、お互い敬称を付けないで呼び合うことにした。

「ここで暮らすとなると、みんなの家が必要だね」

 総勢25人が住むにしても、今のままテント暮らしはあり得ない。
 まずは雨風凌げて、全員が入って寝泊まりできるところを用意しないといけない。
 そのため、レオはまずは大きな建物を1軒建てることにした。

「人手がいるなら力仕事は男共もいるし、造船の技術を持った彼らを使ってくれていいぞ?」

「それは助かります!」

 みんなのための建物を建てることを告げると、ガイオが男性陣を使って良いと言ってくれた。
 とりあえずとは言っても自分たちが寝床にする場所のため、みんな協力する気満々だ。
 ガイオは足が折れているので、細かい手作業を手伝ってくれるらしい。
 レオが住んでいる家よりも大きな建物を作らないといけないので、人手は多い方が良い。
 みんなの協力はありがたい。

「でも、魔物の出現にも気を付けないといけないし、数人は警備に回すか?」

「大丈夫ですよ」

「えっ?」

 レオが1人で住んでいるのだから、危険な魔物が出る可能性は低いとは思えるが、建築中に突然魔物が現れたら対応に戸惑うかもしれない。
 魔物が来た時のために、戦う人間を用意することをガイオに提案された。
 しかし、レオはその提案に対し、笑顔で断った。
 魔物への対策なしにどうするつもりなのか、ガイオだけでなくみんな首を傾げる。

「ロイ! オル! ラグ! ドナ!」

「……?」

 急に森の方向に向かって声を出すレオに、男性陣だけでなく洗濯や編み物をしていた女性陣も首を傾げた。

“ガサガサ……!!”

「何だ!? 魔物か?」

 レオが声を出して少しすると、森の中から4体の人形が姿を現した。
 それを見たみんなは、魔物の出現かと思い慌てて身構えた。

「ごめんね。昨日はずっと外に居させて」

 その人形がレオに近付くと、片膝をついて頭を下げてきた。
 ロイたちには悪いが、昨日は色々あって森の中で過ごしてもらったため、レオは4体の頭を順番に撫でていき、軽く謝罪の言葉をかける。
 現れた4体はレオのスキルで動いている人形。
 昨日のうちは、みんなすぐに出て行ってしまうのだからと、レオは自分のスキルを教えるつもりはなかった。
 しかし、ここに住んでくれるとなると教えておかないと、さっきの反応のように魔物と間違えて攻撃されてしまうかもしれない。
 そのため、レオはロイたちのことを教えることにした。

「レオ。その人形は魔物ではないのか?」

「違います。僕のスキルで動く人形たちです」

 レオの行動で魔物ではないのは分かるが、どうして人形が動いているのか分からない。
 そのため、ガイオはロイたちのことを指差してレオに問いかける。
 それに対し、レオはみんなに伝えるように、ロイたちのことを説明した。

「人形操作……聞いたことないスキルだな……」

「今住んでいる家もこの能力を使ったので簡単でした」

 レオからスキル名を聞いても、ガイオはピンと来ていない様子で、不思議そうにロイたちのことを見つめた。
 結構精密な人形に見えるが、どうして動いているのかよく分からない。
 それがスキルによるものなのだろうと分かるが、そのスキル自体が聞いたことがないため、なんとなく不思議な気分が拭えない。
 しかし、この能力があるからこそ、レオが1人で暮らせているのだろうと考えるようになった。

「みんな引き続き魔物の警戒をお願い」

“コクッ!”

 彼らがいるので魔物への対応はひとまず安心だということをみんなに伝え、ロイたちにはまた魔物への対応をお願いした。
 レオの指示に頷き、また森の中へ向かって行ったロイたちの背を眺め、みんなは鳩が豆鉄砲を食ったように茫然としていた。

「…………」「…………」

 みんなが茫然としている中、ガイオとセバスティアーノだけは、お互いの目を見合わせ、同じような考えに至っていた。
 何か思う所があるようだが、レオが2人のことに気付くことはなかった。





「樹を切ってもすぐには使えないので、魔法が使える人は乾燥をさせてもらえませんか?」

「了解!」

 ロイたちのことを紹介したレオは、早速建物の建設作業へと移ることにした。
 今回はロイたちの協力がなくても、作業を手伝ってくれる人たちがいる。
 まずは何人かに樹を切り倒す役を任せ、その後倒した樹を乾燥させる役を数人に任せることにした。
 魔物への対応はそこまで心配しなくてもいいということから、多くの男性が投入され、かなりの速さで樹が切り倒されて乾燥されていった。 

「乾燥させたのを細工するとなると、人手が必要だな」

「大丈夫です」

「……?」

 レオの設計通りに作るとなると、釘がないので木材に加工を施さなくてはならなくなる。
 造船の技術を持っているのはそれほど多くなく、かといって細かい作業が得意な人間は多くない。
 そうなると人手が足らないように思えたガイオは、女性陣にも手伝ってもらおうかと思った。
 しかし、女性陣に声をかける前に、考えがあるかのようにレオがストップをかけた。
 何をするか分からないが、ガイオはレオがすることを黙って見守ることにした。

「スキル!」

「っ!! こんな小さい人形も動かせるのか?」

「えぇ!」

 まだ何か策があるのかと思って見つめているガイオの前で、レオはポケットや魔法の指輪から布で出来た人形を出し、魔力を流してスキルを発動させた。
 小さな人形が動き出し、建設用の木へ細工を開始したのを見て、ガイオは驚きの声をあげた。
 多くの人形を動かしたが、そんなことをして魔力がもつのかと思ったが、小さい分少ない魔力で動かせるということを聞いて、ひとまず納得していた。

「彼らに手分けして細かい作業をしてもらいます」

「かなりの速さだな……」

 人の手でも出来る作業だが、細かい分時間がかかる。
 しかし、そう言った細かい作業が得意な布人形たちは、せっせと木材への加工を施していった。
 多くの作業が一気に進んで行き、力自慢の人たちには布人形たちが加工した木材を運んでもらい、造船の技術のある人たちには組み立てる作業をおこなうことを頼んだ。
 時間がかかる作業が省略されたことで、一気に建物の建設は進んで行った。
 布人形の何体かは、作業が終わるとそのチョコチョコした動きが可愛らしいと、エレナや女性たちに捕まっていた。
 元々は可愛らしい系統の人形を作っていたので、女性が反応するのも分からなくない。
 喜んでもらえているのなら、しばらくはそのまま女性たちに楽しんでもらうことにした。

「完成!!」

「これが1日で出来るなんて……」

「皆さんの協力のお陰です!」

 木製人形を作る用の木材があったとは言っても、レオの家の数倍の大きさの家が仕上がった。
男女に部屋を分けただけの家だが、みんな嬉しい気持ちと共にあっさりと出来てしまったことへの不思議な気持ちが入り混じっていた。
 そんななか、みんなで作業をすることの楽しさを味わったレオは、とてもいい笑顔でみんなへの感謝を伝えた。

「見たか? あのスキル……」

「えぇ……」

 島に住むことになったみんなが、ひとまず寝泊まりする場所として大きな建物を建てた日の夜。
 ガイオとセバスティアーノは、2人だけで海岸へと来ていた。
 レオたちの住居から近いとは言っても、夜行性の魔物が出ることを考えると危険な行為だ。
 しかし、2人にしたらそんな風には思っていない。
 2人とも武術の心得があるからだ。
 ガイオは片足折れていようと身を守るくらいはできると思っているし、セバスティアーノは余程のことがない限り大丈夫だと思っているのだろう。
 この海岸に来た理由は他の者に聞かれずに話をするためだ。
 目を合わせたので分かっていることとは理解しつつも、着いて早々にガイオは話のきっかけとして今朝のことを話し始めた。

「あれは使い方次第でとんでもないことになりますね」

 今朝のスキル、つまりはレオのスキルのことだ。
 ガイオに聞かれたセバスティアーノは、あの能力を見た時の衝撃を思いだしていた。
 人形を操る能力なんて聞いたことがない。
 しかし、その能力は利用方法次第でとんでもないことができることに、2人は思い至っていた。
 そのため、今朝無言で目を合わせたのだ。

「あの能力次第では、一人で軍隊を相手にできるかもしれません」

 セバスティアーノの言葉通り、ガイオも同じことに思い至って鳥肌が立つ思いがした。
 スキルによって動き出した人形たちは、主人の命に従ってほとんどオートで動いてくれる。
 魔物とも戦えるのだから、相手が人間でも戦えるはず。
 しかもその人形が倒されても所詮は人形のため、レオは魔力を消費しただけで何の痛手も受けることはない。
 もしも、戦争などに関わった場合、大量の人形を動かして巨大な戦果を挙げることができるだろう。
 それだけの力を有しているのも同然と言って良い。

「本人は気付いていると思うか?」

「わずかな時間での感想ですが、レオ殿は聡明なお方のように思えます。恐らくその一端は気付いているのではないかと……」

 そもそも、動かせると言っても所詮は人形、それを使って魔物と戦わせるという発想を思いついたくらいなのだから、魔物ではなくて人を相手にしても戦えるということくらいはすぐに思いつくはず。
 それでなくても建築や野菜の栽培技術、それに料理などと色々な面で博識の一端が窺えた。
 スキルを戦闘に使った場合のことも考えていると思われる。

「こんな島に一人で無事に暮らしているくらいだからな」

 魔物が跋扈する地であの能力。
 恐らく、危険な魔物が出た時の考えも何か持っているはず。

「しかし、野心のようなものもないように思えます」

「あぁ、あの力を上手く使えばこんな所に居なくてもいいだろうに」

「むしろここでの生活を楽しんでいるようでしたな……」

 レオの話では、成人を機に家から追い出されたという話だが、そのディステ家への報復を考えているようには思えない。
 みんなで色々な作業をおこなっている時、レオはとても無邪気な笑顔で楽しんでいるようだった。
 まだ短い付き合いなので何とも言えないが、とても何か報復を考えているようなものには見えなかった。
 そのレオの笑顔だけを見ると、自分たちも純粋な子供の頃を思い出してしまう。
 子供の頃とは言っても、2人ともそれほど良い思い出ではないが……。

「エレナ嬢には危険かとも思えたが、もしかしたらここに来たことはフラヴィオ様とグイド様の導きかもしれないな」

「えぇ……」

 フラヴィオとはレオの祖父と仲の良かったエレナの祖父で、グイドはエレナの父だ。
 幼少期に火事で家族を失ったガイオとセバスティアーノ。
 孤児になり盗みをしてでも生き残っていた2人を引き取って、成人になるまで育てた恩人がフラヴィオで、兄のように接してくれていたのがグイドだ。
 2人からしたら、証拠はないとはいえグイドを殺した可能性のあるムツィオのことが許せない。
 しかし、報復に出るにも人も力も全く足りない。
 それよりも残されたエレナの身を守り抜くことが最優先だ。
 逃れた先がレオの下というのは、2人の恩人の導きに思えてしまう。
 ここなら追っ手を送られることもないだろうし、レオ次第で報復することも可能かもしれないからだ。

「報復の機会は来ないかもしれないし、来ても相当先の事だろうがな……」

「私としては、エレナ様が無事ならそれは後々で結構です」

「……そうか」

 昔からの仲であるガイオとセバスティアーノはエレナの身の安全優先だが、少しだけ思いが違う。
 ムツィオへの報復を考えているガイオと違い、セバスティアーノはエレナさえ無事ならそこまで報復にこだわるつもりはない。
 恩人のために報復したいという気持ちと、恩人のためにエレナを守り抜くという、どちらも恩人の2人のことを思っての違いだ。

「しばらくはレオを手助けしているしかないか……」

「その前にあなたは足を治すことに専念しなさい」

「尤もだ……」

 今はこの地でエレナと共に過ごして行くしかない。
 はっきり言って、レオの能力があるからと言ってこの島がまだ安全と思っている訳ではない。
 レオの開拓に協力をして、少しずつ安全地帯を広げていくのが確実な手だろう。
 その開拓に武力的な意味で一番力になれそうなのがガイオだ。
 そのため、セバスティアーノから正論をいわれ、ガイオは頷くしかなかった。





◆◆◆◆◆

「皆さんの家を建てるためにも、畑を作るためにも開拓を始めようかと思います」

「……たしかに」

 ガイオの船には、エレナと共に逃げてきたルイゼン家の使用人とその家族たちがいる。
 彼らのためにも家族用の家を建てるつもりだが、昨日のようにそこまで慌てて建てる必要もない。
 建てるにしても、畑を耕すにも、そもそもそんなに土地がない。
 これからの食料を考えて畑の拡張もするにしても、開拓を始めて土地を広げる必要が出てきた。
 昨日のセバスティアーノとの話し合いで、元々開拓を進めるつもりだったガイオだったが、レオから言い出してくれたことで、内心手間が省けたという思いがした。
 
「えぇ、人も増えたことですし、まずは周囲を調べてみようかと……」

「人形や闇猫がいると言っても1人で行く気か? 危険じゃないか?」

 レオの側には闇猫のクオーレと、スキルで動いている木製人形のロイとオルがいる。
 闇猫も戦力になるが、夜に本領を発揮する魔物だ。
 日が明るい時間でも戦えるだろうが、人形たちの強さもまだ分かっていないので、ガイオとしてはレオの身が心配になって来る。

「ドナートとヴィートを連れて行ってくれ。あいつらは槍術のスキル持ちだから役に立つはずだ」

「へぇ~、すごいですね!」

 槍術のスキルは、剣術のスキル同様に戦闘をする人間にとっては人気のスキルだ。
 魔物を相手にすることになった場合、ドナートとヴィート(2人は兄弟らしい)がそのスキルを持っているのは心強い。
 ガイオの言葉に甘えて2人も連れて行くことにした。

「では、行ってきます!」

「シャアー!」「よしっ!」

 ガイオに言われたら断るつもりのないドナートたちは、あっさりとレオについて行くことを受け入れた。
 主武器となる槍と腰に短剣を装備した2人は、魔物の出る森の中へ入って行くことへためらうどころか気合いが入っているようだ。
 特に血の気の多いドナートは、1人で突っ走っていきそうなほどだ。
 流石にそんなことしないとは思うが、レオは少しだけ不安に思ってしまう。

「気を付けて……」

「そんなに深くまで行かないから大丈夫だよ」

 エレナが不安そうに心配する言葉に返答し、レオたちは森の中へと入って行ったのだった。

「薬草が一杯生えていますね!」

 ロイとオルを先頭にドナートとヴィートを連れて森へと入ったレオだが、入ってすぐに足を止めることになった。
 家の周りにも生えているのだが、誰も採取する人間がいないからか、森の中には薬草がかなり自生していた。
 余るくらいに取っておいても丁度良いくらいだ。
 人は増えたが、医者がいないので回復薬を作って置く必要があるため、レオは薬草の採取を始めた。

「野草も生えていますね。揚げ物にすると美味しいんですよ」

 薬草だけでなく、色々な野草まで生えている。
 食用の魔物の肉は結構な量あるが、野菜などは少ないためこれから育てるしかない。
 野菜が育つまで肉ばかりではさすがに飽きるだろうと思い、レオは野草の採取も始めた。

「全然先へ進めねえな……」

「あぁ……」

 護衛代わりについてきたドナートとヴィートだが、レオがさっきから草ばかり採取して全然進まないことで暇そうに話していた。
 みんなが暮らしている所からそれ程離れていないところでこんなことしていても、全く調査にならないと思える。
 レオが採取しているのを立って見ているだけの2人からしたら、暇に思うのも当然だろう。

“ガサッ!!”

「「っ!!」」

 暇そうにとしていたとはいっても、当然魔物への警戒は怠っていない。
 少し離れた所で物音がし、2人はすぐにそちらへ向けて持っている槍を構えた。

「ゴブリン!!」

 音のした方へ目を向けると、そこには緑色した醜悪な顔をした小鬼が目に入った。
 その魔物も、同じタイミングでこちらに気付き、ヴィートが魔物の名前を言った時にはこちらへ走り出していた。

「ゲギャッ!?」

“ズバッ!!”

 しかし、ゴブリンの攻撃がレオたちに届く前に、剣を装備したロイがゴブリンの横から斬りかかる。
 人形だから気配を感じなかったのか、いつの間にか死角に回られたことに気付かず、ゴブリンは首を斬られて出血して絶命した。
 ゴブリンが動かなくなると、ロイはすぐに魔石の回収に動き出した。

「すごいな……」

「確かに……」

 ゴブリンは小さいうえに頭もそれほど良くないため、武器を持った普通の大人なら冷静に対処すれば倒せる魔物だ。
 とは言っても、かなりあっさりとロイが倒してしまったことに、ドナートとヴィートは呆気にとられていた。
 魔物の相手ができるとは聞いていたが、思った以上にロイたち人形の動きがいい。
 ゴブリンの相手をしている中、レオなんか一瞥しただけで、すぐさま薬草採取をし始めていた。
 それだけの実力があると分かっている行動だ。
 何だか身構えた自分たちの方が恥ずかしい気がしてきたくらいだ。

「護衛に来た意味がない気がしてきたな……」

「薬草採取を手伝うか?」

「そうだな……」

 ロイたちの動きを見ていると、確かにある程度の魔物なら任せておいて大丈夫そうだ。
 自分たちまで守られている気がしてきたドナートとヴィートは、何もすることがないのでレオ同様に薬草と野草の採取を手伝うことにした。





「これだけあれば、ひとまずいいかな……」

 ロイが倒したゴブリンの魔石と共に、レオは薬草や野草を魔法の指輪に収納した。
 結構な量を採取しても薬草はまだかなり生えている。
 しかし、もう多くの回復薬を作れるだけの採取が済んだので、ひとまず薬草採取を終了することにした。

「海沿いに向かいましょう!」

「……何でだ?」

 何もしないでいるよりも歩いて足を動かしていることの方が気分的に楽だが、海沿いに行って何の調査をするのか気になったドナートは、その理由を尋ねた。

「みなさんの船を置けるところがないかと思いまして……」

 レオが海沿いを確認する目的は、みんなが乗って来た船を、今のまま海上に停泊させておく訳にはいかないからだ。
 台風による高波を受けたことにより、船にはあちこち破損した箇所がある。
 その修復に木材を持って行くにも、小舟で何度も往復しなければならない。
 もしも、また台風が来た場合、沈没してしまうかもしれない。
 それならどこか島の近くで泊められる場所を探して、そこに船を運んで修理した方がスムーズにことが運ぶと思ったからだ。

「船乗りにとって船は大事なものなのでしょう?」

「当然!」

 週1で来てくれる漁師のアルヴァロもそうだが、船を持つには結構な資金がかかる。
 漁船ですら高いのに、それより大きな中型船となるともっと大金がかかっているはずだ。
 このまま海岸に停泊させて沈没することになってしまったら、みんな悔しい思いをするのではないかと思う。
 きっとドナートたちもあの船のことが気になっていると思い問いかけてみると、ドナートはすぐに返事をしてきた。

「整備するにも近ければ魔物の危険も少ないでしょうから、そんな場所がないかとりあえず探して見ましょう!」

「あぁ!」「おう!」

 理想としては、船場は海岸近くに置きたい。
 そうすれば、みんなが住んでいる所に近いからだ。
 なければ人海戦術で作るという考えもあるが、それは最終手段にしておきたい。
 まずレオたちは、船が波で流されたりしないようにできる場所を探すことにした。 

「んっ? おいっ! あれっ!」

「えっ? ……洞窟?」

 崖下を覗き込むようにして覗き込んだドナートが、何かを発見したように声をあげた。
 それに反応したヴィートは、ドナートが指さしたところへ目を向ける。
 すると、そこまで深いようには見えないが、洞窟のような場所があるのを発見した。

「ここなら大型船ですら入るんじゃないか?」

「そうですね! 後はここに船場を作れるか、海底の高さを後日見に行きましょう!」

 洞窟なので雨に晒されることも防げそうだし、縦横の幅を考えると確かに大型船でも入れることができそうだ。
 後は船を操縦して、そのまま入ることができるかということだ。
 海底の高さがあるならそのままここに停泊すれば、船場として十分使えるだろう。
 しかし、崖から飛び降りる訳にもいかないので、後日調べるしかない。
 丁度いい場所があったのを発見したレオは、羊皮紙にメモを取った。

「後は魔物の調査を少しして帰りましょう!」

「了解!」

「分かった!」

 護衛についてきたのだが、結局出てくる魔物はロイとオルが始末してしまう。
 はっきり言って何もしていないも同然でしかなかったが、船場にできそうな場所が発見できたことから、ドナートとヴィートは機嫌が良くなった。
 あの船はガイオが大事にしている船なので、2人はこのまま海上に停泊させておくのは心苦しかった。
 それがちゃんと保全できそうなので、ガイオに良い報告ができると思っているからだ。

「しかし、森の入り口付近とは言ってもかなりの多さだな……」

「ですね……」

 ヴィートの呟きに、レオも同意する。
 調査に出たのだが、レオたちは拠点となる場所からたいして離れていない。
 しかし、薬草を採取している時やさっきの洞窟を発見するまでの間にも魔物が定期的に現れていた。
 出たと言っても弱い魔物ばかりで、ロイとオルがあっという間に倒していた。

「またか?」

「ゲゲ……」

 どんな魔物が出るかカウントしているのだが、多く出てくるのはゴブリンだ。
 また現れたゴブリンに、ドナートは思わず呟いてしまった。

「ゴブリンの集落があるんじゃないか?」

「怖いですね。そんなのがあるなら早急に対処しないといけないですからね……」

 頻繁に出てくるゴブリンを見ていると、ヴィートの言うようにゴブリンの集落でもあるのかと思えてくる。
 1体の強さは弱くても、数が大量になればゴブリンでもかなりの脅威になる。
 そんなのがあるというなら、早々に潰しておかないと、みんなに危険が及ぶかもしれない。
 ヴィートのちょっとした予想のようなものでしかないが、レオは調査する必要アリと羊皮紙にメモをした。

「ところで……」

 調査によっていくつか収穫があったレオたちは、日が暮れる前に拠点へ戻ることにした。
 もう少しでみんなが待つ拠点に着くという所で、レオは疑問に思っていたことを2人に聞くことにした。

「2人は海賊なのですか?」

「「…………」」

 レオからのいきなりの質問に、ドナートとヴィートは思わず無言になり足を止めたのだった。

「……何でそう思うんだ?」

 急に自分たちのことを海賊ではないかと尋ねてきたレオに、ヴィートは質問で返す。
 若干険しい表情をしているのは見抜かれたからなのか、それとも海賊の疑いをかけられて腹を立てているからなのかは分かりづらい。

「この島には噂がありまして……」

「噂……?」

 質問を返されたレオは、どうして彼らを海賊なのではないのかと思うようになったかを答えることにした。
 とは言っても、ただ単純に思っただけのことなので、たいした理由ではない。

「ここは魔物の巣窟と海賊が休息所にしているという噂がありました。船員の皆さんはここに来たことがあるようですし、もしかしたらと思いまして……」

 ガイオも船員の者たちも、ここが魔物の巣窟だということを知っているかのような会話をしていた。
 たしかにその通りなのだが、エレナのいたルイゼン領からはこの島は結構離れている。
 商船が通るにしても近付くこともないため、魔物が多いと知っているというのは、立ち寄ったことのある人間である可能性が高い。
 ここに立ち寄るのは海賊くらいのため、もしかしたら彼らも海賊なのではないかと思ったのだ。

「それだけの情報で海賊だと思ったのか?」

 噂だけでなく、自分たちの会話などからその推理を導き出したことに感心する。
 たしかに、その噂と会話を聞いていたらそう思われても仕方がない。
 そうなると、他にも何か原因がなかったか気になってきたヴィートは、興味からレオに尋ねた。

「いや、失礼ながらみなさん人相が……」

「ハハッ! 確かに人相がいい連中じゃないもんな!!」

 レオが少しためらいがちにもう1つ海賊ではないかと疑うようになった理由を言うと、ドナートは笑い出した。
 そんな単純な理由で海賊だと疑われるとは思ってもいなかったようだ。
 たしかに船員の中に人相の良い人間なんているように思えない。
 レオの言うことも尤もだと思ったらしい。

「その中にはお前も入っているんだぞ?」

「…………」

 笑っているドナートだが、何だか自分のことを抜かして笑っているかのような反応だ。
 それが気になったヴィートは、思わずツッコミを入れる。
 ヴィートのツッコミを受けて、自分で自分のことも人相が悪いと笑っているのと同じだということに気付き、ドナートは笑顔が消えた。

「でも、皆さん海賊っぽくない感じもしますし、どっちなのかな? と思いまして……」

「なるほど……」

 レオとしても、別に彼らを海賊だと断定している訳ではない。
 ただ、もしかしたらという思いから確認をしたかっただけだ。
 そのレオの考えを聞いて、ヴィートは納得したように頷いた。

「レオの最初の質問に答えるなら、俺たちは海賊ではない」

「そうですか。良かったです」

 もしも彼らが海賊で指名手配などでもされているようなら、エレナのことはともかく、国に報告をしないといけないことになっていたかもしれない。
 そうなるとエレナのことも生存もバレるかもしれないため、どうしようか悩ましいことになる所だった。
 海賊ではないとドナートに言われて、レオは安心したように息を吐いた。

「……ただ、一部の者には海賊だと思われているかもしれないな」

「俺たちは海賊狩りをしていたからな」 

「海賊狩り……?」

 安心したレオにドナートが続きを話し、それにヴィートが補足した。
 話を聞いてみると海賊が出たという噂は本当で、それを潰すために彼らが動いていたということだ。
 そのためには海賊だと思われることもしなければならかったために、海賊と思っている人間もいるということらしい。

「ガイオのおやっさんが、お嬢(エレナ)のお父君であるグイド様に依頼されておこなっていたことだ」

「海賊のほとんどを削ったが、グイド様などのこともあってそれどころではなくなったがな……」

 領主であるグイドに依頼されて海賊を狩っていたが、グイドの死からそれどころではなくなった。
 エレナを逃がすことに協力をすることになって、ここに来ることになったらしい。

「やっぱりエレナを守る気持ちは本心だったようですね」

 海賊であろうと海賊でないにしても、彼らがエレナを守ろうとしていることは本気のようにレオの目には映っていた。
 そのため、そんな者たちを国に突き出さなければならないようなことにならなくて、レオは安堵した。

「しかし、どうして海賊かもしれない俺たちに尋ねたんだ?」

「確かに。もしかしたら口封じされるって思わなかったのか?」

 物騒な話だが、確かに2人の言うように、彼らはレオに通報されないように始末するという選択も可能だ。
 所詮一人しか住んでいないので、いなくなっても魔物に殺られたことにでもしてしまえば証拠も隠滅できる。
 2人が殺意を持っていれば、そうなっていてもおかしくなかった。

「みんなを見た中で、戦闘力で1番危険なのはガイオさんとセバスティアーノさんです。しかし、ガイオさんは骨折しているし、セバスティアーノさんはエレナを守る事優先でそんなことをしてくるとは思えません」

 こんな所に住んでいるのだから、レオ自身でも魔物を倒したりすることもある。
 少ない経験ながら、危険そうな人間はなんとなくだが分かるつもりだ。
 その中で、直感的に危険なのはガイオとセバスティアーノだとレオは判断していた。
 その2人は今の所にレオを襲って来るとは思えないが、もしものことを考えて他の人間に聞いてみることにしたのだ。

「……俺たちなら勝てるって言いてえのか?」

「いえ、いえ! でも、逃げるくらいはできると思いました」

「そうか……」

 たしかにガイオやセバスティアーノに比べれば弱いかもしれないが、自分たち兄弟は強さでは2人の次の位置にいると思っている。
 襲われても大丈夫そうな人間に聞いてきたのかと思い、舐められていると思ったドナートは眉間にシワを寄せた。
 ドナートの気を悪くしてしまったようになってしまい、レオは誤解を解くように否定した。
 その否定を受けて、ドナートとヴィートは怒りを鎮めた。

「それに、ガイオさんに人形の強さを見ておくように言われませんでした? 2人に勝てるとは思わないでしょ?」

「「…………」」

 レオの言葉にまたもドナートたちはまたも固まる。
 たしかに、出発前にガイオからレオの人形の強さを見ておくように耳打ちされた。
 しかし、それがレオに聞かれたということはないはず。
 それなのに、そのことを当てられて、改めてレオの推察力に目を見張った。

「分かっていて人形の強さを見せたのか?」

「えぇ、まぁ……」

 能力を知られるのは、対処法を考える機会を与えてしまうことになる。
 さっきも言ったように襲われでもしたら、逃げることも出来なくなるかもしれない。
 それでも見せたということは、レオには何か逃げきれるだけの自信があるということになる。

「何かまだ隠しているということか?」

「……2人を信用しても、さすがにそれを今教える訳にはいきません」

「そりゃそうだ」

 逃げ切る自信となる能力はたしかに持っているが、レオにとっては奥の手なのでそれは秘密だ。
 信用している人間にですらまだ教えるつもりはない。
 ドナートやヴィートも仲間以外に秘密にしている技などがある。
 仲間だからと言っても別に見せびらかしたわけではなく、海賊と戦うことになって見られることになっただけだ。
 レオが言うように、無闇に教えるようなものでもないため、その奥の手を知ろうとするのは野暮というものだ。

「お前面白え奴だな……」

「あぁ、ただの青白い顔したガキンチョだと思ってたぜ!」

「ハハ……、ありがとうございます」

 レオの能力を聞いた2人は、戦いは全て人形に任せているのだろうと思っていた。
 それでも確かにすごい能力だが、ちゃんと自分で自分を守ることも考えていることに感心した。
 しかも、自分たちを相手にしてもなんとかなると思っているくらいの能力を隠していることに興味が湧いて来た。
 少しの時間で色々と驚かされることになった2人は、レオのことが気に入ったようだ。
 気に入られたのは良いのだが、内容としてはちょっと酷い言い方に、レオは少し複雑そうに言葉を返したのだった。

「そうか海賊に思われていたか……」

「すいません……」

 調査から帰って来る途中、ドナートとヴィートから海賊狩りだということを聞いたレオは、夜になりガイオに細かいことを聞くことにした。
 と言っても、大体ドナートたちに聞いたので特に聞くことはなかったが、ガイオの今後の考えも聞いておこうという思いもあった。
 レオがガイオたちのことを海賊なのではないかと考えていたことを聞くと、ガイオは楽しそうに笑みを浮かべた。
 もしかしてというくらいとは言っても、疑っていたのは事実なので、レオは申し訳なさそうに謝罪した。

「ハハ……、こんな人相の連中じゃ疑って当然だ。気にすることはない」

 レオが疑った理由の1つである人相のことを聞くと、ガイオはドナートを指差して声を出して笑った。
 ドナートの目付きの悪さを揶揄するような発言だ。

「……おやっさんが一番海賊っぽいっすよ?」

「…………」

 自分も目付きが悪いのは分かっているが、それを言われるにしてもガイオに言われるとちょっと納得できないため、ドナートはガイオにツッコむ。
 ガイオ自身もそう言われたら返しようもなく、口ごもることになった。

「人形の強さはどうだった?」

 レオに海賊狩りだと知られたからか、ガイオは隠すのをやめたようにヴィートに問いかける。
 目の前に本人がいるのに、気にしていないようだ。

「結構やりますね」

「ギリギリ中級冒険者って所です」

 ヴィート、ドナートの順でガイオに答える。
 それ程強い魔物が出たわけではないので、答えるにもそこまで評価しづらいが、2人は見た感覚をそのままガイオに告げた。
 ゴブリンなんかの弱い魔物は初級の冒険者が相手にするような相手。
 その魔物が数体出ても難なく倒している所から考えると、中級に入れてもいい程度の実力と言える。
 それがロイたちの戦いを見た2人の出した印象だ。

「それだけなら十分だ。数を増やせればだいぶここの安全が確保できる」

 ガイオたちとしては、エレナの安全が重要だ。
 そのため、家があるこの周辺の安全の確保には神経を使わないといけない。
 ドナートたちの評価を聞いて、ガイオとしては人形たちの強さは満足いくレベルだった。

「それに、自分の身を守るために奥の手もまだ用意しているようです」

「ちょっと! ヴィートさん……」

 レオからすると、そんなこと言わなくてもいいのにということまでヴィートに報告されてしまった。
 2人に言ったように、奥の手は隠しているから奥の手だ。
 何かあると思われているだけで、警戒されて効果が薄まるということもあり得る。 
 少し非難するような反応をするが、レオも報告されることも予想していたのでそんなに強くはしない。

「……ハハッ! 面白い! こんな奴初めてだ!」

「イタタ……、ハハ……」

 中級冒険者並みの戦力を持つ人形たちを、魔力が足りる限り動かすことができるというだけでかなり不思議な少年だと思っていたが、まだ何かあるということに興味が湧いてくる。
 何でレオがこんな島に送られて来たのかと思えてきた。
 この能力を知っていれば、きっとディステの領内はかなり利益を生んでいたはずだ。
 しかし、自分たちはこの能力の庇護下に入れた。
 これから先の事を考えると、年甲斐もなくワクワクした気持ちが膨らんで来た。
 そのため、ガイオはレオの肩を叩いて声をあげて笑ってしまった。
 ゴツイ手で叩かれたレオの方は、ジンジンする痛みに耐えて苦笑した。

「でしょ?」

「俺たちも笑っちゃいましたよ」

 そのことにドナートとヴィートは、自分たちが聞いた時と同じ反応に笑みを浮かべる。
 どうやら自分たち同様ガイオもレオのことが気に入ったようだ。

「俺たちがお前をフォローするから、安心してこの島の開拓に使ってくれ!」

「ありがとうございます!」

 海賊狩りたちのトップであるガイオに気に入られ、今後の開拓への協力を約束できた。
 なんとなく開拓に船員たちを借りるのがためらわれていたのだが、これで気兼ねしないですみそうだ。
 安心したレオは、笑顔でガイオと握手を交わしたのだった。





◆◆◆◆◆

「これで一安心だ」

「あぁ……」

 洞窟内に収納された船に、ドナートとヴィートはつかえていた物が取れたような思いがしていた。
 昨日発見した洞窟を、海岸から足場と呼ぶには少々危険な岩場を渡って色々と調査へ向かった。
 海底の高さや岩の位置などを調べた結果、ガイオたちの船を置くのに十分なことが分かった。
 そうと分かれば早速と、岸に停泊させていた船を洞窟内へ格納することにした。

「へぇ~……、すごいな……」

 帆に魔法で風を送って微調整しつつゆっくりと船がバックしてくるのは初めて見たので、レオとしてはそれだけで面白かった。

「海に落ちるなよ?」

「溺れるからな!」

「うっ……! 落ちませんよ」

 この洞窟の調査をしようとしたのだが、すぐにレオに問題が生じた。
 レオは泳げなかったのだ。
 それもそのはず、ずっとベッドの上で過ごして来たので泳ぐことなんて出来る訳がない。
 体に結んだ紐の端をロイに持ってもらい、もしもの時には引いてもらうというようにして、ここの海で泳ぐ練習をしてはいたが、本で泳法を知っていても体が対応できずたいして上達していない。
 今年の夏の間に泳げるようになればいいかと思っていたため、レオとしてはまだ泳げないだけだと言いたいところだ。
 レオが泳げないとドナートたちに言うと、からかうネタを発見したとちょこちょこイジって来るようになった。
 それを受けて、レオは密かに泳ぎの練習をしないといけないなと思っていた。

「あとは海岸から道を作りましょう」

 洞窟内を船のドックに改造するのは船員たちがすることになるのだが、そもそも洞窟へ来るまでの道が危険すぎる。
 レオたちのように上から下りる階段を作るにしても、魔物の出現に注意しなくてはならない。
 そうなると、魔物の心配のない海岸からの道を作ってしまえばいいということになった。

「スキル! みんな持てるサイズの石を運んでくれるかい?」

“コクッ!”

 ポケットや魔法の指輪から大量の布人形を取り出したレオは、スキルを発動させる。
 すると、人形たちが動き出し、レオの指示に頷きを返して散らばっていた。

「これだけいるとずいぶん楽だな……」

「そうですね」

 列になり、リレーのようにして運ばれた石が海岸近くの岩場に積み上がっていく。
 それを見ていたヴィートは、改めてレオのスキルの有用性に感心していた。
 塵も積もれば山となるということを証明するかのように、人形たちのお陰で石の山が出来上がっていた。
 歩くのも危険な岩場に石を撒き、人工的に整地してしまおうという考えだ。
 ドックの製造に洞窟へ向かう船員たちのためには、道が完成するまで板を並べた簡易的な道を通ってもらうことにした。
 人形たちによる洞窟までの整地作業は、5日という速さで完了した。
 人間でも相当数が動かないとここまでの期間で作ることなどできないだろう。
 それがレオのスキルと魔力だけで出来てしまったことに、ガイオやドナートとヴィートだけでなく、船員たちもレオのことを気に入ってくれたらしい。
 これで船の修理ができると、レオはみんなから感謝をされたのだった。
 
「そういや、ゴブリンの方はどうするんだ?」

 調査に行った3人は、頻繁に出てくるゴブリンの数が気になっていた。
 ゴブリンが少しいるくらいならたいして気にする必要もないが、ゴブリンが大量に生息している場所でも出来ていたら、レオたちの住んでいる所も危険にさらされるかもしれない。
 早々に対応にあたった方がいいため、ドナートはレオにそのことを問いかけてきた。

「ロイたちにゴブリンは見つけ次第始末するのと同時に、大量に生息している場所がないか探させています。見つけ次第皆さんと相談させてもらいたいと思います」

「分かった!」

 ゴブリンたちの生息地が分かれば、攻め込んで潰してしまえばいい。
 生息数次第ではみんなに協力を頼もうかとレオは思っている。
 ゴブリン相手に暴れられると思っているのか、ドナートは若干楽しそうだ。
 それから数日して、ロイがゴブリンの生息地を発見したことを教えに来てくれた。

「あそこですね?」

「あぁ、報告通りだな……」

 樹の陰に隠れてレオが覗き込むと、そこにはゴブリンたちが出入りしている洞窟が見えた。
 ゴブリン討伐に加わったドナートもそれを確認して頷く。
 ロイが発見して教えてくれたように、レオたちが前回調査したところから少し森の奥へ向かったところに存在していた。

「結構近場だったな……」

「ですね……」

 ドナートと共に参加しているヴィートの言うように、レオたちの家がある所からはそんなに離れていない。
 もしもゴブリンたちがレオたちのことを先に気付いていたら、攻め込んで来る可能性も考えられた。
 こちらが先に動いたことは成功だったと言って良いだろう。

「中に入った訳ではないので分からないですが、約100といったところです」

「ゴブリンが100か……」

「まぁ、何とかなるだろ……」

 ロイたちに交代で洞窟を見張ってもらったのだが、出入りする人数と運ばれる食料から簡単に計算した結果、100体ほどのゴブリンがこの洞窟を拠点にしているという結論になった。
 ゴブリン1体ならたいしたことないが、数が多くなると話が変わる。
 1人で何体も相手にするには相当な実力がないと、危険なために人数を揃えなくてはいけなくなる。
 100体でも結構な数だが、今回はヴィートの言う通り何とかなりそうだ。

「作戦通り行動を開始します。2人はフォローをお願いします」

「おう!」「了解!」

 ゴブリンとはいえ多くの魔物を相手にするのにもかかわらず、討伐に来ているのはたった3人。
 とても100体相手にするのには少なすぎる。
 しかし、この討伐のためにちゃんと作戦は練ってある。
 その作戦実行のために、3人は行動を開始することにした。

「頼むよ? みんな!」

“コクッ!”

 戦いに参戦しているのは3人だが、当然レオのスキルによる人形たちも参戦している。
 ガイオの海賊狩りの船員たちが何とかしてくれると思うので、家周りの守備はクオーレに任せてきた。
 そのため、常時動かしているロイたち4体を全部連れてきた。
 武器を装備した4体は、戦力としてかなり期待している。
 レオが小声で期待の言葉をかけると、ロイたち人形は頷きで返した。

「GO!!」

 レオの合図で全員が動き出す。
 作戦の最初は洞窟付近に散らばっているゴブリンたちの始末だ。

「ギッ!?」「ゲギャッ!!」

 いきなりの襲撃にゴブリンたちは慌て始める。
 しかし、洞窟内の仲間へ報告を行こうとする者もいたが、ドナートとヴィートの槍によってあっという間に始末された。
 レオは戦闘をせず、ロイに守られながら洞窟入り口へ一直線に向かう。
 魔法の指輪にあらかじめ用意しておいた燃えやすい木を出し、すぐさま着火する。

「よしっ! あとは出て来たのを順次撃退で……」

「あぁ!」「よし!」

 洞窟の出入り口で焚火したことで、内部にいるゴブリンは入って来た煙で慌てて飛び出してくるはずだ。
 内部が深ければ一酸化炭素中毒死するだろうし、慌てて出てきたとしても出入り口は一つ。
 ここで待ち伏せしていれば列を組んで向かってくるはずだ。
 出入口はまあまあ大きいが、ゴブリンが出て来られるのは2列ほど。
 これなら人数が少なくても対応可能だろう。
 それに、煙が充満しようと関係ないロイたち木製人形たちが洞窟内で数を減らすので、ドナートたちは漏らした敵を始末するだけの簡単な作業だ。
 人が住んでいる所なら人質が連れ去られている可能性もあるが、ここは誰も住んでいないはず。
 人質など気にしないでこの作戦を実行できる。

「……終わったか?」

 内部からゴブリンのものらしき呻き声が聞こえなくなってきた。
 煙を送り始めて数分経つし、中に居たとしても生きているのは難しいはずだ。
 作戦が成功したような雰囲気に、ドナートは安堵したように呟いた。

「「「っ!?」」」

 しかし、レオを含めた3人が終了したと思っていたところで、様子が変わってきた。
 中に入っていたロイたちが慌てたように戻って来たのだ。

「どうしたの!? 何かあったの!?」

「何だ?」

「俺たちにも下がれって言ってんのか?」

 出てきたロイたち4体の人形はロイとオルがレオを抱え、ラグがドナート、ドナがヴィートの腕を引っ張る。
まるで下がるように言っているかのようだ。
 それに気付いた3人は、4体の行動に従って洞窟から離れる。

「グルッ……!!」

「「「っ!!」」」

 洞窟内にまだ生き残りがいたらしく、呻くような声が聞こえて来た。
 それを気が付いた3人が目を向けると、

「なっ!! オーガ!!」

 身長2m以上の巨体をした鬼が洞窟内から姿を現した。
 いきなりの危険な魔物の出現に、レオは驚きの声をあげる。
 オーガは、ゴブリンなんて比べ物にならないほどの危険生物である。
 大物の魔物の出現に慌ててしまうのも無理はない。

“ババッ!!”

「っ!! ドナートさん! ヴィートさん!!」

 オーガが出たことで慌てているレオと違い、ドナートとヴィートは何故かオーガへ向かって駆け出した。
 あまりに危険な行為に、レオは止めようと手を伸ばす。
しかし、その手が届くはずもなく、2人はオーガへ向かって行ってしまった。

「っ!! そうか!!」

 オーガを相手にするのに2人では無謀すぎる。
 しかし、2人は迷わず向かって行く。
 レオがその理由が分からないでいたが、それがどうしてなのかを理解した。

「ロイたちも今のうちにオーガを攻撃するんだ!!」

“コクッ!”

 2人の無謀な行動理由を理解したレオは、すぐにロイたちも攻めかかるように指示をする。
 レオの命令に断る訳もなく、ロイたちは頷きを返すとドナートたちの後を追った。

「ハッ!!」

「ガアッ!!」

 最初にドナートがオーガへと攻撃を開始する。
 接近による速度を生かした槍による強力な突きが、オーガの右足へと突き刺さる。
 その攻撃の痛みで、オーガは呻き声を上げる。

「もう一発!!」 

「グァッ!!」

 ドナートの攻撃を食らったすぐ近くへ、ヴィートの槍が突き刺さる。
 強力な痛みにより、またも呻き声を上げたオーガは、左膝をついて座り込んだ。

「グッ!?」

 足の痛みに呻いているオーガへ、今度はロイたちが襲い掛かる。
 座ったことで下がった顔面目掛けて、ドナによる矢が高速で飛んで来る。
 
「グアァッ!!」

 右目に突き刺さり、オーガはまた大きな声をあげる。
 そして、ロイは剣で、オルは槍で、ラグは2本の短剣でオーガへ攻撃をする。
 反射的に右目を抑えた右手は無視し、空いている左手をズタズタに斬り刻んだ。
 
「ナイス!!」

「止めだ!!」

 ロイたちが攻撃をしている間に、ドナートとヴィートはオーガの背後へと回り込む。
 そして、注意を引き付けてくれていたロイたちを褒めると、そのまま一気にオーガの背中から2人同時に攻めかかった。

「ガアァッ!!」

 心臓のあると思われる場所を背中から突き刺し、一気に止めを刺した。
 2本の槍が深々と刺さったオーガは、一瞬呻き声を上げるとそのまま前のめりに崩れ落ちて行った。

「すごい! さすが戦い慣れていますね……」

 念のため倒れたオーガをそのままにして様子を見、死んでいることを確認した3人は改めて倒れているオーガへと近付いて行った。
 そして倒れているオーガを眺めたレオは、思わずドナートたちの判断力の良さに感心した。

「オーガも煙でまともな状態じゃなかったんですね?」

「「その通り!」」

 オーガが出て慌てたレオと違い、ドナートたちはオーガの足がふらつき目も焦点が合っていないことを瞬時に見抜いた。
 煙による一酸化炭素中毒はゴブリンだけでなくオーガへもちゃんと通用していたのだ。
 オーガも必死に外へ逃れて来たらしく、武器と呼べるものも所持していなかった。
 武器もなく状態異常では、気を付けさえすればオーガですら何とかなる。
 まずは念のために足を潰し、ロイたちが来てくれたことで止めを刺すために動くことができた。
 強力な魔物の出現に慌てずに行動した勇敢さに、レオは尊敬した眼差しを2人に向けたのだった。

「まさかオーガなんて大物が出るなんて……」

「あぁ……」

 オーガの死体を魔法の指輪に収納し、ようやく一息ついたレオは、安心したように呟いた。
 それに対し、ヴィートも同意し頷く。
 ロイたちには洞窟内のゴブリンの死体の処理をお願いした。
 ゴブリンから手に入る素材は小さい魔石くらいしかないが、それでも島の収入源になる。
 折角倒したのだから、手に入れておかないともったいない。
 それに、レオのスキルによって、待っているだけで手間な作業は人形たちがやってくれる。
 戦いによる緊張感が少し解け、3人は持って来た軽食をつまんで休憩を取ることにした。

「ビックリして一瞬腰が退けましたよ」

 この島に来て、体を鍛え始めていたレオだったが、こんなに多くの魔物に近付くようなことはなかった。
 オーガという強力な魔物の出現を目の当たりにし、言葉の通り腰が引け、頭が真っ白になりかけた。
 自分一人だったら、戦うなんて考えずに逃げていたかもしれない所だった。

「俺たちだって焦ってたぜ? なあ?」

「あぁ!」

「2人はすぐに反応していたじゃないですか」

 レオとしては、ドナートたちがいてくれたことに感謝している。
 海賊狩りというと対人戦闘が強いという印象が強かったが、魔物相手でもかなり活躍していた。
 本人たちも魔物よりも対人戦闘の方が慣れていると言っていたのに、オーガが出て来てからの状況判断の良さは尊敬してしまう。

「ゴブリンもオーガも鬼系統だから人間に近いからな」

「対人戦闘に近い感覚で戦えたって感じかな……」

「なるほど」

 ゴブリンやオーガは鬼系統の魔物のため、2足歩行することから動きが人間に近い。
 オーガはたしかに驚いたが、煙を吸い込んで弱っていたし、でかい人間だと思えば変わりはない。
 そのため、ドナートたちからすると他の魔物のような脅威は感じなかったようだ。

「ゴブリンが増えたのはオーガの所為だったのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

 これだけゴブリンの数が増えていたのを考えると、ガイオたちみんなが来る少し前からオーガがあの洞窟に住み込んでいたのではないかと思える。
 オーガはゴブリンをパシリに使って食料を得て、ゴブリンはオーガの守護の下で数を増やすことができていたのだとレオは考えていた。
 いわゆる共生という状況が、ここで出来ていたということだろう。

「嫌な共生だな……」

「全くだ」

 レオの説明を受け、ドナートとヴィートは納得すると共に顔をしかめた。
 ここを放置してゴブリンの数が増えていたとしたら、それほど時間もかからずにレオたちのいる場所を見つけられていた可能性がある。
 今日とは反対のことが身に降りかかっていたかもしれないと考えると、身震いをする思いだ。

「運が良かったですね?」

「だな……」

 先にこちらから動けたのは、レオが言うように運が良かったと言って良いかもしれない。
 それと同時に、ここの島の開拓の難しさも感じていた。
 まだ島の1割にも満たない範囲なのにもかかわらず、オーガなんて危険生物が存在しているとなると、森の奥へと進んだらどんな魔物が潜んでいるか分かったものではない。
 
「とりあえず、ここまでは広げても大丈夫そうですし、ゆっくり広げていくしかないですね」

 たいした範囲内を調査したわけではないが、ここまでの範囲内の魔物はなんとかなりそうだ。
 もちろんオーガなんて魔物がまた出ないとも限らないが、開拓を進める範囲としてこの洞窟を目安にして良いかもしれない。

「帰っておやっさんに報告しようぜ」

「ハイ!」

 開拓をするにしてもみんなの協力が無いと、レオのスキルだけでは難しい。
 それに、戻ってみんなに無事討伐が終了したことを伝えて安心させたい。
 ロイたちによって集められたゴブリンの死体の焼却も済み、レオたちは拠点に戻ることにした。





◆◆◆◆◆

「だから魔石が大量にあるんですね?」

「そうなんです」

 ゴブリン討伐を成功し、無事に帰ったことでレオたちはみんなに喜ばれた。
 まさかのオーガの出現にみんなも驚いていたが、弱っていたので倒せたということを言うと、みんな安堵していた。
 オーガもゴブリン同様たいして素材として採取できる部分はないが、魔石が結構大きく、値段も高値で売れる。
 角も結構素材と使えるらしいので採取しておいた。
 魔物の討伐をすることになった経緯と、結果がどうなったかを説明し、アルヴァロは魔石の山を見て納得した。
 討伐から2日後、いつものようアルヴァロが島へ来てくれた。
 前回はガイオたちが住むことになって驚いていたが、今回はオーガを倒したということに驚いていた。

「坊ちゃんには毎回驚かされますね……」

 どんな魔物の魔石でも需要はあるので大量に手に入るのはありがたいが、オーガを相手にするなんて無謀も良いところだ。
 島には海賊狩りをしていた戦闘自慢もいるという話を聞いていたが、そんなことになるならレオには参加しないで欲しかった。

「開拓を前進させるために防壁の製作を始めました」

「そうですか!」

 ロイたち木製人形を増やして防御機能を強化するという手もあるが、それでも守り切れない場所が出て来るかもしれない。
 ドナートたちもいることだし何とかなるとは思うが、危険なことには変わりはない。
 そのため、防壁を造って簡単に魔物が侵入してこないようにすれば、異変が起きてもロイたちが対応できると思い、防壁の製作を始めることにした。
 少しでも開拓が進めば人を増やしても大丈夫になり、人が増えれば開拓の速度も上げられる。
 この島の開拓が進み、国にそれが認められれば、レオが貴族に戻ることができるようになるかもしれない。
 ディステ家の仕打ちをレオから聞いて知っているアルヴァロからすると、ざまあと言いたくなる。
 それもまだ先の事になるだろうが、レオに期待しているアルヴァロからすると開拓が進むのは嬉しいことだ。

「そう言えば、ディステ領のことですが……」

「何かありましたか?」

 レオが順調に進めていることに安心したアルヴァロは、話していた時に浮かんだディステ家のことを思い出した。
 父であるカロージェロの領主としての能力は、はっきり言ってレオには分からない。
 領主邸から外に出たこともないので、領内の経営状況とかは全く分からない。
 しかし、ギルドに見放されたなんていわれると、何をしているんだという気持ちになる。
 ガイオたちからギルドに見放されたとか言う話を聞いていたが、それ以外にまた何かあったということだろか。

「領内から全ギルドが撤退して、魔物の討伐を専門にする傭兵を雇うようになったって聞きましたが?」

「えぇ」

 父は領内で大量発生した魔物の討伐の関係でそこを統括しているギルマスと揉め、領内からギルドが撤退するということになったらしい。
 冒険者たちを統括し、魔物を狩ってくれるギルドは、領を経営するのにかなり役に立つと思える。
 こっちは何もしないでも魔物を調整してくれるのだから、平民からしてみれば暮らしを安心させてくれる存在ともいえる。
 危険な魔物などが出現した時は領主側が資金を出さなくてはならないだろうが、そんな非常時に対応するために常時傭兵を雇っているのは経済的には非効率だ。
 ギルドがなければ冒険者もいなくなってしまうだろうし、それで領内の安全を維持できるのだろうか。

「それによって冒険者もいなくなって、更には住民も減っていっているようですよ」

「……そうですか」

 アルヴァロの言葉に、自分の故郷のことを知ったレオは複雑な思いをしていた。
 案の定、ギルドが無くなったことによる問題が増えているようだ。

「また町中で揉めごとを起こしただと!?」

「はい……」

 執務室で書類に目を通していたディステ領の領主であるカロージェロは、報告に来た執事に対し怒りを露わにする。
 最近はほぼ毎日のように上がってくる報告で、いい加減我慢しきれなくなったのだ。

「いつものように傭兵と領兵がケンカを始めてしまいまして……」

「くそっ!! どいつもこいつも……」

 ギルドが急にいなくなってしまった代わりに最近雇うようになった傭兵と、有事の際にカロージェロの命によって動く軍の領兵が、些細なことで揉めてケンカに発展することが最近頻発している。
 それが何度も起きているせいで、カロージェロは無駄な書類仕事が増えて時間を割かなくてはならなくなっている。
 腹を立てるのも尤もと言いたいところだが、ギルドが出て行く原因はカロージェロにある。
 カロージェロが怒りで顔を真っ赤にしているが、こんなことになるならばギルドを残すように動けばよかったのではないかと、執事の男は思わずにはいられない。

「……っで? 揉め事起こした奴らはどうしている?」

「いつも通り頭を冷やすまで別々の牢に入れております」

「全く、治安を守る者がそれを乱しおって……」

 どちらの兵も、この領内を守るために雇われている存在だ。
 領兵は有事の際に出動するために訓練を重ねると共に、治安維持のために町中のパトロールをおこない、警察の仕事と兼任している。
 最近雇うようになった傭兵は、町に魔物が侵入して来ないように周辺の魔物を駆除するのが仕事になっている。
 同じ兵でも仕事としては分かれており、揉めるようなことは無いと思っていたのだが、最初は何もなかったのに次第に揉めるようになってきた。

「領兵の奴らは安全な所でヌクヌクしていて楽な仕事だな!?」

「アンデッドの魔物に苦戦したって話だし、訓練が足んねえんじゃねえか!?」

 酔った傭兵たちが吐き捨てたこの会話が伝え広がり、それを聞いた領兵の者たちは頭に来た。
 以前起きたアンデッドの討伐で苦戦したのは事実だが、それは数が多かったからだ。
 事情も知らずに好き勝手言われると腹が立つのも仕方がない。
 だが、それでケンカを仕掛けるほど領兵たちは短気ではなかったが、一部の新人はそうではなかった。
 この言葉による怒りがずっと胸の中で燻っていた新人が、休日たまたま傭兵たちと酒場で出くわしてしまい、その新人領兵がいると知らなかった傭兵たちがまた愚痴るように先程の言葉を話していたのがきっかけになってしまった。

「お前ら! 調子に乗るなよ!」

「何だ!? 青臭えガキが何舐めた口きいてんだ!?」

 燻っていた怒りが再燃し、新人の領兵は忠告の意味で傭兵たちへ文句を言っただけだった。
 しかし、我慢をする気のない傭兵たちはすぐさま怒りで立ち上がり、その新人を店の裏へ連れていき、袋叩きにしたのだった。
 傭兵の彼らとしても愚痴っていたのには理由がある。
 魔物を狩る仕事をしている彼らは、毎日危険が付きまとっている。
 ただ、魔物を狩るだけでなく、魔石などの素材を手に入れ、それを御用達の商店へ納品する。
 それが町に広がっていくため、自分たちが町を救っていると実感している。
 しかし、魔物の素材を売っても、冒険者のようにその代金が懐に入る訳ではない。
 傭兵が持ち込んだ素材の売れた代金は、領の資金として使われることになるため、傭兵たちは何の資金にもならないことになっている。
 毎日危険と隣り合わせの思いをして町に貢献しているのに、領兵よりも給金が低く、魔物の販売資金も手に入らない。
 それなのに、領兵は外よりも安全な町中で治安維持しかしていないという境遇に、納得できない思いが募っていったため、愚痴が出てしまったのだ。
 仲間をやられれば我慢をしているつもりもなく、領兵たちも傭兵たちに睨みを利かすようになり、傭兵の者が町中で少しでも市民に迷惑をかけようものなら、すぐさま捕まえて罰金刑にするようになった。
 そうなれば当然傭兵は腹を立てる。
 休みの日の領兵を見つけてはちょっかいをかけ、集団で暴行するという報復に出ることをするようになった。 
 やられたらどちらもやり返すが続いているため、カロージェロを悩ませていた。

「くそっ!! 領民の流出も続いているし、何でこうも問題ごとが続くんだ!!」

 カロージェロの悩みの種はもう一つある。
 ギルドがなくなってから領民が少しずつ他領へと流出しているのだ。
 そして、兵同士の揉めごとが起きてから、更にその勢いが増しているため、このままでは税収も減っていく一方だ。
 傭兵を雇うのにも資金を使っているというのに、税収が減っては傭兵の維持ができなくなる。
 まるで負の連鎖が続くかのようだ。

「ギルドがなくなったことにより、冒険者関連の市民が付いて行っているようです」

「またもギルドのせいか!?」

 ギルドがなくなり、冒険者たちも他へと移っていった。
 その冒険者たちを相手に商売していた者やその家族が、冒険者を追って他領へと移るという選択をしたのだ。
 それもそのうち治まるものだと思っていたが、兵同士のいざこざでいまだに市民の流出が続いている。
 市民からしたら、ギルドがなくなって不安に思っていた部分が強い。
 冒険者を追っていった者たちの知り合いは、自分たちもこのままでいるべきなのか考えた。
 領主が冒険者の代わりに傭兵を雇うようになったが、その傭兵が領兵と揉め始めたため、ここから出て行くということを決めたのだ。
 ギルドがなくなったことによる影響だと分かり、カロージェロとしては不愉快なこと極まりない。
 しかし、どうすることも出来ないので、机をたたいて気を紛らわせるしかできなかった。

「ええい! 他領へと続く道に関所を作れ! 他領へ移り住もうとする者は引っ捕えろ!!」

「しかし、そんなことをしたら……」

 他領へ移り住む者が多いのであるならば、力尽くで止めてしまえばいい。
 そう思っての考えなのだろうが、執事の男からするとそんなことをしたら余計に市民に不評を買うのが目に見えている。
 そうなれば、市民の流出が止められなくなってしまうかもしれない。
 それよりも、問題の始めとなったギルドを再開してもらうように動いた方が、元の安定した領地に戻せる気がしている。
 しかし、カロージェロの性格上そんなことは絶対にしたくないだろう。
 改善策がない状況に、執事の男も頭を抱えたくなる思いだ。

「邸の使用人も数人いなくなっているのだぞ! 管理を怠ったくせに意見する気か!?」

「……いいえ、そのように手配いたします」

 カロージェロの言うように、市民流出問題はこの邸にも起きていた。
 数人の使用人がいつの間にか姿を消したのだ。
 捜索を指示した結果、他領へ向かうのを目撃したという報告が入った。
 彼らはいち早くこの家に見切りをつけたということだろう。
 いなくなってしまったのは、別に執事の男のせいではないと思うが、カロージェロとしては彼のせいにすることでしか怒りが抑えきれなかった。
 腹を立てている時のカロージェロには、何を言っても無駄だというのは分かっている。
 それに、これ以上何か言って不敬罪にでもされたら面倒だ。
 そのため、執事の男はカロージェロの言葉に頷くことしかできなかった。

「失礼します!」

 指示を受けたのなら実行に移すために動かなければならないため、執事の男は頭を下げて部屋から退室していった。





「この領は大丈夫だろうか……」

 カロージェロから指示を受けて部屋を出た執事の男は、どう考えても上手くいかなくなる未来しか見えないため、廊下を歩きながら思わず愚痴が出てしまう。
 ギルドがなくなったことのツケがこんなことになるとは、彼自身も思ってもいなかった。

「ベンの奴は上手くやったな……」

 邸からいなくなった使用人たちの中には、レオの世話をしていた者たちもいる。
 特に彼からすると、同じ執事としてこの家に仕えていたベンヴェヌートがいなくなったことが意外だった。
 早々にこの家から出て行ったベンヴェヌートに、彼としては恨みよりも羨ましさが出てくる。
 彼自身も出て行きたいと思い始めているからかもしれない。

「もう少し様子を見るか……」

 出て行くにしても、一応は恩ある身。
 ベンヴェヌートのように出て行きたい気持ちもあるが、彼はもう少し様子を見ることにしたのだった。

捨てられ貴族の無人島のびのび開拓記〜ようやく自由を手に入れたので、もふもふたちと気まぐれスローライフを満喫します~

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