「見たか? あのスキル……」
「えぇ……」
島に住むことになったみんなが、ひとまず寝泊まりする場所として大きな建物を建てた日の夜。
ガイオとセバスティアーノは、2人だけで海岸へと来ていた。
レオたちの住居から近いとは言っても、夜行性の魔物が出ることを考えると危険な行為だ。
しかし、2人にしたらそんな風には思っていない。
2人とも武術の心得があるからだ。
ガイオは片足折れていようと身を守るくらいはできると思っているし、セバスティアーノは余程のことがない限り大丈夫だと思っているのだろう。
この海岸に来た理由は他の者に聞かれずに話をするためだ。
目を合わせたので分かっていることとは理解しつつも、着いて早々にガイオは話のきっかけとして今朝のことを話し始めた。
「あれは使い方次第でとんでもないことになりますね」
今朝のスキル、つまりはレオのスキルのことだ。
ガイオに聞かれたセバスティアーノは、あの能力を見た時の衝撃を思いだしていた。
人形を操る能力なんて聞いたことがない。
しかし、その能力は利用方法次第でとんでもないことができることに、2人は思い至っていた。
そのため、今朝無言で目を合わせたのだ。
「あの能力次第では、一人で軍隊を相手にできるかもしれません」
セバスティアーノの言葉通り、ガイオも同じことに思い至って鳥肌が立つ思いがした。
スキルによって動き出した人形たちは、主人の命に従ってほとんどオートで動いてくれる。
魔物とも戦えるのだから、相手が人間でも戦えるはず。
しかもその人形が倒されても所詮は人形のため、レオは魔力を消費しただけで何の痛手も受けることはない。
もしも、戦争などに関わった場合、大量の人形を動かして巨大な戦果を挙げることができるだろう。
それだけの力を有しているのも同然と言って良い。
「本人は気付いていると思うか?」
「わずかな時間での感想ですが、レオ殿は聡明なお方のように思えます。恐らくその一端は気付いているのではないかと……」
そもそも、動かせると言っても所詮は人形、それを使って魔物と戦わせるという発想を思いついたくらいなのだから、魔物ではなくて人を相手にしても戦えるということくらいはすぐに思いつくはず。
それでなくても建築や野菜の栽培技術、それに料理などと色々な面で博識の一端が窺えた。
スキルを戦闘に使った場合のことも考えていると思われる。
「こんな島に一人で無事に暮らしているくらいだからな」
魔物が跋扈する地であの能力。
恐らく、危険な魔物が出た時の考えも何か持っているはず。
「しかし、野心のようなものもないように思えます」
「あぁ、あの力を上手く使えばこんな所に居なくてもいいだろうに」
「むしろここでの生活を楽しんでいるようでしたな……」
レオの話では、成人を機に家から追い出されたという話だが、そのディステ家への報復を考えているようには思えない。
みんなで色々な作業をおこなっている時、レオはとても無邪気な笑顔で楽しんでいるようだった。
まだ短い付き合いなので何とも言えないが、とても何か報復を考えているようなものには見えなかった。
そのレオの笑顔だけを見ると、自分たちも純粋な子供の頃を思い出してしまう。
子供の頃とは言っても、2人ともそれほど良い思い出ではないが……。
「エレナ嬢には危険かとも思えたが、もしかしたらここに来たことはフラヴィオ様とグイド様の導きかもしれないな」
「えぇ……」
フラヴィオとはレオの祖父と仲の良かったエレナの祖父で、グイドはエレナの父だ。
幼少期に火事で家族を失ったガイオとセバスティアーノ。
孤児になり盗みをしてでも生き残っていた2人を引き取って、成人になるまで育てた恩人がフラヴィオで、兄のように接してくれていたのがグイドだ。
2人からしたら、証拠はないとはいえグイドを殺した可能性のあるムツィオのことが許せない。
しかし、報復に出るにも人も力も全く足りない。
それよりも残されたエレナの身を守り抜くことが最優先だ。
逃れた先がレオの下というのは、2人の恩人の導きに思えてしまう。
ここなら追っ手を送られることもないだろうし、レオ次第で報復することも可能かもしれないからだ。
「報復の機会は来ないかもしれないし、来ても相当先の事だろうがな……」
「私としては、エレナ様が無事ならそれは後々で結構です」
「……そうか」
昔からの仲であるガイオとセバスティアーノはエレナの身の安全優先だが、少しだけ思いが違う。
ムツィオへの報復を考えているガイオと違い、セバスティアーノはエレナさえ無事ならそこまで報復にこだわるつもりはない。
恩人のために報復したいという気持ちと、恩人のためにエレナを守り抜くという、どちらも恩人の2人のことを思っての違いだ。
「しばらくはレオを手助けしているしかないか……」
「その前にあなたは足を治すことに専念しなさい」
「尤もだ……」
今はこの地でエレナと共に過ごして行くしかない。
はっきり言って、レオの能力があるからと言ってこの島がまだ安全と思っている訳ではない。
レオの開拓に協力をして、少しずつ安全地帯を広げていくのが確実な手だろう。
その開拓に武力的な意味で一番力になれそうなのがガイオだ。
そのため、セバスティアーノから正論をいわれ、ガイオは頷くしかなかった。
◆◆◆◆◆
「皆さんの家を建てるためにも、畑を作るためにも開拓を始めようかと思います」
「……たしかに」
ガイオの船には、エレナと共に逃げてきたルイゼン家の使用人とその家族たちがいる。
彼らのためにも家族用の家を建てるつもりだが、昨日のようにそこまで慌てて建てる必要もない。
建てるにしても、畑を耕すにも、そもそもそんなに土地がない。
これからの食料を考えて畑の拡張もするにしても、開拓を始めて土地を広げる必要が出てきた。
昨日のセバスティアーノとの話し合いで、元々開拓を進めるつもりだったガイオだったが、レオから言い出してくれたことで、内心手間が省けたという思いがした。
「えぇ、人も増えたことですし、まずは周囲を調べてみようかと……」
「人形や闇猫がいると言っても1人で行く気か? 危険じゃないか?」
レオの側には闇猫のクオーレと、スキルで動いている木製人形のロイとオルがいる。
闇猫も戦力になるが、夜に本領を発揮する魔物だ。
日が明るい時間でも戦えるだろうが、人形たちの強さもまだ分かっていないので、ガイオとしてはレオの身が心配になって来る。
「ドナートとヴィートを連れて行ってくれ。あいつらは槍術のスキル持ちだから役に立つはずだ」
「へぇ~、すごいですね!」
槍術のスキルは、剣術のスキル同様に戦闘をする人間にとっては人気のスキルだ。
魔物を相手にすることになった場合、ドナートとヴィート(2人は兄弟らしい)がそのスキルを持っているのは心強い。
ガイオの言葉に甘えて2人も連れて行くことにした。
「では、行ってきます!」
「シャアー!」「よしっ!」
ガイオに言われたら断るつもりのないドナートたちは、あっさりとレオについて行くことを受け入れた。
主武器となる槍と腰に短剣を装備した2人は、魔物の出る森の中へ入って行くことへためらうどころか気合いが入っているようだ。
特に血の気の多いドナートは、1人で突っ走っていきそうなほどだ。
流石にそんなことしないとは思うが、レオは少しだけ不安に思ってしまう。
「気を付けて……」
「そんなに深くまで行かないから大丈夫だよ」
エレナが不安そうに心配する言葉に返答し、レオたちは森の中へと入って行ったのだった。
「えぇ……」
島に住むことになったみんなが、ひとまず寝泊まりする場所として大きな建物を建てた日の夜。
ガイオとセバスティアーノは、2人だけで海岸へと来ていた。
レオたちの住居から近いとは言っても、夜行性の魔物が出ることを考えると危険な行為だ。
しかし、2人にしたらそんな風には思っていない。
2人とも武術の心得があるからだ。
ガイオは片足折れていようと身を守るくらいはできると思っているし、セバスティアーノは余程のことがない限り大丈夫だと思っているのだろう。
この海岸に来た理由は他の者に聞かれずに話をするためだ。
目を合わせたので分かっていることとは理解しつつも、着いて早々にガイオは話のきっかけとして今朝のことを話し始めた。
「あれは使い方次第でとんでもないことになりますね」
今朝のスキル、つまりはレオのスキルのことだ。
ガイオに聞かれたセバスティアーノは、あの能力を見た時の衝撃を思いだしていた。
人形を操る能力なんて聞いたことがない。
しかし、その能力は利用方法次第でとんでもないことができることに、2人は思い至っていた。
そのため、今朝無言で目を合わせたのだ。
「あの能力次第では、一人で軍隊を相手にできるかもしれません」
セバスティアーノの言葉通り、ガイオも同じことに思い至って鳥肌が立つ思いがした。
スキルによって動き出した人形たちは、主人の命に従ってほとんどオートで動いてくれる。
魔物とも戦えるのだから、相手が人間でも戦えるはず。
しかもその人形が倒されても所詮は人形のため、レオは魔力を消費しただけで何の痛手も受けることはない。
もしも、戦争などに関わった場合、大量の人形を動かして巨大な戦果を挙げることができるだろう。
それだけの力を有しているのも同然と言って良い。
「本人は気付いていると思うか?」
「わずかな時間での感想ですが、レオ殿は聡明なお方のように思えます。恐らくその一端は気付いているのではないかと……」
そもそも、動かせると言っても所詮は人形、それを使って魔物と戦わせるという発想を思いついたくらいなのだから、魔物ではなくて人を相手にしても戦えるということくらいはすぐに思いつくはず。
それでなくても建築や野菜の栽培技術、それに料理などと色々な面で博識の一端が窺えた。
スキルを戦闘に使った場合のことも考えていると思われる。
「こんな島に一人で無事に暮らしているくらいだからな」
魔物が跋扈する地であの能力。
恐らく、危険な魔物が出た時の考えも何か持っているはず。
「しかし、野心のようなものもないように思えます」
「あぁ、あの力を上手く使えばこんな所に居なくてもいいだろうに」
「むしろここでの生活を楽しんでいるようでしたな……」
レオの話では、成人を機に家から追い出されたという話だが、そのディステ家への報復を考えているようには思えない。
みんなで色々な作業をおこなっている時、レオはとても無邪気な笑顔で楽しんでいるようだった。
まだ短い付き合いなので何とも言えないが、とても何か報復を考えているようなものには見えなかった。
そのレオの笑顔だけを見ると、自分たちも純粋な子供の頃を思い出してしまう。
子供の頃とは言っても、2人ともそれほど良い思い出ではないが……。
「エレナ嬢には危険かとも思えたが、もしかしたらここに来たことはフラヴィオ様とグイド様の導きかもしれないな」
「えぇ……」
フラヴィオとはレオの祖父と仲の良かったエレナの祖父で、グイドはエレナの父だ。
幼少期に火事で家族を失ったガイオとセバスティアーノ。
孤児になり盗みをしてでも生き残っていた2人を引き取って、成人になるまで育てた恩人がフラヴィオで、兄のように接してくれていたのがグイドだ。
2人からしたら、証拠はないとはいえグイドを殺した可能性のあるムツィオのことが許せない。
しかし、報復に出るにも人も力も全く足りない。
それよりも残されたエレナの身を守り抜くことが最優先だ。
逃れた先がレオの下というのは、2人の恩人の導きに思えてしまう。
ここなら追っ手を送られることもないだろうし、レオ次第で報復することも可能かもしれないからだ。
「報復の機会は来ないかもしれないし、来ても相当先の事だろうがな……」
「私としては、エレナ様が無事ならそれは後々で結構です」
「……そうか」
昔からの仲であるガイオとセバスティアーノはエレナの身の安全優先だが、少しだけ思いが違う。
ムツィオへの報復を考えているガイオと違い、セバスティアーノはエレナさえ無事ならそこまで報復にこだわるつもりはない。
恩人のために報復したいという気持ちと、恩人のためにエレナを守り抜くという、どちらも恩人の2人のことを思っての違いだ。
「しばらくはレオを手助けしているしかないか……」
「その前にあなたは足を治すことに専念しなさい」
「尤もだ……」
今はこの地でエレナと共に過ごして行くしかない。
はっきり言って、レオの能力があるからと言ってこの島がまだ安全と思っている訳ではない。
レオの開拓に協力をして、少しずつ安全地帯を広げていくのが確実な手だろう。
その開拓に武力的な意味で一番力になれそうなのがガイオだ。
そのため、セバスティアーノから正論をいわれ、ガイオは頷くしかなかった。
◆◆◆◆◆
「皆さんの家を建てるためにも、畑を作るためにも開拓を始めようかと思います」
「……たしかに」
ガイオの船には、エレナと共に逃げてきたルイゼン家の使用人とその家族たちがいる。
彼らのためにも家族用の家を建てるつもりだが、昨日のようにそこまで慌てて建てる必要もない。
建てるにしても、畑を耕すにも、そもそもそんなに土地がない。
これからの食料を考えて畑の拡張もするにしても、開拓を始めて土地を広げる必要が出てきた。
昨日のセバスティアーノとの話し合いで、元々開拓を進めるつもりだったガイオだったが、レオから言い出してくれたことで、内心手間が省けたという思いがした。
「えぇ、人も増えたことですし、まずは周囲を調べてみようかと……」
「人形や闇猫がいると言っても1人で行く気か? 危険じゃないか?」
レオの側には闇猫のクオーレと、スキルで動いている木製人形のロイとオルがいる。
闇猫も戦力になるが、夜に本領を発揮する魔物だ。
日が明るい時間でも戦えるだろうが、人形たちの強さもまだ分かっていないので、ガイオとしてはレオの身が心配になって来る。
「ドナートとヴィートを連れて行ってくれ。あいつらは槍術のスキル持ちだから役に立つはずだ」
「へぇ~、すごいですね!」
槍術のスキルは、剣術のスキル同様に戦闘をする人間にとっては人気のスキルだ。
魔物を相手にすることになった場合、ドナートとヴィート(2人は兄弟らしい)がそのスキルを持っているのは心強い。
ガイオの言葉に甘えて2人も連れて行くことにした。
「では、行ってきます!」
「シャアー!」「よしっ!」
ガイオに言われたら断るつもりのないドナートたちは、あっさりとレオについて行くことを受け入れた。
主武器となる槍と腰に短剣を装備した2人は、魔物の出る森の中へ入って行くことへためらうどころか気合いが入っているようだ。
特に血の気の多いドナートは、1人で突っ走っていきそうなほどだ。
流石にそんなことしないとは思うが、レオは少しだけ不安に思ってしまう。
「気を付けて……」
「そんなに深くまで行かないから大丈夫だよ」
エレナが不安そうに心配する言葉に返答し、レオたちは森の中へと入って行ったのだった。