「置くというのは、ここに住むということでしょうか?」
「えぇ……」
ガイオとセバスティアーノによるいきなりの提案に、レオは固まってしまう。
彼らが何かを隠しているということは、やり取りを見ていてなんとなくだが察している。
しかし、レオとしてはそれを追求するつもりはなかった。
どこかへ向かう予定のようだし、ガイオが大丈夫そうなら1、2日程度したら見送るつもりでいた。
「ダメだろうか?」
「どこか向かう予定だったのでは?」
そのうち領民を迎えるつもりでいたが、家の周辺以外の開拓には全くと言っていいほど着手していない。
弱いと言っても、ここですら多くの魔物が寄って来るというのに、まだ誰かを住まわせるというのは不安が残る。
それに、彼らはどこかへ向かう予定で台風に巻き込まれたと言っていた。
それがどこかは分からないが、ここではないことは確実だ。
「我々はディステ領へ向かう予定でした」
「ディステ領……」
彼らがどこかへ向かうにしてもまさかの行き先に、レオは僅かに眉を動かして反応してしまう。
はっきり言って、レオからするとあまり聞きたくない領地名だ。
父はこの島を与えることで自分との繋がりを切ったつもりなのだろうが、レオからするととてもありがたいことだった。
父は自分を部屋に閉じ込め、兄たちは顔を合わせれば罵詈雑言を浴びせてきた。
レオの中でも成人すれば関係を断ち切れると思っていたところで、島へ行くように命じられた。
危険な島だという話だが、ここでの暮らしは思ったよりも快適だ。
すぐに死ぬと思って送ったのなら、ざまあみろと言いたいところだ。
「……それは何故?」
彼らがディステ領へ行くとなると、何かしら関わりがあるのかもしれない。
元(・)ディステ家の人間としては、行く理由が気になる
「エレナ……お嬢様をお救いするためです」
「お嬢様……」
周りの反応を見ていて、レオはエレナが普通の女の子だとは思っていなかった。
バレないようにみんな呼び捨てにしていたが、お嬢様という言葉が出て案の定という思いがある。
しかし、エレナを救うためというのは穏やかではない。
どうやら思っていた以上に重い理由がありそうだ。
「エレナお嬢様はルイゼン伯爵家の前御当主の御子様です」
「南端の……?」
「左様です」
ルイゼン領は、ヴァティーク王国の南端に位置する領地でフェリーラ領の南にある。
北以外は周囲を海に囲まれており、水産物で生計を立てている領地だ。
それ以外は特に変な噂は無く、領主の娘が逃げなきゃならないようなことはないはずだ。
「んっ? 前(・)?」
「はい。前領主である御父君が急死なさり、エレナ様が成人するまで叔父君が後見人をおこなうということになりました。しかし、御父君の死には些か疑問が残っておりまして……」
「もしかして……」
「えぇ、その叔父のムツィオが疑わしいのです」
エレナと話した時、もうすぐ成人すると言っていた。
レオが実家を出るまでルイゼン家の領主が亡くなったという話は聞いていないので、亡くなったのはごく最近ということになる。
成人までの後見人を置くにしても、たった数ヶ月の誤差ならエレナに任せてしまっても構わないのではないだろうか。
話の流れを聞いていると、なんとなく容疑者が予想できてきた。
レオが考えた予想通り、セバスティアーノは答えを教えてくれた。
「後見人になってすぐ、ムツィオは領地の税を上げ、エレナ様がなるはずのルイゼン家次期当主を息子にすると言い出しました」
「最初からそれが狙いですかね?」
「恐らく……」
エレナの父が亡くなったのがきっかけになったのかは分からないが、あまりにもあからさま過ぎるおこないだ。
後見人になったのはそのためだったというのが、誰の目にも明らかだ。
そうなると、エレナの父の死も疑わしく思えるのも納得だ。
「死の真相はもはや分からず、このままではお嬢様に危険が及ぶと判断して海へ逃れました」
亡くなってしばらくしてから疑い出しても、証拠も処理されてしまったのだろう。
結局死の真相も掴めなかったようだ。
疑惑が本当だとすると、エレナのことが気にかかる。
ムツィオからするとエレナは邪魔な存在だ。
どこかへ嫁に出すということも考えられるが、最悪の場合始末されるという可能性があるため、逃げるのは正しい選択かもしれない。
「何度か暗殺者を送って来たことからも、ムツィオの犯行は確実だとは思いますが、その暗殺者も何も言わずに自決してしまい証拠にはなり得ず、仲の良いガイオに助けを求めて北へと向かうことにしました」
ルイゼン領からだと、国内どこへ逃げるにしても北へ向かうしかない。
しかし、陸路の場合、領境を待ち伏せすれば容易に捕縛が可能になる。
そのため、ガイオの協力を得て海路で北へ向かうことにしたそうだ。
そこへ行くまでも暗殺されかけたがセバスティアーノが返り討ちにし、何とか海へ出たらしい。
礼儀正しい中年の男性という印象で、とても戦闘が得意には見えないが、セバスティアーノはかなりの実力者のようだ。
「海へ逃れても追っ手が来ていたので、台風にわざと突っ込むようにして何とか撒くことができました」
「なるほど……」
普通に逃げたのではいつまでも追って来る。
ならば、自然に巻き込まれたと思わせて逃げるとは考えたものだが、台風に巻き込まれるなんて随分と思い切ったことをしたものだ。
「俺が無様に海へ落っこちちまったがな……」
「それは、エレナ様を助けたことだ。恥でもなんでもない」
再会した時にレオがいない所でも話したが、この2人のやり取りはレオにとっては初めて聞いたこと。
台風に突っ込めるのだから、操舵技術が下手なわけがない。
しかし、落ちたとなると何かしらのトラブルに遇ったのだと思ったが、ガイオの落ちた理由がなんとなく分かった気がする。
「行き先としていたディステも、もしかしたら気付かれているかもしれません。エレナ様には申し訳ありませんが、このまま死んだと思わせておく方が良いかもしれません」
「確かにここにいるなんて分からないかもしれないですね……」
生きていると知られると、追っ手を向けられる。
ならば、死んだと思わせて、反撃の機会を窺うという考えがガイオやセバスティアーノにはあるのかもしれない。
ここに人が住んでいるなんて知っている人間もいないため、好都合なのかもしれない。
「元々はディステ家の前当主とエレナ様の御爺様の仲が良かったので救いを求めるつもりでしたが、ディステ家も最近良い噂を聞かないですし……」
「ギルドに見捨てられた領地らしいからな……」
「へぇ~……、そうなんですか……」
実家のことはもうどうでも良いし、そもそもここにいたら情報が入って来ない。
そのため知らなかったが、どうやらディステ領も何か問題が起きているようだ。
内心『ざまあ』という思いもしないでもない。
「いかがでしょう? 置いて頂けないでしょうか?」
「いいですよ。縁もあるようですし……」
「縁?」
元々領地を開拓したら人を集めるつもりではいたが、その内という考えでしかなかった。
この島のことを知っている人間なら、お金を出しても来てくれないだろう。
それがあっさり解決できるのだから断る理由がない。
話し的に縁もあるし、レオはその頼みを受け入れることにした。
レオのことは良く知らない2人は、縁と言われて首を傾げる。
「僕の名前は元(・)レオポルド・ディ・ディステ」
「ディステ家の三男だった(・・・)者です」
縁の意味を話すために、レオは改めて自己紹介した。
ワザと過去のことだということを強調して。
「えぇ……」
ガイオとセバスティアーノによるいきなりの提案に、レオは固まってしまう。
彼らが何かを隠しているということは、やり取りを見ていてなんとなくだが察している。
しかし、レオとしてはそれを追求するつもりはなかった。
どこかへ向かう予定のようだし、ガイオが大丈夫そうなら1、2日程度したら見送るつもりでいた。
「ダメだろうか?」
「どこか向かう予定だったのでは?」
そのうち領民を迎えるつもりでいたが、家の周辺以外の開拓には全くと言っていいほど着手していない。
弱いと言っても、ここですら多くの魔物が寄って来るというのに、まだ誰かを住まわせるというのは不安が残る。
それに、彼らはどこかへ向かう予定で台風に巻き込まれたと言っていた。
それがどこかは分からないが、ここではないことは確実だ。
「我々はディステ領へ向かう予定でした」
「ディステ領……」
彼らがどこかへ向かうにしてもまさかの行き先に、レオは僅かに眉を動かして反応してしまう。
はっきり言って、レオからするとあまり聞きたくない領地名だ。
父はこの島を与えることで自分との繋がりを切ったつもりなのだろうが、レオからするととてもありがたいことだった。
父は自分を部屋に閉じ込め、兄たちは顔を合わせれば罵詈雑言を浴びせてきた。
レオの中でも成人すれば関係を断ち切れると思っていたところで、島へ行くように命じられた。
危険な島だという話だが、ここでの暮らしは思ったよりも快適だ。
すぐに死ぬと思って送ったのなら、ざまあみろと言いたいところだ。
「……それは何故?」
彼らがディステ領へ行くとなると、何かしら関わりがあるのかもしれない。
元(・)ディステ家の人間としては、行く理由が気になる
「エレナ……お嬢様をお救いするためです」
「お嬢様……」
周りの反応を見ていて、レオはエレナが普通の女の子だとは思っていなかった。
バレないようにみんな呼び捨てにしていたが、お嬢様という言葉が出て案の定という思いがある。
しかし、エレナを救うためというのは穏やかではない。
どうやら思っていた以上に重い理由がありそうだ。
「エレナお嬢様はルイゼン伯爵家の前御当主の御子様です」
「南端の……?」
「左様です」
ルイゼン領は、ヴァティーク王国の南端に位置する領地でフェリーラ領の南にある。
北以外は周囲を海に囲まれており、水産物で生計を立てている領地だ。
それ以外は特に変な噂は無く、領主の娘が逃げなきゃならないようなことはないはずだ。
「んっ? 前(・)?」
「はい。前領主である御父君が急死なさり、エレナ様が成人するまで叔父君が後見人をおこなうということになりました。しかし、御父君の死には些か疑問が残っておりまして……」
「もしかして……」
「えぇ、その叔父のムツィオが疑わしいのです」
エレナと話した時、もうすぐ成人すると言っていた。
レオが実家を出るまでルイゼン家の領主が亡くなったという話は聞いていないので、亡くなったのはごく最近ということになる。
成人までの後見人を置くにしても、たった数ヶ月の誤差ならエレナに任せてしまっても構わないのではないだろうか。
話の流れを聞いていると、なんとなく容疑者が予想できてきた。
レオが考えた予想通り、セバスティアーノは答えを教えてくれた。
「後見人になってすぐ、ムツィオは領地の税を上げ、エレナ様がなるはずのルイゼン家次期当主を息子にすると言い出しました」
「最初からそれが狙いですかね?」
「恐らく……」
エレナの父が亡くなったのがきっかけになったのかは分からないが、あまりにもあからさま過ぎるおこないだ。
後見人になったのはそのためだったというのが、誰の目にも明らかだ。
そうなると、エレナの父の死も疑わしく思えるのも納得だ。
「死の真相はもはや分からず、このままではお嬢様に危険が及ぶと判断して海へ逃れました」
亡くなってしばらくしてから疑い出しても、証拠も処理されてしまったのだろう。
結局死の真相も掴めなかったようだ。
疑惑が本当だとすると、エレナのことが気にかかる。
ムツィオからするとエレナは邪魔な存在だ。
どこかへ嫁に出すということも考えられるが、最悪の場合始末されるという可能性があるため、逃げるのは正しい選択かもしれない。
「何度か暗殺者を送って来たことからも、ムツィオの犯行は確実だとは思いますが、その暗殺者も何も言わずに自決してしまい証拠にはなり得ず、仲の良いガイオに助けを求めて北へと向かうことにしました」
ルイゼン領からだと、国内どこへ逃げるにしても北へ向かうしかない。
しかし、陸路の場合、領境を待ち伏せすれば容易に捕縛が可能になる。
そのため、ガイオの協力を得て海路で北へ向かうことにしたそうだ。
そこへ行くまでも暗殺されかけたがセバスティアーノが返り討ちにし、何とか海へ出たらしい。
礼儀正しい中年の男性という印象で、とても戦闘が得意には見えないが、セバスティアーノはかなりの実力者のようだ。
「海へ逃れても追っ手が来ていたので、台風にわざと突っ込むようにして何とか撒くことができました」
「なるほど……」
普通に逃げたのではいつまでも追って来る。
ならば、自然に巻き込まれたと思わせて逃げるとは考えたものだが、台風に巻き込まれるなんて随分と思い切ったことをしたものだ。
「俺が無様に海へ落っこちちまったがな……」
「それは、エレナ様を助けたことだ。恥でもなんでもない」
再会した時にレオがいない所でも話したが、この2人のやり取りはレオにとっては初めて聞いたこと。
台風に突っ込めるのだから、操舵技術が下手なわけがない。
しかし、落ちたとなると何かしらのトラブルに遇ったのだと思ったが、ガイオの落ちた理由がなんとなく分かった気がする。
「行き先としていたディステも、もしかしたら気付かれているかもしれません。エレナ様には申し訳ありませんが、このまま死んだと思わせておく方が良いかもしれません」
「確かにここにいるなんて分からないかもしれないですね……」
生きていると知られると、追っ手を向けられる。
ならば、死んだと思わせて、反撃の機会を窺うという考えがガイオやセバスティアーノにはあるのかもしれない。
ここに人が住んでいるなんて知っている人間もいないため、好都合なのかもしれない。
「元々はディステ家の前当主とエレナ様の御爺様の仲が良かったので救いを求めるつもりでしたが、ディステ家も最近良い噂を聞かないですし……」
「ギルドに見捨てられた領地らしいからな……」
「へぇ~……、そうなんですか……」
実家のことはもうどうでも良いし、そもそもここにいたら情報が入って来ない。
そのため知らなかったが、どうやらディステ領も何か問題が起きているようだ。
内心『ざまあ』という思いもしないでもない。
「いかがでしょう? 置いて頂けないでしょうか?」
「いいですよ。縁もあるようですし……」
「縁?」
元々領地を開拓したら人を集めるつもりではいたが、その内という考えでしかなかった。
この島のことを知っている人間なら、お金を出しても来てくれないだろう。
それがあっさり解決できるのだから断る理由がない。
話し的に縁もあるし、レオはその頼みを受け入れることにした。
レオのことは良く知らない2人は、縁と言われて首を傾げる。
「僕の名前は元(・)レオポルド・ディ・ディステ」
「ディステ家の三男だった(・・・)者です」
縁の意味を話すために、レオは改めて自己紹介した。
ワザと過去のことだということを強調して。