「【氷】!!」

「フンッ!!」

 会話をやめて戦い出したレオとジェロニモ。
 ジェロニモが纏う炎の魔力によって、接近戦は危険でしかない。
 そのため、レオは氷魔法を使い、氷柱を飛ばしてジェロニモに攻撃する。
 しかし、その攻撃もジェロニモが持つ剣や鞭によってただの水へと変えられてしまう。

「ハーッ!!」

「くっ!!」

 レオの魔法を弾いたジェロニモは、そのまま地を蹴り距離を詰める。
 スキルによって、バルログという魔物の能力を使っているせいか、とんでもない速度でレオへと迫る。
 そのまま剣で斬りつけてくるジェロニモの攻撃を躱し、レオはまた距離を取る。

「【氷】!!」

「無駄だということが分からんのか!?」

 戦いを再開してから、レオは魔法で攻撃して来るばかり。
 それも今の自分には通用しないと確信しているため、余裕で剣を使って魔法を弾き飛ばす。
 繰り返しのような状況に、段々とイラ立ちを含むように文句を言い放った。

「【氷】!!」

 ジェロニモの言葉なんてお構いなし。
 レオは効かないと分かっていながらも、距離を取りながら同じ魔法を繰り返した。

『思った通り……』

 距離を取って戦うレオ。
 戦いながらも、今の状態のジェロニモを分析していた。
 その中で、距離を取った自分に、同じように魔法を放ってくるかもしれないと思って警戒していた。
 しかし、いつまで経ってもそのような素振りをしない。
 魔力が大量にあるというのに、全然魔法の練習をして来なかったのだろう。
 せっかくの魔力がもったいない。
 それもレオにとっては好都合だ。
 このまま距離を取っていれば、危険な目に遭うこともないからだ。

「おのれ!! ちょこまかと……!!」

 魔法を弾いては距離を詰めての攻撃。
 しかし、その攻撃が当たらず、ジェロニモはイラ立ちが募らせるばかりだ。

「……なるほど、このまま他の人間が援護に来るのを待っているんだな?」

 魔法攻撃が通用しないことは、戦い始めてすぐに気付いたはず。
 それなのに、距離を取ってワンパターンに攻撃してくるレオ。
 その狙いが、ジェロニモには時間稼ぎをしているとしか思えなかった。
 時間を稼いでこの場に留め、エレナを逃がすとともに味方となる兵が来るのを待っているのだと導き出したのだ。

「所詮貴様は他人の手を借りないと俺には勝てないということか……」

 ジェロニモの中でいつの間にか、このレオとの戦いをエレナを賭けてのものだと考えていたようだ。
 1対1の戦いをしているというのに、他人に協力を求めるような戦い方をしているレオが負けを認めていると感じたようだ。

「それはどうかな?」

「何っ?」

 レオとしては、別に他人の力を得ても勝てればいいと思っている。
 しかし、王都内にいる兵たちが集まって来た場合、勝てるかもしれないが被害者も多く出るということが懸念される。
 それだけ今のジェロニモは危険な状態だ。
 もしも兵が集まって殺されでもしたら、またスケルトンを増やして抵抗してくるかもしれないし、エレナを賭けているという思いはないが、ここで自分がやられたらエレナに危害が及ぶ。
 そうならないためにも、レオもこのまま1対1で勝負を決めたい。
 そのため、そろそろ準備していた策を実行することにした。

「……また、性懲りもなく……」

 自分の攻撃を躱してまたも距離を取り、魔力を練り始めるレオ。
 それを見て、ジェロニモは呆れたような呟く。
 レオが何をしたいのか全く分からないからだ。

「っ!!」

 これまでと同じようにまた氷柱を飛ばして来るのだと思っていたジェロニモだったが、レオの様子がこれまでと違った。
 練った魔力がこれまでと違う反応をし始めたため、ジェロニモは何をする気なのか訝しんだ。

「【雷】!!」

「ぐあーっ!!」

 レオが放ったのは雷魔法。
 電気が体に伝わり、ジェロニモはその苦しみに呻き声を上げた。
 そして、攻撃を受けたジェロニモは、受けたダメージによって膝をついた。

「……くっ、……そうかっ! 効かないと分かっていながら氷魔法を放っていたのは、これが狙いだったのか……」

 所々火傷の跡を残しながら、ジェロニモは立ち上がる。
 そして、何が起きたのかを周囲を見て気付くことになった。
 水魔法は剣や鞭で弾かれてしまえば蒸発して消し去られるが、氷魔法は弾かれると水となって地面を濡らしていた。
 ジェロニモの炎の魔力は、触れた部分にのみ高温の作用が及ぶ。
 近くの濡れた地面はそのままなのが証明だ。
 そのことを戦闘中に気付いたレオは、この戦場の地面を充分に濡らして電気を通す道を作るために、通用しないと分かっていても氷魔法を放ち続けたのだ。
 そのことに気付いた時にはもう遅く、ジェロニモは雷攻撃を受けて大ダメージを受けた。

「スキルのお陰で強くなれたとしても、スキルを使う人間が訓練不足なら意味がないんだよ!!」

 大ダメージを与えることに成功したレオは、悔しそうに呟くジェロニモに啖呵を切る。
 たしかにジェロニモのスキルは素晴らしい。
 しかし、それを使う人間が心身ともに未熟としか言いようがない。
 このような攻撃は、ある程度戦闘経験のある者なら気が付いていたはずだ。
 気付けば、その炎の魔力を使って地面の水も蒸発させることもできたので、ジェロニモもこのようなことにはならなかったのだ。

「くっ……!!」

 ふらつきながらも、何とか周囲の濡れた地面を乾かすジェロニモ。
 これで同じように電撃を受けることはなくなった。

「……あの魔力のせいか?」

 大ダメージを与え、動きをかなり鈍らせることはできた。
 しかし、思った以上にまだ動けている。
 結構な魔力を使った攻撃を受けたのに、日々訓練をしている訳でもないジェロニモが戦闘不能にならない。
 どうしてまだ動けているのか理由が分からなかったが、少し考えたレオはすぐに予想がたった。
 ジェロニモとしての魔力なら、どんなに多かろうが抵抗できず、先程の電撃で気を失っていたことだろう。
 だが、今のジェロニモはバルログという魔物の力も作用している。
 そのバルログの魔力によって、ジェロニモの魔力抵抗が上がっていたからこそ、まだ耐えられているのだろうとレオは導き出した。

「ジェロニモ様!!」

「コルラード……」

「っ!!」

 追い込もうとしていたレオと、痛みに耐えつつ迎え撃とうとしているジェロニモ。
 そこへ屋上に残してきたコルラードが、助けに入るように駆け寄ってきた。
 コルラードが来たことに、ジェロニモはチラッと見るだけで済まし、レオは不吉な考えが沸き上がっていた。
 コルラードが来たということは、相手をしていたイメルダたちがやられたという可能性があるからだ。

「王都にいた兵が集まり、城内のスケルトンの制圧が始まりました! 何とか私だけ逃れてきましたが、スケルトンはそのうち破壊されます!」

 それを聞いて、レオは少し安堵した。
 逃げてきたと言うことは、イメルダたちはまだやられていないかもしれないからだ。
 しかも、王都にいた兵たちが集まったというのなら、レオのスキルで動く戦闘人形たちと共に戦えば、そう時間も経たずに城内の制圧は可能だろう。
 これで脅威となるのは、自分の目の前にいるジェロニモとコルラードだけになったということだ。

「ここにもすぐに兵が来ます! 今のうちに逃走を開始しましょう!」

「くっ!!」

 レオだけでも予想外に苦戦しているのに、この上兵たちまで来たら面倒この上ない。
 コルラードの申し出に、ジェロニモは逃走の二文字が頭をよぎった。

「まさか逃げないよな?」

「っ!?」

 逃走の相談をしているジェロニモに対し、レオが話しかける。

「エレナを愛していて手に入れたいのだろ? だったら俺との戦いから逃げるわけないよな?」

「……黙れ」

 逃がしたら、いつまで経っても王国やエレナに平和が訪れない。
 エレナを賭けての戦いと思っているジェロニモ。
 逃がさないためにも、レオはその考えを利用することにした。
 案の定、エレナの名前を出せばジェロニモは反応する。

「お前のエレナへの愛ってのはその程度なのか?」

「黙れ!!」

 最後の煽りが成功し、ジェロニモは逃げるという選択をやめたように、レオに対して武器を構え直した。