「死霊装……?」
攻撃を防がれて一旦距離を取ったレオは、変容したジェロニモの様子を驚きの表情で見つめる。
頭に何かの骸骨を被り、武器を取り出した。
ジェロニモがしたことは、たったそれだけのことのように見える。
しかし、そうした途端ジェロニモの全身を黒い炎のような魔力が纏い、レオの攻撃を手に持つ剣で防いだ。
戦争に際し、ジェロニモは武術全般得意な方ではないという資料をレオは目にしていた。
ガイオに訓練を受け続けているため、レオの剣技はかなり上がっていて、近い内に剣術スキルを手に入れることができるのではないかと言われている。
剣術スキルを持っているから強いという訳ではないが、持っていると持っていないでは当然差が出る。
決して自分が強いとは思っていないが、ジェロニモになら勝てるという思いがあった。
このような技をジェロニモが隠し持っているとは思わなかった。
「骸骨を操るなら操縦者は近い距離にいた方が良い。その方が魔力を消費しないからな……」
「…………」
どんな能力か分からず戸惑っているレオが面白いのか、ジェロニモは愉悦を浮かべながら説明を始めた。
わざわざ説明してくれるようなので、レオは黙って聞くことにした。
まず話し始めたことは、レオにも分かる。
スキルにより自動で動く人形たちだが、レオの近くにいる方が魔力消費は少ない。
ヴェントレ島に住むようになり、ロイやオルを使っているうちに気が付いたことだ。
操る物は違うとしても、同じような能力を使うジェロニモもそのことに気付いていたようだ。
「骸骨は貴様の人形のように内部に何もない。しかし、被ることはできる」
レオの人形は、一部に電池代わりの魔石を入れるスペースを作ることはできるが、内部に入ることはできない。
術者であるレオが内部に入るような人形も作ろうと思えば作れるが、現状そんな暇はない。
魔物などの骸骨をスケルトンとして利用する場合、生前並に強い訳ではないことはここまでの戦いで分かっている。
特に人間の骨を使ったスケルトンは知能の面で劣ることからか、生前強くてもスケルトンになったらたいしたことないレベルに落ちる。
スケルトンドラゴンは、単純に生前の能力よりも落ちていてもあの強さだというのだから恐ろしいところだ。
そのスケルトンドラゴンの骨はでかすぎて被るなどとはできないが、大きさ次第ではたしかに被ろうと思えば被れる。
だからと言って、それでどうしてジェロニモが強くなったというのだろうか。
「貴様を潰すために色々試した結果、俺は被った骸骨の生前の能力が出せることを突き止めたのだ!! しかも、俺はスケルトンドラゴンを操るほどの魔力持ちだ! つまり、この程度の大きさなら何時間でも使用可能だ!!」
戦争をしている時、ジェロニモは幾度もレオの能力に驚かされた。
同じような能力でどうしてこのように差が出るのか分からず、ジェロニモはどうにかして自分のスキルの向上ができないか考えた。
そして考え付いたのがこの能力だ。
「まともなことにその頭を使えって言いたいが、確かに面倒な能力だな……」
僅かな期間でこのようなことを考え付き、ちゃんと使えるレベルまで持って来たことを考えると、性格はともかく頭の方は良いようだ。
しかし、その使い道がどう考えても間違っている。
それをちゃんとした方向で使えば、市民に愛される領主としてなっていただろうと、レオは思わなくはない。
骸骨を被ることで、魔力の消費量も少なく生前の能力を使える。
しかも、ジェロニモはレオの何倍もの魔力持ちのため、魔力切れを期待することもできない。
人形たちはスケルトンの相手をさせている。
つまり、この状態のジェロニモを相手に、レオは単独で戦わなくてはならないということのようだ。
「どうだ……っ!! エレナ!?」
自分の強い姿を見て気持ちを変えたかもしれないと、ジェロニモはエレナたちの方へと視線を向ける。
しかし、先程いた場所にエレナがいなくなっていることに気付いた。
ここは建物で言う所の4階の高さのため、とても飛び降りて助かる高さではない。
何かしらの方法で降りられたとしても、王城内のほとんどの人間が死体かスケルトンへと変えられている。
下に降りたらすぐにスケルトンに捕まっているはずだ。
しかし、スケルトンからエレナを捕獲したという感覚は感じられない。
どうやってこの場からいなくなったのか、ジェロニモは下へ向かって目を向けた。
「クッ!! いつの間に……」
下へと視線を向けて、ジェロニモはどうやって逃げたのか理解した。
何やら糸のようなものが、城の外の建物へと繋がっていた。
その糸を伝って、エレナたちが避難していたのだ。
「あの蜘蛛か!?」
イラーリとは反対側のエレナの肩に、小さい蜘蛛が乗っているのが見える。
その蜘蛛の糸によって逃走したということに、ジェロニモは気が付いた。
闇猫のクオーレによる影移動は魔力切れで使えない。
そのため、レオは蜘蛛のエトーレにエレナたちの避難を頼んでいたのだ。
ジェロニモの気を引いているうちに、うまいこと逃走に成功したようだ。
「本当にあの2匹の従魔は優秀だな……」
これで一先ずエレナたちは安全な場所へ避難できるだろう。
指示した通り動き、結果を出したクオーレとエトーレに、レオは深く感謝した。
「おのれっ!! 貴様っ!!」
あの蜘蛛のやったこともレオの仕業だと知り、ジェロニモは一気に逆上した。
そして、その場を蹴り高速で接近すると、手に持つ剣でレオに斬りかかった。
「何度も何度も邪魔ばかりしやがって!!」
「ぐっ!!」
高速接近から横薙ぎされる剣に、レオは慌てて反応する。
手に持つ剣で防ぐことはできたが、その威力がとんでもない。
踏ん張ることもできず、レオは吹き飛ばされるように屋上から離れていった。
「くそっ!! 【風】!!」
攻撃による痛みはない。
しかし、このままでは地面へと落下して死んでしまう。
そう考えたレオは、地面へ向けて魔法を放った。
噴射された風により、レオは無事着地に成功した。
「フゥ~……」
魔法は精神状態に左右する。
そのため、もしも威力が思ったより弱く発動していたら、大怪我を負っていただろう。
咄嗟のことだったため、何とか成功したことにレオは安堵のため息を吐いた。
「あんな狭いところよりいいか……」
「っ!! と、飛んでる……?」
レオが着地したのは、王城側にある兵たちが訓練する屋外鍛錬場だった。
そんな事、レオやジェロニモは分からないし、考えているほど暇ではない。
それよりも、先程の狭い屋上に比べれば開けた大規模な場所のため、ジェロニモは邪魔が入らず戦えると笑みを浮かべた。
ジェロニモの声が聞こえ、逃げているエレナではなく自分の方に来てくれたとレオは少し安心した。
しかし、そのジェロニモの姿がある場所に目を見開いた。
声をかけてきたジェロニモは、背中に生えた炎の魔力を翼のように使って、屋上から飛んできたのだ。
「……そうか!! その能力で王都まで飛んできたのだな!?」
「ご名答!!」
王国軍が取り囲んだ村からは、何も出てこなかった。
スケルトンワイバーンのような存在もあるかもしれないと、上空も見逃してはいなかったはず。
しかし、人を乗せて飛ばすような大きさのスケルトンは確認されなかった。
ただ、たいした大きさでなかったとしたら見つけられただろうか。
今のジェロニモのように、人間サイズのものが上空へ飛び出したとして、少し離れた場所にいた人間が見付けられたかは微妙なところだ。
しかも、黒い炎のような魔力に覆われていたら、闇夜に紛れて飛び立ったら気付けるとは思えない。
日が暮れ、夜の闇に紛れて逃げたのだとしたら、ジェロニモがここにいる理由にレオは納得できた。
そのことにレオが気付くと、ジェロニモは馬鹿にするかのように拍手をした。
「みっともないな王国軍は!! 囲んでおいてまんまと逃げられたのだからな!! ハーハッハッハ……!!」
「クッ!!」
自分がまんまと王国軍を出し抜いたことに、ジェロニモは改めて笑わずにはいられなかった。
包囲しておいて逃げられ、その間に王都を殲滅された姿を見せつける。
国として戦争に負けても、自分は負けていないということを誇示するための作戦だったのだ。
これまで懸命に戦ってきた仲間を自分も含めて馬鹿にされたレオは、怒りで飛び出しそうになるのを耐え、歯を食いしばった。
「軍が戻る頃には、ここは破壊されて焼け野原。そして俺はエレナと共に新天地へと向かうのだ!!」
「そんなことはさせない!!」
味方のはずの市民や軍を見捨て、多くの人間に悲しみを与える自分勝手な考えとおこない。
このままこの男の好きにさせる訳にはいかない。
そう思ったレオは、何としてもジェロニモをこの場で倒すべく、手に持つ剣を構えたのだった。
攻撃を防がれて一旦距離を取ったレオは、変容したジェロニモの様子を驚きの表情で見つめる。
頭に何かの骸骨を被り、武器を取り出した。
ジェロニモがしたことは、たったそれだけのことのように見える。
しかし、そうした途端ジェロニモの全身を黒い炎のような魔力が纏い、レオの攻撃を手に持つ剣で防いだ。
戦争に際し、ジェロニモは武術全般得意な方ではないという資料をレオは目にしていた。
ガイオに訓練を受け続けているため、レオの剣技はかなり上がっていて、近い内に剣術スキルを手に入れることができるのではないかと言われている。
剣術スキルを持っているから強いという訳ではないが、持っていると持っていないでは当然差が出る。
決して自分が強いとは思っていないが、ジェロニモになら勝てるという思いがあった。
このような技をジェロニモが隠し持っているとは思わなかった。
「骸骨を操るなら操縦者は近い距離にいた方が良い。その方が魔力を消費しないからな……」
「…………」
どんな能力か分からず戸惑っているレオが面白いのか、ジェロニモは愉悦を浮かべながら説明を始めた。
わざわざ説明してくれるようなので、レオは黙って聞くことにした。
まず話し始めたことは、レオにも分かる。
スキルにより自動で動く人形たちだが、レオの近くにいる方が魔力消費は少ない。
ヴェントレ島に住むようになり、ロイやオルを使っているうちに気が付いたことだ。
操る物は違うとしても、同じような能力を使うジェロニモもそのことに気付いていたようだ。
「骸骨は貴様の人形のように内部に何もない。しかし、被ることはできる」
レオの人形は、一部に電池代わりの魔石を入れるスペースを作ることはできるが、内部に入ることはできない。
術者であるレオが内部に入るような人形も作ろうと思えば作れるが、現状そんな暇はない。
魔物などの骸骨をスケルトンとして利用する場合、生前並に強い訳ではないことはここまでの戦いで分かっている。
特に人間の骨を使ったスケルトンは知能の面で劣ることからか、生前強くてもスケルトンになったらたいしたことないレベルに落ちる。
スケルトンドラゴンは、単純に生前の能力よりも落ちていてもあの強さだというのだから恐ろしいところだ。
そのスケルトンドラゴンの骨はでかすぎて被るなどとはできないが、大きさ次第ではたしかに被ろうと思えば被れる。
だからと言って、それでどうしてジェロニモが強くなったというのだろうか。
「貴様を潰すために色々試した結果、俺は被った骸骨の生前の能力が出せることを突き止めたのだ!! しかも、俺はスケルトンドラゴンを操るほどの魔力持ちだ! つまり、この程度の大きさなら何時間でも使用可能だ!!」
戦争をしている時、ジェロニモは幾度もレオの能力に驚かされた。
同じような能力でどうしてこのように差が出るのか分からず、ジェロニモはどうにかして自分のスキルの向上ができないか考えた。
そして考え付いたのがこの能力だ。
「まともなことにその頭を使えって言いたいが、確かに面倒な能力だな……」
僅かな期間でこのようなことを考え付き、ちゃんと使えるレベルまで持って来たことを考えると、性格はともかく頭の方は良いようだ。
しかし、その使い道がどう考えても間違っている。
それをちゃんとした方向で使えば、市民に愛される領主としてなっていただろうと、レオは思わなくはない。
骸骨を被ることで、魔力の消費量も少なく生前の能力を使える。
しかも、ジェロニモはレオの何倍もの魔力持ちのため、魔力切れを期待することもできない。
人形たちはスケルトンの相手をさせている。
つまり、この状態のジェロニモを相手に、レオは単独で戦わなくてはならないということのようだ。
「どうだ……っ!! エレナ!?」
自分の強い姿を見て気持ちを変えたかもしれないと、ジェロニモはエレナたちの方へと視線を向ける。
しかし、先程いた場所にエレナがいなくなっていることに気付いた。
ここは建物で言う所の4階の高さのため、とても飛び降りて助かる高さではない。
何かしらの方法で降りられたとしても、王城内のほとんどの人間が死体かスケルトンへと変えられている。
下に降りたらすぐにスケルトンに捕まっているはずだ。
しかし、スケルトンからエレナを捕獲したという感覚は感じられない。
どうやってこの場からいなくなったのか、ジェロニモは下へ向かって目を向けた。
「クッ!! いつの間に……」
下へと視線を向けて、ジェロニモはどうやって逃げたのか理解した。
何やら糸のようなものが、城の外の建物へと繋がっていた。
その糸を伝って、エレナたちが避難していたのだ。
「あの蜘蛛か!?」
イラーリとは反対側のエレナの肩に、小さい蜘蛛が乗っているのが見える。
その蜘蛛の糸によって逃走したということに、ジェロニモは気が付いた。
闇猫のクオーレによる影移動は魔力切れで使えない。
そのため、レオは蜘蛛のエトーレにエレナたちの避難を頼んでいたのだ。
ジェロニモの気を引いているうちに、うまいこと逃走に成功したようだ。
「本当にあの2匹の従魔は優秀だな……」
これで一先ずエレナたちは安全な場所へ避難できるだろう。
指示した通り動き、結果を出したクオーレとエトーレに、レオは深く感謝した。
「おのれっ!! 貴様っ!!」
あの蜘蛛のやったこともレオの仕業だと知り、ジェロニモは一気に逆上した。
そして、その場を蹴り高速で接近すると、手に持つ剣でレオに斬りかかった。
「何度も何度も邪魔ばかりしやがって!!」
「ぐっ!!」
高速接近から横薙ぎされる剣に、レオは慌てて反応する。
手に持つ剣で防ぐことはできたが、その威力がとんでもない。
踏ん張ることもできず、レオは吹き飛ばされるように屋上から離れていった。
「くそっ!! 【風】!!」
攻撃による痛みはない。
しかし、このままでは地面へと落下して死んでしまう。
そう考えたレオは、地面へ向けて魔法を放った。
噴射された風により、レオは無事着地に成功した。
「フゥ~……」
魔法は精神状態に左右する。
そのため、もしも威力が思ったより弱く発動していたら、大怪我を負っていただろう。
咄嗟のことだったため、何とか成功したことにレオは安堵のため息を吐いた。
「あんな狭いところよりいいか……」
「っ!! と、飛んでる……?」
レオが着地したのは、王城側にある兵たちが訓練する屋外鍛錬場だった。
そんな事、レオやジェロニモは分からないし、考えているほど暇ではない。
それよりも、先程の狭い屋上に比べれば開けた大規模な場所のため、ジェロニモは邪魔が入らず戦えると笑みを浮かべた。
ジェロニモの声が聞こえ、逃げているエレナではなく自分の方に来てくれたとレオは少し安心した。
しかし、そのジェロニモの姿がある場所に目を見開いた。
声をかけてきたジェロニモは、背中に生えた炎の魔力を翼のように使って、屋上から飛んできたのだ。
「……そうか!! その能力で王都まで飛んできたのだな!?」
「ご名答!!」
王国軍が取り囲んだ村からは、何も出てこなかった。
スケルトンワイバーンのような存在もあるかもしれないと、上空も見逃してはいなかったはず。
しかし、人を乗せて飛ばすような大きさのスケルトンは確認されなかった。
ただ、たいした大きさでなかったとしたら見つけられただろうか。
今のジェロニモのように、人間サイズのものが上空へ飛び出したとして、少し離れた場所にいた人間が見付けられたかは微妙なところだ。
しかも、黒い炎のような魔力に覆われていたら、闇夜に紛れて飛び立ったら気付けるとは思えない。
日が暮れ、夜の闇に紛れて逃げたのだとしたら、ジェロニモがここにいる理由にレオは納得できた。
そのことにレオが気付くと、ジェロニモは馬鹿にするかのように拍手をした。
「みっともないな王国軍は!! 囲んでおいてまんまと逃げられたのだからな!! ハーハッハッハ……!!」
「クッ!!」
自分がまんまと王国軍を出し抜いたことに、ジェロニモは改めて笑わずにはいられなかった。
包囲しておいて逃げられ、その間に王都を殲滅された姿を見せつける。
国として戦争に負けても、自分は負けていないということを誇示するための作戦だったのだ。
これまで懸命に戦ってきた仲間を自分も含めて馬鹿にされたレオは、怒りで飛び出しそうになるのを耐え、歯を食いしばった。
「軍が戻る頃には、ここは破壊されて焼け野原。そして俺はエレナと共に新天地へと向かうのだ!!」
「そんなことはさせない!!」
味方のはずの市民や軍を見捨て、多くの人間に悲しみを与える自分勝手な考えとおこない。
このままこの男の好きにさせる訳にはいかない。
そう思ったレオは、何としてもジェロニモをこの場で倒すべく、手に持つ剣を構えたのだった。