「まだ見つからんか……?」

「えぇ……」

 ルイゼン軍を制圧し、領地の奪還を果たした王国軍。
 ムツィオが財を尽くして建てたであろう城に入り、王であるクラウディオはそこからいつの間にか逃走していたジェロニモの捜索を指示した。
 北のフェリーラ領から南へ向けてと、クラウディオたちがいる東側から西へ向けて、ジワジワと捜索範囲を狭めていった。
 しかし、範囲が狭まりつつあるというのに、なかなかジェロニモの姿が確認できない。
 捕まえた兵たちから聞いた話により、最終戦直前に逃げ出したということは分かっている。
 そのため、そんなに離れた位置へいるとはいないと思っていたのだが、なかなかジェロニモの姿が見つからないことに、クラウディオも少々違和感を感じていた。
 宰相のサヴェリオも同じ違和感を感じており、姿を見たという情報や報告が何故入らないのか分からないでいた。

「陛下!」

「申せ!」

 ジェロニモの捕縛か殺害がなされ、一刻も早く国内の平穏を取り戻したいところなのだが、その1人に時間をかけられていると考えると、いら立ちが募ってくる。
 そんなクラウディオの下に、1人の兵が玉座の間に入ってきた。
 今このように慌てて入ってくるなど、ジェロニモに関する情報以外にあり得ない。
 ようやく何かしらの情報が入ったのだと、クラウディオは期待と共に兵へ報告を求めた。

「ルイゼン領西の端でジェロニモらしき人間を確認したと報告が!」

「西の端?」

 思った通り、どうやらジェロニモは西へと逃走を計っていたようだ。
 しかし、地図を指差しつつ受けたその報告は少々おかしい。
 クラウディオは思わず声が上ずりそうになった。

「いつの間にこんな所に……」

 西に逃げたというのは分からなくない。
 王国軍に見つかる可能性の高い海も北も無理なため、西もしくは西南方面に逃げるしか時間稼ぎなどできないからだ。
 しかし、報告に来た兵が指し示した場所は西の端、この距離をこの短期間でどうやって移動したというのか分からない。
 情報が入るくらいなのだから、かなり早い段階でその付近に姿を現したということ。
 つまり、移動速度が速すぎるため、サヴェリオは思わず呟いた。

「……ともかく西の村へ範囲を狭めていく」

「左様ですね……」

 一気にそこへ向けて軍を送りたいところだが、そんなことをしたら隙間を縫って逃げられるという可能性もあり得る。
 それではこれまで追い込んんだ意味がない。
 このまま範囲を狭めて、クラウディオは今度こそ確実にジェロニモの逃走経路をなくすことを選択した。

「奴には何か特殊な逃走方法があるのかもしれない。連携を取り合い、今度こそ奴を追い詰める。蟻一匹見逃すな!」

「ハイッ!」

 移動方法が分からないが、このまま範囲を狭めていけば逃げることなどできないはずだ。
 クラウディオの指示を受け、サヴェリオは進軍の編成にすぐさま着手することにした。





「どうやら来たようだ……」

「そうですか……」

 西の端にある森の近くの村。
 そこで自分たちのいる場所を目指し、王国が捜索範囲を狭めてきていることにジェロニモたちは気付いていた。
 現在自分たちのいる地点を中心に、王国軍が通るであろう道にスキルで発動した骸骨を配置していた。
 それにより、ジェロニモは王国軍が迫っていることに気が付くことができたのだ。
 位置を知られてから、ここまで接近してくる時間も想定の範囲内。
 ジェロニモは、慌てることはない様子だ。
 何故なら、この結果はジェロニモ自身が導いたことによるものだからだ。
 ある程度の戦力を手に入れ、後は予定通りここに王国の軍を引き付けるのが目的だったからだ。

「予定通り行くぞ!」

「畏まりました……」

 明日にはこの村を囲んでいる王国軍が攻め込んでくるだろう。
 そうなる前にここから逃げ出そうと、ジェロニモは荷支度を進めていく。
 その言葉に従い、コルラードも準備を進めるのだが、その表情は暗い。
 命を救ってくれた恩に報いるため何事にも従ってきたが、引きこもり時代によって性格が変化してしまったのか、ジェロニモは以前とは考え方が全く違っている。
 領民のことを考えていた昔とは違い、エレナのみに執着している。
 それゆえに、平気でこのような(・・・・・)ことをしたのだろう。
 指示に従うためとはいえ、コルラードの中でジェロニモがこのままでいいのか分からなくなりつつあった。





「行けっ!!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 報告を受けたジェロニモがいる村。
 それを包囲していた王国軍は、警戒しながら歩を進める。
 ジェロニモがいるのは昨日のうちに確認ができていたため、スケルトンに注意しながらのゆっくりとした進軍だ。

「…………」

「何も出てこないですね?」

「あぁ……」

 武器を構えつつ、ゆっくりと村へと近付く兵たち。
 いつどこからスケルトンが出てくるか分からないため、慎重に歩を進める。
 だが、村の中に足を踏み入れても、スケルトンどころか何も襲ってこない。
 警戒心を解かず、兵たちは異様な思いをしながら村の中を進んでいった。

「っ!! これは……」

「血痕ですね……」

「それと……」

 ある一つの家に侵入し、兵たちは顔をしかめる。
 中には罠どころか人影もないのだが、大量の血痕が残っていた。
 それだけではなく、血痕の近くには骨だけ取り除いたように人の肉が落ちていた。

「まさか……」

「あぁ、ジェロニモによるものだろう……」

 まるで脱ぎ捨てたように残ったこの家の住人のなれの果てに、兵たちは気分を悪くする。
 この状況を起こしたであろう人間はすぐに想像できた。
 城に造り変えたルイゼン領の領主邸の一画に、異臭を放つ建物が存在していた。
 そこには大量の人間や動物の遺体が運び込まれていて、同じように骨を抜き取ったような肉が転がっていた。
 ここでスケルトンを製造していたのだということが伝えられた時、王国の誰もが怒りを湧きあがらせたのだった。
 それと同じようなことができるといえば、ジェロニモ以外に思い至らない。
 そのため、兵たちは以前同様怒りが再燃していた。

「期待は薄いが、他の家も探すぞ!」

「あぁ!」

 ジェロニモのことを逃がさないように慎重に範囲を狭めてきたが、もしかしたらその間にここの住民が被害に遭ったのかもしれない。
 そう考えると、自分たちがもっと早く来ていればという思いが兵たちの中に沸き上がる。
 しかし、無闇に速度を上げていれば、ジェロニモに逃げられて同じように被害を受ける人間も増えていたかもしれない。
 結局の所、ジェロニモを止めないと全てが終わらない。
 僅かな期待を持ちながら、兵たちは村の中の捜索を再開したのだった。

「なかなか発見の報告が来んな……」

「そうですね……」

 今回もレオたちは後方に控えるだけで、戦いに加わることはないだろう。
 そのことについては別に文句はない。
 強いて言うなら、一刻も速くジェロニモを仕留めて欲しいという所だ。
 しかし、いつまで経っても戦闘が起きている様子もなく、ジェロニモが発見されたという報告すら来ない。
 どうしたのかと思いつつ、レオはメルクリオと共に発見の報告を待った。

「メルクリオ様!!」

「んっ? どうした?」

 兵たちが村に入っていくのを眺めていたメルクリオの下へ、兵が駆け寄ってきた。
 発見の報告だと予想しつつ、メルクリオはその兵に問いかけた。

「陛下より一報が届きました!!」

「何? 申せ!」

 どうやらジェロニモ発見の報告ではなく、ルイゼン領の領都に残っていたクラウディオからの一報が届いたらしい。
 こんな時に何かあったのかと、メルクリオは兵にその報告を求めた。

「ジェ、ジェロニモが……」

「ジェロニモ……?」

 ジェロニモならもうすぐ村の中で発見されるはずだ。
 そのジェロニモと何か関係あるのかと、メルクリオは兵からの報告の続きを待った。
 そして、その後、兵からは信じがたい報告が告げられることになった。





「ジェロニモが王都へ姿を現しました!!」