「よくぞやってくれた!! ヴェントレ準男爵よ!!」

「お褒め頂きありがとうございます」

 レオたちの奮戦により、スケルトンの侵攻を抑えた王国軍。
 怪我人も出たが、これまでのスケルトンとの戦いで対応策を取っていたため、援軍にきた者たちによって数多くいたスケルトンは全て破壊することに成功した。
 彼らも頑張ったことはたしかだが、何といっても最大の脅威だったスケルトンドラゴンを破壊することに成功したレオは、王であるクラウディオから最大の賛辞を受けることになった。
 これほどまでの戦果を目の当たりにしたため、他の貴族たちも文句をつけようがない。
 砦内に作られた玉座の間を入退室する際は、多くの拍手を受けることになった。

「これで恐れるものはない。このまま攻め込み、ジェロニモの首をとってくれるわ!!」

 どんな能力も、使い方を間違えれば悪と言わざるを得ない。
 スケルトンの操作という気味の悪い部分もあるが、ジェロニモもレオ同様領地の発展にその能力を利用すべきだった。
 もうこうなったら、ジェロニモの命も風前の灯と言ったところだろう。
 何の恐れもなく攻め込めるからか、クラウディオも興奮で鼻息荒くなっていた。

「そなたへの褒賞は後々きちんとさせてもらうぞ。欲しいものを考えておくがいい」

「ありがとうございます」

 時間をかければ、またジェロニモはスケルトンを増やして抵抗を続けるかもしれない。
 そうならないためにも、明日にはルイゼン領の領都(ジェロニモ側が呼ぶ王都)へ向けて進軍することが決まっている。
 この戦争による褒賞も、全てはジェロニモの捕縛か始末が終わってからの話になった。





「とは言っても、戦争に金を使っているからな……」

「ですね……」

「あまり資金的な期待はできないだろうな」

 レオたちに与えられた部屋に戻り、クラウディオとした会話を説明すると、ガイオが渋い表情で言葉を漏らし、レオも言いたいことを察して同じような表情で同意の言葉を呟いた。
 褒賞と言っても、思っていた以上に大事になってしまったルイゼン領の奪還戦。
 国の多くの兵が出陣することになり、その分大量の資金を支出することになっている。
 そのため、資金的な褒賞は期待できそうにない。
 かと言って、領地も持っているレオには領地を与えるということもないだろう。

「また爵位が上がるだけかもな……」

「僕はそれで構わないですけどね。資金が欲しいとかは特にないですね」

「欲がないな……」

 ドナートの言うように、今回も陞爵してもらえるだろう。
 しかし、これまでの成果とは違い、今回の場合爵位が上がるだけだと物足りなく感じてしまう。
 陞爵以外に何が与えられるかという考えをみんなはしているようだが、レオは陞爵だけで充分だと思っている。
 レオのその考えに、ヴィートは少し呆れたように呟いた。
 爵位じゃ物は食えない。
 資金はあるだけあった方が、ヴェントレ島の開拓速度を上げることができる。
 それをいらないというのは、少々欲がなさすぎると思うのも当然だ。

「地道に島の発展を続けていく方が面白くないですか?」

 たしかに資金があった方が良いとは思うが、別にヴェントレ島は貧しい思いをしていない。
 ロイたちが倒した魔物の素材をフェリーラ領に売っているため、資金面において全く困っていない。
 使い道も特にないせいか、むしろ溜め込んでいないでもっと資金を流通させた方が良いのではないかと思えてくる。
 それに、開拓を無理に進めて、今の環境が崩れるかもしれない方がレオとしては嫌だ。
 何事もほどほどがいいと、年齢にしては達観した考えだ。

「…………」

 レオの考えは分かったが、1人黙ったまま聞いていた者がいた。
 いつもはエレナの護衛兼執事として付いているセバスティアーノだ。

「レオ殿。ずっと聞きたいと思っていたのですが……」

「はい?」

 王都に残してきたエレナの護衛は、ガイオの部下であるイメルダに任せてきているため、執事としてではなく聞いておきたいことがセバスティアーノにはあった。
 セバスティアーノは今それを聞いておこうと考えた。
 島ではエレナの執事として接していたため、レオはセバスティアーノから私的な質問をされたことなど無かった。
 セバスティアーノから話しかけられ、レオは少々意外な思いをしつつ話の続きを待った。

「レオ殿はエレナ様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」

「……えっ?」

「「「…………」」」

 どんな質問をされるのかと思っていたが、想像もしていなかったセバスティアーノからの問いに、レオは表情が固まった。
 ガイオ、ドナート、ヴィートの3人も、今このタイミングでそれを聞くのかという表情で、質問をしたセバスティアーノのことを見つめた。

「今回のことで、エレナ様はルイゼン領に戻ることができるかもしれません」

「……そうですね」

「そうなった場合、レオ殿はエレナ様とどのような付き合いをなさるのかをお聞きしたく存じます」

 ルイゼン領は、元々エレナの父であるグイドが収めていた領地である。
 そのグイドは、弟のムツィオによって暗殺された。
 当然エレナが継ぐべきところを、ムツィオが奪いとった形になっている。
 今回のことでジェロニモも排除されることになるのだから、エレナが領主に任命される可能性が高い。
 ムツィオの手から逃れた時は、いつかルイゼン領をエレナの手に取り戻して見せると思っていたが、今は少々事情も変わっていた。
 そのエレナの気持ちが問題なのだ。
 側に使えているセバスティアーノは、エレナがレオに対してどのような感情を持っているのかは分かっている。
 というより、島の多くの人間がなんとなく気付いて、気付いていないのはレオだけなのではないかと思える。
 しかし、エレナがルイゼン領の領主になると、今後レオに簡単に会う事も出来なくなる。
 この国では、領主同士の婚姻というのはあまりない。
 1つの家が1つの領地を経営するというのが基本となっているため、領主同士での婚姻となるなら、どちらかの領主が違う人間に領地を渡して嫁(とつ)ぐしかない。
 その場合、親族に渡して婿なり嫁に行くことになるのだが、レオもエレナも親族と呼べる人間はもういない。
 どちらかがどちらかの領地に嫁ぐとなると、もう片方の領地は王家へ返上しなければならなくなる。
 せっかくエレナがルイゼン領を取り戻しても、レオとの関係次第ではすぐに返上することになるかもしれない。
 戦後の復興のこともあるだろうし、市民のことを考えるならコロコロ領主を変えるようなことはしない方が良い。
 つまり、レオの考え次第でエレナがどうなるか決まる。
 セバスティアーノは、終戦間際のこの時期に聞いておきたかったのだ。

「僕は……」

 この質問の意味は、レオも分かっていたことだ。
 ずっとベッドの上で過ごしたレオにとって、エレナは初めてできた友人だ。
 島の開拓を進めるうえで、楽しいことはいつもエレナが側にいたと思う。
 それが友人としてなのか、それとも違うことなのかが、ずっとレオの中でせめぎ合っている状況で今を迎えているというのが本音の所だ。

「まだ戦いが終わってない状況で言うのも何ですが、ご自分がエレナ様に対してどういう気持ちなのかということをお考えいただきたいと思います」

 戦いと言っても、ルイゼン領の領都へ攻め込むときにレオたちの出番は特にないだろう。
 2家の公爵軍に任せておけば、何もせずにジェロニモのことは始末が済むはずだ。
 終戦すれば、数日中にはエレナの身の振り方も決まるだろう。
 それまでの間に、レオにはどうするのか決めてもらいたい。
 そのことを願いも込めて、セバスティアーノは頭を下げた。

「自分の気持ち……」

 今回セバスティアーノに言われたことで、レオはこれまでどっちつかずだった自分の気持ちに向き合う時が来たのだと、静かに考え込むようになっていったのだった。