「師匠! さっきの爆弾は?」
闇猫のクオーレの影移動によって何をしたのか気になったレオは、スケルトンの操作をしつつ問いかける。
爆弾だけを飛ばしたようだが、それでジェロニモの逃走を阻止することができたのだろうか。
「この先の渓谷に飛ばしたのじゃ。これで奴らは遠回りするしかないじゃろう」
「そうか! 戻るとなるとあの道を通るしかない。そこを爆破して塞いだのですね!?」
「そうじゃ」
ルイゼン側は、以前クオーレの影移動を利用したレオによって後方からの襲撃を受けた。
それが、王国の誰がどのようにしてやったのかまで分かっていないだろう。
分かっていたとしても、警戒していれば前回のように攻撃を受けるとは思っていなかったはずだ。
たしかに人間には対応できるだろうが、物にまで警戒できる訳ではない。
ジーノの策を阻止することなどできず、きっと今頃どうするべきか悩んでいることだろう。
「まぁ、奴らが態勢を整えるのを遅らせるくらいにしかならんかもしれんがの……」
「……それでも被害は最小に押さえられるはずです」
すんなり逃がしていれば、ジェロニモは市民を殺してでもスケルトンの数を増やそうとしていただろう。
しかし、援軍が来てここを乗り切れば、王国側はそれ程時間をかけることなくジェロニモたちに追いつくことができる。
そうなれば、たいして態勢が整わないまま迎え撃つことになり、ルイゼン側は今度こそ終わりだ。
「この音……援軍だ!!」
多くの馬や人の足音が近づいてくる。
その音で、援軍が到着したということを知ったレオたちは安堵した。
全力の時間稼ぎにより、みんな疲労困憊だったからだ。
「これでお役御免だ……」
到着した援軍は、そのままスケルトンたちへと攻めかかっていた。
それを見たレオたちは攻撃をやめ、後のことは援軍に任せることにした。
「フゥ~……、疲れたの……」
レオの側で魔法を撃っていたジーノも、魔力の消費で疲れているようだ。
腰にきたのか、トントンと叩きつつその場に座り込んでいる。
「レオポルド殿!!」
「オレアンス様……」
「いや、そのままでいい!」
援軍と到着した指揮官の男性に声をかけられ、レオは休憩した状態から姿勢を正そうとしたが、指揮官はそれを止めた。
声をかけてきたのはオレアンス公爵で、レオが徹底抗戦した時に渋っていた相手で、体型は細く、文官タイプといった中年の男性だ。
彼はジェロニモの提案に乗ることを指示していたが、スケルトンドラゴンの強さを目の当たりにすればその選択も仕方がないこと。
レオとしては彼に対して思うことはない。
徹底抗戦賛成派だった武闘派のルチーボ公爵は、前線でスケルトンを相手に兵を指揮している。
彼もレオと共に戦いたがっていたが、もしもレオがスケルトンドラゴンを倒せなかった時の場合、王であるクラウディオを守りながら撤退するために、後方に控えることになった。
戦場で暴れることが出来ないことがストレスだったらしく、その表情は気合いが入りまくっている。
「メルクリオ伯率いるレオポルド殿たちの戦果、お見事でした! あとは我々が請け負いますので、安全な場所で体を休めてくだされ!」
「ありがとうございます。後のことお任せいたします」
クラウディオの選択によって徹底抗戦となり、オレアンス公爵はレオがスケルトンドラゴンを倒せるか半信半疑だった。
再度見た時、前回の恐怖から撤退すべきという思いが強かったが、まさか本当にスケルトンドラゴンを倒してしまうとは思わなかった。
有言実行したレオに対し、オレアンスは体が震えるほど感動した。
疲労困憊のレオたちを見て、後始末となるスケルトンの討伐を請け負うことを進言した。
レオたちはもう戦う力も残り少ないため、オレアンスの進言に素直に乗っかることにした。
「大丈夫ですか? 師匠……」
「な~に、大丈夫じゃ」
オレアンス公爵に頭を下げ、魔法の師匠であるジーノに肩を貸しながら、レオはこの場を後にした。
王国を守った若き英雄の背を、オレアンスは感謝しつつ見送った。
「魔導士部隊!! 投石を開始しろ!!」
レオを見送ったオレアンスは、若者にここまでされたのだから自分たちは後始末をしっかりこなさなければと思い、スケルトン相手へ魔法を放つように魔導士たちへ指示を出したのだった。
◆◆◆◆◆
「くそっ!! また魔物か!!」
「頭は傷つけずに倒せ!!」
渓谷の落石によって通行止めを食らったルイゼン軍は、東側の山越えを余儀なくされていた。
道なき道を進みながら、何度も魔物の妨害を受けていた。
その魔物は兵たちが倒し、その亡骸は次の戦いに利用するためにジェロニモがスケルトンと化していた。
「ぐぅ……」
「大丈夫ですか? ジェロニモ様……」
「あぁ……」
スケルトンドラゴンを動かすことに魔力をほとんど使ってしまったため、倒した魔物をスケルトン化するたびにジェロニモは気を失いそうになるのを必死に耐えていた。
退却しなければならなくなった事への怒りを糧に、何とか気絶を阻止しているが、もう完全に魔力切れ寸前だ。
コルラードが心配そうに体調を尋ねると何とか返事をしてくるが、ジェロニモの顔色は悪く、限界のようだ。
「……このまま戻っても、きっと態勢を整えるまで至らない。どうするべきか……」
顔色を悪くしながらも、ジェロニモは今後のことを思考していた。
戻ってこない所を見ると、敵の砦に乗り込んだテスタたち闇の組織の連中は、捕まったか倒されたのだろう。
スケルトンも使い切り、今後増やしたとしても態勢を整えるまでは難しい。
自分たちルイゼン側に、戦う術はもうないように思われた。
「エレナさえ手に入れば!!」
元々、愛するエレナを手に入れるために国家として成り立たせようと、父からこの戦争を引き継いだのだ。
スケルトンドラゴンさえいれば何とかなると思ったが、まさか自分に似た能力の使い手がいるとは思わなかった。
このままでは、敗北は必至。
夢見たエレナとの生活も泡と化す。
『エレナさえいれば?』
今後の戦いを考えていたはずだったジェロニモは、あることに思い至った。
そもそも自分はルイゼン領を国にするために戦っていたのか。
そうではなく、エレナが手に入れるために国にしようとしていたのではないだろうか。
『……そうか、そうかっ!!』
王国との戦いを考えていたはずが、ジェロニモの思考はいつの間にか違う方向へと向かっていた。
これ以上エレナのために王国と戦う必要なんてない。
エレナさえ手に入れれば、ルイゼン領のことなんてどうでも良いと考えるようになっていた。
昔なら領民のことを考えて最後まで戦っていただろうが、自暴自棄になっている期間にいつの間にか性格が完全に変革してしまったようだ。
魔力切れを理由に兵が倒した魔物のスケルトン化をやめ、ジェロニモはどうやったらエレナを手に入れられるかということのみに思考がチェンジしていた。
『方法は…………ある!!』
無言で考え続けたジェロニモは、どうしたらエレナを手に入れられかを考える。
終戦の条件として自分が名前を出したことにより、王国側もエレナが生きていたということを知った。
ならば、王のクラウディオ、もしくは宰相のサヴェリオがそれを確認するはず。
きっとエレナは王都にいる。
そう考えれば、彼女を奪取するために必要なものは何か。
考え続けたジェロニモの頭の中には、ある一つの案が思い浮かんだ。
彼に従うコルラードや兵たちは、彼がそんなことを考えているなど気付くことなく、ただ彼を無事に王城へと届けるために魔物と戦っていた。
闇猫のクオーレの影移動によって何をしたのか気になったレオは、スケルトンの操作をしつつ問いかける。
爆弾だけを飛ばしたようだが、それでジェロニモの逃走を阻止することができたのだろうか。
「この先の渓谷に飛ばしたのじゃ。これで奴らは遠回りするしかないじゃろう」
「そうか! 戻るとなるとあの道を通るしかない。そこを爆破して塞いだのですね!?」
「そうじゃ」
ルイゼン側は、以前クオーレの影移動を利用したレオによって後方からの襲撃を受けた。
それが、王国の誰がどのようにしてやったのかまで分かっていないだろう。
分かっていたとしても、警戒していれば前回のように攻撃を受けるとは思っていなかったはずだ。
たしかに人間には対応できるだろうが、物にまで警戒できる訳ではない。
ジーノの策を阻止することなどできず、きっと今頃どうするべきか悩んでいることだろう。
「まぁ、奴らが態勢を整えるのを遅らせるくらいにしかならんかもしれんがの……」
「……それでも被害は最小に押さえられるはずです」
すんなり逃がしていれば、ジェロニモは市民を殺してでもスケルトンの数を増やそうとしていただろう。
しかし、援軍が来てここを乗り切れば、王国側はそれ程時間をかけることなくジェロニモたちに追いつくことができる。
そうなれば、たいして態勢が整わないまま迎え撃つことになり、ルイゼン側は今度こそ終わりだ。
「この音……援軍だ!!」
多くの馬や人の足音が近づいてくる。
その音で、援軍が到着したということを知ったレオたちは安堵した。
全力の時間稼ぎにより、みんな疲労困憊だったからだ。
「これでお役御免だ……」
到着した援軍は、そのままスケルトンたちへと攻めかかっていた。
それを見たレオたちは攻撃をやめ、後のことは援軍に任せることにした。
「フゥ~……、疲れたの……」
レオの側で魔法を撃っていたジーノも、魔力の消費で疲れているようだ。
腰にきたのか、トントンと叩きつつその場に座り込んでいる。
「レオポルド殿!!」
「オレアンス様……」
「いや、そのままでいい!」
援軍と到着した指揮官の男性に声をかけられ、レオは休憩した状態から姿勢を正そうとしたが、指揮官はそれを止めた。
声をかけてきたのはオレアンス公爵で、レオが徹底抗戦した時に渋っていた相手で、体型は細く、文官タイプといった中年の男性だ。
彼はジェロニモの提案に乗ることを指示していたが、スケルトンドラゴンの強さを目の当たりにすればその選択も仕方がないこと。
レオとしては彼に対して思うことはない。
徹底抗戦賛成派だった武闘派のルチーボ公爵は、前線でスケルトンを相手に兵を指揮している。
彼もレオと共に戦いたがっていたが、もしもレオがスケルトンドラゴンを倒せなかった時の場合、王であるクラウディオを守りながら撤退するために、後方に控えることになった。
戦場で暴れることが出来ないことがストレスだったらしく、その表情は気合いが入りまくっている。
「メルクリオ伯率いるレオポルド殿たちの戦果、お見事でした! あとは我々が請け負いますので、安全な場所で体を休めてくだされ!」
「ありがとうございます。後のことお任せいたします」
クラウディオの選択によって徹底抗戦となり、オレアンス公爵はレオがスケルトンドラゴンを倒せるか半信半疑だった。
再度見た時、前回の恐怖から撤退すべきという思いが強かったが、まさか本当にスケルトンドラゴンを倒してしまうとは思わなかった。
有言実行したレオに対し、オレアンスは体が震えるほど感動した。
疲労困憊のレオたちを見て、後始末となるスケルトンの討伐を請け負うことを進言した。
レオたちはもう戦う力も残り少ないため、オレアンスの進言に素直に乗っかることにした。
「大丈夫ですか? 師匠……」
「な~に、大丈夫じゃ」
オレアンス公爵に頭を下げ、魔法の師匠であるジーノに肩を貸しながら、レオはこの場を後にした。
王国を守った若き英雄の背を、オレアンスは感謝しつつ見送った。
「魔導士部隊!! 投石を開始しろ!!」
レオを見送ったオレアンスは、若者にここまでされたのだから自分たちは後始末をしっかりこなさなければと思い、スケルトン相手へ魔法を放つように魔導士たちへ指示を出したのだった。
◆◆◆◆◆
「くそっ!! また魔物か!!」
「頭は傷つけずに倒せ!!」
渓谷の落石によって通行止めを食らったルイゼン軍は、東側の山越えを余儀なくされていた。
道なき道を進みながら、何度も魔物の妨害を受けていた。
その魔物は兵たちが倒し、その亡骸は次の戦いに利用するためにジェロニモがスケルトンと化していた。
「ぐぅ……」
「大丈夫ですか? ジェロニモ様……」
「あぁ……」
スケルトンドラゴンを動かすことに魔力をほとんど使ってしまったため、倒した魔物をスケルトン化するたびにジェロニモは気を失いそうになるのを必死に耐えていた。
退却しなければならなくなった事への怒りを糧に、何とか気絶を阻止しているが、もう完全に魔力切れ寸前だ。
コルラードが心配そうに体調を尋ねると何とか返事をしてくるが、ジェロニモの顔色は悪く、限界のようだ。
「……このまま戻っても、きっと態勢を整えるまで至らない。どうするべきか……」
顔色を悪くしながらも、ジェロニモは今後のことを思考していた。
戻ってこない所を見ると、敵の砦に乗り込んだテスタたち闇の組織の連中は、捕まったか倒されたのだろう。
スケルトンも使い切り、今後増やしたとしても態勢を整えるまでは難しい。
自分たちルイゼン側に、戦う術はもうないように思われた。
「エレナさえ手に入れば!!」
元々、愛するエレナを手に入れるために国家として成り立たせようと、父からこの戦争を引き継いだのだ。
スケルトンドラゴンさえいれば何とかなると思ったが、まさか自分に似た能力の使い手がいるとは思わなかった。
このままでは、敗北は必至。
夢見たエレナとの生活も泡と化す。
『エレナさえいれば?』
今後の戦いを考えていたはずだったジェロニモは、あることに思い至った。
そもそも自分はルイゼン領を国にするために戦っていたのか。
そうではなく、エレナが手に入れるために国にしようとしていたのではないだろうか。
『……そうか、そうかっ!!』
王国との戦いを考えていたはずが、ジェロニモの思考はいつの間にか違う方向へと向かっていた。
これ以上エレナのために王国と戦う必要なんてない。
エレナさえ手に入れれば、ルイゼン領のことなんてどうでも良いと考えるようになっていた。
昔なら領民のことを考えて最後まで戦っていただろうが、自暴自棄になっている期間にいつの間にか性格が完全に変革してしまったようだ。
魔力切れを理由に兵が倒した魔物のスケルトン化をやめ、ジェロニモはどうやったらエレナを手に入れられるかということのみに思考がチェンジしていた。
『方法は…………ある!!』
無言で考え続けたジェロニモは、どうしたらエレナを手に入れられかを考える。
終戦の条件として自分が名前を出したことにより、王国側もエレナが生きていたということを知った。
ならば、王のクラウディオ、もしくは宰相のサヴェリオがそれを確認するはず。
きっとエレナは王都にいる。
そう考えれば、彼女を奪取するために必要なものは何か。
考え続けたジェロニモの頭の中には、ある一つの案が思い浮かんだ。
彼に従うコルラードや兵たちは、彼がそんなことを考えているなど気付くことなく、ただ彼を無事に王城へと届けるために魔物と戦っていた。