「ハッ!!」
「……何だ? その能力?」
ヴェントレ島を出発する前、レオは今まで秘密にしていた自分の能力を今回参戦する者たちに見せることにした。
ガイオを含めた全員がレオが自分で作った人形に魔力を与えて、指示通り動いてもらうものだという認識だった。
森で魔物相手の披露した能力に、みんな驚きで目を見開いた。
レオの指から伸びる糸。
それが巻き付いたゴブリンが、仲間のゴブリンに対して攻撃をしているのだ。
操られているゴブリン自身も、何が起きているのか分からないというような表情をしている。
明らかにレオの能力によってゴブリンを操作しているということが分かるが、どういうことなのかまでは分からない。
そのため、ガイオはレオへ説明を求めた。
「説明しますと、これが元々の【操り人形】の能力だと思います」
「元々?」
自動で動いてくれる人形たちは、 魔物との戦闘、農業、建築、などのあらゆる労働力として重宝していて、ヴェントレ島の開拓にとって、なくてはならない存在だ。
その能力が、まるで不随された能力と言っているようで、信じがたい。
しかし、どうしてレオがそう思うのか、とりあえず説明の続きを待つことにした。
「自動で動いているのも、僕の魔力で指示通り動いている観点からすれば、大局的に操作しているといえなくはありません」
「……あぁ」
「しかし、能力名の通り、操っているように見えるかといったら微妙に感じる所がありますよね?」
「まぁ、そう言われれば……」
元々そういうものだと思っていたため、ガイオたちは特に感じることはなかったが、レオの中では少し疑問に思う所があったようだ。
レオの言うように、能力名の「操り」という面だけを考えると、確かに微妙に感じてきた。
「その「操り」の部分を重視した能力が使えるのではないかと、訓練を続けてきました」
「続けてきたということは、前々からこの能力は使えていたと?」
「はい」
いつもはエレナに付いているセバスティアーノにも、この説明会に参加してもらっている。
セバスティアーノが離れる時は、女性部隊の隊長のイメルダをエレナの護衛として置いてきている。
そのセバスティアーノが、レオの言葉に反応する。
これまで訓練してきたと言うことは、使おうと思えばいつでも使えたということだ。
もしかしたら初めて会った時、レオが平気で自分たちを島に住むことを認めた時には使えていたという可能性もある。
あの時、少年1人ならどうとでも出来ると思っていたが、もしかしたら自分たちの方が危険だったのではないかと、今さらになってセバスティアーノは背筋に冷たいものを感じた。
「とは言っても、この能力が思い通りに使えるようになったのは、エトーレのお陰もありますね」
「エトーレ?」
レオの言葉に、ポケットから顔を出すエトーレに視線が集まる。
蜘蛛の魔物のエトーレは、戦闘において補助的な面で能力を発揮しているが、この場合どう活躍しているのか疑問だ。
「この能力は、糸を通して魔力を流すことで操作する能力です。しかし、対象物に糸を付けられても、魔力を通しやすい糸がなかったので、一瞬動きを止める程度の力しかありませんでした」
「なるほど、だからエトーレか」
糸でものを操る能力を訓練していたレオだが、どうしても問題点があった。
魔力を使って糸を対象物へ巻き付けることはそんなに難しくなかったのだが、その対象物に魔力を流して自在に操るというようなことはできなかった。
敵を動けなくするのなら、闇猫のクオーレの方がいれば事足りるため、わざわざレオがする必要がない。
しかし、従魔にしたエトーレが様々な糸を出せると知った時、この能力の向上の糸口が見えた。
エトーレの有用性を認識しているせいか、ガイオたちはすんなりレオの言っている意味が分かった。
「自動機能は自作の人形じゃないと動かせませんが、この糸操作は生物でも無機物でも可能ですが、人間や大きい物体を動かすのは難しいですね」
「……どうしてだ?」
自作の人形という縛りがないとなると、ありとあらゆるものが操れるということになる。
何なら、敵側の兵同士で殺し合いをさせてしまうという手も取れるし、問題のスケルトンドラゴンを操作してしまえば簡単に戦争を終わらせてしまえるのではないか。
そんな考えをしていたガイオだったが、どうやらそれらは不可能のようだ。
「人間はゴブリンとは違って魔力を操作したりできるため、抵抗されるとすぐ操れなくなります。大きい物体だと、操作できるようになるまで時間がかかってしまう上に、魔力の消費が著しいので使いどころがほぼない状況ですね」
「……何にしても、とんでもないな……」
「本当にバケモンだな……、うちの領主……」
スケルトンドラゴンの操作で逆転有利にするということはできないとはいっても、そもそもオート機能だけでもとんでもない威力だ。
この能力とオート人形の能力を合わせれば、まさに鬼に金棒といえるのではないかと思えてきた。
その2つを使われたら自分たちはひとたまりもないと感じたドナートとヴィートは、冗談と呆れが混じったような口調で呟いた。
「操作の件は分かったんだが、ここまで上手くなるなんて……」
エトーレの糸を手に入れて再度操作の向上を図ったのは分かるが、それにしても先程のゴブリンの操作は見事だった。
あそこまでの操作は、そんな1、2年で向上するものなのだろうか。
ガイオには、その点が疑問に思えた。
「……この【操り人形】の能力を得たのも、人形作りと人形操作の練習をしていたからだと思います」
「……どういうことでしょう?」
ガイオの問いに、レオは何故か少し表情が暗くなった。
その理由が分からず、セバスティアーノは首を傾げた。
「僕は小さい頃から母に見せるために練習していました。人形も、人形の操作も……」
「そうか……」
この説明で、ガイオたちはレオがこの能力を得た理由が分かった気がした。
母のツキヨは、レオの幼少期に体調を崩した。
その母を元気にするために、人形を使った劇を見せて母に元気になってもらおうとした。
レオが懸命に練習した人形劇をツキヨは喜んでくれたため、レオは自分の体調も気にせず、人形作りと人形操作の練習を繰り返したものだ。
母が死んでからもそれを続けていたことで、レオはこの能力を得たのだと考えるようになっていた。
つまり、自分の能力は、自分のことが心配だった母が与えてくれた能力なのだと次第に思うようになっていったのだ。
◆◆◆◆◆
「……な……何だ? 何が起きている!?」
「……て、敵の能力によるもの、かと……」
時は戻り、レオが飛ばした糸によって、スケルトンたちが攻撃し合っている。
離れた場所からでは何が起きているのかは分からないため、敵のジェロニモは訳が分からず慌てることしかできないでいた。
側にいるコルラードも何が起きているのか分からず、予想となることを告げることしかできないでいた。
「フザケルナ!! 何であんな能力の人間がいるんだ!?」
操作する数の上では圧倒的にこちらが上。
自分の下位互換の能力の持ち主が敵にいるのだと思っていたが、これでは自分の方が下位互換のように思えてきた。
「くそーーっ!! 神に選ばれたのは俺だけじゃないということか!?」
「……ジェロニモ様」
レオとは違い、ジェロニモの中では、自分の能力はエレナを愛する自分のために神が与えてくれた能力だと思っている。
神に従うように愛する者のために能力を発揮しているというのにこのようなことになり、ジェロニモは唇を噛んで悔しさに見悶えた。
あまりの悔しさからか、噛んだ口からは血が流れていた。
「……何だ? その能力?」
ヴェントレ島を出発する前、レオは今まで秘密にしていた自分の能力を今回参戦する者たちに見せることにした。
ガイオを含めた全員がレオが自分で作った人形に魔力を与えて、指示通り動いてもらうものだという認識だった。
森で魔物相手の披露した能力に、みんな驚きで目を見開いた。
レオの指から伸びる糸。
それが巻き付いたゴブリンが、仲間のゴブリンに対して攻撃をしているのだ。
操られているゴブリン自身も、何が起きているのか分からないというような表情をしている。
明らかにレオの能力によってゴブリンを操作しているということが分かるが、どういうことなのかまでは分からない。
そのため、ガイオはレオへ説明を求めた。
「説明しますと、これが元々の【操り人形】の能力だと思います」
「元々?」
自動で動いてくれる人形たちは、 魔物との戦闘、農業、建築、などのあらゆる労働力として重宝していて、ヴェントレ島の開拓にとって、なくてはならない存在だ。
その能力が、まるで不随された能力と言っているようで、信じがたい。
しかし、どうしてレオがそう思うのか、とりあえず説明の続きを待つことにした。
「自動で動いているのも、僕の魔力で指示通り動いている観点からすれば、大局的に操作しているといえなくはありません」
「……あぁ」
「しかし、能力名の通り、操っているように見えるかといったら微妙に感じる所がありますよね?」
「まぁ、そう言われれば……」
元々そういうものだと思っていたため、ガイオたちは特に感じることはなかったが、レオの中では少し疑問に思う所があったようだ。
レオの言うように、能力名の「操り」という面だけを考えると、確かに微妙に感じてきた。
「その「操り」の部分を重視した能力が使えるのではないかと、訓練を続けてきました」
「続けてきたということは、前々からこの能力は使えていたと?」
「はい」
いつもはエレナに付いているセバスティアーノにも、この説明会に参加してもらっている。
セバスティアーノが離れる時は、女性部隊の隊長のイメルダをエレナの護衛として置いてきている。
そのセバスティアーノが、レオの言葉に反応する。
これまで訓練してきたと言うことは、使おうと思えばいつでも使えたということだ。
もしかしたら初めて会った時、レオが平気で自分たちを島に住むことを認めた時には使えていたという可能性もある。
あの時、少年1人ならどうとでも出来ると思っていたが、もしかしたら自分たちの方が危険だったのではないかと、今さらになってセバスティアーノは背筋に冷たいものを感じた。
「とは言っても、この能力が思い通りに使えるようになったのは、エトーレのお陰もありますね」
「エトーレ?」
レオの言葉に、ポケットから顔を出すエトーレに視線が集まる。
蜘蛛の魔物のエトーレは、戦闘において補助的な面で能力を発揮しているが、この場合どう活躍しているのか疑問だ。
「この能力は、糸を通して魔力を流すことで操作する能力です。しかし、対象物に糸を付けられても、魔力を通しやすい糸がなかったので、一瞬動きを止める程度の力しかありませんでした」
「なるほど、だからエトーレか」
糸でものを操る能力を訓練していたレオだが、どうしても問題点があった。
魔力を使って糸を対象物へ巻き付けることはそんなに難しくなかったのだが、その対象物に魔力を流して自在に操るというようなことはできなかった。
敵を動けなくするのなら、闇猫のクオーレの方がいれば事足りるため、わざわざレオがする必要がない。
しかし、従魔にしたエトーレが様々な糸を出せると知った時、この能力の向上の糸口が見えた。
エトーレの有用性を認識しているせいか、ガイオたちはすんなりレオの言っている意味が分かった。
「自動機能は自作の人形じゃないと動かせませんが、この糸操作は生物でも無機物でも可能ですが、人間や大きい物体を動かすのは難しいですね」
「……どうしてだ?」
自作の人形という縛りがないとなると、ありとあらゆるものが操れるということになる。
何なら、敵側の兵同士で殺し合いをさせてしまうという手も取れるし、問題のスケルトンドラゴンを操作してしまえば簡単に戦争を終わらせてしまえるのではないか。
そんな考えをしていたガイオだったが、どうやらそれらは不可能のようだ。
「人間はゴブリンとは違って魔力を操作したりできるため、抵抗されるとすぐ操れなくなります。大きい物体だと、操作できるようになるまで時間がかかってしまう上に、魔力の消費が著しいので使いどころがほぼない状況ですね」
「……何にしても、とんでもないな……」
「本当にバケモンだな……、うちの領主……」
スケルトンドラゴンの操作で逆転有利にするということはできないとはいっても、そもそもオート機能だけでもとんでもない威力だ。
この能力とオート人形の能力を合わせれば、まさに鬼に金棒といえるのではないかと思えてきた。
その2つを使われたら自分たちはひとたまりもないと感じたドナートとヴィートは、冗談と呆れが混じったような口調で呟いた。
「操作の件は分かったんだが、ここまで上手くなるなんて……」
エトーレの糸を手に入れて再度操作の向上を図ったのは分かるが、それにしても先程のゴブリンの操作は見事だった。
あそこまでの操作は、そんな1、2年で向上するものなのだろうか。
ガイオには、その点が疑問に思えた。
「……この【操り人形】の能力を得たのも、人形作りと人形操作の練習をしていたからだと思います」
「……どういうことでしょう?」
ガイオの問いに、レオは何故か少し表情が暗くなった。
その理由が分からず、セバスティアーノは首を傾げた。
「僕は小さい頃から母に見せるために練習していました。人形も、人形の操作も……」
「そうか……」
この説明で、ガイオたちはレオがこの能力を得た理由が分かった気がした。
母のツキヨは、レオの幼少期に体調を崩した。
その母を元気にするために、人形を使った劇を見せて母に元気になってもらおうとした。
レオが懸命に練習した人形劇をツキヨは喜んでくれたため、レオは自分の体調も気にせず、人形作りと人形操作の練習を繰り返したものだ。
母が死んでからもそれを続けていたことで、レオはこの能力を得たのだと考えるようになっていた。
つまり、自分の能力は、自分のことが心配だった母が与えてくれた能力なのだと次第に思うようになっていったのだ。
◆◆◆◆◆
「……な……何だ? 何が起きている!?」
「……て、敵の能力によるもの、かと……」
時は戻り、レオが飛ばした糸によって、スケルトンたちが攻撃し合っている。
離れた場所からでは何が起きているのかは分からないため、敵のジェロニモは訳が分からず慌てることしかできないでいた。
側にいるコルラードも何が起きているのか分からず、予想となることを告げることしかできないでいた。
「フザケルナ!! 何であんな能力の人間がいるんだ!?」
操作する数の上では圧倒的にこちらが上。
自分の下位互換の能力の持ち主が敵にいるのだと思っていたが、これでは自分の方が下位互換のように思えてきた。
「くそーーっ!! 神に選ばれたのは俺だけじゃないということか!?」
「……ジェロニモ様」
レオとは違い、ジェロニモの中では、自分の能力はエレナを愛する自分のために神が与えてくれた能力だと思っている。
神に従うように愛する者のために能力を発揮しているというのにこのようなことになり、ジェロニモは唇を噛んで悔しさに見悶えた。
あまりの悔しさからか、噛んだ口からは血が流れていた。