「つまり……、陛下はそのヴェントレ凖男爵が言うことを信じるということでしょうか?」

「その通りだ!」

 会議の場において、1人の貴族がクラウディオへと問いかける。
 問いに対し、クラウディオは頷きと共に返答する。
 その頷きには、決意がこもっているようにすら思える。

「スケルトンを操る能力……それは本当かもしれないのは分かりました」

 会議の開始早々、レオは自分のスキルを披露することになった。
 能力を信じてもらわないと、話が進まないからだ。
 レオの人形(ロイ)を見たことで、ジェロニモかその秘書がスケルトンを操っているという考えにみんな納得してくれた。

「あの2人の能力なのはたしかかもしれない。しかし、それが分かったとは言っても、現状に変化がないのでは……」

 レオのスキルから、スケルトンを操る能力というのがあり得るということは分かった。
 しかし、スケルトンドラゴンを倒す方法が見つかったのではない。
 そのため、これまで通り抗戦するのか要求を呑むのかは、この貴族の言うように決められないままだ。

「もうすぐ停戦期間が過ぎる。そうなったら敵側は要求の返答を求めてもう一度会談を申し込んでくるだろう」

 痛い目に合わせ力を見せつけたことにより、ルイゼン側は優位に立った。
 要求が冗談なんかではなく、本気だということは理解できた。
 以前締結した停戦期間が終了すれば、ジェロニモは王国側の答えを聞くためにもう一度会談を開くことを求めてくるはず。
 その時にどう返答するかを、いい加減決めなければならない。

「敵はまだ国とは認められていません。会談に来たジェロニモとその秘書を始末するというのはどうでしょうか?」

「国として認めていないというのは我が国だけで、周辺国は半分認めている。会談で討ち取るなどしたら、我が国は話し合いもできない愚か者の国と周辺国だけでなく世界中に思われることになる。そんなことになれば、交易をしようとする国はいなくなるぞ」

 戦いではなく話し合いでことを収めようとしている相手に対して、だまし討ちのようなことをするのは世界中で笑いものになる。
 そんなことすれば、他国はいつ自分たちも同じ目に合うか分からないと、話し合いをおこなおうとすることはなくなるだろう。
 そんな国と関係を持たないのが一番安全な選択なのだからだ。
 今交易している国も、同じように手を引こうと交易しないという選択を取るだろう。
 この国でも、どこかの国でそのようなことがあったと聞けば、その国とは関係を持たないか、関係を絶つように方向転換するからだ。

「会談を求められる前に、私が敵へ攻め込みます!」

「馬鹿な!!」

「人形ごときで戦えるわけがないだろ!!」

 停戦期間が終了したのだからいつ攻め込んでも良いということになるが、会談の要求があったら攻め込むことはできない。
 なら、もしも攻め込むのなら会談を求められる前に攻め込むしかない。
 その役割を実行することをレオが立候補したのだが、それを聞いた者たちは声を荒らげる。
 人形を使えるとは教えたが、数はルイゼン側には及ばないというのを聞いているからだろう。
 この中にスパイはいないと思うが、ギリギリまでレオの能力が敵側に広がらないようにと、クラウディオによる指示だ。
 そのため、レオが攻め込もうと何の意味もないと思っているようだ。

「人形ごときというが、我々はスケルトンに手を焼いているではないか?」

「それは……」

 否定する人間の言葉に、クラウディオが冷静にツッコミを入れる。
 スケルトンに苦戦しているのだから、人形ごときというのはおかしいからだ。
 そのツッコミに、ぐうの音も出ないと言うように、その貴族は言葉を失った。

「……貴殿の気概は私としては望ましい。だが貴殿が連れてきたのはたった数人の兵しかいないという話ではないか? 死にに行くのを認める訳にはいかない」

 徹底抗戦を謳っていた武官タイプの貴族は、レオの意気込みに好感を持っていた。
 しかし、彼が言うように攻め込むにもレオの軍は数が少ない。
 レオが連れてきたのは、ガイオをはじめとする元海賊狩りや元海賊の面々で、いつもは領兵として働いていた者たちを半分を連れてきたのだが、その人数はかなり少ない。
 戦うという選択は認めるが、無謀としか言いようがないため、止めるのが当然だ。

「もしも攻め込んで失敗したら、全て私の独断行動として斬り捨てていただいて構いません」

 会談前の奇襲攻撃。
 優位に立つルイゼン側は油断している可能性が高い。
 それを差し引いても、レオの中ではジェロニモを撃つ可能性は5分5分だと思っている。
 以前攻め込んだ砦のようにどこからスケルトンが出てくるか分からないため、かなり危険なのは分かっている。
 しかし、エレナを渡さないで済ませるにはそれしかない。
 失敗した場合は自分を斬り捨てて、要求を呑むなりすればいいと思っている。

「私も彼と共に参戦しましょう!」

「フェリーラ伯……」

 ほとんどの貴族を交えての会議のため、レオと仲のいいフェリーラ領のメルクリオも参加している。
 レオが少数で攻め込むと聞いて、自分も協力することを名乗り出た。
 この中で、レオの能力のほとんどを知っているのはメルクリオだけだ。
 だからこそ、作戦成功の可能性があると思ったようだ。
 無謀な策への協力に、貴族たちはメルクリオのことを信じられないと言うような目で見つめる。

「私の軍と精鋭兵たちも協力します!」

「シュティウス男爵……」

 メルクリオの参戦に僅かに遅れ、アゴスティーノも手を上げる。
 レオには色々と協力してもらった。
 その借りを返すのは今しかないと思っての参加だ。
 冒険者主体の精鋭兵たちも、レオのためならと協力してくれることだろう。

「私もだ!」

「ディスカラ伯……」

「ならば、我々もだ!」

「アルドブラノ子爵たちまで……」

 メルクリオ、アゴスティーノが協力するのならと言うかのように、どんどん協力者が増えていく。
 みんなレオの能力の一端を見知った者たちだ。
 石の雨による攻撃のように、きっと何か考えがあるのだと考えたのだろう。
 そんなみんなの協力の申し出に、レオは感謝の気持ちで胸が熱くなった。

「……レオポルド!」

「ハッ!」

 手を上げた者とその者たちの判断に戸惑う者に分かれ、室内は急に静かになった。
 その空いた間に、クラウディオがレオに目を向ける。

「このメンバーならどれほどの勝算がお前にはある?」

「8割……いえ、必ず勝って見せます!」

「……ならば私もお前の策に乗ることにしよう! 我々はルイゼンの要求はのまない!!」

 会議前の話し合いでレオの能力の説明を受けたクラウディオは、同じようにレオから攻め込む許可を求められた。
 しかし、兵の数が少なすぎるため、とてもではないが許可できない。
 それでも食い下がるレオに、会議内で同じように発言する許可だけは認めた。
 反対者しかいないというのが分かっていたからだ。
 だが、クラウディオの考えに反し、レオのことを認めている人間がこんなにも多くいた。
 奪還戦初期の人間はみんな手を上げている。
 それだけレオには何か起こしてくれるという期待があるようだ。
 この状況に当てられたのか、クラウディオは考えを改めレオに懸けることを決意した。

「これは王としての決定事項だ!!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 クラウディオの発言に、手を上げていない者は反論をしようと身を乗り出そうとした。
 その反論をさせないように、クラウディオは強い口調で王命とした。
 そうなると、反論しようとした者たちはそれ以上何も言えず、王命に従う返事をするしかなかった。
 これにより、王国はルイゼン相手に徹底抗戦することが決定したのだった。