「……とまあそんな感じで父を殺しました」
ジェロニモは、自分が殺した経緯をかいつまんでクラウディオへと説明した。
伯父のグイドを殺し、生存を確認したエレナを殺そうとしていたため、殺害するに至ったという流れで、自分の能力などのことは当然秘密にしたままだ。
「そうか……」
「やはりグイド殿を殺したのはムツィオだったか……」
ジェロニモ側から提出された資料に目を通しながら、クラウディオとサヴェリオは納得したように呟く。
資料には、ムツィオが使用人を使ってグイドへ毒を盛ったという報告書だ。
使用人の名前とともに、使った毒の名前も書かれている。
ムツィオ殺害後に、コルラードが調べ回って出した答えだ。
王家も調査をしていたが、その当時ルイゼン邸の使用人が数人いなくなったので、特定できるまでには至らなかった。
しかし、報告書には実行犯と、調査をくらますために殺された使用人の名前も記されていて信憑性がある。
「毒を盛らせた人間も始末していますし、証拠はありませんが、このコルラードが父本人から殺したと言っていたことを証明しましょう」
「本人が殺害を認めた場に私は居ました。もしも信用できないようでしたら、魔法契約書にサインしても構いません」
この報告書通りのことが起こったのだろうということは分かるが、やはり時間が経っているせいか証拠にはなりにくい。
だが、これはムツィオの発言を聞いて調べたことなので、ジェロニモの言葉だけで信用できないというのなら、秘書であるコルラードの言葉を信じてもらうしかない。
それでも不十分ならばと、コルラードは魔法契約も提案してきた。
魔法契約は、強力な魔力が込められた紙へサインすると、署名者が明記された文に嘘をついていた場合死に至るものだ。
「……分かった。信じよう……」
命を懸けてまで証明しようとしていると分かり、クラウディオはこの報告書が証拠とは言わないまでも事実であるということを受け入れた。
王国の調査もこれに近い所まで来ていたので、疑う余地はもうない。
「エレナ嬢が生きていたとは……」
サヴェリオもグイド暗殺はムツィオの指示だと納得した。
そして、次にエレナの生存がほぼ確定しているということに目がいっていた。
調査では、ムツィオの暗殺から逃れたが海難事故に遭って亡くなったという話だった。
海の魔物に食べられて遺体も残らなかったと思っていたが、まさか最近一気に名を上げたヴェントレの地にいるとは思っていなかった。
何にしても、前領主のグイドの娘が生きていたということは好ましい話だ。
「この報告書には感謝する。……それで今回の会談の話に移ろう」
「そうですね」
グイドの事件が分かり、エレナが生存していたということは王国にとって嬉しいことだ。
ムツィオを公の場で断罪できなかったのは残念だが、それはひとまず置いておこう。
そもそも、この会談はルイゼン側と王国の戦争に関する会談のはずだ。
クラウディオは、今度はそちらの話へ移ることにした。
その提案にジェロニモも乗っかるように頷く。
「終戦をするために何か望みがあるのだろう?」
「……えぇ、そうですね……」
「父の悪事を暴いたのだから自分の命を救えと言うのか? それともルイゼン領の領主としていさせろとでも言うのか?」
この場は終戦をするための会談だ。
最近優勢なのは王国側。
このまま攻め続ければいいだけの王国側が勝利するのは目に見えている。
ならば、ジェロニモたちが求めるのは、全ての罪をムツィオに被せての降伏、それと身の安全の保障を求めるつもりなのだろう。
これだけのことをして自分は見逃せと言われても、当然そんなことを受け入れられるわけがない。
ムツィオに加担した者たちは、死罪なり生涯奴隷として働いてもらう。
それが王国側の譲れないところだ。
「勘違いしないでいただきたい」
「……勘違い?」
クラウディオの質問に、ジェロニモは首を左右に振って否定する。
その表情は、室内に入ってきた時から変わらない笑みを浮かべている。
どことなく上から見ているようなその表情に、クラウディオとサヴェリオはずっと不快な思いのまま続きを待つ。
「こちらの望みは、我々のルイゼン領の独立の容認、春までの休戦、それと……」
「……それと?」
最初の提案からしてふざけている。
側に立つサヴェリオは、今にも怒りで噴火しそうなほど顔が赤くなっているが、クラウディオは何とか怒りを抑えて最後までジェロニモの提案を聞くことにした。
「最重要なのはエレナの身柄の受け渡しだ! 彼女は俺の妻として迎え入れる!」
最後の要求になり、ジェロニモの表情はムツィオに似た卑しい笑みから一転して真剣なものへと変わった。
彼にとってこの会談は、エレナを手に入れるための話し合いの場でしかない。
本当の所は国の独立などどうでもいい。
しかし、降伏した所で自分は処刑されるのが確定しているようなもののため、ならばこのまま独立の道を突き進むしかない。
エレナと共に生きるという昔の願いを叶えるための戦いなのだ。
「そんなことが本気で受け入れられるとでも思っているのか?」
「思っていますよ」
「……何だと?」
その言葉と態度だけで、ジェロニモがエレナを好いているということは分かる。
しかし、まるで自分たちの都合のいい希望でしかない。
命乞いでもすれば、まだ一生牢獄生活も考えてやっても良かった(考えるだけ)が、ここまで来ると許しがたい。
本気で言っているのかとクラウディオが努めて冷静に確認すると、ジェロニモも真剣な表情のまま返答する。
「こちらはこれまで本気で相手をしていなかった。これからは本気で相手をするつもりです」
「……ハッタリだろ?」
「それは戦場で証明しましょう」
上から目線でいたのには何か策があるのだろうか。
強制隷属による市民兵の増員でも考えているかもしれない。
だが、所詮市民を使っても戦場では数合わせでしかない。
増員し続けている王国の兵が、それで退くようなことにはならないはずだ。
そのためクラウディオは、それがジェロニモの条件を飲ませるためのハッタリの可能性を考えた。
それを看破したというのに、ジェロニモの表情は変わらない。
「……そちらの望みで受け入れられるのは休戦だけだ。他の望みは受け入れるつもりはない!」
「では、今回はそれでいいでしょう。休戦中に考えていただければいい」
休戦中に兵を大量増員するつもりなのだろうが、それは王国側の方が有利だ。
遠方の領からの兵も集められる。
スケルトンや市民兵という数だけの招集とは訳が違う。
冬の間にルイゼン側の軍を滅ぼしてしまいたいところだったが、一斉に攻め込み確実に攻め滅ぼす方がこちら側の被害も少なく済むと考え、クラウディオは春までの休戦を受け入れ、来週から雪がなくなる3月までの休戦を締結し、会談の終結が成されたのだった。
「どうなさいますか? 陛下……」
「今週中に攻め込んで叩き潰す!」
ジェロニモが去って、サヴェリオから問われたクラウディオは当然のように返答する。
休戦したのは来週からだ。
多少ずるいことではあるが、今週中に攻め込んでしまえばいい。
自国の戦いなのだから、文句を言われる筋合いもない。
「しかし、奴の自信は何なのでしょう?」
「攻め込まれても平気という態度だったが、何か手のうちを隠しているのだろう。しかし、何かあると分かっていればもしもの時の被害は抑えられる。即時撤退も視野に入れて準備するように言っておけ」
「了解しました!」
開戦当初、スケルトンの出現という策にハマった。
しかし、それは馬鹿な貴族が警戒していないことによる結果であり、今回はそれとは違う。
数に驕ったミスを犯すような者たちはいないはずだ。
そう考えたクラウディオは、今週中に攻め込めるだけ攻め込もうと指示を出したのだった。
クラウディオの指示を受け、王国軍は進軍した。
しかし、返り討ちに遭う。
一瞬にして何千もの兵を殺したスケルトンドラゴンによって……。
ジェロニモは、自分が殺した経緯をかいつまんでクラウディオへと説明した。
伯父のグイドを殺し、生存を確認したエレナを殺そうとしていたため、殺害するに至ったという流れで、自分の能力などのことは当然秘密にしたままだ。
「そうか……」
「やはりグイド殿を殺したのはムツィオだったか……」
ジェロニモ側から提出された資料に目を通しながら、クラウディオとサヴェリオは納得したように呟く。
資料には、ムツィオが使用人を使ってグイドへ毒を盛ったという報告書だ。
使用人の名前とともに、使った毒の名前も書かれている。
ムツィオ殺害後に、コルラードが調べ回って出した答えだ。
王家も調査をしていたが、その当時ルイゼン邸の使用人が数人いなくなったので、特定できるまでには至らなかった。
しかし、報告書には実行犯と、調査をくらますために殺された使用人の名前も記されていて信憑性がある。
「毒を盛らせた人間も始末していますし、証拠はありませんが、このコルラードが父本人から殺したと言っていたことを証明しましょう」
「本人が殺害を認めた場に私は居ました。もしも信用できないようでしたら、魔法契約書にサインしても構いません」
この報告書通りのことが起こったのだろうということは分かるが、やはり時間が経っているせいか証拠にはなりにくい。
だが、これはムツィオの発言を聞いて調べたことなので、ジェロニモの言葉だけで信用できないというのなら、秘書であるコルラードの言葉を信じてもらうしかない。
それでも不十分ならばと、コルラードは魔法契約も提案してきた。
魔法契約は、強力な魔力が込められた紙へサインすると、署名者が明記された文に嘘をついていた場合死に至るものだ。
「……分かった。信じよう……」
命を懸けてまで証明しようとしていると分かり、クラウディオはこの報告書が証拠とは言わないまでも事実であるということを受け入れた。
王国の調査もこれに近い所まで来ていたので、疑う余地はもうない。
「エレナ嬢が生きていたとは……」
サヴェリオもグイド暗殺はムツィオの指示だと納得した。
そして、次にエレナの生存がほぼ確定しているということに目がいっていた。
調査では、ムツィオの暗殺から逃れたが海難事故に遭って亡くなったという話だった。
海の魔物に食べられて遺体も残らなかったと思っていたが、まさか最近一気に名を上げたヴェントレの地にいるとは思っていなかった。
何にしても、前領主のグイドの娘が生きていたということは好ましい話だ。
「この報告書には感謝する。……それで今回の会談の話に移ろう」
「そうですね」
グイドの事件が分かり、エレナが生存していたということは王国にとって嬉しいことだ。
ムツィオを公の場で断罪できなかったのは残念だが、それはひとまず置いておこう。
そもそも、この会談はルイゼン側と王国の戦争に関する会談のはずだ。
クラウディオは、今度はそちらの話へ移ることにした。
その提案にジェロニモも乗っかるように頷く。
「終戦をするために何か望みがあるのだろう?」
「……えぇ、そうですね……」
「父の悪事を暴いたのだから自分の命を救えと言うのか? それともルイゼン領の領主としていさせろとでも言うのか?」
この場は終戦をするための会談だ。
最近優勢なのは王国側。
このまま攻め続ければいいだけの王国側が勝利するのは目に見えている。
ならば、ジェロニモたちが求めるのは、全ての罪をムツィオに被せての降伏、それと身の安全の保障を求めるつもりなのだろう。
これだけのことをして自分は見逃せと言われても、当然そんなことを受け入れられるわけがない。
ムツィオに加担した者たちは、死罪なり生涯奴隷として働いてもらう。
それが王国側の譲れないところだ。
「勘違いしないでいただきたい」
「……勘違い?」
クラウディオの質問に、ジェロニモは首を左右に振って否定する。
その表情は、室内に入ってきた時から変わらない笑みを浮かべている。
どことなく上から見ているようなその表情に、クラウディオとサヴェリオはずっと不快な思いのまま続きを待つ。
「こちらの望みは、我々のルイゼン領の独立の容認、春までの休戦、それと……」
「……それと?」
最初の提案からしてふざけている。
側に立つサヴェリオは、今にも怒りで噴火しそうなほど顔が赤くなっているが、クラウディオは何とか怒りを抑えて最後までジェロニモの提案を聞くことにした。
「最重要なのはエレナの身柄の受け渡しだ! 彼女は俺の妻として迎え入れる!」
最後の要求になり、ジェロニモの表情はムツィオに似た卑しい笑みから一転して真剣なものへと変わった。
彼にとってこの会談は、エレナを手に入れるための話し合いの場でしかない。
本当の所は国の独立などどうでもいい。
しかし、降伏した所で自分は処刑されるのが確定しているようなもののため、ならばこのまま独立の道を突き進むしかない。
エレナと共に生きるという昔の願いを叶えるための戦いなのだ。
「そんなことが本気で受け入れられるとでも思っているのか?」
「思っていますよ」
「……何だと?」
その言葉と態度だけで、ジェロニモがエレナを好いているということは分かる。
しかし、まるで自分たちの都合のいい希望でしかない。
命乞いでもすれば、まだ一生牢獄生活も考えてやっても良かった(考えるだけ)が、ここまで来ると許しがたい。
本気で言っているのかとクラウディオが努めて冷静に確認すると、ジェロニモも真剣な表情のまま返答する。
「こちらはこれまで本気で相手をしていなかった。これからは本気で相手をするつもりです」
「……ハッタリだろ?」
「それは戦場で証明しましょう」
上から目線でいたのには何か策があるのだろうか。
強制隷属による市民兵の増員でも考えているかもしれない。
だが、所詮市民を使っても戦場では数合わせでしかない。
増員し続けている王国の兵が、それで退くようなことにはならないはずだ。
そのためクラウディオは、それがジェロニモの条件を飲ませるためのハッタリの可能性を考えた。
それを看破したというのに、ジェロニモの表情は変わらない。
「……そちらの望みで受け入れられるのは休戦だけだ。他の望みは受け入れるつもりはない!」
「では、今回はそれでいいでしょう。休戦中に考えていただければいい」
休戦中に兵を大量増員するつもりなのだろうが、それは王国側の方が有利だ。
遠方の領からの兵も集められる。
スケルトンや市民兵という数だけの招集とは訳が違う。
冬の間にルイゼン側の軍を滅ぼしてしまいたいところだったが、一斉に攻め込み確実に攻め滅ぼす方がこちら側の被害も少なく済むと考え、クラウディオは春までの休戦を受け入れ、来週から雪がなくなる3月までの休戦を締結し、会談の終結が成されたのだった。
「どうなさいますか? 陛下……」
「今週中に攻め込んで叩き潰す!」
ジェロニモが去って、サヴェリオから問われたクラウディオは当然のように返答する。
休戦したのは来週からだ。
多少ずるいことではあるが、今週中に攻め込んでしまえばいい。
自国の戦いなのだから、文句を言われる筋合いもない。
「しかし、奴の自信は何なのでしょう?」
「攻め込まれても平気という態度だったが、何か手のうちを隠しているのだろう。しかし、何かあると分かっていればもしもの時の被害は抑えられる。即時撤退も視野に入れて準備するように言っておけ」
「了解しました!」
開戦当初、スケルトンの出現という策にハマった。
しかし、それは馬鹿な貴族が警戒していないことによる結果であり、今回はそれとは違う。
数に驕ったミスを犯すような者たちはいないはずだ。
そう考えたクラウディオは、今週中に攻め込めるだけ攻め込もうと指示を出したのだった。
クラウディオの指示を受け、王国軍は進軍した。
しかし、返り討ちに遭う。
一瞬にして何千もの兵を殺したスケルトンドラゴンによって……。