レオの陞爵の祝いとして、町の広場を使って盛大な祭りが開かれた。
ちょうど重なる時期ということもあり、合同祭としての開催だった。
島で収穫できた作物を使った料理が多く振舞われ、島のみんなと同様にレオも楽しい祭りとなった。
「ここ以外の地に町をつくる話ですが……」
祭りも終わり、これから少しすれば冬に入る。
その時期の計画として、以前から話に出ていた町づくりを話し合うため、ギルドの関係者としてファウストに来てもらった。
そこで、レオは地図を広げ、計画の説明を始めることにした。
「やはりこの湖付近に力を入れるのが良いと思っています」
「そうか……」
レオたちがいる場所から、南南西に向かった場所に湖がある。
今年はその湖の付近の魔物を退治することをかかりっきりになっていた気がする。
夏の終わりの時期になって、ようやく湖水浴ができるまでになった。
ファウストから町をつくる提案を受けていたが、候補地として思いつくのはやはりその湖付近が適しているのではないかとなった。
「あそこの魚は美味いからな……」
祭りの時に出された魚料理の中に、湖の魚を使った料理が何品か出されていた。
ファウストも祭りに参加していたため、その時の魚の味を思いだしたようだ。
湖の魚は島民にも好評で、レオも以前釣ったマスに似た魚が特に人気が高かった気がする。
「夏には避暑地としても良いですからね」
以前から島の経営の手伝いをしてもらっていたが、今回のことはエレナにも参加してもらっている。
ルイゼン領の奪還は、僅かながらに王国が進軍しているという話だ。
レオがおこなった石の雨ではないが、魔法を使っての石弾攻撃でスケルトンの数を減らすことに成功しているという話だ。
これまでたいして利用されないでいた魔法だったが、魔法を得意とする者たちにとって有用性を示せた戦いになるかもしれない。
ただ、スケルトンには通用しても人間にはいまいち通用していないので、そこまで評価されるかはまだ疑問だ。
話がズレたが、ルイゼン領が奪還できた際には、レオはそこの領主としてエレナを戻すように動くつもりだ。
上手くいって領主として戻れた時の経験のため、エレナには今回の町の計画を手伝ってもらうことにしたのだ。
エレナは湖に行ったこともある経験から、気候の良さに目を付けていた。
湖のお陰からか、その周囲は夏の暑さが緩和されていた。
これからの開拓にもよるが、避暑地代わりにするというのも確かに手かもしれない。
「どういった町にするかは追々決めるとして、まずは湖までの道を作ることから始めるのですが、魔物はロイたちが間引いてくれたので、手の空いている農民の方たちの協力を得るつもりです」
住民の募集も住宅の建設もまだ先の話。
まずは冬の間に街道をつくることから始めることにした。
レオの人形で作るのが一番安全かもしれないが、土木班の人形を新たに作らなくてはならなくなる。
しかし、レオには他に作る人形が思いついていて、それの作成の方に当たるために他に作っている余裕はない。
そこで、冬の間手が空く農民に手伝ってもらうことにした。
念のため作業員の周りにはロイたちを付けるので、魔物による被害は起きないはずだ。
「先に町を作って問題が起きた場合、馬をとばして20分前後。街道をつくっておけばもっと早く駆けつけられるてことか……」
「はい」
「分かった。新しい町に住む住民や兵を募集してみるよ」
レオたちが住んでいる町から湖までの距離は約15km。
馬の速度にもよるが少しとばした速度で行けば20分前後くらいで着ける計算だ。
しかし、街道をつくっておけばもう少し速度が出せ、数分早く着くことができるだろう。
町をつくってすぐに全壊するような被害に遭うということは思いたくないが、その可能性も考慮した街道作成の優先だ。
住宅などはレオが人形を使って作成するのだろうが、それも来年の話になるだろう。
しかし、そのことも考慮に入れて、ファウストはギルドで住民などの募集をかけることにした。
「そう言えば、また刺客が潜入したって聞いたんだが、そっちは大丈夫か?」
「はい。僕の蜘蛛人形も少し増やしておいたので、島に入ったらすぐに分かると思います」
「そうか……、ギルドもここのことを嗅ぎ回る人間の注意をしておくよ」
町づくりの話が一段落ついた時、ファウストは少し前に起きた刺客の話をしてきた。
その話になると、エレナは少し表情を曇らせる。
狙いは自分だと分かっているからだ。
あれから刺客の潜入は起きていないので、とりあえず問題ない状況だ。
前回、レオが島の周囲に配備した小型蜘蛛人形のお陰でガイオたちが動いてくれたので、エレナに被害が及ぶことはなかった。
しかし、生存しているということはバレてしまったため、レオは小型蜘蛛人形を増やしておかしな人間が入ってこないように警戒をしている。
島のことはレオたちに任せ、ファウストはオヴェストコリナの町中に目を向けることにした。
「ベンさん……」
「どうなさいました? エレナ様」
話が終わってファウストが帰り、エレナも書類の整理をして帰ろうとしたところ、レオの姿がないいことに気付いた。
どこにいるのかと思っていると、レオ専用の工房から作業音が聞こえてきた。
何かを制作しているようだ。
作業中のレオに声をかけるのは気が引けるので、エレナはレオの執事であるベンヴェヌートに声をかけた。
「レオさんのことなのですけど……、何かあったのでしょうか?」
「……私も少々気にはなっておりますが、体調面では特に問題ないようですので……」
最近工房にこもることの多いレオのことがきにかかり、エレナは心配そうに問いかけた。
朝の畑仕事やガイオやジーノの指導もいつも通り受けているし、書類仕事もこなしている。
しかし、島に帰ってから、頻繁に工房に入っている気がするのだ。
工房の明かりが夜まで付いているので、体調面も気にかかる。
いつも側にいるベンヴェヌートも気になっていることだったので注視しているが、とりあえず今の所は大丈夫そうだ。
さすがにこれが続くようなら止めるつもりでいる。
「今回の戦争に参加したことで、何か思うことができたのでしょうか?」
「そうかもしれませんね……」
「…………」
戻ってきてからのことなので、ルイゼン領にかかわる何かのような気がする。
工房内にいるので何かの人形を作っているのだろうが、いつのものようにのんびりした時間を一緒に過ごすという時間が減ってエレナはなんとなく寂しい思いをしている。
レオは、自分がいつかルイゼン領に戻った時のためにと色々頑張ってくれているのを知っているが、エレナとしては無理はしてほしくない所だ。
心配が尽きないエレナは、思わず工房の方を見つめることしかできなかった。
「色々と心配ですが、きっとエレナ様のことを考えてのことですのでご安心ください」
「えっ!? し、失礼します!」
「失礼!」
エレナの心配はたいていレオのことだ。
そのことは2人の周囲にいる人間は分かっている。
島民の間では2人がどうなるかを見守っている空気であり、そのことを知らないのは当人たちだけだろう。
エレナの方はより分かりやすく、レオ次第という気もする。
ベンヴェヌートも2人を応援している1人なので、エレナを安心させようと少しそのことを仄めかす。
自分の気持ちを知られていることに照れたエレナは、ベンヴェヌートに頭を下げて家へと戻っていった。
そんなエレナに続き、いつのように側にいたセバスティアーノも頭を下げてついていった。
『微笑ましい反応ですな……』
エレナの反応に、ベンヴェヌートも僅かに相好を崩す。
平民のままなら、さすがにレオとエレナが付き合うことは難しいかと思っていたが、レオは爵位を得た状態だ。
出来ればエレナにはこのままレオの側にいて欲しいものだ。
それも今後どうなるのか分からないので、軽々に口に出す訳にはいかないが、ベンヴェヌートも2人には幸せになってもらいたい。
『しかし、レオ様は本当にどうなさったのでしょう……』
2人の関係も気になるが、今は主人であるレオのことの方が気になる。
エレナと同様、工房にこもりきりになるのは心配だ。
もしもの時には、側につく自分が何とかしなければと考えるベンヴェヌートだった。
ちょうど重なる時期ということもあり、合同祭としての開催だった。
島で収穫できた作物を使った料理が多く振舞われ、島のみんなと同様にレオも楽しい祭りとなった。
「ここ以外の地に町をつくる話ですが……」
祭りも終わり、これから少しすれば冬に入る。
その時期の計画として、以前から話に出ていた町づくりを話し合うため、ギルドの関係者としてファウストに来てもらった。
そこで、レオは地図を広げ、計画の説明を始めることにした。
「やはりこの湖付近に力を入れるのが良いと思っています」
「そうか……」
レオたちがいる場所から、南南西に向かった場所に湖がある。
今年はその湖の付近の魔物を退治することをかかりっきりになっていた気がする。
夏の終わりの時期になって、ようやく湖水浴ができるまでになった。
ファウストから町をつくる提案を受けていたが、候補地として思いつくのはやはりその湖付近が適しているのではないかとなった。
「あそこの魚は美味いからな……」
祭りの時に出された魚料理の中に、湖の魚を使った料理が何品か出されていた。
ファウストも祭りに参加していたため、その時の魚の味を思いだしたようだ。
湖の魚は島民にも好評で、レオも以前釣ったマスに似た魚が特に人気が高かった気がする。
「夏には避暑地としても良いですからね」
以前から島の経営の手伝いをしてもらっていたが、今回のことはエレナにも参加してもらっている。
ルイゼン領の奪還は、僅かながらに王国が進軍しているという話だ。
レオがおこなった石の雨ではないが、魔法を使っての石弾攻撃でスケルトンの数を減らすことに成功しているという話だ。
これまでたいして利用されないでいた魔法だったが、魔法を得意とする者たちにとって有用性を示せた戦いになるかもしれない。
ただ、スケルトンには通用しても人間にはいまいち通用していないので、そこまで評価されるかはまだ疑問だ。
話がズレたが、ルイゼン領が奪還できた際には、レオはそこの領主としてエレナを戻すように動くつもりだ。
上手くいって領主として戻れた時の経験のため、エレナには今回の町の計画を手伝ってもらうことにしたのだ。
エレナは湖に行ったこともある経験から、気候の良さに目を付けていた。
湖のお陰からか、その周囲は夏の暑さが緩和されていた。
これからの開拓にもよるが、避暑地代わりにするというのも確かに手かもしれない。
「どういった町にするかは追々決めるとして、まずは湖までの道を作ることから始めるのですが、魔物はロイたちが間引いてくれたので、手の空いている農民の方たちの協力を得るつもりです」
住民の募集も住宅の建設もまだ先の話。
まずは冬の間に街道をつくることから始めることにした。
レオの人形で作るのが一番安全かもしれないが、土木班の人形を新たに作らなくてはならなくなる。
しかし、レオには他に作る人形が思いついていて、それの作成の方に当たるために他に作っている余裕はない。
そこで、冬の間手が空く農民に手伝ってもらうことにした。
念のため作業員の周りにはロイたちを付けるので、魔物による被害は起きないはずだ。
「先に町を作って問題が起きた場合、馬をとばして20分前後。街道をつくっておけばもっと早く駆けつけられるてことか……」
「はい」
「分かった。新しい町に住む住民や兵を募集してみるよ」
レオたちが住んでいる町から湖までの距離は約15km。
馬の速度にもよるが少しとばした速度で行けば20分前後くらいで着ける計算だ。
しかし、街道をつくっておけばもう少し速度が出せ、数分早く着くことができるだろう。
町をつくってすぐに全壊するような被害に遭うということは思いたくないが、その可能性も考慮した街道作成の優先だ。
住宅などはレオが人形を使って作成するのだろうが、それも来年の話になるだろう。
しかし、そのことも考慮に入れて、ファウストはギルドで住民などの募集をかけることにした。
「そう言えば、また刺客が潜入したって聞いたんだが、そっちは大丈夫か?」
「はい。僕の蜘蛛人形も少し増やしておいたので、島に入ったらすぐに分かると思います」
「そうか……、ギルドもここのことを嗅ぎ回る人間の注意をしておくよ」
町づくりの話が一段落ついた時、ファウストは少し前に起きた刺客の話をしてきた。
その話になると、エレナは少し表情を曇らせる。
狙いは自分だと分かっているからだ。
あれから刺客の潜入は起きていないので、とりあえず問題ない状況だ。
前回、レオが島の周囲に配備した小型蜘蛛人形のお陰でガイオたちが動いてくれたので、エレナに被害が及ぶことはなかった。
しかし、生存しているということはバレてしまったため、レオは小型蜘蛛人形を増やしておかしな人間が入ってこないように警戒をしている。
島のことはレオたちに任せ、ファウストはオヴェストコリナの町中に目を向けることにした。
「ベンさん……」
「どうなさいました? エレナ様」
話が終わってファウストが帰り、エレナも書類の整理をして帰ろうとしたところ、レオの姿がないいことに気付いた。
どこにいるのかと思っていると、レオ専用の工房から作業音が聞こえてきた。
何かを制作しているようだ。
作業中のレオに声をかけるのは気が引けるので、エレナはレオの執事であるベンヴェヌートに声をかけた。
「レオさんのことなのですけど……、何かあったのでしょうか?」
「……私も少々気にはなっておりますが、体調面では特に問題ないようですので……」
最近工房にこもることの多いレオのことがきにかかり、エレナは心配そうに問いかけた。
朝の畑仕事やガイオやジーノの指導もいつも通り受けているし、書類仕事もこなしている。
しかし、島に帰ってから、頻繁に工房に入っている気がするのだ。
工房の明かりが夜まで付いているので、体調面も気にかかる。
いつも側にいるベンヴェヌートも気になっていることだったので注視しているが、とりあえず今の所は大丈夫そうだ。
さすがにこれが続くようなら止めるつもりでいる。
「今回の戦争に参加したことで、何か思うことができたのでしょうか?」
「そうかもしれませんね……」
「…………」
戻ってきてからのことなので、ルイゼン領にかかわる何かのような気がする。
工房内にいるので何かの人形を作っているのだろうが、いつのものようにのんびりした時間を一緒に過ごすという時間が減ってエレナはなんとなく寂しい思いをしている。
レオは、自分がいつかルイゼン領に戻った時のためにと色々頑張ってくれているのを知っているが、エレナとしては無理はしてほしくない所だ。
心配が尽きないエレナは、思わず工房の方を見つめることしかできなかった。
「色々と心配ですが、きっとエレナ様のことを考えてのことですのでご安心ください」
「えっ!? し、失礼します!」
「失礼!」
エレナの心配はたいていレオのことだ。
そのことは2人の周囲にいる人間は分かっている。
島民の間では2人がどうなるかを見守っている空気であり、そのことを知らないのは当人たちだけだろう。
エレナの方はより分かりやすく、レオ次第という気もする。
ベンヴェヌートも2人を応援している1人なので、エレナを安心させようと少しそのことを仄めかす。
自分の気持ちを知られていることに照れたエレナは、ベンヴェヌートに頭を下げて家へと戻っていった。
そんなエレナに続き、いつのように側にいたセバスティアーノも頭を下げてついていった。
『微笑ましい反応ですな……』
エレナの反応に、ベンヴェヌートも僅かに相好を崩す。
平民のままなら、さすがにレオとエレナが付き合うことは難しいかと思っていたが、レオは爵位を得た状態だ。
出来ればエレナにはこのままレオの側にいて欲しいものだ。
それも今後どうなるのか分からないので、軽々に口に出す訳にはいかないが、ベンヴェヌートも2人には幸せになってもらいたい。
『しかし、レオ様は本当にどうなさったのでしょう……』
2人の関係も気になるが、今は主人であるレオのことの方が気になる。
エレナと同様、工房にこもりきりになるのは心配だ。
もしもの時には、側につく自分が何とかしなければと考えるベンヴェヌートだった。