「クッ!! わらわらと……」
レオが影移動していったあと、王国軍は拠点に設置された防壁を盾に籠城して、向かってくるスケルトンへの攻撃を続けていた。
数に物を言わせ、防壁を上がってこようとするスケルトンを必死に叩き落している。
しかし、それを抑えていられるのも時間の問題だろう。
あまりにもスケルトンの数が多すぎるからだ。
「どうやってこの数のスケルトンを用意しているのだ!!」
その光景を見て、ディスカラは文句染みた言葉を吐く。
毎度毎度戦場を覆いつくすようなスケルトンが増員されて来る。
そう簡単に兵を増やせない王国軍は、退却続きにならざるを得ない状態だ。
原因となるスケルトンをどうにかできれば、こちらも何かしらの対応ができるというものなのだが、ここまでの戦いで捕縛した敵兵からは何の情報も得られなかった。
このまま増え続けるようなら、王国の方も大軍勢を投入しないといけなくなるかもしれない。
「ディスカラ様!! 我々も打って出ましょう!! ご許可を!!」
「シュティウス殿……」
ラスタラマの指揮していたスパーノたち精鋭たちの軍。
しかし、不正を摘発されて取り巻き共々指揮権を剥奪された。
代わりに指揮権を与えられたのは、その不正を発見したアゴスティーノだった。
他にも指揮できる人間はいると思われるが、総指揮のディスカラの指示によるものなので、アゴスティーノも受け入れた。
そんな彼らも必死にスケルトンを抑えようとしているが、そろそろ限界に近付いてきた。
防壁の上に到達するスケルトンが出てきたのだ。
それを見て、アゴスティーノが他の隊と共に門から突撃をするべきだとディスカラへと告げる。
この状況で打って出れば、スケルトンに囲まれて危険な目に合うのは目に見えている。
それが分かっているのにもかかわらずそう進言するということは、彼らにはその覚悟があるということなのだろう。
アゴスティーノたちの思いに胸を熱くしつつ、ディスカラは許可を出そうとした。
「っ!?」
「何だ!?」
アゴスティーノに許可を出す前に、戦場に変化が起きる。
突如として、敵後方の上空から飛来するものが見えたのだ。
それを見て、王国軍の兵も何事かと首を傾げる。
「石の雨……」
落ちてきたのは人の頭部ほどの大きさの石。
それが重力による落下を利用して破壊を巻き起こした。
後方に控える敵兵にも被害を与えているが、それよりも被害を受けたのはスケルトンたちだ。
命令に従って行動しているようだが、指示されていないからか防御をせずに進軍を続けている。
防御をしないから、落下してくる石の直撃を食らい、多くのスケルトンが頭部を破壊されて骸と化す。
その石の雨が降り注ぐ時間は短かったが、敵を慌てさせる分には充分だった。
「まさか、これをレオポルド殿が……?」
多くのスケルトンが動かなくなり、一気に数が減った。
その様子にディスカラは驚きの表情を浮かべる。
何かしらの方法で敵後方から攻撃をすると言っていたが、ここまでの成果を上げるとは思ってもいなかった。
この結果を導いたレオのことを、戦力として低く見積もっていた自分が恥ずかしくなった。
「ディスカラ様!!」
「あぁ!! 全軍突撃を開始せよ!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
密集していたスケルトンも、石の雨の攻撃によってばらけるような状態へと変わっている。
囲まれないのであれば、たいして力もないスケルトンは恐れるものではない。
アゴスティーノの声に、ディスカラは分かっていると言わんばかりに全軍へと指示を出した。
それに呼応するかのように、王国軍は砦から出てスケルトンへと攻めかかって行った。
「おのれっ!! 王国軍め!!」
突如の石の雨によって被害を受けたルイゼン側は、体勢を立て直そうとする。
しかし、そんなことをする前に砦から出た王国兵によって、スケルトンたちが破壊され始めた。
後方からの攻撃により兵を向かわせてみたが、そこには誰かいた足跡らしきものはあっても、それ以外に何も存在していなかった。
「どうやったのかは分からないが、後方に敵は居なくなった。一時撤退だ!」
「「「「「了解しました!!」」」」」
一撃離脱にしても行動が速すぎる。
しかし、それを検証している暇などない。
そのため、敵の指揮官の男は一旦引いて隊列を組み直すことを指示した。
その男の指示を受け、兵たちのみならずスケルトンたちも退避行動を開始した。
「おぉっ!!」「敵が退いて行くぞ!!」
砦付近にいたスケルトンは粗方片付く頃、敵が引き始めたことに王国側に歓声が上がる。
ここまで撤退続きだったが、ようやく敵を引かせることに成功したからだ。
「追撃を開始しましょう!!」
「いや、深追いは危険だ! 打撃を与えたが、数の面ではまだ敵が優位だ!」
これまでの鬱憤を晴らすかのようにスケルトンを倒すことができたからだろうか、兵たちは自分たちの優位にテンションが上がっているため、敵を追いかけようとする。
逃げる距離が長くなるたび、スケルトンは段々と纏まっていっている。
迂闊に追いかけて反転されでもしたら、またも囲い込み攻撃で兵がやられることになる。
そのため、ディスカラは冷静に判断し、兵たちが追撃しようとすることを止めた。
「それよりも怪我人の治療に当たれ! 無事の者は砦前のスケルトンの骨を処理するんだ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
戦闘をおこなったので当然怪我人は出る。
とは言っても、これまでで一番少ない人数で収まりそうだ。
そして今後の戦いのことを考えて、砦前に大量に転がっている骨の処理を開始した。
「ディスカラ様。ただいま戻りました!」
「レオポルド殿!!」
戦場に落ちているスケルトンの骨を回収と処理を兵が始めた所で、レオがディスカラの前へと姿を現した。
王国軍が門から撃って出た所で、レオは砦の後方地点へと戻ってきたのだ。
敵の撤退を呼び寄せた功労者の無事の帰還に、ディスカラは諸手を挙げて歓迎する。
「よくやってくれた!! 君のお陰で敵を退却させることができた!!」
「いえ、私の策に乗ってくださったディスカラ様の勝利です!」
すぐさま握手を求めてきたディスカラにレオも応える。
敵を撤退させることができて、余程嬉しかったのだろう。
テンションが高いまま称えるディスカラに、レオは恐縮したように返答した。
「そう言ってくれるのはありがたいが……」
「できればそのようにしていただけるとありがたいのですが」
「そうか……」
レオの策に乗った形による勝利のため、ディスカラ自身の勝利というのは流石にあり得ない。
しかし、カロージェロたちの捕縛とラスタラマの不正をただしただけでもかなりの評価を得られるのに、更に勲一等の働きをしたとなると、レオの評価だけが勝ちすぎてしまう。
この勝利はレオとしても嬉しいが、騎士爵の自分が評価を受けすぎるとこの場にいない貴族とのいらない軋轢を生むことになる。
そのため、ディスカラとこの場にいる貴族たちの策によって、この勝利を得たということにしておいた方がいいと考えたのだ。
ディスカラも、貴族間の足の引っ張り合いは嫌な思いをしている。
そのため、レオがどうしてこういっているのかを理解した。
「分かった。貴殿のためにも受け入れるが、もしも何かあった時は言ってくれ」
「ありがとうございます」
連敗続きのまま援軍が来たらどうなるか分からなかったが、これで自分も一矢報いたとみなされるだろう。
今回のことを報告しても、王は信じても他の貴族が何を言うか分からない。
ならば、嫌でも自分が表に立った方がレオを守ることができるだろう。
そう考えたディスカラは、今回の手柄を得る代わりに、今後何かあった時にレオに協力することを誓った。
伯爵位のディスカラの協力を得られるというのは、今後のことを考えるとレオにとってもありがたい。
ルイゼン領奪還の際にはエレナのことで協力してもらえる事だろう。
自分の願いを聞き入れてくれたディスカラに、感謝したレオは頭を下げたのだった。
レオが影移動していったあと、王国軍は拠点に設置された防壁を盾に籠城して、向かってくるスケルトンへの攻撃を続けていた。
数に物を言わせ、防壁を上がってこようとするスケルトンを必死に叩き落している。
しかし、それを抑えていられるのも時間の問題だろう。
あまりにもスケルトンの数が多すぎるからだ。
「どうやってこの数のスケルトンを用意しているのだ!!」
その光景を見て、ディスカラは文句染みた言葉を吐く。
毎度毎度戦場を覆いつくすようなスケルトンが増員されて来る。
そう簡単に兵を増やせない王国軍は、退却続きにならざるを得ない状態だ。
原因となるスケルトンをどうにかできれば、こちらも何かしらの対応ができるというものなのだが、ここまでの戦いで捕縛した敵兵からは何の情報も得られなかった。
このまま増え続けるようなら、王国の方も大軍勢を投入しないといけなくなるかもしれない。
「ディスカラ様!! 我々も打って出ましょう!! ご許可を!!」
「シュティウス殿……」
ラスタラマの指揮していたスパーノたち精鋭たちの軍。
しかし、不正を摘発されて取り巻き共々指揮権を剥奪された。
代わりに指揮権を与えられたのは、その不正を発見したアゴスティーノだった。
他にも指揮できる人間はいると思われるが、総指揮のディスカラの指示によるものなので、アゴスティーノも受け入れた。
そんな彼らも必死にスケルトンを抑えようとしているが、そろそろ限界に近付いてきた。
防壁の上に到達するスケルトンが出てきたのだ。
それを見て、アゴスティーノが他の隊と共に門から突撃をするべきだとディスカラへと告げる。
この状況で打って出れば、スケルトンに囲まれて危険な目に合うのは目に見えている。
それが分かっているのにもかかわらずそう進言するということは、彼らにはその覚悟があるということなのだろう。
アゴスティーノたちの思いに胸を熱くしつつ、ディスカラは許可を出そうとした。
「っ!?」
「何だ!?」
アゴスティーノに許可を出す前に、戦場に変化が起きる。
突如として、敵後方の上空から飛来するものが見えたのだ。
それを見て、王国軍の兵も何事かと首を傾げる。
「石の雨……」
落ちてきたのは人の頭部ほどの大きさの石。
それが重力による落下を利用して破壊を巻き起こした。
後方に控える敵兵にも被害を与えているが、それよりも被害を受けたのはスケルトンたちだ。
命令に従って行動しているようだが、指示されていないからか防御をせずに進軍を続けている。
防御をしないから、落下してくる石の直撃を食らい、多くのスケルトンが頭部を破壊されて骸と化す。
その石の雨が降り注ぐ時間は短かったが、敵を慌てさせる分には充分だった。
「まさか、これをレオポルド殿が……?」
多くのスケルトンが動かなくなり、一気に数が減った。
その様子にディスカラは驚きの表情を浮かべる。
何かしらの方法で敵後方から攻撃をすると言っていたが、ここまでの成果を上げるとは思ってもいなかった。
この結果を導いたレオのことを、戦力として低く見積もっていた自分が恥ずかしくなった。
「ディスカラ様!!」
「あぁ!! 全軍突撃を開始せよ!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
密集していたスケルトンも、石の雨の攻撃によってばらけるような状態へと変わっている。
囲まれないのであれば、たいして力もないスケルトンは恐れるものではない。
アゴスティーノの声に、ディスカラは分かっていると言わんばかりに全軍へと指示を出した。
それに呼応するかのように、王国軍は砦から出てスケルトンへと攻めかかって行った。
「おのれっ!! 王国軍め!!」
突如の石の雨によって被害を受けたルイゼン側は、体勢を立て直そうとする。
しかし、そんなことをする前に砦から出た王国兵によって、スケルトンたちが破壊され始めた。
後方からの攻撃により兵を向かわせてみたが、そこには誰かいた足跡らしきものはあっても、それ以外に何も存在していなかった。
「どうやったのかは分からないが、後方に敵は居なくなった。一時撤退だ!」
「「「「「了解しました!!」」」」」
一撃離脱にしても行動が速すぎる。
しかし、それを検証している暇などない。
そのため、敵の指揮官の男は一旦引いて隊列を組み直すことを指示した。
その男の指示を受け、兵たちのみならずスケルトンたちも退避行動を開始した。
「おぉっ!!」「敵が退いて行くぞ!!」
砦付近にいたスケルトンは粗方片付く頃、敵が引き始めたことに王国側に歓声が上がる。
ここまで撤退続きだったが、ようやく敵を引かせることに成功したからだ。
「追撃を開始しましょう!!」
「いや、深追いは危険だ! 打撃を与えたが、数の面ではまだ敵が優位だ!」
これまでの鬱憤を晴らすかのようにスケルトンを倒すことができたからだろうか、兵たちは自分たちの優位にテンションが上がっているため、敵を追いかけようとする。
逃げる距離が長くなるたび、スケルトンは段々と纏まっていっている。
迂闊に追いかけて反転されでもしたら、またも囲い込み攻撃で兵がやられることになる。
そのため、ディスカラは冷静に判断し、兵たちが追撃しようとすることを止めた。
「それよりも怪我人の治療に当たれ! 無事の者は砦前のスケルトンの骨を処理するんだ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
戦闘をおこなったので当然怪我人は出る。
とは言っても、これまでで一番少ない人数で収まりそうだ。
そして今後の戦いのことを考えて、砦前に大量に転がっている骨の処理を開始した。
「ディスカラ様。ただいま戻りました!」
「レオポルド殿!!」
戦場に落ちているスケルトンの骨を回収と処理を兵が始めた所で、レオがディスカラの前へと姿を現した。
王国軍が門から撃って出た所で、レオは砦の後方地点へと戻ってきたのだ。
敵の撤退を呼び寄せた功労者の無事の帰還に、ディスカラは諸手を挙げて歓迎する。
「よくやってくれた!! 君のお陰で敵を退却させることができた!!」
「いえ、私の策に乗ってくださったディスカラ様の勝利です!」
すぐさま握手を求めてきたディスカラにレオも応える。
敵を撤退させることができて、余程嬉しかったのだろう。
テンションが高いまま称えるディスカラに、レオは恐縮したように返答した。
「そう言ってくれるのはありがたいが……」
「できればそのようにしていただけるとありがたいのですが」
「そうか……」
レオの策に乗った形による勝利のため、ディスカラ自身の勝利というのは流石にあり得ない。
しかし、カロージェロたちの捕縛とラスタラマの不正をただしただけでもかなりの評価を得られるのに、更に勲一等の働きをしたとなると、レオの評価だけが勝ちすぎてしまう。
この勝利はレオとしても嬉しいが、騎士爵の自分が評価を受けすぎるとこの場にいない貴族とのいらない軋轢を生むことになる。
そのため、ディスカラとこの場にいる貴族たちの策によって、この勝利を得たということにしておいた方がいいと考えたのだ。
ディスカラも、貴族間の足の引っ張り合いは嫌な思いをしている。
そのため、レオがどうしてこういっているのかを理解した。
「分かった。貴殿のためにも受け入れるが、もしも何かあった時は言ってくれ」
「ありがとうございます」
連敗続きのまま援軍が来たらどうなるか分からなかったが、これで自分も一矢報いたとみなされるだろう。
今回のことを報告しても、王は信じても他の貴族が何を言うか分からない。
ならば、嫌でも自分が表に立った方がレオを守ることができるだろう。
そう考えたディスカラは、今回の手柄を得る代わりに、今後何かあった時にレオに協力することを誓った。
伯爵位のディスカラの協力を得られるというのは、今後のことを考えるとレオにとってもありがたい。
ルイゼン領奪還の際にはエレナのことで協力してもらえる事だろう。
自分の願いを聞き入れてくれたディスカラに、感謝したレオは頭を下げたのだった。