「では、行ってまいります!」
用意しておいた防具を装備し、準備を整えたレオがディスカラに声をかける。
レオの策に乗ってくれた彼のためにも、これ以上敵を調子に乗せないためにも、この作戦は失敗できない。
言い出したレオは成功すると信じているため落ち着いているが、他の貴族からすると賭けに近い策に気が気じゃない様子だ。
「あぁ、危険だと思ったらすぐに退散するように」
「畏まりました」
作戦とはいえ、レオ1人を送り出すことになっていることに、ディスカラは心を痛めている。
レオ自身が出した案ではあるが、これではラスタラマがやった囮と変わらないように思えたからだ。
しかし、これ以外にすがる策がないため、レオに期待するしかない。
せめて彼ができることといったら、レオが無事に帰って来てくれることを期待することだけだ。
ディスカラの言葉に頷きつつ、レオはクオーレへと向き合った。
「クオーレ。お願いね」
「ニャッ!」
協力を願うレオは優しくクオーレの頭を撫でる。
今回の策で重要な任務を負っているのはクオーレだからだ。
クオーレは影移動を使えるが、結構な距離を移動することでその分魔力を使うことになる。
しかも、レオも一緒となると更に魔力消費も増えるので、かなりの疲労を伴うことになるだろう。
消費による疲労を理解しながらも、クオーレはしっかりと返事をする。
そして、撫でられて嬉しそうなクオーレは、期待に応えるべく自分の影に魔力を流してレオと共に影の中へと沈んで行った。
「消えた……」
「……頼むぞ!」
「レオポルド殿……」
レオとクオーレの全身が沈み込むと、そのまま影も消えて何もなくなった。
その結果に、ディスカラと共に周囲で眺めていた貴族たちも驚きの声をあげていた。
闇猫は、闇から闇へと移動することによって敵に察知されずに獲物を狩るといわれているが、これが原因だったのかと理解する。
それと同時に、レオと敵対したらいきなり自分の背後に現れるのではないかという思いも湧き上がってきて、何やら背筋に冷たいものを感じざるを得なかった。
レオが消えたことに様々な反応をしている貴族たちとは違い、ディスカラとアゴスティーノはレオのことを心配しつつ作戦の成功を祈っていた。
「ありがとうクオーレ」
クオーレの影移動によって、敵陣の背後の森へと出現したレオ。
軽く息を吐くクオーレの疲労を心配しながら、優しく体を撫でる。
「いつでも戻れる準備をしていてね」
「ニャッ!」
今回クオーレは戦うよりも移動することがメインだ。
そのため、クオーレには同じようにして戻るために、ここで休んでいてもらう。
それと同時に、もしも危険が迫った時のために、いつでも移動できるように言い聞かせた。
クオーレもちゃんと理解しているため、大人しくその場に座り込んだ。
「どうやら軍の中にはいなかったようだな……」
背後にレオがいるというのに、敵はこちらに警戒をしている様子はない。
それを見て、レオは1つ分かったことがあって安堵した。
もしかしたら、敵のスパイはこの貴族の中にも居るかもしれない。
この作戦をディスカラにした時に、レオはその可能性を考えていた。
この場への移動をしてすぐ、敵がこちらに迫っていたらその考えは正しかったかもしれない。
その時はその時で、人形たちを使って迫る敵を倒せばよかったのだが、そうならなかったところを見ると軍の中にスパイは存在していなかったようだ。
これならば、問題なく作戦が決行出来ると、レオは嬉しそうに微笑んだ。
「作戦開始だ!」
敵に作戦がバレていないようなので、少しだが余裕ができた。
しかし、今も王国兵たちはスケルトン相手に奮闘している最中だろう。
彼らの負担を軽減するためにも、レオは素早く行動を開始する。
「出し惜しみはしない!! 一個師団!!」
レオが魔法の指輪から出したのは、所持している人形の大軍勢だった。
万にも及ぶ人形兵が、直立不動で列を組んでいる。
まるでレオの指示を待っているかのようだ。
「皆には敵陣に向かって一斉に魔法攻撃をしてもらう」
人形たちによる突撃も考えられたが、それだと転移して逃げるレオは人形たちを使い潰すことになる。
これだけの数を造り直すにはかなりの時間を消費することになるため、そんな選択を取ることはできない。
それに、敵に被害と動揺を与えるのなら魔法を使うという手立てがある。
そのため、レオは人形たちに魔法による一斉攻撃をさせることにした。
「魔法は上空へ向けたストーンバレットだ!」
選んだのは土系統魔法の石弾で、人の頭程の石を作り出し、それを敵へ向けて放つ魔法だ。
何の警戒もしていない状況で受けた場合、落下してきた石の攻撃はかなりの痛手を負う。
スケルトンにも被害を負わせるようにと考えると、火や風の系統の魔法ではダメージが与えられるか疑問に思ったからだ。
上空から巨大な石が落下してくれば、スケルトンの頭部を破壊できるはずだ。
「用意!!」
レオの言葉を聞いた人形たちは、込められた魔力を使い切るギリギリまで石の塊を作り出すために使う。
恐らく、発射した瞬間に魔力切れで行動不能になってしまうことだろう。
しかし、それはレオの望んだ通りの行動だ。
魔力が尽きても、補充すればまた動かすことができる。
それよりも、これだけの石が降って来たら、敵に大打撃をあたえること間違いなしだ。
「発射!!」
敵が固まっている所を重点的に攻撃するように、レオは人形たちに魔法を発射させることを指示する。
そうして発射された石弾は、上空から敵陣へ雨のように降りかかったのだった。
「へっ! 王国の奴ら無駄な抵抗しやがって!」
「全くだ! さっさと尻尾撒いて逃げりゃあ良いものを……」
スケルトンの攻撃を王国の兵が必死に耐えている。
いつまでがんばっても、援軍が来なければこのまま退却するしか道がないはずだ。
それが分かっているのに必死になっているのを見て、敵の兵たちは嘲笑する。
敵兵の彼らは、はっきり言ってここまでたいして戦っていない。
スケルトンや奴隷にされた市民兵のお陰で、ほとんど何もせずに前進を続けてきたのだ。
楽してきたがゆえに、警戒感が薄れていたようだ。
「なっ!?」「何だ!?」「グワッ!!」
突如として、戦場に大きめの石が次々と落下してきた。
戦場というより、ルイゼン側に向かって落ちてきている。
あまりの出来事に、これまで警戒心が薄れていた兵たちの中には、頭部に直撃して動かなくなっている者もいるくらいだ。
人間の兵よりもスケルトンの方が被害を受けている。
頭部を破壊されると動かなくなるということを示すかのように、多くのスケルトンがただの骨として崩れ落ちていった。
「敵襲後方より敵襲だ!!」
「何だと!?」
「バカな!!」
聞こえてきた言葉に兵たちは慌てる。
敵が回り込むようなことができないように、回り道には砦が建設されている。
そのため、敵が後方に行くには、回り道にある砦を破壊しなくてはならない。
しかし、砦が破壊されたという情報は入っていないため、どうして敵が後方にいるのか分からない。
だが、たしかに降ってくる石の様子から後方からの攻撃に見えるため、兵たちは石弾を防ぎつつ後方へ向けて馬を走らせ始めた。
「エトーレ! 人形の収納が済むまで敵の足止めを頼む!」
“コクッ!”
万に近い人形が、その場に座り込むようにして動かなくなっている。
レオの魔力を使い切ってしまったのだ。
しかし、こうなることは想定済み。
敵を近付けさせないように、レオはエトーレに協力を頼む。
レオの指示に頷きを返したエトーレは、いくつもの糸を離れた地面へと飛ばしていった。
「何だ!? このネバネバしたものは……」
「クッ!! これでは馬が……」
エトーレの放った糸の場所に差しかかったところで、兵たちは異変に気が付く。
馬の足に糸が絡みつき、前へと進むことができなくなってしまった。
まるで鳥もちでもついたように離れない糸に、ルイゼン兵たちは慌てる。
馬に乗っているので兵自体は何ともないが、馬は暴れる一方で身動きが取れない。
「よし今のうちに撤退だ!」
「ニャッ!!」
エトーレが敵を抑えてくれていたお陰で、レオは人形の回収が終了した。
そして、レオはそのままエクオーレの所へと向かい、クオーレもすぐさま影移動の発動を開始した。
用意しておいた防具を装備し、準備を整えたレオがディスカラに声をかける。
レオの策に乗ってくれた彼のためにも、これ以上敵を調子に乗せないためにも、この作戦は失敗できない。
言い出したレオは成功すると信じているため落ち着いているが、他の貴族からすると賭けに近い策に気が気じゃない様子だ。
「あぁ、危険だと思ったらすぐに退散するように」
「畏まりました」
作戦とはいえ、レオ1人を送り出すことになっていることに、ディスカラは心を痛めている。
レオ自身が出した案ではあるが、これではラスタラマがやった囮と変わらないように思えたからだ。
しかし、これ以外にすがる策がないため、レオに期待するしかない。
せめて彼ができることといったら、レオが無事に帰って来てくれることを期待することだけだ。
ディスカラの言葉に頷きつつ、レオはクオーレへと向き合った。
「クオーレ。お願いね」
「ニャッ!」
協力を願うレオは優しくクオーレの頭を撫でる。
今回の策で重要な任務を負っているのはクオーレだからだ。
クオーレは影移動を使えるが、結構な距離を移動することでその分魔力を使うことになる。
しかも、レオも一緒となると更に魔力消費も増えるので、かなりの疲労を伴うことになるだろう。
消費による疲労を理解しながらも、クオーレはしっかりと返事をする。
そして、撫でられて嬉しそうなクオーレは、期待に応えるべく自分の影に魔力を流してレオと共に影の中へと沈んで行った。
「消えた……」
「……頼むぞ!」
「レオポルド殿……」
レオとクオーレの全身が沈み込むと、そのまま影も消えて何もなくなった。
その結果に、ディスカラと共に周囲で眺めていた貴族たちも驚きの声をあげていた。
闇猫は、闇から闇へと移動することによって敵に察知されずに獲物を狩るといわれているが、これが原因だったのかと理解する。
それと同時に、レオと敵対したらいきなり自分の背後に現れるのではないかという思いも湧き上がってきて、何やら背筋に冷たいものを感じざるを得なかった。
レオが消えたことに様々な反応をしている貴族たちとは違い、ディスカラとアゴスティーノはレオのことを心配しつつ作戦の成功を祈っていた。
「ありがとうクオーレ」
クオーレの影移動によって、敵陣の背後の森へと出現したレオ。
軽く息を吐くクオーレの疲労を心配しながら、優しく体を撫でる。
「いつでも戻れる準備をしていてね」
「ニャッ!」
今回クオーレは戦うよりも移動することがメインだ。
そのため、クオーレには同じようにして戻るために、ここで休んでいてもらう。
それと同時に、もしも危険が迫った時のために、いつでも移動できるように言い聞かせた。
クオーレもちゃんと理解しているため、大人しくその場に座り込んだ。
「どうやら軍の中にはいなかったようだな……」
背後にレオがいるというのに、敵はこちらに警戒をしている様子はない。
それを見て、レオは1つ分かったことがあって安堵した。
もしかしたら、敵のスパイはこの貴族の中にも居るかもしれない。
この作戦をディスカラにした時に、レオはその可能性を考えていた。
この場への移動をしてすぐ、敵がこちらに迫っていたらその考えは正しかったかもしれない。
その時はその時で、人形たちを使って迫る敵を倒せばよかったのだが、そうならなかったところを見ると軍の中にスパイは存在していなかったようだ。
これならば、問題なく作戦が決行出来ると、レオは嬉しそうに微笑んだ。
「作戦開始だ!」
敵に作戦がバレていないようなので、少しだが余裕ができた。
しかし、今も王国兵たちはスケルトン相手に奮闘している最中だろう。
彼らの負担を軽減するためにも、レオは素早く行動を開始する。
「出し惜しみはしない!! 一個師団!!」
レオが魔法の指輪から出したのは、所持している人形の大軍勢だった。
万にも及ぶ人形兵が、直立不動で列を組んでいる。
まるでレオの指示を待っているかのようだ。
「皆には敵陣に向かって一斉に魔法攻撃をしてもらう」
人形たちによる突撃も考えられたが、それだと転移して逃げるレオは人形たちを使い潰すことになる。
これだけの数を造り直すにはかなりの時間を消費することになるため、そんな選択を取ることはできない。
それに、敵に被害と動揺を与えるのなら魔法を使うという手立てがある。
そのため、レオは人形たちに魔法による一斉攻撃をさせることにした。
「魔法は上空へ向けたストーンバレットだ!」
選んだのは土系統魔法の石弾で、人の頭程の石を作り出し、それを敵へ向けて放つ魔法だ。
何の警戒もしていない状況で受けた場合、落下してきた石の攻撃はかなりの痛手を負う。
スケルトンにも被害を負わせるようにと考えると、火や風の系統の魔法ではダメージが与えられるか疑問に思ったからだ。
上空から巨大な石が落下してくれば、スケルトンの頭部を破壊できるはずだ。
「用意!!」
レオの言葉を聞いた人形たちは、込められた魔力を使い切るギリギリまで石の塊を作り出すために使う。
恐らく、発射した瞬間に魔力切れで行動不能になってしまうことだろう。
しかし、それはレオの望んだ通りの行動だ。
魔力が尽きても、補充すればまた動かすことができる。
それよりも、これだけの石が降って来たら、敵に大打撃をあたえること間違いなしだ。
「発射!!」
敵が固まっている所を重点的に攻撃するように、レオは人形たちに魔法を発射させることを指示する。
そうして発射された石弾は、上空から敵陣へ雨のように降りかかったのだった。
「へっ! 王国の奴ら無駄な抵抗しやがって!」
「全くだ! さっさと尻尾撒いて逃げりゃあ良いものを……」
スケルトンの攻撃を王国の兵が必死に耐えている。
いつまでがんばっても、援軍が来なければこのまま退却するしか道がないはずだ。
それが分かっているのに必死になっているのを見て、敵の兵たちは嘲笑する。
敵兵の彼らは、はっきり言ってここまでたいして戦っていない。
スケルトンや奴隷にされた市民兵のお陰で、ほとんど何もせずに前進を続けてきたのだ。
楽してきたがゆえに、警戒感が薄れていたようだ。
「なっ!?」「何だ!?」「グワッ!!」
突如として、戦場に大きめの石が次々と落下してきた。
戦場というより、ルイゼン側に向かって落ちてきている。
あまりの出来事に、これまで警戒心が薄れていた兵たちの中には、頭部に直撃して動かなくなっている者もいるくらいだ。
人間の兵よりもスケルトンの方が被害を受けている。
頭部を破壊されると動かなくなるということを示すかのように、多くのスケルトンがただの骨として崩れ落ちていった。
「敵襲後方より敵襲だ!!」
「何だと!?」
「バカな!!」
聞こえてきた言葉に兵たちは慌てる。
敵が回り込むようなことができないように、回り道には砦が建設されている。
そのため、敵が後方に行くには、回り道にある砦を破壊しなくてはならない。
しかし、砦が破壊されたという情報は入っていないため、どうして敵が後方にいるのか分からない。
だが、たしかに降ってくる石の様子から後方からの攻撃に見えるため、兵たちは石弾を防ぎつつ後方へ向けて馬を走らせ始めた。
「エトーレ! 人形の収納が済むまで敵の足止めを頼む!」
“コクッ!”
万に近い人形が、その場に座り込むようにして動かなくなっている。
レオの魔力を使い切ってしまったのだ。
しかし、こうなることは想定済み。
敵を近付けさせないように、レオはエトーレに協力を頼む。
レオの指示に頷きを返したエトーレは、いくつもの糸を離れた地面へと飛ばしていった。
「何だ!? このネバネバしたものは……」
「クッ!! これでは馬が……」
エトーレの放った糸の場所に差しかかったところで、兵たちは異変に気が付く。
馬の足に糸が絡みつき、前へと進むことができなくなってしまった。
まるで鳥もちでもついたように離れない糸に、ルイゼン兵たちは慌てる。
馬に乗っているので兵自体は何ともないが、馬は暴れる一方で身動きが取れない。
「よし今のうちに撤退だ!」
「ニャッ!!」
エトーレが敵を抑えてくれていたお陰で、レオは人形の回収が終了した。
そして、レオはそのままエクオーレの所へと向かい、クオーレもすぐさま影移動の発動を開始した。