「レオポルド殿、今回は色々と迷惑をかけた。総指揮官として改めて謝罪する」
「いいえ。お気になさらないでください」
アゴスティーノの協力によって、レオの今回の招集書は偽造されたものだと判明した。
その実行犯であるラスタラマ子爵は、レオの捕縛したカロージェロたちと共に兵によって王都へ護送されていくことになったらしい。
レオの今後のことも決まったらしく、作戦会議室へと案内された。
そこで、ディスカラが謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。
たしかに、総指揮官としては問題となる事案だが、下の爵位の者に頭を下げたことを意外に思うと共に恐縮しつつレオは謝罪を受け入れた。
「奴の取り巻き連中には最前線での戦闘をさせることにした。ここからは我々と集ってもらった精鋭たち、それと後から来る援軍によって対処する予定だ」
「そうですか」
敵の市民兵の討伐を担当する班にいた貴族たちの多くは、ラスタラマと共に前王の時に問題のあった家の者たちだ。
彼の偽造を知らなかったとはいえ、レオを囮にさせるということに何の異論も唱えなかったこともあり、何かしらの処罰を与える必要があった。
取り巻き以外にも爵位が低くて文句が言えなかったという者もいたが、他の貴族に告げるなど方法はあったはずだ。
そうしなかった彼らも厳しく対応することになり、一番危険な最前線での戦闘をさせることになったそうだ。
今回の招集はラスタラマによっておこなわれたもの。
それが偽装ということが判明したので、レオがこれ以上戦いに参加する必要もない。
誰も好き好んで戦争をしたがる者はいないため、今回はここで帰還していいことが決定したようだ。
敵の勢力に押されている状況での帰還となるとレオとしても思いは複雑だが、援軍が向かって来ているのならきっと抑え込んでくれることだろう。
「元ディステ家の2人の捕縛に感謝する。それと、当然だが今回の君の功績はちゃんと陛下へと進言するから安心してくれ」
「はい。ありがとうございます。しかしながら……」
ディスカラからの感謝の言葉に、レオは恭しく頭を下げる。
父と兄のことはレオとしてもどうにかしたかったことなので、捕まえられて良かったと思っている。
だが、ディスカラはレオ1人の功績と思っているような節があるので、陛下に報告してもらうならきちんと伝えておくべきだろうと思った。
「捕縛は私個人の功績とは言い切れません。一緒に招集された精鋭の方々、ならびにシュティウス男爵様の協力があってこそのものだと思っております」
不利になればすぐに逃げだす可能性のあるカロージェロとイルミナート。
そうならないよう誘い出すために、スパーノや精鋭たちが協力してくれたことが捕縛を成功することに繋がったと思っている。
それに、アゴスティーノがいなかったら虚偽の招集に加え、みんなの功績をラスタラマに奪い取られていたかも知れない。
そう考えると、アゴスティーノの協力も重要な意味を成していた。
病弱な時期を過ごし、自分は常に人に頼ることで生かされているのだと理解している。
協力をしてくれた人には感謝し、出来る限りの礼を返さないといけない。
そのため、レオはみんなの協力による功績であるということを、陛下にも分かってもらいたかった。
「あぁ、わかった。その事も合わせて報告させてもらう」
「お願いいたします」
室内にはアゴスティーノもいる。
彼はレオの言葉に反論しようとしているが、レオが笑みを浮かべた目線でそれを諫める。
今後も何か協力してもらうことがあるかもしれない。
その時のためにも、ちょっとしたお礼だと思ってもらいたい。
それが伝わったのか、アゴスティーノも反論するのをとどまってくれた。
自分の問題として残っていた父と兄のことは解決した。
後はエレナのためにも、王国軍にルイゼン領の奪還を果たしてもらいたいところだ。
レオはこの会議室に集まっている貴族たち全員に向けるように頭を上げ、この部屋から退室することにした。
しかし、
「ディスカラ様!!」
「どうした!?」
レオが部屋から出る前に、兵士が慌てて駆け込んで来た。
何か異変が起きたのだろうと、ディスカラは駆け込んで来た兵に問いかける。
会議室に集まっていた者たちも、表情を緊張させてその兵の報告を待った。
「敵のスケルトン軍団が動き出しました!!」
「何っ!? くっ!! こっちに援軍が集まるのを読んだのか!?」
「いくら何でも早すぎる!!」
「もしかして、王国内に敵へ情報を送っている者がいるのでは……」
その兵の報告に、開戦当初から参戦しているアルドブラノ子爵が驚きの声をあげる。
ヴィスティノ男爵も同じように驚き、敵の行動のタイミングに違和感を覚えた。
その言葉に、ガリエラ男爵は王国内にスパイが潜入している可能性を思い浮かべた。
「落ち着け!」
3人の言葉に、他の貴族たちも慌てだした。
その様子に、ディスカラはまずは彼らを落ち着かせようと声を張り上げる。
「まずは冷静に行動を起こさないと……、しかし、今の兵数ではまたも後退を余儀なくされる可能性が……」
スパイが王国内へ潜入しているという考えは恐らく正しい。
しかし、今はそれよりも敵に対応しないと、敵を調子に乗せることになる。
援軍が来るまで何としてもこの前線を維持したい。
一先ず会議内は落ち着くが、兵数に劣るようになってしまったこちらには、後退しないと大打撃を受けるかもしれない。
「閣下!! 1つご提案したい作戦があります!」
「……作戦?」
こんな状況のため、レオは帰還をすることが決まっていたが、今はそれどころではない。
この期に及んで何もしないという選択はレオには取れないため、レオの中で1つだけ思いついていた作戦をディスカラへ提案することにした。
戦闘しつつの後退以外に作戦なんて思いつかないなか、レオの発言にディスカラは反応した。
「失礼します! クオーレ! エトーレ!」
「なっ!?」「闇猫!?」「蜘蛛!?」
レオはまずは謝って2体の従魔を呼ぶ。
すると、レオの影から闇猫のクオーレが、そしてポケットの中から蜘蛛のエトーレが出てきた。
突然の闇猫と蜘蛛の出現に、室内の貴族たちは驚きの声をあげる。
しかし、レオの言葉で出てきたところから従魔だと分かり、とりあえず場はすぐに落ち着く。
「この子たちの能力で私が敵軍の後方へ移動し、そこから攻撃を開始します」
「なっ!? 闇猫にそんなことが……」
「ちょうど敵軍後方には影となる場所が存在します。私の従魔ならば影転移が可能です」
まだまだ若いが、クオーレも色々と成長している。
密かに訓練していたらしく、陰に潜んだり、条件付きなら影転移が使えるということをレオに教えてくれた。
今回の場合、一度いった場所であるとか、影がある場所でないと無理だったり、自分以外を連れて行くとなると魔力をかなり消費するなどの条件はクリアしている。
そのため、レオは作戦の実行の許可を求めた。
「しかし、君だけ行っても……」
「私の従魔2体は捕縛に特化しております。それに、私の魔法の指輪には多くの兵器を隠しております。一時の間足止めすることは可能です!」
ディスカラの言いたいことは分かる。
敵後方から挟み撃ちができるにしても、戦闘力のなさそうなレオが行っても注意を引くことは難しいのではないかと言いたいのだろう。
しかし、レオの魔法の指輪にはスケルトン以上の人形たちが収納されている。
彼らを使えば敵に打撃を与えることは可能だ。
しかし、兵器と言っても、念には念を入れてまだスキルのことは教えない。
「……なるほど、しかしそれは君のリスクが大きすぎる」
「大丈夫です。行って帰ってくる程度は難しくありません!」
自信ありげなレオの表情に、藁にもすがりたいディスカラは心が傾く。
しかし、1人で行動させるなんてレオの身のことが心配になる。
クオーレの影転移でちょうど行って戻って来られる距離だ。
なので、レオは気負うことなく返事をした。
「……本当に大丈夫なのか?」
「はい!」
「……わかった! 君を信じよう!」
「ディスカラ様!?」
レオも少しの足止めができれば、危険になる前に退散するつもりだ。
決意と自信のあるレオの目に、ディスカラはその作戦に乗ることにした。
しかし、どう考えても成功するとは思えないため、貴族の中には異を唱えようとする者もいた。
「責任は全部俺がとる!! 全軍に伝えろ!! これから迎撃の態勢にはいる。敵軍に異変があるまで前線を維持しろ!!」
「「「「「ハ、ハイッ!」」」」」
異論をいいたい気持ちはわかる。
しかし、決意したディスカラは他の者に有無を言わせないよう強引に指示を出した。
「いいえ。お気になさらないでください」
アゴスティーノの協力によって、レオの今回の招集書は偽造されたものだと判明した。
その実行犯であるラスタラマ子爵は、レオの捕縛したカロージェロたちと共に兵によって王都へ護送されていくことになったらしい。
レオの今後のことも決まったらしく、作戦会議室へと案内された。
そこで、ディスカラが謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。
たしかに、総指揮官としては問題となる事案だが、下の爵位の者に頭を下げたことを意外に思うと共に恐縮しつつレオは謝罪を受け入れた。
「奴の取り巻き連中には最前線での戦闘をさせることにした。ここからは我々と集ってもらった精鋭たち、それと後から来る援軍によって対処する予定だ」
「そうですか」
敵の市民兵の討伐を担当する班にいた貴族たちの多くは、ラスタラマと共に前王の時に問題のあった家の者たちだ。
彼の偽造を知らなかったとはいえ、レオを囮にさせるということに何の異論も唱えなかったこともあり、何かしらの処罰を与える必要があった。
取り巻き以外にも爵位が低くて文句が言えなかったという者もいたが、他の貴族に告げるなど方法はあったはずだ。
そうしなかった彼らも厳しく対応することになり、一番危険な最前線での戦闘をさせることになったそうだ。
今回の招集はラスタラマによっておこなわれたもの。
それが偽装ということが判明したので、レオがこれ以上戦いに参加する必要もない。
誰も好き好んで戦争をしたがる者はいないため、今回はここで帰還していいことが決定したようだ。
敵の勢力に押されている状況での帰還となるとレオとしても思いは複雑だが、援軍が向かって来ているのならきっと抑え込んでくれることだろう。
「元ディステ家の2人の捕縛に感謝する。それと、当然だが今回の君の功績はちゃんと陛下へと進言するから安心してくれ」
「はい。ありがとうございます。しかしながら……」
ディスカラからの感謝の言葉に、レオは恭しく頭を下げる。
父と兄のことはレオとしてもどうにかしたかったことなので、捕まえられて良かったと思っている。
だが、ディスカラはレオ1人の功績と思っているような節があるので、陛下に報告してもらうならきちんと伝えておくべきだろうと思った。
「捕縛は私個人の功績とは言い切れません。一緒に招集された精鋭の方々、ならびにシュティウス男爵様の協力があってこそのものだと思っております」
不利になればすぐに逃げだす可能性のあるカロージェロとイルミナート。
そうならないよう誘い出すために、スパーノや精鋭たちが協力してくれたことが捕縛を成功することに繋がったと思っている。
それに、アゴスティーノがいなかったら虚偽の招集に加え、みんなの功績をラスタラマに奪い取られていたかも知れない。
そう考えると、アゴスティーノの協力も重要な意味を成していた。
病弱な時期を過ごし、自分は常に人に頼ることで生かされているのだと理解している。
協力をしてくれた人には感謝し、出来る限りの礼を返さないといけない。
そのため、レオはみんなの協力による功績であるということを、陛下にも分かってもらいたかった。
「あぁ、わかった。その事も合わせて報告させてもらう」
「お願いいたします」
室内にはアゴスティーノもいる。
彼はレオの言葉に反論しようとしているが、レオが笑みを浮かべた目線でそれを諫める。
今後も何か協力してもらうことがあるかもしれない。
その時のためにも、ちょっとしたお礼だと思ってもらいたい。
それが伝わったのか、アゴスティーノも反論するのをとどまってくれた。
自分の問題として残っていた父と兄のことは解決した。
後はエレナのためにも、王国軍にルイゼン領の奪還を果たしてもらいたいところだ。
レオはこの会議室に集まっている貴族たち全員に向けるように頭を上げ、この部屋から退室することにした。
しかし、
「ディスカラ様!!」
「どうした!?」
レオが部屋から出る前に、兵士が慌てて駆け込んで来た。
何か異変が起きたのだろうと、ディスカラは駆け込んで来た兵に問いかける。
会議室に集まっていた者たちも、表情を緊張させてその兵の報告を待った。
「敵のスケルトン軍団が動き出しました!!」
「何っ!? くっ!! こっちに援軍が集まるのを読んだのか!?」
「いくら何でも早すぎる!!」
「もしかして、王国内に敵へ情報を送っている者がいるのでは……」
その兵の報告に、開戦当初から参戦しているアルドブラノ子爵が驚きの声をあげる。
ヴィスティノ男爵も同じように驚き、敵の行動のタイミングに違和感を覚えた。
その言葉に、ガリエラ男爵は王国内にスパイが潜入している可能性を思い浮かべた。
「落ち着け!」
3人の言葉に、他の貴族たちも慌てだした。
その様子に、ディスカラはまずは彼らを落ち着かせようと声を張り上げる。
「まずは冷静に行動を起こさないと……、しかし、今の兵数ではまたも後退を余儀なくされる可能性が……」
スパイが王国内へ潜入しているという考えは恐らく正しい。
しかし、今はそれよりも敵に対応しないと、敵を調子に乗せることになる。
援軍が来るまで何としてもこの前線を維持したい。
一先ず会議内は落ち着くが、兵数に劣るようになってしまったこちらには、後退しないと大打撃を受けるかもしれない。
「閣下!! 1つご提案したい作戦があります!」
「……作戦?」
こんな状況のため、レオは帰還をすることが決まっていたが、今はそれどころではない。
この期に及んで何もしないという選択はレオには取れないため、レオの中で1つだけ思いついていた作戦をディスカラへ提案することにした。
戦闘しつつの後退以外に作戦なんて思いつかないなか、レオの発言にディスカラは反応した。
「失礼します! クオーレ! エトーレ!」
「なっ!?」「闇猫!?」「蜘蛛!?」
レオはまずは謝って2体の従魔を呼ぶ。
すると、レオの影から闇猫のクオーレが、そしてポケットの中から蜘蛛のエトーレが出てきた。
突然の闇猫と蜘蛛の出現に、室内の貴族たちは驚きの声をあげる。
しかし、レオの言葉で出てきたところから従魔だと分かり、とりあえず場はすぐに落ち着く。
「この子たちの能力で私が敵軍の後方へ移動し、そこから攻撃を開始します」
「なっ!? 闇猫にそんなことが……」
「ちょうど敵軍後方には影となる場所が存在します。私の従魔ならば影転移が可能です」
まだまだ若いが、クオーレも色々と成長している。
密かに訓練していたらしく、陰に潜んだり、条件付きなら影転移が使えるということをレオに教えてくれた。
今回の場合、一度いった場所であるとか、影がある場所でないと無理だったり、自分以外を連れて行くとなると魔力をかなり消費するなどの条件はクリアしている。
そのため、レオは作戦の実行の許可を求めた。
「しかし、君だけ行っても……」
「私の従魔2体は捕縛に特化しております。それに、私の魔法の指輪には多くの兵器を隠しております。一時の間足止めすることは可能です!」
ディスカラの言いたいことは分かる。
敵後方から挟み撃ちができるにしても、戦闘力のなさそうなレオが行っても注意を引くことは難しいのではないかと言いたいのだろう。
しかし、レオの魔法の指輪にはスケルトン以上の人形たちが収納されている。
彼らを使えば敵に打撃を与えることは可能だ。
しかし、兵器と言っても、念には念を入れてまだスキルのことは教えない。
「……なるほど、しかしそれは君のリスクが大きすぎる」
「大丈夫です。行って帰ってくる程度は難しくありません!」
自信ありげなレオの表情に、藁にもすがりたいディスカラは心が傾く。
しかし、1人で行動させるなんてレオの身のことが心配になる。
クオーレの影転移でちょうど行って戻って来られる距離だ。
なので、レオは気負うことなく返事をした。
「……本当に大丈夫なのか?」
「はい!」
「……わかった! 君を信じよう!」
「ディスカラ様!?」
レオも少しの足止めができれば、危険になる前に退散するつもりだ。
決意と自信のあるレオの目に、ディスカラはその作戦に乗ることにした。
しかし、どう考えても成功するとは思えないため、貴族の中には異を唱えようとする者もいた。
「責任は全部俺がとる!! 全軍に伝えろ!! これから迎撃の態勢にはいる。敵軍に異変があるまで前線を維持しろ!!」
「「「「「ハ、ハイッ!」」」」」
異論をいいたい気持ちはわかる。
しかし、決意したディスカラは他の者に有無を言わせないよう強引に指示を出した。