乱れた呼吸を整えて、あたしは顔を洗った。

常温より少し冷たい水。


火照った肌に行き渡らせるように。


そうしたら、今よりも少しは冷静でいられるだろうと奮い立たせる。

3回、4回と水をすくい上げ、軽くタオルで拭き取った。



体を起こすと、またお腹が張り出した。

()ったい……」

当たり前の行動すらままならない。


これが一年近くも続くとなると、世の女性はみんな命がけで出産するんだなと思った。


まるで他人事のように思っていたけれど、

今のあたしは思いがけない形で当事者となった。


今、改めて思う。



どんなに辛くても、苦しくても。

ただ、ただ愛おしい。

尊い。


大切なこの命。

守りたい。



思考よりも、意志よりも。

本能的にそう感じた。


決して、ここにいるのが“あたし”だからというわけじゃない。



この小さな鼓動が、あたしの中のあたしの奥深くに眠る何かにまで伝えようとしているような気がしたから。


駆り立てられる衝動の正体はわからなくとも、

大切な存在であることは明白で、且つ必然で、慈愛に満ちている。



未だかつて、感じたことのない感情。

これは、母性?

それとも、同情?