何で?

何で、あたしが。


お母さんなの?


それも、ちょっとばかり若い頃の。

それに、

どうも様子がおかしい。


「ん?」




よくよく見れば、お母さんの……いや、今はあたしのお腹がふっくらしている。

「え……!」

うそ、太った!?


あたし、どんなに食べても太らない、スレンダーな体型が唯一の誇りだったのに……。


ドクン、ドクン、ドクン。


お腹の奥からは、余計なお世話だと言わんばかりの熱帯びた妙な鼓動を感じた。

まるで、もう一人そこにいるみたい。

まるで。




もう一人。




「っ!」

まさか。

まさか。



「まさか……」



それはあまりに突然で。

あたしはわけもわからないまま自分の体型の変化に戸惑いながらも、もし本当にそうなら……と大きく膨らんだお腹に触れてみた。


僅かにだけど、お腹がピクッと無意識に動く。

「何、これ……」

今度はグニョっと波打つようにお腹が(ゆが)む。


気持ち悪い。


モゾモゾうごめくエイリアンみたい。

内側から、胃のあたりを圧迫されるような。

トイレが近くなるような。



「うッ……!」

不定期に訪れる激しい吐き気に翻弄されながらも、

憎らしいこの大きなお腹に宿った確かな命の鼓動に共鳴するように。




溢れ出した涙は、知らず知らずのうちにあたしの頬を伝っては滴り落ちていく。

「うぅ……っ」




泣きたいわけじゃない。



でも、湧き上がるこの感情は何なのだろう。




あたしだけど、あたしじゃない。

あたしじゃないけど、あたし……みたいな。


でも、ここには確かに存在している。



目には見えないけれど、あたしの中に、あたしがいる。


小さな、小さなあたしがいる。