漆黒の闇。





束の間の悪夢からの目覚めなのか。





暗い夜道を無我夢中で駆け抜けて、車に跳ね飛ばされたこの身体(からだ)

無事で済むはずがない。


全身を激しく揺さぶるような衝撃と、地面に叩きつけられた時の絶望感。

それから一気に解放されたかのように、今は何も感じない。


視界が徐々に鮮明になっていく。






どこか懐かしいーーはりかえたばかりの畳のにおいがする。









「ここは……?」




病院ではなく、見覚えのある一室。



あたしはその部屋の中央に立っていた。


何となく不自然な立ち位置に違和感を覚えて、辺りを見渡す。


開けっ放しの部屋の引き戸。



視線の先には廊下があって、向かいには台所とリビングがある。



その北側には、トイレと洗面所、お風呂があって。


「え……?」






この間取り、間違いない。






ここは、あたしのお母さんの部屋だ。


どうして?






「うッ……!」


不意に激しい吐き気に襲われ、あたしは思わず洗面台の方へ向かう。

「……ッ!」


キリキリとお腹が張り出し、同時に痛みも訪れた。

何これ。何でこんなに痛いの?


「はぁ、はぁ……」



胃のあたりがムカムカして、中にあるものすべてが今にも喉の奥を通って出そうなのに、何故か出ない。

何ともすっきりしない感じがたまらなく不快で、かといって横になって休む気にもなれない。



そういえば、さっき思いきり車にぶつかってとばされたはずなのに。


その痛みは全くない。

「何で……?」
目に見える怪我もない。


訝しく思いながらあたしは洗面台から上体を起こした。

「え……!?」




鏡を見て愕然とする。

2度見、3度見。


そこに映っていたのは。




「お……母さん?」