言いたいことが言えてスッキリしたのは一瞬だけ。

だんだんとイライラがぶり返してきた。


「やっぱさっきのムカつくな……」

やる前から無理無理って連呼されるのは、さすがに我慢ならない。まして、思い描いていた自分の将来の夢が叶おうとしている瞬間にそんなことを言われたら。

まだお父さんの無関心さの方が遥かにありがたみを感じる。


でも、どのみちもうあの家には帰れない。


自分から啖呵切って出た以上、今更あとに引き返すわけにもいかない。


ああ、しまった。


後先考えずに何も持たずに家を飛び出して来てしまったものだから。


「せめて、スマホくらい持って来ればよかった……」


いつもなら肌身離さず持っているものを、うっかり置いてきてしまった。


「ああ〜もう!!」


落ち着かない。

取りに戻りたいけど、お母さんの顔は見たくない。





これでいい、これでいい。



あたしは自分に言い聞かせるように、あてのない道を突き進んだ。


真っ暗な夜道を照らす、小さな街頭と車のヘッドライト、月明かりだけを頼りにして。


引き返すよりマシだ。


あたしの人生は、まだまだこれからなんだ。

きっと、この先にはもっと眩しい未来が待っているに違いない。


あたしの足は止まらない。


眩しすぎるくらいの光、そして浮遊感。

「あ……!」

まるで、天にも昇るくらいの解放感。


誰かの叫び声。

「え?」





体が宙に浮いたかと思えば、悲鳴のような轟音と衝撃が、あたしの全身を激しく揺さぶった。


そして、体に走るーー突き刺すような痛みと大きな衝撃。

「………………!?」



視界が一瞬で真っ白になって、あたしは地面に叩きつけられるように落下した。











痛い。



めちゃくちゃ痛い。





「おい、大丈夫か?!」

「誰か! 救急車!!」


次第に遠ざかる誰かの声。


ああ。何やってんだろう、あたし。



このまま、死んじゃうのかな。


あたしは朦朧とした意識の中、宵闇よりも深い、さらなる闇へと落ちていく感覚に陥った。


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目を開けるのが怖い。

怖い。

怖い。

あたし、ちゃんと生きてるの?




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不思議と体の痛みは感じなかった。

結構激しくはねとばされたはずなのに。

もしかして、あたし本当に……



死んじゃったの?


死ぬって、こういう感じなの?


走馬灯もない。

ただ、暗くて冷たくて、何もない。




音も光もない、孤独な場所にとばされたみたいに。


悲しくて、寂しくて、苦しいのに涙も出ない。

怖い。

怖い。

怖い。




怖いけど、目を開けずにはいられなくなって。

あたしは震えるまぶたに力を込めた。