「チェックインしてくるね。これ使って」
ホテルのエントランスで私は学生証を掲げて言った。もちろん姉、榛原星奈のだ。
「今回ばかりはお姉ちゃんに感謝かな。ここで待ってて」

スキップしたい気持ちを抑えて、鼻歌を歌いたい気持ちを抑えて、にやけそうになる表情を必死に抑えて、私は一歩ずつ確実にフロントまで歩いた。
チェックイン直前、念のため振り返って彼を確認した。
彼はしっかりと言われた通り、待っている。少し緊張しているのか肩が上がっていた。

可愛い、と思った。
私の大好きな人。


「いっらしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「予約していた榛原です」
「お待ちしておりました」


***


『勉強も、運動も、なんでも器用にそつなく
 こなす様子に感心します。お姉ちゃん譲り
 の負けん気がありますが、大人らしくて狡
 賢い一面を良い方向に活かしてくれること
 を先生は期待しています。』

通知表が帰ってきたとき、『お姉ちゃん』の文字を見て思わず顔をしかめた。それと同時に私をたった数行で言いつくした先生の慧眼に驚いた。担任の先生は思ったよりも私たちをちゃんと見てくれている。

しばらく通知表を眺めていると、大発見をしてしまった。
横目で隣の席を確認する。

真面目でちょっとおとなしくて、可愛い彼。
通知表の『おとなしい』の文字をずっと睨んでいる。

私の通知表の担任所見、そこの右から5文字目を指で隠してみた。

『の負けん気がありますが、大人 しくて狡』

似たもの同士だね。