遊園地を離れてからさらに10分程度。乱雑に、時折彼女が指示しながら街中を駆け抜けた。ようやく歩を緩めたのは大通りからは外れたところだった。
そのときになってようやくつないでいた手を離す。
顔を見合わせて僕らは笑った。
「怖かった」
「まだ胸どくどくいってる」
興奮している2人から出る熱気が静かな街の中へと揺らめきながら溶けていった。
呼吸を落ち着かせてから、携帯を確認する。
「もうこんな時間」
「終電もうないっぽい」
携帯で乗り換えアプリを調べていたであろう彼女が淡々と告げた。
ずっと暗闇の中にいたから時間間隔はまるでなかった。唐突に世界に2人だけ取り残された感覚に襲われる。そんな中でも彼女はやはり冷静だった。というより少し緊張しているような。
「で、今ココ」
と彼女は目の前を指さした。
ホテル。
寂れてはいない。かといって綺麗でもない。僕らみたいな緊急事態にはお誂え向きなホテル。
「どうする?」
今日一日、ずっと彼女についていくだけだった僕に意見が求められた。それはたぶん信頼の証。
答えは決まっていた。
おとなしい僕だったらどうなっていたかわからない。
けれど今の僕なら、いや、君といる僕なら。
「泊っていこっか」
「うん」
2人はまた手をつないで、ホテルへと入っていった。