今日も何気ない、いつも通りの1日が始まる。
教室に入ると、1軍女子が何やら騒がしい。なんでも今日、転校生が来るそうだ。私の学校は、転入試験が難しいことで有名だ(物理的・化学的防御)。それを突破したってことは、まぁ頭がいいのだろう。
と言っても、所詮3軍にも入れない陰キャの私(B細胞)には関係ない。
「あっ。イツキちゃん、おは…。」
挨拶をする私をイツキちゃんは無視をする。いつからだろう。イツキちゃんが私を無視するようになったのは。幼馴染だった。昔の私は今よりも活発で友達も多かった。陽キャ。そう呼ぶべきなのだろうか。数多くの友達の中でもイツキちゃんのことは親友だと思っていた。けれどそう思っていたのは私だけだったようだ。何が気に食わなかったのか、イツキちゃんは周りの友達と共謀して私をハブった。それでも仲良くしてくれたのが、今の親友のキラとサイだ。
「おはよー。キラ。サイ。」
私たちはいつも、1軍女子の邪魔にならない教室の隅でおしゃべりに花を咲かす。きっと私は、漫画ではおさげでメガネの女の子とかなんだろう。ずっと下を向いて俯いている、自分に自信のない女の子。実際のところ、おさげという点以外では全て当てはまる。
「ほらー、席につけ。転校生を紹介するぞ。」
先生の後ろから入ってきたのは、まさかの男の子だった。しかもイケメン。私たちの学校は3年前に女子校から共学に変わったばかりで、男子の割合というのが極端に少ない。
「引っ越してきました。ゲンタです。よろしくお願いします。」
女子から黄色い歓声が聞こえてくる。私も内心とてもはしゃいでいたが、私なんかが相手にされるはずもないので大人しく気配を消していた。
「じゃあ席は、キラの隣で。」
昼休み。1軍女子によるTサミットが開かれていた。私はトイレから出るに出られず、会話に耳を傾けてみる。
「もう、めんどいから3人で告って1人選んでもらお?(食作用)」
「そうするか。まぁ、きっとイツキが選ばれるでしょ。」
1軍女子、恐るべし。コウちゃんもクロちゃんもイツキちゃんも可愛いが、流石に一緒に告るとは思ってもみなかった。
キラとサイの所へと戻ると2人はアニメの話で盛り上がっていた。
「あ、マロ。遅かったね。」
私はさっきトイレで聞いた会話を2人に話す。2人とも最初は驚いた顔をしていたが、急に心配した顔に変わった。気がつくと私の頬を暖かい水玉が流れ落ちていた。拭っても拭っても、次々と涙は落ちてくる。あぁ、きっと私はゲンタくんが好きなんだ。初めての一目惚れ。
キラもサイも私の恋を応援してくれると言ってくれた。けれど、試合は始まる前から終わりの鐘が鳴っている。あの3人が告るのだから。とりあえず私はゲンタくんのことを諦めるためにも3人の告白をこっそりと覗き見ることにした。もちろん、1人で見るのは辛いから2人にもついてきてもらう。
〜放課後〜
「「「付き合わない?」」」
3人が告白してもゲンタくんは顔色1つ変えなかった。まるでこんなこと慣れっことでも言うように。
「えーっと。ごめん、無理だわ。なんか3人とも若干だけど、上から目線だよね。俺、そういうの苦手で。」
断られている。うちの学校の1軍女子だぞ?理想高すぎではないか。今まで断られたことがないのかイツキちゃんも、目が点になっている。
「は?ちょっと待って。去年のミスコン1位の私だよ?普通断る?意味分かんないんだけど。付き合えよ。」
イツキちゃんが1人にここまで固執しているのは初めて見た。よほど振られたのが悔しかったのだろう。
「そういう自信過剰なとこだよ。自信がない子も嫌いだけど、イツキちゃんは自信がありすぎ。それに朝もマロちゃんを無視してたの、見てたから。」
そう言って、ゲンタくんは立ち去ってしまう。茫然と立ち尽くしていたイツキちゃんがこちらに気がついて近づいてくる。
「おい、何見てんだよ。ふっ、分かった。マロもゲンタのこと好きなんだろ。告ってみろよ。見ててやるから。」
イツキちゃんは私も振られると分かっていて、ゲンタくんの趣味やタイプなどを教えてくる。逆に放課後までの短時間によくこれだけ調べられたな。ある意味で才能を感じる。というぐらいの情報(抗原)量だった。
私たちは早速サイの家で作戦会議を開く。いや、正しくは”開かされた”だろう。私はあまり乗り気ではなかった。いくら情報があっても、陰キャがイケメンと付き合える世界線なんて存在しないから。けれどそこは流石のサイだ。将来の夢がスタイリストなだけあって、髪型や服装を次々と決めていく。あとは、美容院に行ったり服を買い揃えたりすれば完璧という状態にしてくれた。買い物には週末行くことにした。
次の日、学校に行くとキラとサイが揉めていた。キラはこの前の私を超える勢いで泣いている。喧嘩を仲裁し2人から事情を聞くと、キラがゲンタくんにく告白したそうだ。はサイは、私のことを応援するふりをして裏切ったことに怒ってくれていたそうだ。裏切られた。それはもちろん悲しかったが、どこかでキラがフラれてホッとしている自分もいてそれがすごく嫌だった。
「ごめん。でも、言い出せなかったの。ただ好きって気持ちを伝えたかっただけ。本当にごめん。」
私は安堵している自分を隠すためにも、今回はキラを許すことにした。それにキラはゲンタくんの隣の席だ。何か他の情報ももらえるかもしれない。いくら裏切れたからとはいえ、友達を利用しようとしている自分にまた嫌気がさす。
週末。私はサイとキラと美容院に来ていた。ゲンタくんのタイプに近い外はねボブにしてもらう。服は学校の校則ギリギリのラインでおしゃれできるものをサイに選んでもらった。垢抜ける。そんなことは私とは無縁だと思っていた。が、どうだろう。私の見た目は陰キャではなくなっていた。
「可愛いじゃん。でも、なんか足りないんだよね。…自信かなぁ。」
キラに指摘された、自信。そんなものあるはずない。けれどこんな私でも変われた。少しは自信(抗体)を持ってもいいのかな。
月曜日の放課後、体育館裏にゲンタくんを呼び出した。今までの自分とは違う。自信という武器は私を奮い立たせる。
「一目惚れでした。付き合ってください。」
ゲンタくんは少し考えたあと、
「よろしくね。マロ。」
そう言った。これは夢だろうか。ドッキリだろうか。けれど隅でこっそり見ていたイツキちゃんの顔が悔しがっていたから、きっとこれは現実なんだろう。
そこからの私の生活は一変した。毎日一緒にお昼ご飯を食べたり、遊びに行ったり。でも私は嬉しさのあまり忘れていた。彼の両親が転勤族だってことを。
付き合ってから1ヶ月が経った頃だろうか、彼は私に何も言わずに引っ越してしまった。私は泣いた。昔誰かが”女の涙腺は蛇口と同じ”と言ったのを思い出す。本当にその通りだと思った。壊れた水道のように涙が止まらない。
1つの恋が終わった。結局私は、彼を失って元の自信のない自分に戻ってしまった。
私は1軍女子がフラれて友達から背中を押してもらってからしか告れない弱者。
情報を分析してもらって武器を得ないと活性化できない弱者。
けれど活性化すれば誰にも負けない強者となる。
そしてまた、彼を失い弱者になる。
転校生なんて来ない方がいい。それでも1軍女子がフラれたら。いつか、また…。
教室に入ると、1軍女子が何やら騒がしい。なんでも今日、転校生が来るそうだ。私の学校は、転入試験が難しいことで有名だ(物理的・化学的防御)。それを突破したってことは、まぁ頭がいいのだろう。
と言っても、所詮3軍にも入れない陰キャの私(B細胞)には関係ない。
「あっ。イツキちゃん、おは…。」
挨拶をする私をイツキちゃんは無視をする。いつからだろう。イツキちゃんが私を無視するようになったのは。幼馴染だった。昔の私は今よりも活発で友達も多かった。陽キャ。そう呼ぶべきなのだろうか。数多くの友達の中でもイツキちゃんのことは親友だと思っていた。けれどそう思っていたのは私だけだったようだ。何が気に食わなかったのか、イツキちゃんは周りの友達と共謀して私をハブった。それでも仲良くしてくれたのが、今の親友のキラとサイだ。
「おはよー。キラ。サイ。」
私たちはいつも、1軍女子の邪魔にならない教室の隅でおしゃべりに花を咲かす。きっと私は、漫画ではおさげでメガネの女の子とかなんだろう。ずっと下を向いて俯いている、自分に自信のない女の子。実際のところ、おさげという点以外では全て当てはまる。
「ほらー、席につけ。転校生を紹介するぞ。」
先生の後ろから入ってきたのは、まさかの男の子だった。しかもイケメン。私たちの学校は3年前に女子校から共学に変わったばかりで、男子の割合というのが極端に少ない。
「引っ越してきました。ゲンタです。よろしくお願いします。」
女子から黄色い歓声が聞こえてくる。私も内心とてもはしゃいでいたが、私なんかが相手にされるはずもないので大人しく気配を消していた。
「じゃあ席は、キラの隣で。」
昼休み。1軍女子によるTサミットが開かれていた。私はトイレから出るに出られず、会話に耳を傾けてみる。
「もう、めんどいから3人で告って1人選んでもらお?(食作用)」
「そうするか。まぁ、きっとイツキが選ばれるでしょ。」
1軍女子、恐るべし。コウちゃんもクロちゃんもイツキちゃんも可愛いが、流石に一緒に告るとは思ってもみなかった。
キラとサイの所へと戻ると2人はアニメの話で盛り上がっていた。
「あ、マロ。遅かったね。」
私はさっきトイレで聞いた会話を2人に話す。2人とも最初は驚いた顔をしていたが、急に心配した顔に変わった。気がつくと私の頬を暖かい水玉が流れ落ちていた。拭っても拭っても、次々と涙は落ちてくる。あぁ、きっと私はゲンタくんが好きなんだ。初めての一目惚れ。
キラもサイも私の恋を応援してくれると言ってくれた。けれど、試合は始まる前から終わりの鐘が鳴っている。あの3人が告るのだから。とりあえず私はゲンタくんのことを諦めるためにも3人の告白をこっそりと覗き見ることにした。もちろん、1人で見るのは辛いから2人にもついてきてもらう。
〜放課後〜
「「「付き合わない?」」」
3人が告白してもゲンタくんは顔色1つ変えなかった。まるでこんなこと慣れっことでも言うように。
「えーっと。ごめん、無理だわ。なんか3人とも若干だけど、上から目線だよね。俺、そういうの苦手で。」
断られている。うちの学校の1軍女子だぞ?理想高すぎではないか。今まで断られたことがないのかイツキちゃんも、目が点になっている。
「は?ちょっと待って。去年のミスコン1位の私だよ?普通断る?意味分かんないんだけど。付き合えよ。」
イツキちゃんが1人にここまで固執しているのは初めて見た。よほど振られたのが悔しかったのだろう。
「そういう自信過剰なとこだよ。自信がない子も嫌いだけど、イツキちゃんは自信がありすぎ。それに朝もマロちゃんを無視してたの、見てたから。」
そう言って、ゲンタくんは立ち去ってしまう。茫然と立ち尽くしていたイツキちゃんがこちらに気がついて近づいてくる。
「おい、何見てんだよ。ふっ、分かった。マロもゲンタのこと好きなんだろ。告ってみろよ。見ててやるから。」
イツキちゃんは私も振られると分かっていて、ゲンタくんの趣味やタイプなどを教えてくる。逆に放課後までの短時間によくこれだけ調べられたな。ある意味で才能を感じる。というぐらいの情報(抗原)量だった。
私たちは早速サイの家で作戦会議を開く。いや、正しくは”開かされた”だろう。私はあまり乗り気ではなかった。いくら情報があっても、陰キャがイケメンと付き合える世界線なんて存在しないから。けれどそこは流石のサイだ。将来の夢がスタイリストなだけあって、髪型や服装を次々と決めていく。あとは、美容院に行ったり服を買い揃えたりすれば完璧という状態にしてくれた。買い物には週末行くことにした。
次の日、学校に行くとキラとサイが揉めていた。キラはこの前の私を超える勢いで泣いている。喧嘩を仲裁し2人から事情を聞くと、キラがゲンタくんにく告白したそうだ。はサイは、私のことを応援するふりをして裏切ったことに怒ってくれていたそうだ。裏切られた。それはもちろん悲しかったが、どこかでキラがフラれてホッとしている自分もいてそれがすごく嫌だった。
「ごめん。でも、言い出せなかったの。ただ好きって気持ちを伝えたかっただけ。本当にごめん。」
私は安堵している自分を隠すためにも、今回はキラを許すことにした。それにキラはゲンタくんの隣の席だ。何か他の情報ももらえるかもしれない。いくら裏切れたからとはいえ、友達を利用しようとしている自分にまた嫌気がさす。
週末。私はサイとキラと美容院に来ていた。ゲンタくんのタイプに近い外はねボブにしてもらう。服は学校の校則ギリギリのラインでおしゃれできるものをサイに選んでもらった。垢抜ける。そんなことは私とは無縁だと思っていた。が、どうだろう。私の見た目は陰キャではなくなっていた。
「可愛いじゃん。でも、なんか足りないんだよね。…自信かなぁ。」
キラに指摘された、自信。そんなものあるはずない。けれどこんな私でも変われた。少しは自信(抗体)を持ってもいいのかな。
月曜日の放課後、体育館裏にゲンタくんを呼び出した。今までの自分とは違う。自信という武器は私を奮い立たせる。
「一目惚れでした。付き合ってください。」
ゲンタくんは少し考えたあと、
「よろしくね。マロ。」
そう言った。これは夢だろうか。ドッキリだろうか。けれど隅でこっそり見ていたイツキちゃんの顔が悔しがっていたから、きっとこれは現実なんだろう。
そこからの私の生活は一変した。毎日一緒にお昼ご飯を食べたり、遊びに行ったり。でも私は嬉しさのあまり忘れていた。彼の両親が転勤族だってことを。
付き合ってから1ヶ月が経った頃だろうか、彼は私に何も言わずに引っ越してしまった。私は泣いた。昔誰かが”女の涙腺は蛇口と同じ”と言ったのを思い出す。本当にその通りだと思った。壊れた水道のように涙が止まらない。
1つの恋が終わった。結局私は、彼を失って元の自信のない自分に戻ってしまった。
私は1軍女子がフラれて友達から背中を押してもらってからしか告れない弱者。
情報を分析してもらって武器を得ないと活性化できない弱者。
けれど活性化すれば誰にも負けない強者となる。
そしてまた、彼を失い弱者になる。
転校生なんて来ない方がいい。それでも1軍女子がフラれたら。いつか、また…。