あたしはつばめ。アマツバメ。ねえハルさん、知ってる?アマツバメってね、地上に降りると歩けなくなっちゃうんだよ。あたし昔ね、それで動けなくなって死んじゃったの。大人になる前に、夜の寒さで凍えて死んじゃったんだぁ。そう、あたしはアマツバメの亡霊。
 だから、羨ましかったんだあ。おしゃれな靴でかっこよく歩くハルさんのこと。あたしも、歩けるようになりたかったの。だから、ハルさんのおうちに罠を張って、ずーっと待ってたの。これじゃあツバメの巣じゃなくてクモの巣だって、ハルさんなら言うのかな?

 幻覚を見せて、怖がらせて、そうしたら心臓の虫さんが元気になるの。それが食べ頃。怪談喫茶もマスターのスウィフトもハルさんが見ていた幻だけど、そこで話したお話は本当のお話なんだよ。人間はみーんな心臓に虫さんがいて、それを食べるとその人の体の欲しいものをもらえるの。ほら、見て。この綺麗な足。ハルさんとおんなじ。
 ごちそうさまでした、ハルさん。心臓の虫さんとーっても美味しかったよ。ハルさんのおかげで、あたし歩けるようになったの。ありがとう、あたし貴女のこと忘れない。短い間だったけど、お姉ちゃんが出来たみたいでとっても楽しかった。
 せっかく歩けるようになったけど、まだ外は寒いのね。アマツバメは渡り鳥だから、寒いところは苦手なの。特に夜は冷え込むわ。暑がりの人間さんたちが羨ましいなあ。

 男の子が2人、夜道を走っている。こんな時間に外を歩いてるってことは、塾の帰り道かな?背負っているのは近くの進学塾の指定バッグだったような気がする。片方は長袖長ズボン、もう片方は半袖半ズボン。声変わりもまだの可愛く元気な声がする。

「お前さー、そんなカッコしてて寒くないの?見てるこっちが凍えそうなんだけど!」
「ぜーんぜん!むしろ暑くて裸になっちゃいたいくらい!家に帰ったらアイス食べるんだ!」

あら、あの子の心臓の虫さん、とっても美味しそう。