「先輩、最近楽しそうですね。何かいいことあったんですか?」
会社でのランチタイム。後輩の鈴木セーラちゃんと一緒にご飯を食べていると、質問をされた。
セーラちゃんとは社内報の表紙モデルを一緒にやった縁で仲がいい。彼女はハーフで美人だ。大学時代にはミスコンに勝手に推薦されて、最終候補まで進んだこともあるんだとか。

セーラちゃんは綺麗なだけでなく、洞察力が高いため人の変化によく気がつく。
「実はね、すごくいい喫茶店見つけちゃったの」
「へえ~。どんなところなんですか?」
「怪談喫茶って言ってね……」
私は怪談喫茶の説明をした。燕尾服のマスター、スウィフトさんの淹れるコーヒーが美味しいことも。
「もしよかったら、セーラちゃんも一緒にどう?」
「いいですね。ぜひ!」
「良かった。セーラちゃんが怖いの平気な人で」
「全然大丈夫ですよ。本当に怖いのってオバケじゃなくて人間だと思ってるので」
セーラちゃんの言うことは深い。
「人間の嫉妬ほど怖い物ってないですよ」
ちょっと耳を澄ませば、近くのテーブルから会話が聞こえてくる。
誰々さんが昇進した、ずるい。
誰々くんに彼女が出来たんだって、ずるい。
誰々ちゃんは美人で得してばかりだから、ずるい。
「って言っても人間、多かれ少なかれ誰かに対して羨ましいって感情を持つことは絶対あるから仕方がないことだとは思いますけどね。私だって先輩スタイル良くて羨ましいーってよく言ってるので偉そうに言えないし」
「あはは、そういえば私もセーラちゃん鼻筋綺麗で羨ましいってよく言ってるね」
確かに、私もそういう感情を持つことはある。私が外れたライブのチケットが当たった人を見ると、つい「いいな~」という呟きが漏れてしまう。
「話が脱線しちゃいましたね。どこにあるんですか?怪談喫茶って」
「桜庭商店街の薬局の隣だよ」
セーラちゃんは、私と最寄り駅が隣同士だ。怪談喫茶がある桜庭商店街は、セーラちゃんと私の最寄り駅の間にある。
「えー?私、そこの薬局よく行きますけど、そんな喫茶店ありましたっけ?新しく出来たのかな?」
セーラちゃんが不思議そうに首をかしげた。これは、今度連れて行ってあげなければ。

 今日も怪談喫茶に寄ってから家に帰った。明日は休日だ。新しいスカートを買ったからおしゃれをしよう。軽やかな足取りで自宅に戻ると、アマツバメの巣はいつの間にか一般的なサイズの物の3倍ほどの大きさになっていた。