頼我と美羅先輩たちの卒業式の日、勝負服を身に纏い学校に行った。校舎の2階の窓から、校庭にごった返す卒業生の写真を梓と2人で撮っていた。

「あはは、やってること完全に盗撮だなこれ。後で消すから問題ナシって感じ?」

 人気者の美羅先輩のまわりの人だかりを写した写真のデータを確認すると、スーツ姿の男の群れに紛れて、一目ではどこに頼我がいるか分からなかった。

「こうして見ると、倉持美羅って悔しいけど綺麗なんだよねー。まあ、愛美“に”似てるから当然だけどやっぱり目立ちますわー。一方頼我先輩は埋もれてる模様」

 写真は真実しか写さない。残酷なまでの現実を、頼我に突きつけている。

「最後に恨み言の一つでも言ったらすっきりするんじゃない?それとも私がまたあいつ殴ってやろうか?」
「自分で言うよ」

 撮ったばかりの写真を消した。今日を最後に二度と頼我と会うことはない。私は頼我から卒業する。そのために青春の象徴だったあの人に会いに来た。

 頼我は私を一年間欺き続けた男だ。私を都合よく利用した詐欺師だ。それでも、私は頼我を愛していた。偽物の愛だったかもしれない。無償の愛ではなかったかもしれない。それでも好きだった。

「頼我先輩」

 校庭に出て、出会った頃と同じ呼び方で頼我を呼んだ。振り返った頼我は戸惑っていた。

「次はお互いにいい恋をしましょう」

 私はあなたに似た誰かを愛したりなんかしない。だから、頼我も美羅先輩への狂った執着を卒業できますように。二度と頼我が美羅先輩の代わりを探しませんように。今日で全部終わりにできますように。

「さよなら」

 振り返らない。私は美羅先輩じゃない。黒いジャケットを脱ぎ捨てた。三月の冷たい風が肌に当たって寒い。ただ、この風がとても心地よかった。