「お願い。明るい愛美に戻って。私を頼我先輩の代わりにしてもいいから。愛美が赤ちゃん出来たって言うなら私が父親になるから」

 顔をぐちゃぐちゃにして泣く梓を見て、初めて罪悪感を覚えた。不謹慎だけれども、愛しいと思った。

「なんで、梓はそこまでしてくれるの」

 気づけば私も泣いていた。梓の学生生活を台無しにしたのは私だ。梓は私のせいで中傷を受けていた。落ちぶれた私に由香が面白おかしく話すまで知りもしなかった。

「愛美は私の全部だから」

 そう言いきった梓のまっすぐな瞳は、頼我が撮った写真の美羅先輩よりも、あの日頼我と見た青い海と空よりも美しかった。

 梓のようになりたかった。まっすぐに人を愛したかった。初恋に不純物なんて入れたくなかった。頼我がいれば何もいらないと心の底から言いたかった。

 頼我にだけ執着し続けるふりをした。私が執着しているのは、かつて手に入れられなかった青春だと認めたくなかった。頼我がくれた世界を、頼我に付随する環境を手放したくないと思ってしまった。

 頼我の愛が偽物だと知ることで、二人の思い出が全て偽物になってしまうのが怖かった。そして、それ以上に学生生活の全てが全部嘘だと否定されることを恐れている自分にぞっとした。

 いつか頼我の私への愛が偽物じゃなくなりますように。頼我が戻ってきてくれますように。頼我に本物の愛を要求しながら、私の愛が偽物だと認めたくなかった。

 頼我以外何もいらないから頼我が欲しいと言うには遅すぎた。頼我と同時に全てを失った。頼我を混じり気なく愛したかった。頼我だけに執着したかった。

 夜通し泣き続け、全ての気持ちを梓に吐きだした。

「本当に大好きだったんだね。頼我先輩のこと」

 こんなにも優しい梓との思い出を全部否定してまで、頼我を愛した。十年以上梓に執着して生きてきたはずなのに、私は依存すらまともにできない人間だった。梓の元に帰る資格なんてない。

「別に気にしなくていいのに。でもさ、このままだと愛美が辛いよね」

 梓は私の手を取った。

「私が全部、上書きしてあげる」

 無邪気に梓が笑った。