スクールカーストが顔面偏差値で決まるんじゃなくて、スクールカーストの高い子が可愛いと認定されて異性にモテる。そうでなければ可愛い愛美が私なんかと友達になってくれるわけがない。

 余り者同士でつるんでいると嘲笑されたって、「梓が好きだから一緒にいるんだよ」と無邪気に笑う愛美が大好きだった。

 だから悲しかった。どう見ても彼氏ができたのに、私に一か月以上教えてくれなかったことが。愛美が離れていってしまうようで怖かった。

 愛美はきらびやかな格好をして、自信に満ちたしゃべり方をするようになった。友達に囲まれて毎日忙しくて楽しそうだ。彼氏持ち補正もあって、愛美が可愛いとみんなが言い始めた。今更気づいたのか、愛美は昔から可愛かったよ。心の中で見る目のない群衆に対して毒づいた。

 一度、ミスキャンパスの倉持美羅と構内ですれ違った。愛美がよく着ているものと同じ黒いジャケットを着ていた。髪型や小物の雰囲気も見れば見るほどそっくりで、愛美が「美羅2世」というあだ名で先輩に可愛がられている理由が分かった。

 愛美がどんなに綺麗になっても、みんなに好かれても、SNSを見る限り2人で遊ぶのは私とだけだ。仄暗い独占欲はそれだけで満たされていた。彼氏が多少胡散臭くても、愛美が幸せならそれでいい。

 二年生の五月、倉持美羅が三年付き合った彼氏と別れたらしい。愛美以外に友達のいない私の耳にも噂が届くほどの大事件に大学中が大騒ぎになった。

 他人事だと思っていたら、由香が意地悪い笑みを浮かべてゴシップの調査をしに「愛美にくっついてる犬」である私のもとへやってきた。愛美の彼氏が倉持美羅に「3年間ずっと好きでした」と告白したらしい。

 最初から倉持美羅の代わりだった愛美は振られた。「偽美羅」と面白おかしく騒がれ、スクールカーストの一軍から転落した。他人の恋愛を昼ドラ感覚で楽しむのがマジョリティならこの世界は間違っている。間違っている人たちばかりの場所で、ただでさえ失恋に傷ついている愛美は好奇の目にさらされた。

 愛美を傷つける野次馬に噛みついていたら「狂犬」と揶揄された。私は愛美の番犬。愛美をいじめるやつは喉を噛みちぎって殺してやる。

 噂を気にも留めず、倉持美羅を口説き続ける厚顔無恥な男がいるサークルに愛美は顔を出せなくなった。愛美が行かないなら私も行かない。ずっとそばにいる。

「頼我の子を妊娠したから駆け落ちします」

 だからこそ、追いコン当日の突然の連絡は意味が分からなかった。

 何度電話をかけても繋がらず、藁にも縋る思いで、追いコン会場に行くと頼我先輩は暢気にお酒を飲んでいた。どこまで腐っているんだ。愛美と駆け落ちするんじゃないのか。また愛美を騙したのか。

「私の親友たぶらかしてんじゃねーよ!」

 優男の仮面をかぶった悪魔をグーで思いっきり殴った。

「純粋な女の子騙して弄んで楽しかったかよ!それが大人のやることかよ!」

 汚い口調で罵倒しながら殴り続けた。男の先輩に二人がかりで制止された。

「悪かったとは思うけど、十ヶ月も前のこと今更言われても困る」

「愛美の未練を利用して、また手を出したんだろ!死ねよ!」

「どうせまた変な噂話だろ。俺は知らない。愛美がサークルに来なくなってから、一度も会ってない」

 妊娠は嘘で、駆け落ちも嘘で、でも愛美は失踪した。愛美は死ぬつもりかもしれない。愛美がいないと生きていけない。他に何もいらないから、愛美を返してください。

 必死で探し回った。近場にはどこにもいなくて、頼我先輩を問い詰めて心当たりのある場所を聞き出した。そしてようやく海で愛美を見つけた。