「結婚式はこの子が生まれた後かな。マタ婚って大変って言うじゃない？そうだ、この子の名前何にする？」

　夜の海を再び歩きながら頼我に話しかける。未来を思い描くのは楽しい。大学生活は名残惜しいけれど、頼我さえいればほかに何もいらない。

「式のスピーチは梓に頼みたいな。何人友達ができたって、一番の親友はずっと梓だから」
　
　サークル内恋愛は隠しきれない。交際が公然の秘密となった時は、梓に真っ先に報告した。梓は恋愛に興味がないのに、話をちゃんと聞いてくれて、誰より私の幸せを願ってくれた。

「愛美っ！」

　噂をすれば影というけれど、いるはずのない梓が私を呼ぶ声がする。振り返ると、梓がいた。あっけにとられる私に、梓は信じられないくらいの勢いで駆け寄って抱き着いた。バランスを崩して砂浜に尻餅をつく。

「何すんの！私のお腹には･･････」

　私が抗議しようとすると、思いっきり頬をビンタされた。

「嘘つき！いるわけないじゃん！」

　梓は泣きながら私の肩を強くつかんだ。

「愛美が頼我先輩と別れたのって十ヶ月以上も前じゃん！」

「何言ってるの？頼我はここにいるよ」

「お願いだから目を醒ましてよ、愛美！」

　梓が泣き叫びながら私の肩をゆする。波の音が反響する。おそるおそるあたりを見渡す。どこまでも広がる砂浜に頼我はいなくて、私と梓の２人だけ。


　全部、思い出した。