唯一無二の親友・梓とともに単科大学に進学した。一学年の人数が少なく、高校の延長線のようなものだった。狭い人間関係の中ではサークル選びはキャンパスライフの重要なファクターである。私と梓はカメラサークルの門を叩いた。これが私の運命を変えた。

「愛美ちゃんって、美羅(みら)に似てるよね。もしかして妹?」

 当時のサークル会長の一言でサークル内がざわめいた。私が似ていると言われた倉持(くらもち)美羅は赤の他人だ。噂に疎い新入生の私でも知っている学内の有名人。ダンスサークルのキャプテンで、去年のミスコン覇者。彼氏もミスターキャンパスらしい。私の対極に位置する存在だった。

「分かる。愛美ちゃん可愛いし」

 それが頼我との初めての会話。可愛いと初めて言われた。男性に免疫のなかった私は舞い上がった。ましてや頼我はサークルで一番の美形だった。

 頼我に勧誘されて入部して、梓とおそろいのカメラを買った。丁寧にカメラの使い方を教えてくれた頼我は紳士的で、乱暴で意地悪な高校までのクラスの男子とは全然違った。

 頼我はポートレートを撮らない人だった。風景写真ばかりを撮っていた。頼我自身も撮るのが好きなだけで、撮られるのは好きではないらしい。

 頼我が可愛がっている一年生として私はすぐにサークルになじめた。頼我は私をカシスリキュールのように甘い言葉で口説いた。新歓合宿の夜に告白されて、私たちは恋人になった。

「俺たちが付き合ってること、秘密ね」

 頼我は私の唇に長い人差し指を当てた。それだけで心臓が跳ねた。生まれて初めて、親友の梓に秘密を作った。

 壁に耳あり障子に目あり。ダンスサークルに所属するクラスメイトの由香に私が頼我と手を繋いでいるところを見られた。派手な由香は私とは正反対の人種で、話しかけられたのは正直怖かった。けれども、案外友好的だった。

「愛美、やるじゃぁん! 彼氏イケメンだねえ! 彼氏の友達紹介してよぉ」

 ガールズトークに花を咲かせたことがきっかけで、由香とつるむようになった。クイーンビーといるだけで、私も一目置かれるようになった。

 私の服もアクセサリーもコスメもほとんど頼我が選んでくれた。頼我がくれた黒いジャケットが似合う女になりたくて、お化粧を覚え、頼我の好みに合わせて小さい時から伸ばし続けた髪を切って明るく染めた。

 頼我は友達が多く、よくクラスの友達と宅飲みをしていたようだ。私も服装やメイクが垢抜けると、スクールカーストの階段を一気に駆け上がり、派手な友人にBBQパーティーなどに誘われるようになった。梓以外の人と遊ぶなんて以前は想像もしなかった。

 高校までの学生時代はチュートリアルだ。これが本番とばかりに大学生活を謳歌した。誰かがミスコンに私を推薦して、最終選考手前まで進んだらしい。学祭のステージに上がれなかったのは残念だが、頼我と学祭を回る時間ができたので逆にラッキーだったとさえ思えた。

 頼我の友達も由香のダンスサークルに入っているらしく、一緒にステージを見に行った。センターで踊る倉持美羅は一際輝いていて、由香が崇拝する理由が分かった。

 季節は廻り、付き合って一周年を迎えた。すべての季節に頼我がいた。カレンダーのどの日も、19歳のその日付が人生で一番美しい色をしていた。頼我は毎日愛を囁いて、私の望む全てをくれた。