大学デビューをこじらせた女の末路だと世界が私を蔑んでも、あなたがいればそれでいい。大学二年生の終わりに私は頼我の子を妊娠した。

 二つ年上の頼我は、もうすぐ卒業して四月には就職するから問題ないと両親に言ってもきっと無駄だ。頼我に十九歳の誕生日にもらった黒いジャケットを羽織り、愛用のカメラだけを持って、家を飛び出した。

 頼我と私は、今日駆け落ちをした。このことを伝えたのは幼馴染で親友の梓だけだ。下りの各駅停車で揺られること一時間半、思い出の海を訪れた。大学一年生の夏休み、カメラサークルのみんなに内緒で旅行した二人きりの海。昼間はあの日と同じ鮮やかな青色をしていた海は、いつの間にか夜空の色へと姿を変えていた。

「この子が大きくなったら、また来たいね」

 おなかをさすりながら私が言うと、頼我が頷く。

 すれ違った老夫婦が、私の声に振り返って眉をひそめた。未婚かつ若年での妊娠は褒められたことではないのかもしれない。それでも構わない。誰に何を思われても、頼我がいればそれでいい。

 私はもう少女を卒業しなくてはいけない。お腹の子のために大人にならなくてはならない。あいにくの曇り空の下で星も月も見えやしない。それでも私はこの景色を記録に残して、いつかこの子に見せるためにシャッターを切った。
 今日一日を通して、少女だった私と初恋の人が見た海辺の景色を一つずつシャッターにおさめてきた。その最後の一枚だ。思い出の場所をなぞりながら、華やかな日々を思い出す。