次の朝から遠野さんは、僕を訪ねて来なくなった。  
 いつも一緒に出かけた時間にチャイムが鳴らなくなった。
 僕が遠野さんの家のチャイムを鳴らしても返事がない。
 これまで交差点越えたらひとりぼっちだった。いまでは、ずっとひとりぼっち。
 カレンダーは流れ、ひとりぼっちでホワイトデーを迎える。
 ホワイトデーの夜。七時だと、ふつうなら遠野さんが帰っている時刻。
 僕は思い切って、遠野さんのドアチャイムを鳴らした。  
 何度も鳴らしたのに、返事はなかった。

「遠野さん」

 思い切ってチャイムに向って呼びかけてみる。やっぱり返事はなかった。

「僕、ひとりぼっちで学校に行きたくないんです」

 しばらく待ってみる。それでも返事はなかった。
 白の包装紙に包まれた箱を紙バッグに入れ、ドアノブにかけた。
 一時間くらい経った頃。突然、ドアチャイムが一回だけ鳴った。
 あわててドアを開けたら、ドアノブに紙バッグがかかっていた。  
 中にはピンクの包装紙に包まれた箱。  
 なんだろう? 包装紙を丁寧にはがしてみる。それからそっと箱を開けてみる。  
 さっき、僕が贈ったばかりの書類が出てきた。全く同じ書類。  
 少しだけ違っていた。  
 さっき送ったとき、書類には僕だけのサイン。  
 今度は遠野さんのサインも書いてあった。  
 そして遠野さんの手紙。

 <遅れたけど、バレンタインのプレゼントを贈ります。断っておくけれど、これはコピーですからね。  
 だって君が十八歳になってから 、
「ただの子どものジョークです。本気にするんですか? ハハハハハ」
と逃げられるの、すごくショックだから。  
 原紙は来年のバレンタインのときにプレゼントします>

 それが僕の送った「婚姻届」のコピーに添えられた手紙。