「あの満月に、うさぎは本当にいると思う?」

 南の空に煌々と光り輝く満月を指さして、少年は隣の少女にそう訊ねた。
 誰もいない静かな空間で二人仲良く肩を並べて座っている。

「ええ、どうだろう。でも、模様がそう見えるだけで、やっぱりうさぎなんていないんじゃない?」

 少女の返答に、少年の口元が小さく歪む。少女はそれに気づかない。

「はは、そっか。……うん、そうだよね」
「どうしたの。絢斗(あやと)がそんなこと訊くなんて珍しい」

 乾いた声で笑う少年を、少女が不思議そうに見つめている。
 切なげな瞳をした少年が口を開く。

「ごめん。ただ、夕夏(ゆうか)はなんて答えるのかなって、ふと思ったんだ」

 あの時の君の傷ついた顔を、私は今でも忘れられない。
 私は君にずいぶんと残酷なことを言ってしまっていたんだって、大切なものを失ってから気づいた。