「シュートだ!!抑えろ!」

 そう叫んだのは、ベンチの鬼頭。彼の怒声にも似たその声に焦慮したのはきっと俺だけではない。止めなければまた、点差が(ひら)く。まさか相手がまだ点を取りにくるなんて、思ってもみなかった。
 1分1秒を争うどころか、ミリ秒だってマイクロ秒だって惜しいこの時間帯。ここでの更なる失点は絶対に避けたい。

「「「「熊五郎!!」」」」

 俺を含め、コートにいる4人の声が揃った。リングを狙う5番の前、熊五郎が威嚇する熊のように両手を掲げて立ちはだかるが、この時間帯で避けたいのはファウルも(しか)り。シュート体勢に入った相手に対しての無茶な守備は、フリースローを与えかねない。

 焦る俺等を嘲笑うかのようにふわりと優しく投げられたボールが、熊五郎の手の上を悠々と越えて行く。

 入るな、外せ、入るな、外せ。

 羽の生えていない人間の俺等が今この状況下でできることは、己のマークマンよりもリングに近いポジションを陣取り、いずれ地上へ落ちてくるボールを自分のものにする為の準備だけだ。

 入るな、外せ、入るな、外せ。

 念を送り、全神経集中。

 描くはカンマ数秒後の未来。このボールをゲットしたら、どう動き出そうかって。