そんな滅茶苦茶なことを言ってきたのは、コーチの鬼頭(きとう)という男。今の今までコートの中を全力で走り回っていた俺等5人は、肩で息をしながら顔を見合わせた。

 心臓がドキドキと、耳のすぐそこまで上がってくる。77対78、差は1点だけ。だけど残された時間も24秒だけ。タオルで乱暴に汗を拭い、俺は熱い唾を飲む。

「勝てます」

 鬼頭の背中越し、ゴールの真下に置かれた茶色いボールが目に入る。

「この24秒間で相手からボールを奪い、そして確実にシュートを決めます」

 あのボールが次に(くぐ)るは、対戦相手ではなく俺等のリング。

 全国中学校バスケットボール大会。トーナメントの頂上へ立てるかどうかは、この24秒間にかかっている。